ジャガイモは、別名「馬鈴薯(バレイショ)」と呼ばれ、比較的農作業の負担が少なく簡単に育てることができるため人気の栽培作物です。英名ではPotatoと呼ばれ、食用として世界中で栽培されています。
家庭菜園やベランダでの袋栽培、プランター栽培でジャガイモの栽培を始めた方もいると思いますが、その肥料のやり方で問題ありませんか?実は、ジャガイモには他の野菜とは異なる特性があるため、よく市販されている野菜用の肥料をそのまま使うよりも、ジャガイモ用に施肥を考えたほうがイモ付き、イモの肥大が良くなったりします。
この記事では、ジャガイモの肥料について、ジャガイモの養分吸収特性とおすすめ商品、肥料のやり方について解説します。
ジャガイモの基礎知識、養分吸収特性について
ジャガイモの基礎知識


原産地は南アメリカのアンデス山脈でデンプンが多く蓄えられる地下茎が芋の一種として食用されます。食用のジャガイモは、実は根が肥大化したものではなく、茎が肥大化したものです(塊茎と呼びます)。日本では北海道などの大産地で機械化された栽培手法も確立されているだけではなく、栽培の手間がかからないことから家庭菜園や市民農園でも栽培される人気の作物です。
作型は、各地域によって異なりますが、主に春作(春植え)と秋作(秋植え)が一般的です。また、プランターや培養土(用土)の袋で育てる袋栽培などでも育てることが可能です。
ジャガイモの植物としての大きな特徴として、土壌酸度(pH)は酸性を好み、塊茎が肥大化したものをイモとして収穫することにあります。ジャガイモにも、キタアカリやメークインなど品種がたくさんありますが、基本的な考え方は同じです。
ジャガイモの養分吸収特性について
ジャガイモの養分吸収特性について、解説します。養分吸収特性とは、土壌にある栄養分を植物がどのように吸収していくのかを表した特性です。
少し古い資料となりますが、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が発表した「わが国の農作物の養分収支(PDF)」によると、ジャガイモは以下のように養分吸収されることがわかります。
※小数点を丸めているので、多少誤差があります。
上記から、窒素、カリウムの吸収量が高いことがわかります。窒素もカリウムも、茎葉の生長、塊茎の形成・肥大に大きく影響する要素です。リン酸は、特に成長初期に根や塊茎を定着させ、塊茎の肥大に貢献します。
実際の圃場では、収穫後の残渣(枯れた茎葉など)をそのまま残してすき込んでしまうため、窒素・カリウムの施用必要量は更に少なくなります。ジャガイモの生育に必要な養分のうち、肥料から供給されるものは、窒素とカリウムで50〜70%前後、リン酸で100%とされています(参考:「肥料施用学」- BSI生物化学研究所)。リン酸は、肥料からの養分吸収がほとんどであると考えられるため、しっかりと施す必要があるということになります。
つまり、窒素ほどほど、リン酸、カリウム多めがジャガイモの養分吸収特性に合わせた施肥の考え方となります。また、この他にもカルシウム、マグネシウム(多量要素、二次要素)、ホウ素・銅・マンガン・亜鉛(微量要素)も必要となってきます。必要に応じて、これらの資材の投入も検討しましょう。
基本的に石灰の施用は極力避けましょう。ジャガイモそうか病は弱酸性からアルカリ性(pH6.5以上)の土壌で多発するため、石灰(カルシウム)の施用は注意しましょう。土壌酸度計を用いて、土壌の酸度(pH)を把握することが重要です。土壌酸度が5.0以下の場合は、畝の長さ1m当たりに50g〜100g程度、苦土石灰を与えると良いでしょう。
ここで注意したいのが、「ジャガイモにカルシウムが不要ということではない」ことです。ジャガイモ栽培にもカルシウムは必要ですし、施用することでジャガイモの表面を綺麗にしたり品質を改善することができます。土壌酸度が高い場合でも、カルシウムを施用したい場合には、硫酸カルシウムなど中性に近い性質を持ったカルシウムを散布すると良いでしょう。
ジャガイモ栽培に適した肥料とは
そもそも、ジャガイモ栽培に適した肥料とはどのようなものなのでしょうか。他の肥料との違いなどについて解説します。
ジャガイモ栽培に使われる主な肥料
ジャガイモ栽培に使用される主な肥料としては、以下のものがあります。
