ジャガイモは、別名「馬鈴薯(バレイショ)」と呼ばれ、比較的農作業の負担が少なく簡単に育てることができるため人気の栽培作物です。英名ではPotatoと呼ばれ、食用として世界中で栽培されています。
ジャガイモは、「連作障害が出やすい」作物であると紹介されることが多いと思います。この記事では、そもそも連作障害とは何か、ジャガイモの連作障害はどのようなものか詳しく解説します。
ジャガイモ栽培の流れや土作りの方法、管理作業(手入れ作業)、栽培方法の違いなどについては、下記の記事を参考にしてください。
連作障害とは
連作障害の概要
連作障害とは、同じ圃場(区画)で、同じ作物(同じ科の植物)を繰り返し栽培することで、生育不良が起きやすくなり、収量や品質が悪くなることを指します。1950年代頃までは「いや地(忌地・いやち)」と呼ばれる事が多く、連作障害という言葉はあまり使われてきませんでしたが、近年においては農家だけではなく家庭菜園愛好者にも広く知られる言葉になったと思います(※)。
長年に渡って、その圃場で安定した野菜栽培をするためには、連作障害をいかに抑止できるかが重要となってきます。
※植物由来の毒素によって、連作障害が起きる圃場をいや地(忌地・いやち)と呼ぶこともあります。
連作障害の主な原因
連作障害の根本的な原因は、大きく以下の3つにあります。
- 植物由来の毒素による生育阻害、発芽抑制など
- 土壌中の成分バランスの悪化(理化学性の悪化による生理障害、物理性の悪化、生物性の(微生物)の偏りなど)
- 土壌病原菌・土壌害虫(センチュウ類など)
- その他(塩類集積など)
現在では、接ぎ木苗や耐病性のある品種開発など栽培方法の進歩、土壌改良技術(土壌診断・施肥設計)の確立などによって、原因1、原因2による発生は少なくなりました。
現在、一般的な連作障害の多くは、上記のように同じ作物を同じ圃場で作り続けた結果、土壌中の微生物(土壌微生物)の多様性が崩れ、土壌病原菌が増殖する(原因3)によって引き起こされることが多いです。
植物由来の毒素による生育阻害、発芽抑制
植物は、他の植物の生長を抑止するために根や葉から物質(毒素)を出すものもあります。基本的に、自分自身ではその毒素にやられないようにできていますが、土壌中で濃度が高まると、自分に対しても害が及び、生育が悪くなってしまいます。
これが、植物由来の毒素による生育阻害、発芽抑制による連作障害です。しかし、近年では植物由来の毒素が連作障害の主原因ではないという考え方が一般的です。
土壌中の成分バランスの悪化(理化学性の悪化による生理障害)
作物は、種類によって吸収しやすい、しにくい栄養素が異なります。そのような中で同じ場所で、同じ野菜を育て続けると、土壌中の栄養素に偏りが生じてしまいます。特定の栄養素だけが土壌中に多く残留したり、不足したりします。土壌中の栄養素のバランスが悪くなることで、土壌酸度に変化が生じたり、土壌中の微生物のバランスにまで影響を及ぼしたりします。
土壌中の成分バランスが悪化することで、作物が育ちづらい土壌環境となってしまい、最終的には生育不良(連作障害)が起こります。しかし、近年では土壌改良資材(有機質肥料や化学肥料など)によって、土壌中の栄養バランスを整えることが当たり前となっているため、成分バランスの悪化が連作障害を招くことは少なくなってきています。
土壌病原菌・土壌害虫(センチュウ類など)
近年、連作障害の主な原因として挙げられるのは「土壌病原菌・土壌害虫」によるものです。
通常、栽培中は作物の根の周囲1〜2ミリ(根圏)には大量の微生物が存在し、活発に活動しています。それらの微生物のおかげで、土壌中に潜む病原菌が植物体内に侵入できず、病害にかからないで栽培をすることができるのです。
栽培が終わると、作物を根から地上部まですべて処理すると思いますが、このときにどうしても根が土壌中に残ってしまいます(残根)。そうすると、土壌中に潜んでいた病原菌が残根上で生き残り続けます。
その状況で、また新しく栽培を始めようと同じ作物を植えると、残根上で生き残った病原菌が植えられた作物の新しい根に攻撃をしかけるようになります。連作を行うと、このサイクルが繰り返されることになります。
