この記事では、手軽に使える有機石灰、貝殻肥料の簡単な作り方や効果的な使い方から、その効能、おすすめ商品まで詳しく紹介します。
貝殻肥料の概要
貝殻肥料とは、貝殻を粉砕し、肥料として用いるものです。肥料として販売されているもののほとんどは、塩抜きした貝殻を焼いたり乾燥させたりした後、土壌に混ざりやすいように細かく砕くなど、使いやすく加工されています。主成分は炭酸カルシウムで、100%天然素材に由来する有機石灰肥料です。
化成肥料と異なり有機質肥料なので、肥料成分の補給にとどまらず、土壌改良の効果も期待できます。有機物が有用な菌などの微生物の餌となることで、微生物の活性が高まり、団粒構造が促進されます。団粒構造が形成された土壌は、保水性、透水性、排水性が良好で、作物の増収や品質向上につながります。
さらに、微生物による分解や発酵(醗酵)などで地力の高まった土壌では、病害虫(病気と害虫)の発生が少ないため、農薬(殺菌剤や殺虫剤)の散布を抑えられるという利点もあります。
貝殻肥料の特長・効能
貝殻肥料の特長・効能には下記のものがあります。
- アルカリ分がほかの石灰肥料に比べて低く、生石灰、消石灰はもちろん、苦土石灰よりも効き目がおだやか。
- アルカリ性が土壌を中和し、酸性からじわじわと栽培作物に最適な土壌pHに調整し、品質向上、収量増に貢献する。
- マンガンやほう素などの海のミネラルを豊富に含む。
- カルシウムだけでなく、チッソ、リン酸、カリ、ケイ酸、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデンといった植物に必要な微量要素、ミネラル、養分を多く含む。微量要素を含むこと、土を固めないことから根張りが良くなり、増収効果が期待できる。
- ホタテ貝の場合、貝の分泌したコンキオリン酸、ホタテ貝殻の内側に含まれるキチン質、表面に付着したラミナリン質が含まれており、窒素の吸収をよくしたり、土中の放線菌等の有効微生物の働きを活発にする働きがある。
- 貝殻はゼオライトのように多孔質構造のため、小さい穴が親水性や通気性、保肥力を高め、土壌の中の微生物の活動を促進、土壌改良、連作障害の防止に役立つ
貝殻肥料の簡単な作り方
貝殻肥料の作り方は簡単です。虫がわかないよう卵の殻を水でよく洗って、乾燥させた後、ミルサーなどを使わない範囲で粉砕し粒状、粉状にします。これを畑に元肥として撒いたり、作付け、植付けする腐葉土に混ぜ込んだりすればOKです。
材料
- 何かしらの貝殻(水でしっかり洗ったり、塩抜きしているものがベター)
- ゴムハンマーやハンマー(砕くために使う)
- 軍手
- ジップロック大など袋(貝殻を入れて砕く)
簡単な作り方
- 貝殻を水に付けてよく洗ったあと、数日乾燥させる。
- シップロックなど袋に貝殻を入れて、ゴムハンマーやハンマーで砕く。このとき、下の地面はコンクリートなど硬いところでやるのがおすすめ(傷つかないように注意)
- ある程度の細かさになったら、砕くのをやめ、別の袋などで保管したり、土に混ぜ込んだり、ボカシ肥料にしたりする(詳しくは使い方を参照)
基本的には大量に貝殻を手に入れたり、水抜きしたりするのは簡単ではないので、殺菌された、製品として販売されているものを利用します。
貝殻肥料の効果的な使い方
果樹・野菜全般・水稲・麦・イ草・ナタネ等、幅広くいろいろな作物に施用することができますが、強酸性土壌を好む作物への施用は注意したほうが良いでしょう。
また、土壌改良材として作付け前に施用するのが一般的です。土壌とよく混ぜ合わせて使用してください。
他にも「発酵させてぼかし肥料として使う方法」や「酢に漬けて酢酸カルシウムとして使う方法」があります。
施用時期
作付け1週間前~当日が目安です。
他のカルシウム資材(消石灰や苦土石灰など)は、施用後、作付けまでに1~2週間ほど時間をおく必要がありますが、貝殻は施用後すぐの播種や定植も可能です。
施用量
土質や土壌のpH(酸性度)、栽培する作物によっても施用量が変わります。
プロ農家の方は、土壌分析を実施したり、専門家(農協や普及センターなど)のアドバイスを受けたりすると良いでしょう。家庭菜園の方は、標準量から試して作物の生長度合いを観察しましょう。
炭酸カルシウムの施用量の目安は、土壌酸度(pH)によって下記のとおりです。
土 性 | 腐植含量 | 4.0 | 4.2 | 4.4 | 4.6 | 4.8 | 5.0 | 5.2 | 5.4 | 5.6 | 5.8 | 6.0 | 6.2 | 6.4 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
砂壌土 | 含む | 424 | 390 | 356 | 323 | 289 | 255 | 221 | 188 | 154 | 120 | 86 | 53 | 15 |
砂壌土 | 富む | 634 | 581 | 533 | 480 | 431 | 379 | 330 | 278 | 229 | 176 | 128 | 75 | 26 |
