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アザミウマ

ミナミキイロアザミウマを駆除、防除する農薬について

ミナミキイロアザミウマに食害されたナスの葉裏。 アザミウマ

そもそも、アザミウマはどういう害虫?

アザミウマとは?

アザミウマはアザミウマ目に属する昆虫です。現生種は約5000種、スリップス(英名Thrips)とも呼ばれています。大きさは一般に1mm以下で翅があり、細長く、色もまちまちです。うち、農作物をエサにするのは44種と言われています。

アザミウマは産卵管を葉に突き刺し、細胞内に1つずつ産卵し、多いもので死ぬまでに250個以上産卵します。そして、アザミウマの幼虫は、土中(土壌中)で1齢蛹から脱皮し、2齢蛹を経て成虫になります。

翅で飛来し、小さいためハウスへの侵入も容易です。また、購入した株や苗から持ち込まれるケースも多く見られます。

このように繁殖力が高く、また発育スピード、生育サイクルが速く、短期間で世代を繰り返すため、ほかの害虫より抵抗性の発達スピードが速いのが特徴です。暖かいところでは年中発生するため、ハウスなどの施設では一年中発生します。

どうしてアザミウマは害虫なのか?

ミナミキイロアザミウマに食害されたナス
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

アザミウマは直接植物の汁を吸うことで、その傷が農作物、蕾が大きくなるにつれ、非常に見た目が悪くなることや、作物の萎縮、変形、変色の原因となり、収穫時に出荷できない物が増える(花木だと開花しないものが増える)といった食害があります。育苗期の加害による生育の遅れも深刻です。

また、最も厄介なのは、アザミウマはウイルスを運ぶということです。アザミウマは、果菜類、葉菜類、根菜類、豆類を含むほとんどの野菜や果樹、花きとさまざまな作物の茎葉、花弁を吸い漁りながらウイルスを広げていきます。一度、保毒すると、ウイルスを一生まき散らしてしまうのです。

アザミウマが媒介するウイルスは主に以下のようになります。

ウイルス名主な発生植物媒介するアザミウマの種類
トマト黄化えそウイルス(TSWV)トマト、ピーマンナス、レタスや、トルコギキョウ、マリーゴールド、ガーベラなどの花きなどミカンキイロアザミウマ
ヒラズハナアザミウマ
ネギアザミウマ
ダイズウスイロアザミウマ
スイカ灰白色斑紋ウイルス(WSMoV)スイカ、トウガン、ニガウリ、キュウリミナミキイロアザミウマ
メロン黄化えそウイルス(MYSV)メロン、キュウリ、スイカミナミキイロアザミウマ
インパチェンスネクロティックスポットウイルス(INSV)トルコギキョウ、シクラメンミカンキイロアザミウマ
ヒラズハナアザミウマ
アイリスイエロースポットウイルス(IYSV)タマネギ、ネギ、ニラ、トルコギキョウネギアザミウマ
えそウイルスとは?

植物が、えそウイルスに感染すると、葉では退緑輪紋や褐色のえそ輪紋、えそ斑点を生じ、茎にはえそ条斑を生じるのが特徴です。えそウイルスに感染した植物は、えそ斑点による奇形果になったり、場合によっては、生長点が枯死したり、最悪、萎凋枯死するケースがあります。

アザミウマによって媒介される代表的なウイルスです。

ウイルスを媒介する代表的なアザミウマ

日本の畑地に出る、ウイルスを媒介するアザミウマは主に以下の5種類です。

種類名ネギアザミウマミナミキイロアザミウマミカンキイロアザミウマヒラズハナアザミウマチャノキイロアザミウマ
体長(成虫(雌))1.1〜1.6mm1.2〜1.4mm1.4〜1.7mm
1.3〜1.7mm0.8〜1.0mm
夏:淡黄色~黄褐色
冬:褐色
黄色夏:黄土色
冬:茶褐色
褐色系黄色
特徴周年発生
幅広い作物に出現
寒さに弱い
ナスやピーマン、トウガラシ類、キュウリ、スイカといった果菜類によく発生
ナス科、バラ科によく発生ピーマン、トウガラシ類、トマト、イチゴ、バラ科を中心に幅広い作物で発生茶やブドウ、かんきつを中心に幅広い作物で発生
ミナミキイロアザミウマの1齢幼虫と、2齢幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ミナミキイロアザミウマの特徴