連作が何回も繰り返されると、特定の病原菌によって土壌中が支配され、作物が病害にかかりやすくなります。特に野菜の場合、収穫から次の作付けまでの期間が短く、連作に伴う病原菌やセンチュウの集積は加速されることになります。
近年、連作障害の主原因は、この土壌病原菌・土壌害虫によるものです。防ぐための一番の方策は、輪作をすることです。輪作をすることで、土壌の多様性が維持され、連作障害が出にくくなります。
家庭菜園者からよく言われるのは「うちは、同じ庭で同じ作物を何度も育てていても連作障害が出たことがない。家庭菜園だと連作障害が出ないのでは?」ということです。
答えとしては、「出るときも出ないときもある」ということです。連作障害は、表面的な条件が揃っても、必ず発現するものでもありません。また、家庭菜園であれば作物の植える株数が少なかったりするので、出にくいということもあるでしょう。
しかし、連作障害が気になるようであれば輪作をするのがおすすめです。
まずはおさらい!ジャガイモの基本情報
作物名 | 科目 | 原産地 | 育てやすさ | 種芋の価格(円/kg) | 収穫までの日(目安) | 栽培できる地域 | 作型 | 栽培方法 | 土壌酸度(pH) | 連作障害 | 萌芽適温 | 生育適温 | 日当たり | 光飽和点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ジャガイモ | ナス科 | 南アメリカ | ★★★★★ | 300円〜1,000円程度 | 出芽後、80日〜100日 | 全国 | 春植え栽培 秋植え栽培 | 露地栽培 プランター・鉢植え栽培 | 5.0〜6.5 | あり(1〜2年) | 15〜20℃ | 15〜20℃ | 日なた | 25〜30klx |
原産地は南アメリカのアンデス山脈でデンプンが多く蓄えられる地下茎が芋の一種として食用されます。食用のジャガイモは、実は根が肥大化したものではなく、茎が肥大化したものです(塊茎と呼びます)。日本では北海道などの大産地で機械化された栽培手法も確立されているだけではなく、栽培の手間がかからないことから家庭菜園や市民農園でも栽培される人気の作物です。
作型は、各地域によって異なりますが、主に春作(春植え)と秋作(秋植え)が一般的です。また、プランターや培養土(用土)の袋で育てる袋栽培などでも育てることが可能です。
ジャガイモの連作について
連作障害は起こるのか?
ジャガイモは、連作障害が起こりやすい作物です。同じナス科の作物を、前後に栽培しても連作となりますので注意しましょう。
ジャガイモの輪作年限(畑を空ける年数)は、1〜2年です。あくまで目安ですが、3年に1作程度の輪作が望ましいと考えられます。
連作障害が起こるとどうなるのか?
ジャガイモの連作障害の症状は、様々なものがありますが、ここではいくつか例をご紹介します。
そうか病
連作障害として起こりやすい病害の一つとして、そうか病があります。そうか病は、ストレプトマイセス属菌という細菌が原因となって、ジャガイモの表皮にかさぶたのようなものができたり、陥没ができたりします。
もちろん、その部分を切り取れば食べることができますし、食味に影響はほとんどありません。しかし、販売するときに表皮が汚いということで市場価値が下がってしまいます。農家にとっては、とても深刻な病害となります。
そうか病は、土壌酸度(pH)が5.2以上、地温が20℃以上で乾燥すると発生しやすくなると言われております。ジャガイモを始めとするナス科の作物を連作をすることによって、土壌酸度が高くなることがそうか病の原因の一つです。
また、粉状そうか病というものもあり、そうか病とは発生条件が異なるものの、連作によって障害が起こりやすい環境になり得ます。
青枯病
ジャガイモの青枯病も、連作障害の一つと考えることができます。青枯病は、青枯病菌という細菌が原因となって、酷い萎れを引き起こし、やがて葉全体が褐色〜黄褐色になって枯死を引き起こします。最初は、1本〜数本の株から症状が発生し始めます。
