ジャガイモは、別名「馬鈴薯(バレイショ)」と呼ばれ、比較的農作業の負担が少なく簡単に育てることができるため人気の栽培作物です。英名ではPotatoと呼ばれ、食用として世界中で栽培されています。
ジャガイモの栽培時期は、主に春に植え付けする「春作(春植え)」と秋に植え付けする「秋作(秋植え)」があります。「植え付けの時季が違うだけでしょ?」と思われる方も多いと思いますが、実は栽培・収穫の難易度が全く違います。
この記事ではジャガイモの基礎知識や栽培の方法の基本、重要事項、注意点などについて解説します。記事が長いため、目次を見て必要な部分から読み進めてください。
ジャガイモ栽培の基本知識
原産地は南アメリカのアンデス山脈でデンプンが多く蓄えられる地下茎が芋の一種として食用されます。食用のジャガイモは、実は根が肥大化したものではなく、茎が肥大化したものです(塊茎と呼びます)。日本では北海道などの大産地で機械化された栽培手法も確立されているだけではなく、栽培の手間がかからないことから家庭菜園や市民農園でも栽培される人気の作物です。
作型は、各地域によって異なりますが、主に春作(春植え)と秋作(秋植え)が一般的です。また、プランターや培養土(用土)の袋で育てる袋栽培などでも育てることが可能です。
ジャガイモ栽培のポイント
- ジャガイモは、冷涼な気候を好み生育適温は15℃〜20℃前後です。
- 霜には弱く、春に早植えしてしまうと萌芽した後に晩霜の被害に合う可能性があるので植え付けの時期には十分に気をつけましょう。
- 秋作(秋植え)は、種イモの入手や植え付け時期の調整が難しいため、初心者は春作(春植え)で栽培しましょう。
- 種イモは、ウイルスに罹病していない品質検査済みのものを購入しましょう。
- 休眠性があるため、種イモを植え付けるときには休眠が明けて、適度に芽が伸びたものを選ぶと良いです。
- 栽培期間中は、土寄せをしっかりと行いましょう。塊茎(イモ)に日が当たると緑化して品質が落ちます。
- ジャガイモ栽培は連作すると様々な障害が発生しやすくなりますので、一度栽培したら2〜3年の間隔を空けるように輪作をしましょう。連作したい場合は適切な対策が必要です。もちろん、連作障害が出るか出ないかは、土の状態にもよりますので、必ず輪作、もしくは土壌改良をしなければならないということではありません。
ジャガイモ栽培のスケジュール
生育開始適温(地温) | 萌芽期の生育適温 | 茎葉の生育適温 | イモの肥大適温 |
---|---|---|---|
10℃ | 15℃〜20℃ | 15℃〜20℃ | 15℃〜18℃ |
一般的な露地栽培をベースに考えたジャガイモ栽培のスケジュールです。春作、夏作、秋作、冬作の一般的な例を挙げています。品種によっても違いがありますので、購入する種イモのラベルを参考に、年間スケジュールを計画すると良いでしょう。
ジャガイモは、関東などの暖地・一般地の場合、春一番に植え付けを行い初夏に収穫する「春作(春植え)」、秋に植え付けを行い冬に収穫する「秋作(秋植え)」が適しています。秋作は種イモの入手や植え付け期間の調整の難しさや種イモの腐敗が進みやすいことから、初心者には春作をおすすめします。
北海道では「夏作」、九州・四国では「冬作」などその土地の気候に合わせた作型もあります。
ジャガイモ栽培の流れ・栽培方法
ジャガイモ栽培の流れ・栽培方法は下のカレンダーのようになります(関東地域の春作の目安です)。
- 植え付けの
2〜3週間前 - 植え付けの
2〜3週間前 - 2月下旬〜
3月頃 - 5月上旬〜
7月中旬 - 5月下旬〜
7月中旬 - 収穫後片付け
種イモの準備、催芽処理
種イモの準備
じゃがいもは一般的な果菜類とは違い、「種イモ」を植え付けます。じゃがいもはアブラムシ等によってウイルスが媒介され、それが塊茎(いわゆるイモの部分)にも伝染します。そのため、ウイルスに伝染していない品質が保証された「種イモ」が販売されています。栽培を安定かつ効率的に行うためには種イモを購入しましょう。
種イモの品種は販売、使用したいものを自由に選んでください。品種による育てやすさは多少ありますが、成長に大きな差はありません。
種イモの催芽処理
種イモは芽出しする(催芽処理)ことが重要です。芽出しをせずに植え付けをしても栽培は可能ですが、発芽を揃え、生育を良くするために極力行いましょう。芽出しは植え付けの2〜3週間前から始めましょう。芽出しをする際の気温は、1日を通して15℃前後が良いでしょう。
芽出しの方法
- 毎日、朝から夕方まで日なたに種イモを並べ、太陽の光に当てます。このとき、強い光に当て続けたり、気温が高すぎるところに置いたりしないようにしましょう。
- 夜は日が落ちて寒くなるため、室内の温かいところへ置きましょう。
種イモの大きさを調整する
1個20g〜60gであれば、種イモは切らずにそのまま植え付けすることができます。ただし、ホームセンターや園芸専門店で販売されている種イモはそれ以上に大きなものもあります。そのときには適切な大きさに切って分割しましょう。切るときには必ず縦方向に切り、優勢な芽がそれぞれ分割した種イモに残るようにしましょう。