砂壌土 | 頗る富む | 986 | 908 | 829 | 750 | 671 | 593 | 514 | 435 | 356 | 278 | 199 | 120 | 41 |
壌土 | 含む | 634 | 581 | 533 | 480 | 431 | 379 | 330 | 278 | 229 | 176 | 128 | 75 | 26 |
壌土 | 富む | 844 | 776 | 709 | 641 | 574 | 506 | 439 | 371 | 304 | 236 | 169 | 101 | 34 |
壌土 | 頗る富む | 1,268 | 1,166 | 1,065 | 964 | 863 | 761 | 660 | 559 | 379 | 356 | 255 | 154 | 53 |
植壌土 | 含む | 844 | 776 | 709 | 641 | 574 | 506 | 439 | 371 | 559 | 236 | 169 | 101 | 34 |
植壌土 | 富む | 1,054 | 971 | 885 | 803 | 716 | 634 | 548 | 465 | 379 | 296 | 210 | 128 | 41 |
植壌土 | 頗る富む | 1,549 | 1,425 | 1,301 | 1,178 | 1,054 | 930 | 806 | 683 | 559 | 435 | 315 | 188 | 64 |
埴土 | 含む | 1,054 | 971 | 885 | 803 | 716 | 634 | 548 | 465 | 379 | 296 | 210 | 128 | 41 |
埴土 | 富む | 1,268 | 1,166 | 1,065 | 964 | 863 | 761 | 660 | 559 | 458 | 356 | 255 | 154 | 53 |
埴土 | 頗る富む | 1,830 | 1,684 | 1,538 | 1,391 | 1,245 | 1,099 | 935 | 806 | 660 | 514 | 368 | 221 | 75 |
腐葉土 | − | 2,062 | 1,898 | 1,733 | 1,568 | 1,403 | 1,238 | 1,073 | 908 | 743 | 570 | 413 | 248 | 83 |
消石灰や苦土石灰とは異なり、窒素肥料との同時施用も可能なので、堆肥や基肥と一緒に散布することができ、作業を効率化できます。
施用できる作物
野菜・果樹全般に使用できますが、ジャガイモやブルーベリーなどの強酸性土壌を好む作物への施用は注意しましょう。
貝殻肥料を使うときに役立つポイント
発酵させて「ぼかし肥料」にして使う
牡蠣殻や卵の殻に代表される「炭酸カルシウム」は、水に非常に溶けにくく、わずかずつ土壌溶液や根酸、微生物が出す有機酸に溶かされて作物に吸収されます。このため、そのまま撒いてもなかなかすぐには効きません。
すぐに効かせたい時は、牛糞やもみ殻(モミガラ)、ソバ殻、米ぬかなどに牡蠣殻を混ぜ込み、半年から1年ほど寝かせた後で使うと、効果が早く出るようになります。このような有機肥料を発酵させることで速効性を持たせた肥料を「ぼかし肥料」と言います。ぼかし肥料やコンポストについて作り方など、もっと知りたい方は、是非下記に目を通してみてください。
酢に漬け込んで「酢酸カルシウム」にして使う
また最近では牡蠣殻を酢と混ぜることで、炭酸カルシウムが化学反応し、作物の吸収力がいい「酢酸カルシウム」が発生するので、これの有効活用がなされています。
作り方、使い方は簡単で、貝殻(卵の殻やカニガラでもOK)を食酢に入れて1日置き(2Lの酢に20個程度の殻)、その酢を40〜50倍ほどに水で希釈して、作物の根元に2週間に1度のペースで撒くだけです。
酢酸カルシウムを散布すると、作物が丈夫に育ちやすくなり、さらに食味、糖度が増すとして愛用している農家の方も多くいらっしゃいます。
貝殻を酢につける注意点としては、貝の種類によっては溶けにくいものがあるということです。牡蠣殻は溶けやすいですが、基本的にホタテ貝のような二枚貝は溶けにくい傾向があります。通常は1ヶ月ほど経つと溶け始めますが、溶けない場合は、貝を焼いてから細かく砕いて酢に入れる、またクエン酸粉末を貝にまぶして酢に入れる、といった工夫をすると良いでしょう。
貝殻肥料の成分
主成分
貝殻の主成分は「炭酸カルシウム」になります。
カルシウムは植物にとって重要な多量要素(二次要素)の一つです。カルシウム成分は栽培において、以下の働きがあります。
- ペクチンという多糖類と結合し、細胞膜を丈夫にして病害虫に対する抵抗力をつける働き
- 根の生育を促進する働き
- 植物体内でできる過剰な老廃物(有機酸)を中和する働き
- 用土の土壌酸度(pH)の調整剤としての働き
カルシウム肥料というと、消石灰(水酸化カルシウム)や生石灰(酸化カルシウム)、苦土石灰が有名ですね!
