疫病はトマトやジャガイモ(馬鈴薯)などのナス科、カボチャなどのウリ科、ピーマンなど、様々な農作物に疾患し、蔓延すると壊滅的な打撃を与える、非常に厄介な病気です。
ここでは、トマトの疫病を予防、治療するためにはどのような農薬を使えばいいのか、その他、効果的な防除法について詳しく解説してきます。
疫病とはどんな病気?
疫病とは?
疫病は、鞭毛菌類に属する一種の糸状菌(カビ)によって発生します。疫病菌は、トマトやジャガイモへの病原菌が異なり、数種の生態系があると言われています。(トマトに疾患するものは学Phytophthora infestans (Montagne) de Bary、里芋(サトイモ)に感染するのはPhytophtora colocasiaeなど)特に梅雨時期のある程度低温の多湿時に大量発生しやすく、一度蔓延すると、急激に被害が拡大して収穫に大打撃を与えることから、非常に恐ろしい病気といえます。
疫病の症状
疫病にかかると、下葉に病班が発生します。そしてその病班が上の葉に広がっていきます。病班は、初期は不規則な大きさの灰緑色をしていますが、しだいに暗褐色の大型の病班になっていきます。
病班は湿度が低く、乾燥すると、写真のように乾燥して褐変し、パサパサのもろい状態になります。
果実は褐色の火傷のような病班ができ、その病班は大きくなってやがてくぼんで腐っていきます。
茎は感染すると、暗褐色の病班を生じ、その場所が徐々にくぼんできて、病班が広がり、茎を一周します。その後、その部分が折れ、腐敗します。
疫病にかかると、茎葉部が腐り、枯死するため果実に栄養が渡らず、小型になります。トマトの場合だと緑果になってしまうため、蔓延してしまうと収穫できる果実がほぼ0になる場合もあります。
発生する時期や要因
疫病菌の発育気温は15〜20°C、菌糸をだす適温は24°Cほどです。このため、20℃を若干超えてくるような気温で多湿の状態が続くと発生しやすくなります。
具体的には、露地栽培では梅雨時期や秋の雨が多い時期に多発し、雨が比較的少ない年は多発しにくくなります。
施設栽培では、路地栽培ほどは発生しませんが、施設内が多湿で、比較的低温な状態が続くと、発生しやすくなります。
疫病菌は,圃場に残されたトマトの被害茎葉上,またはジャガイモの塊茎の病斑上で越冬し,生き残って伝染源となる。また、トマトやジャガイモで以前発生した跡地では発生しやすくなります。
疫病に効果がある農薬
疫病の防除には、殺菌剤の散布、土壌消毒といった薬剤による化学的防除、また耕種的、物理的防除を組み合わせたIPM(総合的害虫管理)が重要です。
クロルピクリン錠剤
クロルピクリンは、臭化メチル以外の土壌消毒方法として利用されます。クロルピクリンのガスは空気よりはるかに重く、土壌の下層まで拡散し、土壌中の微生物や雑草の種子などに非選択的に効果を及ぼします。
クロルピクリン錠剤は刺激臭による作業の困難性を改善するため,有効成分を錠剤化して水溶性のフィルムに包んだものです。このためハウス内でも使用できます。また、周辺へのガス放出の心配がないため、住宅近接地でも使用できます。
使い方は30×30cm毎(15cmの深さ)1錠処理が基本になります。また、ゴボウなどの深根性作物や病原菌が深層まで分布するような病害の場合には,より深い位置に処理することで,高い防除効果が得られます。
殺菌剤
疫病菌は一度蔓延すると、なかなか防除することが困難です。下で紹介する農薬を早期に予防的に散布することが大事になってきます。
Zボルドー
Zボルドーも銅を成分とする予防剤で、多くの作物に適用があり、多くの病害に有効な銅剤です。耐性菌出現リスクが低いという面からも、安心して使えます。
ジマンダイセン水和剤
ジマンダイセンは、主成分マンゼブの分解物であるイソチオシアネートが、菌の生合成に必要な酵素類の不活化,ATP形成阻害,SH基の不活化などに作用し,菌体の酵素取込みやCO2放出を阻止したり原形質活動を阻害し、幅広い病害虫から作物を守る優れた予防剤です。
ライメイフロアブル
ライメイフロアブルは、べと病と疫病に高い効果を示す有効成分アミスルブロムを含有しています。特徴ある予防効果で2次感染を阻止し、効果が長続きします。また、フロアブル製剤のため、収穫物に付着する薬剤汚れが少ないのも特徴です。
上記の予防剤を適切に使いながら、万が一、発病が見られたときは、下記の治療効果を持つ農薬をうまく利用するようにしましょう。
リドミルゴールドMZ
