日中は見えず、夜中に活動して白菜やキャベツを食べ散らかす、厄介なヨトウムシ(夜盗虫)。ここではヨトウムシとはどういう虫なのか、その特性と、ヨトウムシを駆除、防除するための農薬、またその他の効果的な方法、対策についても解説します。
そもそも、ヨトウムシはどういう害虫?
ヨトウムシとは?
ヨトウムシは主に、ヨトウガ、シロイチモジヨトウ、ハスモンヨトウの幼虫を指します。これらを合わせて、ヨトウムシ類とも呼ばれます。
この3種類の中でも、シロイチモジヨトウとハスモンヨトウはヨトウガに比べ、ピレスロイド系が効きにくいことが通説になっています。このため、発生している害虫がどれなのか把握することが重要です。
種類 | ヨトウガ | シロイチモジヨトウ | ハスモンヨトウ |
---|---|---|---|
成虫の大きさ(体長)・色 | 約20㎜(翅の開帳約45mm) 灰褐色〜黒褐色 | 約12㎜(翅の開帳約28mm) 灰褐色 | 約20㎜(翅の開帳約40mm) 灰褐色 |
幼虫の大きさ(体長)・色 | 〜約50㎜ 頭部:黒褐色→黄褐色 体色:淡緑→灰褐色 | 〜約30㎜ 体色:淡緑→褐色 | 〜約40㎜ 体色:淡緑→褐色、黒褐色 |
産卵 | 葉裏に数十〜数百の卵塊 側面に放射状の黒点 | 葉裏に数十〜数百の卵塊 色は黄白〜灰白色 | 数十〜数百の卵塊 色は黄土色 |
生長サイクル | 年2回発生 土中に蛹で越冬し、第一世代幼虫は4〜5月に羽化 第二世代幼虫は8〜10月に羽化 | 年5〜6回発生 卵から孵化〜成虫になるまで1ヶ月程度 | 年5〜6回発生 卵から孵化〜成虫になるまで40日程度 |
幼虫大量発生時期(目安) | 5月前後、10月前後の2回 | 8〜10月 | 8〜10月 |
ヨトウムシの類似害虫で、オオタバコガ、コナガがいますが、これらはヨトウムシにように50個以上の卵の卵塊を産まない点が異なります。
どうしてヨトウムシは害虫なのか?
ヨトウムシの幼虫は、雑食性で、かなり広範囲の作物を食害します。食害のレベルも非常に激しいもので、キャベツや白菜など菜類では、一晩で網の目になるほど食い荒らしてしまいます。
実は、ヨトウムシの対策については明治時代からも言い伝えられているほどで、害虫の中でも非常に歴史があると言えるでしょう。
ヨトウムシに効く農薬
ヨトウムシは農作物の代表的な害虫のため、下記のように、シンジェンタジャパンや住友化学園芸などのメーカーから多くの適用農薬が販売されています。下記の農薬(殺虫剤)は、基本的に成虫、卵の状態に散布しても駆除することはできません。
ヨトウムシの幼虫は齢が進むと薬剤の感受性が低下するので、老齢前に散布することが重要です。散布時期が薬剤での防除の要と言えるでしょう。
ヨトウムシに効く代表的な農薬
有機リン系
有機リン系殺虫剤は殺虫剤の中でも、昆虫の神経系を阻害するタイプで、殺虫剤の代表的なタイプです。代表的な有機リン系農薬は、エルサン、オルトランやスミチオン、マラソンがあります。
メタジアミド系 グレーシア
グレーシア乳剤は、日産化学(株)が発明した非常に新しい殺虫剤です。日産化学(株)が開発した新規化合物である、イソオキサゾリン系の有効成分「フルキサメタミド」が害虫の神経に作用して速攻的な殺虫作用を示します。
コナガなどのチョウ目や、アザミウマ目、ハエ目、ダニ目等の幅広い作物害虫に高い効果を発揮します。
ヨトウムシに効く農薬一覧表
RACコード別に分類した、ヨトウムシに効く代表的な農薬は以下のようになります。
※農薬を使用する際にはラベルをよく読み、適用作物、用法・用量を守ってお使いください。
家庭園芸でよく使われる住友化学の「ベニカベジフルVスプレー」や「ベニカXファインスプレー」「ベニカXネクストスプレー」「ベニカベジフルスプレー」は、還元澱粉糖化物やネオニコチノイド系のクロチアニジンを成分にしており、ハスモンヨトウに適用があります。
殺虫剤はヨトウムシだけでなく、カメムシ類、カイガラムシ類やハダニ類、アブラムシ類、アザミウマ類、コナジラミ、コガネムシ、キスジノミハムシ、ネキリムシ、ヨコバイ、ハモグリバエ、ハマキムシ、イラガ、ウンカ、メイガ、ハムシ、ケムシ、テントウムシダマシ、ナメクジ、シンクイムシ、コオロギ、タマネギバエ、ダンゴムシ、ウリハムシ、アオムシ、ゾウムシ、ハバチ、グンバイムシ、モモハモグリガ、ハモグリガなど幅広い殺虫スペクトラムを持つものも多いので、うまく活用しましょう。