ジャガイモは、栄養生長期から塊茎肥大期にかけて養分を必要としますので、元肥と追肥を施すことが一般的です。
元肥には、堆肥や有機質肥料をベースに、緩効性の化成肥料を散布して、土作りをします。必要であれば、微量要素肥料や石灰質肥料を散布します。ジャガイモは、土壌酸度がアルカリ性に寄ると、ジャガイモそうか病にかかりやすくなるため、注意しましょう。土壌酸度が気になる方は、中性に近いカルシウム資材(硫酸カルシウム)がおすすめです。
窒素とカリウムは、塊茎肥大期でも多く吸収されるので、追肥でしっかりと補うと大きい塊茎(イモ)がたくさん収穫できます(主に家庭菜園の場合)。主に化成肥料や有機質肥料(油かすなど)を散布すると良いでしょう。散布と同時に中耕・土寄せも行います。
ジャガイモ専用肥料とは?ジャガイモ専用肥料と他の肥料との違い
市販されている肥料の中には、「ジャガイモ肥料」や「ばれいしょ専用肥料」、「イモ類専用肥料」、「イモ・豆類専用肥料」として販売されているものもあります。それらの肥料は、他の肥料と何が違うのかを解説します。
ジャガイモ専用肥料と他の肥料との違いは、主に下記の2点です。
- ジャガイモ専用肥料は、苦土(マグネシウム)が一緒に含まれていることが多い
- ジャガイモ専用肥料は他の肥料と比べて、リン酸・カリウム成分の含有量(保証成分量)が多く含まれている(※ただし肥料によってはバランス良く含まれているものもある)
実際に、ジャガイモ専用肥料と他の普通化成肥料の商品のラベル(保証成分表)を見比べて見ると違いが歴然です。画像の通り、普通化成肥料はN-P-K=8-8-8など三大要素がバランス良く含まれているものが多いですが、ジャガイモ専用肥料はN-P-K=7-10-8などリン酸やカリウムが多めに含まれています。また、苦土も2%程度含まれていることが多いです。


なぜジャガイモ専用肥料が良いのか
ジャガイモ専用肥料に含まれている成分と養分吸収特性を見比べながら考えてみましょう。先述したとおり、ジャガイモ専用肥料は、リン酸、カリウム、マグネシウムが多く含まれています
リン酸は成長初期に根や塊茎を定着させ、後半では塊茎の肥大に貢献します。しかし、リン酸は肥料から吸収されることがほとんどであるため、しっかりと施す必要があります。
カリウムは、塊根(イモ)の肥大に寄与しますので、多めに施肥することが必要です。イモの肥大が進むということは、重量が重くなるということですので、結果的に多収となります。
また、マグネシウム(苦土)が欠乏すると茎葉に影響が出て、結果的に減収となります。そのため、マグネシウムなどの多量要素も補う必要があります。特に、土壌酸度が著しく低い(強酸性)の圃場や連作圃場では土壌酸度の調整とともにマグネシウム(苦土)の施肥が重要となります。
ジャガイモの養分吸収特性を踏まえると、ジャガイモ専用肥料がジャガイモ栽培に適した肥料成分となっていることがわかると思います。
ジャガイモ栽培に鶏ふんは使えるか
「ジャガイモに鶏糞(鶏ふん)は使えるのか?」といった質問をいただいたことがあります。結論から話すと、使うことはできます。鶏ふんは、牛糞(牛ふん)や豚糞(豚ぷん)などのように土作りとして使われるというよりは、有機質肥料と同じように取り扱われることが多いです。
肥料 | N (窒素) | P (リン酸) | K (カリウム) | 肥効のタイプ |
---|---|---|---|---|
油かす(油粕) | 多 | 少 | 少 | 緩効性 |
魚かす(魚粕) | 多 | 中 | 少 | 緩効性・遅効性 (但し窒素分は速効性が高い) |
発酵鶏糞 | 中 | 多 | 中 | 速効性 |
骨粉 | 中 | 多 | – | 緩効性 |
米ぬか(米糠) | 少 | 多 | 中 | 遅効性 |
バットグアノ | 少 | 多 | 少 | 緩効性 |
草木灰 | – | 少 | 多 | 速効性 |
農チューバーで有名な塚原農園さんもジャガイモ栽培の土作りに発酵鶏糞を使用されています。
ただし、注意も必要です。発酵鶏糞は、他の堆肥に比べて土壌酸度(pH)が上昇しやすいため、ジャガイモそうか病の発生が多くなる可能性があります。特に毎年施用をしていると土壌酸度(pH)が高くなりがちなので、土壌の状態をみて判断をしてください(堆肥を活用したバレイショの減化学肥料栽培)。