カルシウムが不足(欠乏)すると、生長の盛んな新芽や苗、根の生育が悪くなります。(葉や茎が黄色くなったり、枯れたりします)カルシウムは植物体内での移動がほとんどありませんので、新芽に症状があらわれやすいのが特徴です。カルシウムについて詳しくは下記を参考にしてみてください。
その他の要素
植物の生育には、チッソ(窒素)、リン酸(燐酸)、カリ(加里)、カルシウム、マグネシウム、硫黄といった多量要素が欠かせません。貝殻肥料には、カルシウムのほか、チッソ、リンサン、カリ、ケイ酸、また鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデンといった微量要素も含んでいます。
また、貝の種類によって様々な成分が含まれています。例えばホタテ貝は貝の分泌したコンキオリン酸、ホタテ貝殻の内側に含まれるキチン質、表面に付着したラミナリン質があり、チッソの吸収をよくしたり、土中の放線菌等の有効微生物の働きを活発にする働きがあります。
その他の有機肥料も気になる方は、下の記事も参考にしてください。
おすすめの貝殻肥料
肥料を選ぶ際のポイントは、容量、形状、他の成分が配合されているか等です。用途に応じて選ぶことになりますが、他の成分が配合されていないシンプルな製品の方が安価です。有機JAS適合品、ペレット、液体(液肥タイプ)などもありますが、ここでは実績のあるおすすめの商品をご紹介します。
サンカルシウム
北海道噴火湾産の焼成ホタテ貝殻石灰で、貝殻を焼成して土に溶けやすく、作物に吸収されやすく加工した製品です。有機石灰なので土が固くならず、弱アルカリ性ですので急激なPHの変動もないので土にやさしい。
また、ホタテ貝殻の中には良質なたんぱく質、貝の分泌したコンキオリン酸、貝殻の内側に含まれるキチン質、表面に付着したラミナリン質が含まれています。これらは窒素の吸収を良くしたり、土壌中の有効微生物の働きを活発にします。
ホタテで元気
「ホタテで元気」は、厳選したむつ湾産ホタテ貝殻を粉砕した、特殊肥料です。カルシウムを豊富に含んでおりますので、 酸性土壌の改良、カルシウムが不足した土壌に最適です。脱塩・乾燥もしてあります。
貝殻肥料を購入するには
ホームセンターなど店舗で購入する
上記で紹介した肥料は、カインズ、コメリなどのホームセンターのガーデニング・資材コーナーで販売されています。また、ダイソーなどの100円均一でも販売されていることがありますが、取り扱いのない店舗も多いようなので注意が必要です。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。
まとめ
他の有機石灰肥料の卵の殻や牡蠣殻と並んで人気の肥料です。種まきをする前に鉢の用土に混ぜ込んでみましょう。
速効性はないので、元肥(定植、植え付け前の施肥)にうまく活用する、またぼかし肥料として使う、また酢と混ぜて酢酸カルシウムにして使うなど、色んな方法があります。是非、土作りに活かしてください。本記事が農ある暮らしの一助となれば幸いです。
この他、海にまつわる有機肥料は下記のようなものもあります。参考にしてみてください。