青枯病も、土壌環境が原因で引き起こされることが多いです。連作をすることで、土壌中の病原菌が堆積し、発病しやすい環境となり得ます。昔は、罹病した種イモを使うことによって病害が発生することが多かったですが、現在ではウイルスフリーの種イモを購入して栽培することが主流となっているため、種イモが原因となることは少ないと考えられます。
その他、欠乏症による生育不良
その他、栄養バランスが崩れることにより、塊茎(イモ)が小さくなったり、葉が黄色く枯れてしまうなどの生育不良を起こすことがあります。
ジャガイモの連作障害の原因
ジャガイモの連作障害の原因の例を、以下に簡単にまとめます。
- ジャガイモを連作することによって土壌内の栄養バランスが崩れる
- ジャガイモ、ナス科の作物を好む特定の病原菌が堆積しやすくなる
- 土壌酸度(pH)がアルカリ性に傾き、そうか病などの病害が発病しやすくなる
- 土壌の物理性(排水性など)の悪化によって、種イモが腐敗したり病原菌が繁殖しやすくなる
ジャガイモの連作障害の対策
ジャガイモの連作障害の対策は、いくつかあります。
輪作をする、もしくは圃場を空ける
やはり一番の連作障害の対策は、輪作をすることです。輪作年限を目安に、一定期間、同じ科の野菜を育てずに他の科の野菜を栽培すると良いでしょう。ジャガイモの輪作年限は、1〜2年と言われていますので、春にジャガイモを育てたら、次の秋からは異なる科の作物を2年以上栽培すると連作障害が起こりにくくなるでしょう。
大規模に生産している農家も輪作を行っています。例えば、北海道の場合は、ジャガイモのほかに小麦(コムギ)、小豆(アズキ)、甜菜(テンサイ)、スイートコーン(トウモロコシ)、インゲンなどをうまく組み合わせて輪作を行っています。
土壌消毒をする
作物の収穫が終わって、次の作付けをする前に土壌消毒することも有効な対策です。小規模〜中規模の圃場では、費用対効果が高く、安定して連作障害を抑えることができます。
土壌消毒には、いくつか方法があります。化学的防除の観点では、農薬(土壌消毒剤・土壌処理剤)を使用して病原菌などを減らす方法があります。農薬の使用が難しい場合は、自然の力を利用することもおすすめです。酷暑期の太陽熱を利用する「太陽熱土壌消毒」や厳寒期に天地返しをして土壌を寒気に当てる「寒起こし」など様々な方法があります。
検査済みの種イモを使用する
ジャガイモの栽培では、種イモを植え付けるのが基本ですが、このとき前作で収穫したジャガイモを種イモとして使用する場合があります。しかし、そのような種イモの中にはウイルスや細菌が付着している可能性があります。連作障害の原因となるので、使用しないほうが良いでしょう。
市販されている種イモは、法律に基づき検査を受けたものですので、ウイルスや細菌による病害の感染リスクが非常に低いものとなっています(ウイルスフリーなどと言われたりします)。農家も、ウイルスフリーの種イモを使用するのが一般的です。
土壌の栄養バランス、土壌酸度(pH)を整える
土壌の栄養分や土壌酸度(pH)を整えるのもの重要な土壌改良です。ジャガイモを連作していると、特定の養素のみが土壌に蓄積したり、欠乏したりします。有機質肥料や化学肥料で土壌中の栄養分のバランスを整えてあげることが重要です。作付けの前に土壌診断、及び施肥設計(処方箋)を作り、植え付け前に土壌改良を実施しましょう。
また、ジャガイモは土壌酸度が高い(アルカリ性寄り)と、そうか病が発病しやすくなることが知られています。土壌酸度にも気を配って、土壌改良を進めましょう。他の作物の場合、苦土石灰などの石灰質肥料を散布することが多いですが、ジャガイモの場合はほとんど散布しなくて良いでしょう。
土壌の生物性・物理性を改善する
先述したとおり、連作障害を防ぐためには土壌中の微生物の多様性も重要となってきます。そのためには、トリコデルマ(善玉菌)などの土壌改良資材や有機質資材(米ぬかや堆肥など)を施用して、土壌の微生物を多様化させましょう。
有機質資材は、土壌の物理性(排水性など)を向上する効果があるものもあるので、有機質資材をうまく組み合わせて土作りをすることが、長く安定して栽培を続けるコツだと考えます。