ジャガイモ栽培におすすめ、ジャガイモ専用肥料
ジャガイモ栽培におすすめのジャガイモ専用肥料について、おすすめを紹介します。
アミノール 有機配合ジャガイモ専用肥料
アミノール化学研究所のサツマイモ専用肥料は、園芸用のジャガイモ専用肥料で最も一般的な商品です。馬鈴薯(ジャガイモ)栽培の決め手となる草木灰(天然カリ)を主成分に、有機質の緩効性チッソ、濃縮天然リン酸等が豊富に配合されています。また、微量要素である苦土(マグネシウム)も含まれています。
ジャガイモの養分吸収特性を考えた他に類のないジャガイモ専用肥料で、ツルボケを防ぎ、玉太りの良い美味しいジャガイモ作りに最高の肥料です。
じゃがいも専用肥料 ばれいしょ肥料 9-8-8-2
セントラルグリーンのばれいしょ肥料は、三大要素をバランス良く含んでいる商品です。グルタミン酸などのアミノ酸を豊富に含んでいるため、根域の土壌環境の改善にも役立ちます。また、カリウム(カリ)の原料が硫酸加里(硫酸カリ)であり、高収量を期待できることも魅力です。
粒状となっているため、ブロードキャスターなど機械での散布も可能です。
花ごころ ゴロゴロとれる ジャガイモの肥料
花ごころのジャガイモの肥料は、三大要素をバランス良く配合した肥料です。有機質に含まれるタンパク質アミノ酸、微量要素の効果で生長を助けます。まきやすい粒状であることも魅力です。
大和 いも専用肥料
窒素分を抑えた、イモ類専用肥料です。土にやさしい有機質肥料と肥料効果の高い化成肥料を配合してますので家庭菜園の初心者にも最適です。元肥、追肥の両方で使えます。
同様に窒素肥料をあまり必要としないマメ類にも使用することができます。メロン・スイカなどツル性のフルーツ・野菜にも使用でき、多収穫につながる肥料です。
プロ農家は大量に購入できる業務用を
プロ農家は、圃場も大きく大量の肥料を使用すると思います。上記で紹介した肥料は主に園芸用となっているため、大量に使用する場合にはJAやメーカーから大袋の肥料を購入すると良いでしょう。
ジャガイモ栽培の肥料は、先述している通り、リン酸成分、カリウム成分多めとなっているので、配合割合を確認して購入すると良いでしょう。また、ご自身で高度化成肥料とPK化成肥料(リン・カリ肥料)を組み合わせて、施肥をすることも可能です。
ジャガイモの肥料のやり方
ジャガイモの肥料のやり方について、解説します。土作り、植え付けから収穫までのジャガイモ栽培の流れについては、下記の記事で紹介していますので合わせてご覧ください。
元肥のやり方
植え付け前の土作りのときに施肥をします。土壌に肥料を散布して、しっかりと耕しましょう。
特に土壌酸度(pH)に気をつけながら、肥料を選択、散布すると良いでしょう。先述した、ジャガイモ専用肥料を使用すると、失敗するリスクが減ります。堆肥や化成肥料を元肥として、使用しても良いでしょう。
また、石灰質肥料の施肥には十分に気をつけましょう。土壌酸度(pH)がアルカリ性に寄ると、ジャガイモそうか病のリスクが高まります。土壌酸度が低すぎる(強酸性)、カルシウムが不足している場合を除いて、極力施さないほうが無難です。
土作りは、土壌に栄養分を与えるだけではなく、水はけ(排水性)を高めたり、微生物の環境を整えたりする効果もあります。ジャガイモがすくすくと生長し、病害虫にやられづらくする土壌環境を整えることも重要です。
施肥量は、使用する肥料のラベルの記載を確認してください。
追肥のやり方
追肥は、中耕・土寄せのタイミングで実施します。基本的には、化成肥料や有機質肥料(油かすなど)を軽く散布する程度です。ロングタイプ(緩効性肥料の中でも長く効く)の肥料の場合は、収穫まで無施肥でも問題は出ないと思います。ただし、塊根肥大期にPK肥料などを施したりしても良いでしょう。
施肥量は、使用する肥料のラベルの記載を確認してください。
気をつけるポイント
ジャガイモの肥料のやり方について、気をつけるポイントをまとめましたので、参考にしながら施肥をしてください。
- 石灰質肥料はむやみに施肥しない
- 塊根(イモ)を大きくしたい場合は、カリウム成分が多めの肥料を使用する
- ジャガイモ専用肥料はあらかじめ、リン酸成分、カリウム成分が多めに配合されているものが多いので栽培初心者にはおすすめ