農業で収入を得ている個人事業主の人には避けては通れない確定申告。青色申告は税金節約のメリットが大きいと聞いたことのある方もいるのではないでしょうか。
しかしメリット受けるには、定められた方法で確定申告書を提出しなければなりません。この記事では今年初めて青色申告をするかたにもわかりやすく、青色申告の仕方やおすすめのソフトウェアなどを紹介します。
青色申告に必要な書類
まず青色申告に必要な書類を確認しておきましょう。青色申告書に必要な書類は下記の2つ。
- 確定申告書B
- 青色申告決算書(農業所得用)
決算書とは、その年の利益と支出をまとめたもので、どれだけ儲けがでたのか、もしくは損失がでたのか経営状況や財政状況がわかるものです。申告には「貸借対照表」と「損益計算書」が必要になります。(所得控除が10万円の場合は損益計算書のみ提出)
「貸借対照表」「損益計算書」を作るためには、正規の簿記による記帳(複合簿記)が必要です。そこで会計ソフトや申告ソフトの出番です。最近では経理知識がないかたでも、自力で決算書や申告書が作成できるソフトも開発されています。
65万円の特別控除をうけるには電子申請が必要
青色申告の最大のメリットともいえる、所得控除ですが控除額は、最大65万円で要件を満たさないと55万円、10万円と減額されてしまいます。
10万円控除の場合は、複合簿記ではなく、簡易簿記で損益計算書だけを提出します。家計簿のようにお金の出入りだけを管理し記帳することでその年の利益がわかります。
以前は特別控除額は65万円と10万円でしたが、2020年度より55万円控除が追加されています。65万円控除と55万円控除は、提出する書類も同じですが、申告書の電子申請もしくは帳簿の電子帳簿保存が必要になります。
申告書を税務署の電子申請システム(e-tax)を使って電子申請をするか、電子帳簿保存に対応したソフトウエアを使い、「電子帳簿保存に係る承認申請書」を税務署に申請する必要があります。電子帳簿保存にかかる承認申請書は、以前は事前申請が必要でしたが2022年1月の改定により、確定申告書と同時でも可能になりました。
e-taxで申請する場合は、マイナンバーカードや、ID・パスワードを事前に取得する必要がありますのでお持ちでない方は、早めに準備をしておきましょう。
おすすめ会計ソフト・青色申告ソフト
インストール型ソフトウェア
ソリマチ 農業簿記11
会計ソフト大手のソリマチが作った、農業簿記に特化したインストール型の青色申告ソフトになります。このソフト一つで決算書と申告書をつくることができます。
農業簿記は、勘定科目が通常とは異なるため、通常の簿記ソフトでは自分でカスタマイズする必要がありますが、農業簿記に特化しているソリマチではもちろんそのまま使えます。JA全中推奨製品となっています。
「電子帳簿保存」に対応したソフトであり、電子申告もオプションシステム「みんなの電子申告」を使うことで、農業簿記で作成した所得税や消費税の申告データから、国税庁が提供する国税電子申告・納税システム「e-Taxソフト」に取り込むためのデータを作成することができます。
また、ソリマチは新規就農者応援特別価格キャンペーンを行っていて、該当する方は定価(66,000円)の半額で農業簿記11を購入することができます。
らくらく青色申告農業版
こちらも、農業簿記に特化したインストール型の申告ソフトになります。このソフトは、より簿記や仕訳、勘定科目、帳簿、記帳等の知識がない方向けに作られており、単式簿記のような感覚で作成していくことができます。ただし、画面の見やすさや項目の設定など、パソコンで数字を入力したりすること(エクセルなど)に慣れていない方は、難しく感じるかもしれません。
「電子帳簿保存」には対応していませんので、65万円の特別控除をうけるには電子申請が必要です。
ソリマチのような大手会計・申告ソフトのサポートを受けることはできませんが、価格もリーズナブルなので、ある程度パソコンに慣れている方にはお勧めします。
クラウド型ソフトウェア
最近の会計ソフトは、従来のパソコンにソフトをインストールのではなく、クラウド型に切り替える人が増えてきています。
クラウド型は、インターネットに接続でき、それを見れるパソコン・スマートフォンやタブレットがあれば、月額の使用料を払ってすぐに利用することができます。