ミナミキイロアザミウマの特徴としては、まず寄主範囲が非常に広いことが言えます。そして周年発生します。3月から5月にかけて発生が多く、5月が最盛期となりますので、秋まきの定植時には特に注意が必要な害虫です。

体長も他のアザミウマと比較して小さく、防除のタイミングを逃すと、科学的防除(農薬)が難しくなります。

ミナミキイロアザミウマ 防除のポイント

ミナミキイロアザミウマに食害されたナスの葉裏。
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集 葉表、葉脈に沿ってできた食害痕が見られる

ミナミキイロアザミウマの発生初期は、成幼虫の吸汁によって、葉表の葉脈に沿って2~3mmの細長い白色または褐色の小斑点や、写真のように、葉裏では3~5mmの大きさの銀白色に光る部分が葉脈沿いに生じます。

成虫をルーペや実体顕微鏡で200倍程度で観察して、判別しましょう。ミナミキイロアザミウマは、黄色く、前胸背板の後縁に長刺毛があり,その刺毛の長さが比較的長いこと,翅の刺毛が黒く目立つことが特徴です。

早期発見をして、薬剤による丁寧な防除が何よりも大事になってきます。

ミナミキイロアザミウマに効く農薬

アザミウマは厄介なことに、全てのアザミウマによく効く農薬はあまりありません。

以下の代表的な農薬の種類と種類別の対応表を参考に、ミナミキイロアザミウマの列に記載の農薬を、RACコード毎に、ローテーション活用してみてください。

アザミウマに効く農薬一覧表

アザミウマを適用病害虫とする農薬はかなりの種類がありますが、アザミウマの種類によって、効く効かないはまちまちです。代表的のものをアザミウマの種類別に分類すると、以下のようになります。(あくまで、参考的な情報です)

IRACコードグループ名ネギアザミウマミナミキイロアザミウマミカンキイロアザミウマヒラズハナアザミウマチャノキイロアザミウマ
1B有機リンスミチオン
ダイアジノン
オルトラン
トクチオン
スプラサイド
オルトラン
トクチオン
スプラサイド
オルトラン
スミチオン
スプラサイド
ダイアジノン
4Aネオニコチノイドモスピラン
アドマイヤー
ダントツ
スタークル
モスピラン
アドマイヤー
ダントツ
スタークル
モスピランモスピランモスピラン
アドマイヤー
4Cスルホキシイミン系トランスフォーム
5スピノシン系
(マクロライド系)
ディアナSCディアナSCディアナSCディアナSCディアナSC
6アベルメクチン系
ミルベマイシン系
(マクロライド系)
アファーム
アグリメック
アファームアファーム
アニキ
アニキ
9Bピリジン アゾメチン誘
導体
コルトコルト
21AMETI剤ハチハチ
23テトロン酸および
テトラミン酸誘導体
モベント
30メタジアミド系グレーシアグレーシア

※農薬を使用する際にはラベルをよく読み、用法・用量を守ってお使いください。

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RACコードとは??

RACコードとは、農薬を作用機構(農薬の効き方)ごとに分類して番号と記号を振ったコードになります。

例えば殺虫剤なら有機リン系は[1B]、ネオニコチノイド系は[4A]など、すべての農薬にRACコードが設定されています。

同じRACコードの農薬を繰り返し使うと害虫や病原菌に抵抗性がついてしまうのを、RACコードが違うコードの農薬を交互に使うことで防ぐことができます。「系統」とも呼ばれますが、RACコードの方が、より厳密に分類されています。 

殺虫剤は、IRAC(アイラック)コード、殺菌剤にはFRAC(エフラック)コード、除草剤にはHRAC(エイチラック)コードになっています。

殺虫剤はアザミウマ類だけでなく、カイガラムシ類やハダニ類、アブラムシ類、ヨトウムシコナジラミコガネムシハスモンヨトウネキリムシ、ヨコバイ、ハモグリバエ、ネギハモグリバエ、ネギコガ、ハマキムシ、イラガ、カメムシウンカ、メイガ、ハムシ、ケムシ、テントウムシダマシナメクジシンクイムシなど幅広い殺虫スペクトラムを持つものも多いので、うまく活用しましょう。

