リン酸肥料のまとめ

リン酸肥料のまとめ リン酸肥料

作物栽培において、わき芽かきや摘芯、摘果などの手入れとともに重要となってくるのは施肥(元肥追肥)です。特に三要素三大栄養素)の窒素(チッソ)、リン酸(リンサン)、カリウム(カリ・加里)は植物の成長に欠かせないものとなります。

リン酸とは

リン酸(P)は、肥料の三要素の一つで植物の遺伝情報の伝達やタンパク質の合成などを担う核酸の重要な構成成分となります。施肥を考える上では、「実肥」と呼ばれ、開花・結実を促すためにリン酸が必要となります。また、植物全体の生育や分げつ、枝分かれ、根の伸長など様々な要素に関わっています。

「リン酸系肥料」と「リン酸質肥料」は違う?

リン酸の肥料を探している過程で「リン酸質肥料」という単語をよく目にすると思います。実は「リン酸質肥料」は、肥料取締法で定義された普通肥料のうちリン酸成分を保証した肥料のことを指します。

簡単に言うとリン酸質肥料には、過リン酸石灰や熔成リン肥、リン酸の含有量が保証されている化成肥料などは含まれますが、有機肥料は含まれません。ややこしいですね。そのため、この記事では、リン酸質肥料に限らず「リン酸系肥料」として、リン酸が含まれている単肥、化成肥料、有機肥料を紹介します。

リン酸の効果

先述したとおり、リン酸は植物にとって重要な三要素(三大栄養素)の一つです。リン酸が不足(欠乏)すると、花数が減少し開花・結実が悪くなったり、成熟が遅れてきます。肥料のラベルなどには化学式や元素記号で「P」と表される事が多いです。

リン酸は「実肥」と呼ばれ、その名の通り、開花・結実を促進したり、発芽や花芽の付きをよくする働きがあります。リン酸は、植物体内で以下のような働きを担っています。

  • 遺伝子の元になるDNA(核酸)の重要な構成成分としての働き。
  • 生物の細胞膜の構成成分としての働き。
  • 糖類と結合して生物体内でのエネルギーのやりとり(呼吸作用)。

植物では開花・結実を促進したり、根の伸長、発芽や花芽のつきをよくする働きがあります。 果実の成熟や品質の向上にも役立ちます。通常、植物を栽培する場合は必ず肥料として必要になる「三要素」のひとつです。

リン酸過剰は、通常の栽培では起きにくいことですが、極端に過剰な状態が続くと生育不良となります。特に、亜鉛、鉄、マグネシウムなどの微量要素の欠乏症状を引き起こします。

また、リン酸は土壌の酸度(pH)が7.0以上のアルカリ性になってくると石灰(カルシウム)と結合して吸収されにくくなります。土壌酸度(pH)が5.5〜6.5のとき最もリン酸が溶出されます。地温(土壌の温度)によっても作物の吸収効率が大きく変化し、地温20℃から10℃になると吸収効率が1/10程度になります。

土壌を適正な環境に整え、適量を必要なときに与え続けることが重要となります。

リン酸肥料の種類

リン酸肥料の種類を分ける場合、いくつかの切り口があります。一番基本となるのは、肥料取締法による分類です(出典:15 肥料取締法について – 農林水産省)。

肥料取締法では、リン酸質肥料は下記のように分類されています。

りん酸質肥料の種類

過りん酸石灰(過石)、重過りん酸石灰(重過石)、りん酸苦土肥料、熔成りん肥(ようりん)、焼成りん肥、腐植酸りん肥、熔成けい酸りん肥、鉱さいりん酸肥料、加工鉱さいりん酸肥料、被覆りん酸肥料、液体りん酸肥料、熔成汚泥灰、けい酸りん肥、加工りん酸肥料、副産りん酸肥料、混合りん酸肥料