有効成分メタラキシルMとマンゼブにより、べと病菌や疫病菌に安定して高い効果を示します。抗菌範囲は,メタラキシルはピシウム菌,疫病菌、べと病菌などに限られるが,マンゼブのそれはきわめて広く,各種の地上部の病原菌に効果があります。
こちらも予防剤で、効果を高めるためにも発病の少し前から散布できるとより良い効果が期待できますが、治療効果もあるので発生初期にも使える薬剤です。
カーゼートPZ水和剤
成分であるシモキサニルは、核酸やアミノ酸,脂質の合成を阻害するほか呼吸系代謝機構に対しても影響を及ぼし,植物体内へ吸収された本剤が侵入した菌糸の生育や胞子および遊走子のう形成を阻害し,病斑の拡大を阻止する治療効果を有します。マンゼブは植物体表面を保護し,胞子や遊走子の発芽を阻害して,病原菌の侵入を阻止する予防効果を有します。
上記の農薬は原液を水で溶かして薄めて使用する液剤、乳剤や水溶性の粉剤、粒剤(粒状や顆粒)です。希釈方法等については下記をご参考ください。
また、薬剤の効果を最大限に高めるため、展着剤を利用しましょう。特にサトイモなどは株元に水が溜まりやすい傾向があり、株元までしっかり薬剤を効かせるためにも展着剤の利用が欠かせません。展着剤については種類や薬害も含めて下記に詳しく解説しているので、是非参考にしてみてください。
化学的防除以外の防除方法
周りをしっかり除草する
圃場の周りに雑草が多くあるとその雑草に病害虫が発生し、繁殖、促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけ除草しておくことが、被害を少なくするのに重要です。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。(この他、イネ科雑草、広葉雑草、多年生やその他の厄介な雑草(スギナやヤブガラシ、スズメノカタビラなど))は個別の対策、防除記事もあります。
排水対策
疫病は土壌の水分が多いほど発病率が高まります。排水路を確保する、路地栽培ではマルチを行なって,病原菌の雨水によるはねかえりを防ぐ、など様々な方法で圃場の排水性を高めるようにすることが有効です。また、施設栽培の場合は、地表面をフィルムでマルチするとともに灌水を最小限にして施設内が多湿状態にならないように工夫することが重要です。
栽培に役立つ 農家webのサービス
農家web 農薬検索データベース
作物に適用がある農薬を一覧で探したいときには、「農家web農薬検索データベース」が便利です。
検索機能は、適用作物・適用病害虫に合致する農薬を探す「農薬検索」、「除草剤検索」をはじめ、さまざまなキーワードで検索できる「クイック検索」、農薬・除草剤の製品名で検索できる「製品検索」、農薬・除草剤に含まれる成分名で検索できる「成分検索」の4つで、農薬・除草剤の作用性を分類したRACコードや特性、 効果を発揮するためのポイントなど実際の使用に役立つ情報も知ることができます。
農家webかんたん農薬希釈計算アプリ
除草剤、殺虫剤を代表する農薬の液剤は、かなりの割合が原液で、水で希釈して散布するのが一般的です。希釈倍率に合わせて水と混ぜるのですが、希釈倍率が500倍、1000倍と大きく、g(グラム)やL(リットル)などが入り混じっていて、計算が難解だと感じる方も多いのではないでしょうか。
「農家webかんたん農薬希釈計算アプリ」は、使用する農薬の希釈倍数を入力し、散布する面積などから薬量・液量を算出します。面積の単位や薬剤の単位も簡単に行えます。
ラベルを見て希釈倍率を入力するだけでなく、農薬検索データベースと連携しているので、使いたい製品・適用ラベルを選択することで、希釈倍数を自動入力することができます。
農家web かんたん栽培記録
作物を栽培するときに、植え付けから収穫までの栽培記録をつけることは、作物の安全性を守る他にも、ノウハウを蓄積し、よりよい作物を栽培するためにも大切な作業です。
農家webのかんたん栽培記録はこれひとつで、無料で作物ごとに栽培記録できるだけでなく、その作物に発生しやすい病害虫やおすすめ農薬、また農薬に頼らない防除方法も、簡単にカレンダーから確認することができます。会員登録すれば、LINEに予察情報も届きます。パソコン等が苦手でも、タップで簡単に作業日誌をつけられます。
まとめ
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
発生してからの圃場の回復は非常に難しいので、予防でしっかり防除することを心がけましょう。
(補足)殺虫剤など、他の農薬について
農家webでは、下記のような害虫別のコンテンツがあります。気になるコンテンツがあれば、ぜひ参考にしてみてください。