また、税制は頻繁に変更されるのですが、クラウド型はすぐにアップデートがなされ、新しい会計ソフトをわざわざ買う必要はなく、常に最新のソフトを使用することができます。入力した仕訳情報もクラウドデータにリアルタイムで保存されるため、バックアップも万全です。
クラウド会計ソフト「freee(フリー)」
2大クラウド型会計ソフトの一つが、クラウド会計ソフト「freee(フリー)」です。freeeの個人事業主向けを使えば、それ一つで決算書と申告書の作成が可能です。
freeeは、農業簿記・農業申告にも力をいれており、農業簿記特有の特殊な勘定科目(「農具費」「生物」など)を追加でダウンロードできるようになり、プランにより農業所得用の決算書の作成ができる機能も追加されています。農業所得用の決算書は電子申請には対応していないので紙での申請が必要ですが、「電子帳簿保存」に対応したソフトのため、65万円の所得控除は可能です。
さらに、他社の請求、取引を簡単にしたり代行する様々なサービス、パートナーとの連携機能も豊富で、農業関係だと農業日誌などをデジタルで入力できる「Agrion(アグリオン、agri on)」と連携することができます。またクレジットカードや口座明細などがリアルタイムで自動連係ができるので、経費の漏れも防ぎます。
農業所得用の決算書が作れるプランでも月額2,380円(税抜)で始められるのも魅力です。また、いつでも質問、相談ができ、答えるサポートデスク、また冬の時期に農家の方向けに説明会を開いていたりと、サポートも手厚い印象です。ただ、そもそも簿記に経験がある方にとっては、仕訳の形で画面を見ようとすると、一手間かかる点などから、逆に少し使いにくいと感じるところもあります。
MFクラウド(マネーフォワードクラウド)
2大クラウド型会計ソフトのもう一つが、「MFクラウド」です。こちらも、レシートを写真に撮るだけで日付と数値を読み取ってくれて、自動で記帳してくれるOCR機能や、銀行口座・カードをシステムに連携して、その出納(入出金)明細を取り込む機能を有しています。
しかし、MFクラウドは、freeeと異なり、簿記における帳簿や貸借対照表の仕組み、また仕訳を理解していることをある程度前提にした作りになっています。
このため、簿記や仕訳に馴染みのある方はfreeeよりも使いやすいですが、そうでない方には難解に感じるかもしれません。また、どちらかというと、個人事業者よりも中小企業向けに作られているため、freeeのように農業簿記特有の勘定科目に再設定するためのサポートはなく、自分でカスタマイズする必要があり、かなり玄人向けの印象を受けました。が、その分、元帳や帳簿、台帳の閲覧などの使い勝手はよかったです。
農業法人など大規模な組織体で、ある程度簿記や仕訳に精通した方がいる場合はお勧めします。(筆者はこちらを数年使用していました。
青色申告とは? そのメリットについて
確定申告とは、1月1日~12月31日までの1年間の収入に対する納税額を、決算によって確定し、決められた期限までに国に申告することを言います。
専業農家だけでなく兼業農家でも、1年間の収入が20万円を超える場合は、事業の収支を記録した帳簿をつけ、申告をし、最終的に確定申告の内容に従って税金を納めることが義務付けられています。
確定申告は、「白色申告」と「青色申告」の二種類があります。
白色申告は単式簿記という、簡単な簿記の仕組みで必要書類を作ることができます。農家の場合は「農業収支計算書」を作成して提出します。
青色申告の確定申告書類には、複式簿記によって作成される「貸借対照表」「損益計算書」を合わせた決算書と、青色確定申告書が必要になります。つまり、青色申告には、複式簿記による記帳が必須になります。
このように、白色申告よりも手間がかかる青色申告ですが、白色申告と異なり、様々なメリットを受けることができます。特に大きいのは下記の二つです。
この節税メリットを享受するため、複雑な複式簿記に皆さん、挑まれています。ここで、上記で紹介した会計・簿記・青色申告ソフトの出番です。
また多くの申告ソフトがe-taxという電子申告制度に対応しているため、申告手続きを簡略化することができます。是非申告ソフトを利用して青色申告し、メリットを受けるようにしてください。