中でも、熔成燐肥(ようりん)、過燐酸石灰(過石)、重過燐酸石灰(重過石)、重焼リンは単肥としてよく利用されます。下記に、それぞれの肥効のタイプや特性を示します。

肥料NPK肥効のタイプ特性
熔成燐肥
(熔成リン肥)
17%〜25%緩効性アルカリ性資材。く溶性リン酸。マグネシウム(苦土)を含んでいる。リン鉱石や蛇紋岩などが原料。
過燐酸石灰
(過リン酸石灰)
16%〜20%速効性酸性資材。可溶性リン酸が15%以上。
重過燐酸石灰
(重過リン酸石灰)
42%〜43%速効性酸性資材。過リン酸石灰よりもリン酸成分が高い。
重焼リン35%速効性+緩効性水溶性リン酸が16%。く溶性リン酸も含まれているので長く効く。

リン酸カリウムリン酸カルシウム亜リン酸、ポリリン酸などリン酸肥料の成分・配合の違いによっても分けることができるでしょう。

その他にも、リン酸が含まれた肥料やリン酸が多く含まれた有機質肥料(有機肥料)もリン酸肥料と呼べるでしょう。

リン酸系の肥料と言ってもその特徴や使い方は様々です。下の基準に従って、どのような肥料を購入・使用するかを絞り込んでいくとよいでしょう。最後は必ず、購入・使用する予定の肥料のラベルや資料などをよく読み、自分が使いたい方法と合っているか確認しましょう。

  1. 元肥として使用するのか、追肥として使用するのか。
    元肥として使用する場合は「遅効性」「緩効性」の肥料、追肥として使用する場合は「緩効性」「速効性」の肥料がおすすめです。
  2. 土作りで酸度(pH)調整を行いたいか。
    アルカリ性によせたい場合には、土作りに熔成燐肥(熔成リン肥)を使用すると有効です。
  3. 窒素肥料のみを投与したいという限定的な目的や独自での施肥設計ができる技量はあるか。
    土壌診断を行い、独自(もしくはJAや肥料メーカーなど)で施肥設計ができる方であれば単肥のほうがコストを安く抑えられるので良いでしょう。
  4. 有機肥料のみを使いたいというこだわりはあるか。
    有機肥料のみを使うということであれば、リン酸成分が含まれている発酵鶏糞、骨粉、米ぬかバットグアノを使用しましょう。

上記の選び方を参考に、おすすめのリン酸肥料から用途に合わせたものを選択すると良いでしょう。

リン酸が多い/少ない・無配合の肥料

リン酸の多い肥料

保証成分量に記載されている成分のうち、「りん酸全量」「く溶性りん酸」「水溶性りん酸」など、りん酸と記載されているものの割合(%)が他のものと比べて高ければ、リン酸の多い肥料と言えるでしょう。

化成肥料であれば、NP化成やPK化成はリン酸を多く含んだ高度化成肥料として挙げられます。

リン酸の少ない・無配合の肥料

逆にリン酸の割合が他のものと比べて低い、もしくは全く入っていない肥料というものもあります。

化成肥料であれば、NK化成はリン酸を全く含まない高度化成肥料として挙げられます。

リン酸肥料の使い方

リン酸肥料は、種類によって特性が異なるので使い方もさまざまです。

リン酸肥料の作り方

リン酸の含量が比較的多い有機質を組み合わせて、ぼかし肥料とすることでリン酸の多く含まれた肥料を作ることができます。また、ぼかし肥料にせずとも、それぞれをそのまま散布、混和しても良いでしょう。

く溶性リン酸、可溶性リン酸、水溶性リン酸の違い

リン酸には、く溶性、可溶性、水溶性のものがあります。それぞれ特性が異なります。

く溶性のリン酸

水に溶けにくく、2%クエン酸溶液に溶けることを指します。根から出る根酸程度の酸ではゆっくり溶け出すので、ゆっくりと効く(緩効性)特性を持っています。有機肥料に含まれるリン酸は、く溶性であることが多いです。