上記の農薬は水で溶かして薄めて使用する液剤(薬液)や水溶性の粉剤、粒状、粒タイプです。希釈方法等については下記をご参考ください。

展着剤を利用してみよう

農薬を散布する際、展着剤を活用できると、効果が大きく違ってきます。展着剤は、一般展着剤、アジュバント(機能性展着剤)、固着剤と、本当に様々な種類があります。是非、下記を参考にして、展着剤を活用してみましょう。

抵抗性ミナミキイロアザミウマの対処法

抵抗性ミナミキイロアザミウマとは、農薬の種類、活用が増えることで、たまたま耐性があって生き残った特定の農薬が効かない性質のアザミウマが、世代を重ねて集団化したものです。

アザミウマは繁殖力が高く、また発育スピードが速く、短期間で世代を繰り返すため、ほかの害虫より抵抗性の発達スピードが速い害虫です。

殺虫剤を散布しても、翌日集団でアザミウマが生息している場合は、抵抗性を疑ってよいでしょう。

このような場合は、お使いの農薬のRACコードを確認して、同タイプの連用は避けタイプの異なる殺虫剤のローテーション散布を心がけること、さらには生物的、物理的、耕種的防除法を取り入れたIPM防除体系を組んで、統合的に実践することが重要です。

IPM(総合的害虫管理)とは?

農地を取り巻く環境や病害虫の対象種の個体群動態を考慮しつつ、「生物的防除」「化学的防除」「耕種的防除」「物理的防除」を組み合わせることで、病害虫の発生を経済被害を生じるレベル以下に抑えることをいいます。

  • 「生物的防除」 病害虫の天敵を導入し、病害虫密度を下げる防除法
  • 「化学的防除」 化学薬剤を使用して行う防除法
  • 「耕種的防除」 栽培法,品種、圃場の環境条件等を整え、病害虫の発生を減らす防除法
  • 「物理的防除」 防虫ネット、粘着トラップ、光熱等を利用して病害虫を制御する防除法

(IPM・・・Integrated Pest Management)

また、新規殺虫剤として、アザミウマに特効性があるとして注目されているファインセーブフロアブルという農薬があります。こちらは、有機リン系やネオニコチノイド系などの系統とは別で、抵抗性アザミウマにも効果が確認されているので、取り入れてみるのもいいと思います。

生物農薬

生物農薬とは、「農薬の目的に使われる生物を使い、病害を防除する農薬」のことを言います。

その生物とは主に、昆虫、線虫、微生物で、害虫(例えばアブラムシやアザミウマ、コナジラミ、ハダニなど)を捕食する、天敵に当たる昆虫や、昆虫に寄生するもの、センチュウ、また病原菌にあたる生物になります。

天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。

アザミウマ対策に使えるおすすめの生物農薬は、以下のようなものがあります。

商品名ククメリスオリスターAスワルスキーボタニガードES
有効成分の種類ククメリスカブリダニタイリクヒメハナカメムシスワルスキーカブリダニボーベリア バシアーナ GHA株 分生子
作物名野菜類(施設栽培)
シクラメン(施設栽培)
野菜類(施設栽培)野菜類(露地栽培)
野菜類(施設栽培)
花き類・観葉植物(施設栽培)
野菜類
適用病害虫アザミウマ類
ケナガコナダニ
アザミウマ類アザミウマ類
チャノホコリダニ
コナジラミ類
ミカンハダニ
アブラムシ類
アザミウマ類
コナジラミ類
ハダニ類
コナガ
アオムシ など

生物農薬は、在来種以外の天敵昆虫を使用することが多く、本来の生態系に影響を与える恐れがある為、閉鎖系の圃場以外では使用、散布し難いものがあるなどの注意点もあります。

その他、生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、ご参考ください。

無農薬でアザミウマを駆除する方法

アザミウマは、アブラムシと同様、キラキラ光るものが苦手だったり、逆に黄色いものが好きだったりといった習性があります。この習性を利用することで、アザミウマを忌避、誘引し、防除することができます。

