リン酸は、肥料の三要素の一つで、開花・結実を促進したり、根の伸長、発芽や花芽のつきをよくする働きがあります。この記事では、植物生長の基本となるリン酸について、基本情報とおすすめ商品を詳しく紹介します。
リン酸とは
リン酸(P)は、肥料の三要素の一つで植物の遺伝情報の伝達やタンパク質の合成などを担う核酸の重要な構成成分となります。施肥を考える上では、「実肥」と呼ばれ、開花・結実を促すためにリン酸が必要となります。また、植物全体の生育や分げつ、枝分かれ、根の伸長など様々な要素に関わっています。
リン酸肥料の種類
リン酸肥料の種類を分ける場合、いくつかの切り口があります。一番基本となるのは、肥料取締法による分類です(出典:15 肥料取締法について – 農林水産省)。
肥料取締法では、リン酸質肥料は下記のように分類されています。
中でも、熔成燐肥(ようりん)、過燐酸石灰(過石)、重過燐酸石灰(重過石)、重焼リンは単肥としてよく利用されます。下記に、それぞれの肥効のタイプや特性を示します。
肥料 | N | P | K | 肥効のタイプ | 特性 |
---|---|---|---|---|---|
熔成燐肥 (熔成リン肥) | – | 17%〜25% | – | 緩効性 | アルカリ性資材。く溶性リン酸。マグネシウム(苦土)を含んでいる。リン鉱石や蛇紋岩などが原料。 |
過燐酸石灰 (過リン酸石灰) | – | 16%〜20% | – | 速効性 | 酸性資材。可溶性リン酸が15%以上。 |
重過燐酸石灰 (重過リン酸石灰) | – | 42%〜43% | – | 速効性 | 酸性資材。過リン酸石灰よりもリン酸成分が高い。 |
重焼リン | – | 35% | – | 速効性+緩効性 | 水溶性リン酸が16%。く溶性リン酸も含まれているので長く効く。 |
その他にもリン酸カルシウムやリン酸カリウム、亜リン酸が含まれているものなどもあります。下記の記事に詳細を解説していますので、参考にしてください。
リン酸肥料のおすすめ商品
リン酸肥料の選び方
リン酸系の肥料と言ってもその特徴や使い方は様々です。下の基準に従って、どのような肥料を購入・使用するかを絞り込んでいくとよいでしょう。最後は必ず、購入・使用する予定の肥料のラベルや資料などをよく読み、自分が使いたい方法と合っているか確認しましょう。
- 元肥として使用するのか、追肥として使用するのか。
元肥として使用する場合は「遅効性」「緩効性」の肥料、追肥として使用する場合は「緩効性」「速効性」の肥料がおすすめです。 - 土作りで酸度(pH)調整を行いたいか。
アルカリ性によせたい場合には、土作りに熔成燐肥(熔成リン肥)を使用すると有効です。 - 窒素肥料のみを投与したいという限定的な目的や独自での施肥設計ができる技量はあるか。
土壌診断を行い、独自(もしくはJAや肥料メーカーなど)で施肥設計ができる方であれば単肥のほうがコストを安く抑えられるので良いでしょう。 - 有機肥料のみを使いたいというこだわりはあるか。
有機肥料のみを使うということであれば、リン酸成分が含まれている発酵鶏糞、骨粉、米ぬか、バットグアノを使用しましょう。
リン酸の単肥
中でも、熔成燐肥(ようりん)、過燐酸石灰(過石)、重過燐酸石灰(重過石)、重焼リンは単肥としてよく利用されます。下記に、それぞれの肥効のタイプや特性を示します。
肥料 | N | P | K | 肥効のタイプ | 特性 |
---|---|---|---|---|---|
熔成燐肥 (熔成リン肥) | – | 17%〜25% | – | 緩効性 | アルカリ性資材。く溶性リン酸。マグネシウム(苦土)を含んでいる。リン鉱石や蛇紋岩などが原料。 |
過燐酸石灰 (過リン酸石灰) | – | 16%〜20% | – | 速効性 | 酸性資材。可溶性リン酸が15%以上。 |
重過燐酸石灰 (重過リン酸石灰) | – | 42%〜43% | – | 速効性 | 酸性資材。過リン酸石灰よりもリン酸成分が高い。 |
重焼リン | – | 35% | – | 速効性+緩効性 | 水溶性リン酸が16%。く溶性リン酸も含まれているので長く効く。 |
リン酸を含んだ複合肥料
リン酸カリウムやリン酸カルシウム、亜リン酸、ポリリン酸などリン酸肥料には様々な成分、配合の違いがあることがわかります。これらは含まれている成分や配合によって特性大きく違うため、使用するときには注意が必要です。簡単に特徴をまとめましたので、参考にしてください。
名称 | 特徴 |