可溶性のリン酸

根から出る根酸程度の酸でよく溶け出します。可溶性の定義は、水には溶けないが0.5mol/Lの塩酸に溶けるものを指します。く溶性リン酸よりは早く溶け出して効きますが、水溶性リン酸よりはゆっくりと効きます。水溶性リン酸も可溶性なので、可溶性リン酸の中に含まれます。過リン酸石灰(過石)などに含まれます。

水溶性のリン酸

水に溶け、最も速効性の高いリン酸です。水溶性のリン酸は、土の固定作用を受けやすいために肥効の持続期間は短いものが多いです。現在では、直接土との接触を少なくすることで肥効を高める粒状のものが主流となっています。粒状にすることで散布しやすくもなります。

リン酸アンモニウム(燐安)や過リン酸石灰などに含まれます。

植物の生長に必要な三要素と中量要素、微量要素について

植物が育つために必要な三大栄養素(三要素)は窒素(チッソ)、リン酸(リンサン)、カリウム(カリ・加里)です。まずはこの三要素と中量要素、微量要素について、おさらいしましょう。

窒素(チッソ)とは

窒素(N)は、肥料の三要素の一つで植物の生育に最も大きく影響する要素です。光合成に必要な葉緑素、植物の体を形作るタンパク質など、植物が生長する上で重要な働きをする物質となります。窒素肥料は「葉肥(はごえ)」とも呼ばれ、生育の初期に効果的であり、茎と葉の生長に大きく影響します。

リン酸(リンサン)とは

リン酸(P)は、肥料の三要素の一つで植物の遺伝情報の伝達やタンパク質の合成などを担う核酸の重要な構成成分となります。施肥を考える上では、「実肥」と呼ばれ、開花・結実を促すためにリン酸が必要となります。また、植物全体の生育や分げつ、枝分かれ、根の伸長など様々な要素に関わっています。

カリウム(加里・カリ)とは

カリウム(K、加里)は、肥料の三要素の一つで植物体内でカリウムイオンとして存在しています。カリウムイオンは葉で作られた炭水化物を根に送り、根の発育を促したり、植物を丈夫にして病気などに対する抵抗力を高める働きがあります。そのため、カリウム肥料は「根肥(ねごえ)」と呼ばれます。

その他の中量要素

窒素、リン酸、カリウムの三要素以外の中量要素として、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、マグネシウム(Mg)があります。

要素名主な役割
カルシウム(石灰・Ca)葉や実の組織を作る(細胞膜の生成と強化)、根の生育促進
硫黄(S)酸化・還元・生長の調整などの植物の生理作用や葉緑素(葉にある光合成を担う葉緑体に含まれる)の生成に関与
マグネシウム(苦土・Mg)葉緑素の構成元素、リン酸の吸収と移動
中量要素

また、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)も中量要素ですが、主に水や大気から吸収される要素です。

微量要素とは

微量要素には、ホウ素(B)、塩素(Cl)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)があります。三要素や多量要素と比較すると、必要な量は多くありませんが、欠乏すると様々な生理障害が発生します。

要素名主な役割
ホウ素(B)細胞壁の生成、カルシウムの吸収と転流
塩素(Cl)光合成(光合成の明反応)
マンガン(Mn)葉緑素の生成、光合成、ビタミンCの合成
鉄(Fe)葉緑素の生成、鉄酵素酸化還元
亜鉛(Zn)酵素の構成元素、生体内の酸化還元、オーキシンの代謝、タンパク質の合成
銅(Cu)光合成や呼吸に関与する酵素の構成元素
モリブデン(Mo)硝酸還元酵素(硝酸をタンパク質にする過程で利用される)、根粒菌の窒素固定
ニッケル(Ni)尿素をアンモニアに分解する酵素の構成元素、植物体内で尿素を再利用
微量要素

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