上記の農薬は水で溶かして薄めて使用する液剤や水溶性の粉剤、粒剤(粒状や顆粒)です。希釈方法等については下記をご参考ください。
防除する際のポイント
近年では、特定の農薬に抵抗性を持った害虫も多く発生し、農薬の効率的な使用のため、農薬のRACコードを確認して、タイプの異なる殺虫剤のローテーション散布を心がけること、また、農薬の使用量を減少させ、薬害を少なくするために、生物的、物理的、耕種的防除法を取り入れたIPM防除体系を組んで、統合的に実践することが重要になってきています。
生物農薬(生物的防除)
生物農薬とは、「農薬の目的に使われる生物を使い、病害を防除する農薬」のことを言います。
その生物とは主に、昆虫、線虫、微生物で、害虫(例えばアブラムシやアザミウマ、コナジラミ、ハダニなど)を捕食する、天敵に当たる昆虫や、昆虫に寄生するもの、センチュウ、また病原菌にあたる生物になります。
天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。
ヨトウムシの天敵はカエルやヤモリ、鳥類、蜘蛛などになってくるため、市販されている生物農薬はありませんが、他の害虫に適用する生物農薬は多くあります。
生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、ご興味ある方はご参考ください。
物理的防除
ヨトウムシの物理的、耕種的防除方法は、昔から様々な方法が存在します。これ一つで完全に防除できる、といった方法はありません。下記情報を参考に、是非、様々な方法を複数試してみてください。
米ぬかを入れた穴を圃場に作る
ヨトウムシは米ぬかが大好きな特性を活かして、畑地の所々に10cmほどの深さの穴を掘り、一握りの米ぬかを入れておく方法です。こうするとヨトウムシが穴に集まり、取り出して焼却等で駆除することができます。
また、雑草のハコベやホトケノザにも集まる習性があるので、引き抜いたハコベやホトケノザを圃場に置くとヨトウムシの幼虫を誘引することができます。
電撃殺虫機を設置する
ヨトウムシの成虫は蛾の一種で、夜の外灯に集まる習性があります。このため、灯りで感電死させる電撃殺虫機は、有効な防除方法です。(成虫を駆除できると産卵を防ぐことが出来、防除になります)
耕種的防除
ヨトウムシの物理的、耕種的防除方法は、昔から様々な方法が存在します。これ一つで完全に防除できる、といった方法はありません。下記情報を参考に、是非、様々な方法を複数試してみてください。
えひめAIを散布する
「えひめAI(えひめあい)」は愛媛県工業技術センターで開発された環境浄化微生物で、身近な食品(ドライイースト、ヨーグルト、納豆、砂糖)を発酵培養した液体です。
ヨトウムシは乳酸菌や納豆菌に弱いという説があり、有機栽培に使えるということから、実際にえひめAIをカスタマイズしてヨトウムシの発生数を激減させる効果をあげている農家の方もいらっしゃいます。
黄色い蛍光灯をつける
ヨトウムシの成虫は黄色の蛍光灯が苦手なので、圃場に設置すると、成虫の飛来を減らすことができます。(黄色の蛍光灯は開花を抑制する効果がある点に注意してください。)
フェロモントラップを設置する
フェロモンルアーと呼ばれる蓋があるバケツのようなトラップの容器にフェロモン剤を設置することで、蛾の成虫を誘引・捕殺することができます。畑の周りに設置すると、ヨトウムシの成虫を捕殺できます。
しっかり除草する
圃場の周りに、雑草があると、ヨトウムシの発生を促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけこまめに除草するのが、被害を少なくするのに極めて重要です。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。
まとめ
植える苗や、播種(は種)、定植して生育している苗木、葉菜類、イチゴやダイコン、カブの葉などに多大な食害をもたらすヨトウムシ。
農作物の限らず、様々な花木、観葉植物の葉、茎にも被害が出ています。本記事が、適切に退治、防除を行うためのヨトウムシ対策の一助となれば幸いです。
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
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