---|---|
リン酸カリウム | リン酸とカリウムが配合されている肥料。各成分はその肥料によって、く溶性と水溶性、可溶性のものがあるので、含まれている成分をよく確認する必要がある。 |
リン酸カルシウム | リン酸とカルシウムが配合されている肥料。過リン酸石灰や重過リン酸石灰肥料などに含まれている。 |
亜リン酸 | 亜リン酸を主成分とした肥料。普通のリン酸より分子が小さく、水や有機酸に溶けやすい。植物体内での転流も早い。 |
ポリリン酸 | ポリリン酸を主成分とした肥料。酸度(pH)による吸収効率悪化の影響を受けにくい。カルシウムなどと結合しても水溶性を保つため、他の成分の吸収も促進される。 |
中でも近年では、亜リン酸肥料が注目を浴びています。
亜リン酸肥料は、一般的なリン酸肥料とは異なります。
リン酸肥料には、過リン酸石灰(過石)、重過リン酸石灰(重過石)、熔成リン肥(ようりん)、重焼リン、燐安などがありますが、これらはすべて「正リン酸塩」が含まれています。正リン酸塩は、化学式で「H3PO4」と表されます。
一方、亜リン酸は正リン酸に比べて酸素が一つ少ない「H3PO3」と表されます。この差異は、大きな違いを生みます。亜リン酸は、正リン酸と比較して主に下記の違いがあります。
- 溶解性が高い
- 作物体内での移行性(移動のしやすさ)が高い
- 土壌に吸着されにくい
亜リン酸はリン酸質肥料の中でも即効性の高い肥料と言えるでしょう。
また、亜リン酸肥料は病害発生の予防にもつながると言われています。
これらのことから、亜リン酸肥料は注目されています。
果菜類や果樹類、草花、鉢花、花木用の肥料
リン酸の多い肥料は、主に果菜類や果樹類、草花、鉢花、花木用に作られた商品が多いです。
住友化学園芸の「花工場」もリン酸が他の成分に比べて多く配合されています。また、ハイポネックスジャパンの「ハイポネックス 専用液肥 開花促進」は窒素が含まれておらずリン酸が多量に含まれているので、花器類やラン類の花芽形成期やキクなどの止め肥の時期などに使用できます。
その他にも果菜類用や果樹類用の肥料などはリン酸が多く含まれていることが多いので、探してみると良いでしょう。
リン酸を多く含んだ有機質肥料(有機肥料)
リン酸が多く含まれている有機肥料もリン酸系の肥料と言えるでしょう。骨粉やバットグアノ、鶏糞はリン酸が多く含まれている有機肥料です。
但し、鶏糞を使用する場合には、注意が必要です。
100均(100円ショップ)で購入できる商品
100均では、リン酸の単肥などは購入できませんが、リン酸が比較的多く含まれた鉢花・観葉植物の肥料や化成肥料、鶏糞ペレットなどの有機肥料を手に入れることができます。
リン酸肥料を購入できる場所
家庭菜園等で使用する肥料は、ホームセンター、100均、インターネットなどで購入可能です。肥料を購入できる主な場所・方法は以下のとおりです。プロ農家の方は、JAや資材店等に相談すると良いでしょう。
(参考)リン酸の主な効果
先述したとおり、リン酸は植物にとって重要な三要素(三大栄養素)の一つです。リン酸が不足(欠乏)すると、花数が減少し開花・結実が悪くなったり、成熟が遅れてきます。肥料のラベルなどには化学式や元素記号で「P」と表される事が多いです。
リン酸は「実肥」と呼ばれ、その名の通り、開花・結実を促進したり、発芽や花芽の付きをよくする働きがあります。リン酸は、植物体内で以下のような働きを担っています。
- 遺伝子の元になるDNA(核酸)の重要な構成成分としての働き。
- 生物の細胞膜の構成成分としての働き。
- 糖類と結合して生物体内でのエネルギーのやりとり(呼吸作用)。
植物では開花・結実を促進したり、根の伸長、発芽や花芽のつきをよくする働きがあります。 果実の成熟や品質の向上にも役立ちます。通常、植物を栽培する場合は必ず肥料として必要になる「三要素」のひとつです。
リン酸過剰は、通常の栽培では起きにくいことですが、極端に過剰な状態が続くと生育不良となります。特に、亜鉛、鉄、マグネシウムなどの微量要素の欠乏症状を引き起こします。
また、リン酸は土壌の酸度(pH)が7.0以上のアルカリ性になってくると石灰(カルシウム)と結合して吸収されにくくなります。土壌酸度(pH)が5.5〜6.5のとき最もリン酸が溶出されます。地温(土壌の温度)によっても作物の吸収効率が大きく変化し、地温20℃から10℃になると吸収効率が1/10程度になります。
土壌を適正な環境に整え、適量を必要なときに与え続けることが重要となります。