また、最近では赤い防虫ネットでハウスを覆うことで、アザミウマの発生を防いだり、ハウス内の雑草をしっかり除草することで、発生を減らすことができます。

無農薬でアザミウマを駆除する、物理的防除、耕種的防除について詳しく知りたい方は、下記を参考にしてみてください。

ここでは、ミナミキイロアザミウマの防除方法で代表的なものを下記に記載します。

青色粘着トラップに誘引

ミナミキイロアザミウマは青色に誘引されるので、多発地域では3月ごろから設置して、成虫の誘殺状況を調査しましょう。早期発見に役立ちます。

圃場の周りを除草する

雑草は病害虫の発生源になるため、除草は非常に効果的な防除方法です。

シルバーマルチ等の設置

シルバーポリフィルムなどの銀白色資材でマルチすると、成虫の飛来侵入と蛹化を防止することができます。

1mm以下の防虫ネット

目合い1mm以下の防虫ネットを設置すると、成虫の侵入を防ぐことができます。

まとめ

ミナミキイロアザミウマは果菜類によく発生し、ウイルスを媒介し、小さくて発見しにくい、ハウスだと一年中発生する、またアザミウマ自体が農薬に対する耐性も強く、大変厄介な害虫といえます。

ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。

(参考)アザミウマに効く代表的な農薬

ネオニコチノイド系 ダントツ、スタークルなど

ネオニコチノイド系とは、90年代に登場した比較的新しい殺虫成分で、ニコチンの仲間です。ニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、信号の伝達を阻止し、結果、昆虫は麻痺し、死に至ります。

浸透性、速効性、持続性が優れていることや幅広い殺虫スペクトラムを持つため、現在非常によく使用されている殺虫剤です。代表的な製剤ダントツやネオニコチノイド系農薬については下記で詳しく説明しています。ご参考ください。

家庭園芸でよく使われる住友化学の「ベニカベジフルVスプレー」や「ベニカXファインスプレー」「ベニカXネクストスプレー」「ベニカベジフルスプレー」は、ネオニコチノイド系のクロチアニジンを成分にしています。

有機リン系 オルトラン、マラソンなど

有機リン系殺虫剤は殺虫剤の中でも、昆虫の神経系を阻害するタイプで、殺虫剤の代表的なタイプです。代表的な有機リン系農薬は、オルトランやマラソンがあり、どちらもアザミウマに効く農薬です。マラソンについては下記をご参考ください。

コルト

コルト顆粒水和剤は、日本農薬などが販売する昆虫の行動を制御する昆虫行動制御剤(IBR剤)で、従来の有機リン系やネオニコチノイド系に対して抵抗性を発達させた害虫にも有効なため、ローテーションのなかに組み込みやすい殺虫剤です。

メタジアミド系 グレーシア

グレーシア乳剤は、日産化学(株)が発明した非常に新しい殺虫剤です。日産化学(株)が開発した新規化合物である、イソオキサゾリン系の有効成分「フルキサメタミド」が害虫の神経に作用して速攻的な殺虫作用を示します。
コナガなどのチョウ目や、アザミウマ目、ハエ目、ダニ目等の幅広い作物害虫に高い効果を発揮します。

スルホキシイミン系 トランスフォーム

トランスフォームフロアブルは2017年12月に農薬登録が認可された新規殺虫剤です。ネオニコチノイド系や有機リン系などの既存の殺虫剤とは構造が異なる新規系統の殺虫剤なので、コルトと同様、ローテーションに組み入れやすい殺虫剤です。

執筆者・監修者情報
執筆者・監修者

農家web編集部のメンバーが「農業者による農業者のための情報サイト」をコンセプトに、農業に関するあらゆる情報を丁寧にまとめてお届けしていきます。
編集部のメンバーは皆、実際に農業に携わりながら情報をまとめています。農学を極め樹木医の資格を持つ者、法人の経営・財務管理に長けている者、大規模農場の営農経験者などバラエティに富んだメンバーで構成されています。他にも農機具やスマート農業機器、ITなどのスキルも兼ね備えています。

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