初心者には、種イモの調整などをせずにそのまま使用することができる1個20g〜60gの種イモが詰まった袋の購入をおすすめします。おおよそ、20個以上/1kgのものが良いです。
中くらいの大きさの場合(60g〜100gくらい)
60g〜100gの場合は、それぞれ30g〜50gくらいになるように2つに切って分割しましょう。このとき、分割した2つの種イモはそれぞれ優勢な芽が残るようにしましょう。
それ以上に大きい場合(100g以上)
100g以上の大きさの場合は、それぞれ30g〜40gくらいになるように3つから4つに切って分割しましょう。優勢な芽がそれぞれ分割したときの種イモに残るように、3つ切り、4つ切りに切りましょう。
切った種イモは切り口から腐ることを防ぐため、切り口に「草木灰」や「ハイフレッシュ」などを付けてから、1日天日干しをします。草木灰は、草や木を燃やして灰にしたものでホームセンターなどでも販売されており、手軽に入手することができます。手元に長期間天日干しすると、乾きすぎてしまい萎びてしまいますので注意してください。
ジャガイモ栽培のための土作り
美味しいジャガイモを収穫するためには土作りが重要です。土作りは植え付けの2週間から3週間前には行い始めましょう。堆肥、元肥(窒素、リン酸、カリウムなどの化成肥料または有機質肥料)は土作りをするときに一緒に混ぜ込みます。
ただし、ジャガイモは弱酸性からアルカリ性(pH6.5以上)の土壌で発生しやすいジャガイモそうか病にかかりやすいため、石灰(カルシウム)の施用には十分に注意しましょう。基本的に、石灰の施用は極力避けてください。
下の記事に堆肥や元肥の施用量の目安を説明していますので、参考にしてください。
植え付け・マルチ張り(マルチング)
土作りと種イモの準備が終わったら、植え付けをします。じゃがいもは予め掘っておいた溝に種イモを置き、5〜8cmほど覆土し、鍬(クワ)などで軽く押さえて植え付けします。覆土とは、土をかぶせることを指します。
「逆さ植え」がよいと記載されているサイト、本が多いですがメリットとデメリットがあるので、そのときにあった方法を選びましょう。
植え付けをしたあとに、雑草の抑止と成長の促進のために黒色ポリフィルムなどのマルチを張りましょう(マルチング)。下の記事に植え付けの方法を詳しく紹介していますので、参考にしてください。
ジャガイモ栽培の管理作業(手入れ作業)
種イモの植え付けが終えたあとも、ジャガイモが気持ちよく育つために手入れ作業が必要となってきます。手入れ作業は、大きく5つあります。
- 芽かき
- 中耕・土寄せ
- 追肥(肥料)
- 摘花(花摘み)
- 除草・病害虫管理
ジャガイモの芽はいつ頃出てくるか?
植え付けられたジャガイモは早ければ10日、遅くとも1ヶ月以内には芽を出します。芽がいつ地上に出るかは、芽出し(催芽処理)の状況と植え付けの深さなどが関係してきます。
植え付け後、マルチを張ってそのままにしておくと、芽先がマルチを持ち上げてきます。そのような状況になったら目が出てきている証拠ですので、早めにマルチを破って穴を開け、芽を地上に出してあげましょう。
芽かき
1個の種イモからは、複数の芽が出てくることが多いです。地上部が8〜10cmに伸びたころに、2本(秋作の場合は1本)残して、他の芽はかき取りましょう。芽かきをするときには、種イモごと抜いてしまわないように必ず「片手で土壌ごと株を抑え」、「もう一方の手でかき取る対象の芽を持ち、横に引き抜く」ようにしましょう。
追肥(肥料)・中耕・土寄せ
元肥だけでは栄養分が不足し、イモの肥大につながらないため追肥をします。また、追肥をするとともに中耕・土寄せも行っていきます。
中耕とは、作物の生育期間中に畝間や条間を浅く耕すことです。除草や土壌の通気性の向上などに効果的です。ジャガイモ栽培の場合は、畝と畝の間(畝間)の土壌を浅く耕すと良いでしょう。
土寄せとは、植物が少し育ってから、根に土をかけてやることです。ジャガイモ栽培においては、覆土が足りないとイモに日光が当たり、緑化して食用にならないため、数回に分けて土寄せが必要です。
下に追肥・中耕・土寄せの一例を紹介します。
- 第一回中耕・土寄せ・追肥
- 第二回中耕・土寄せ第一回の中耕・土寄せの半月後くらいに行います。
畝間を鍬や管理機(耕うん機)などで軽く耕します。そのあと、5〜6cmほどの厚さに土寄せします。このとき追肥は行いません。春作でマルチングをしている場合には、全てマルチ(フィルム)を取り除きましょう。秋作の場合は、気温が下がり始める時期のため地温維持のためにそのままでも構いません。状況を見て判断してください。
摘花
花が咲くころにイモが肥大し始めます。このときに、花を咲かせたままにしておくと花に養分が取られます。しかし、そこまで気にする必要はありません。見つけたら、鑑賞のために摘み取るくらいの気持ちで大丈夫です。
病害虫管理
病害虫と聞くと少し怖いですよね。しかし、病害虫に対して適切に処理することでまん延を防ぐこともできます。「ジャガイモ栽培の生理障害・病害虫管理」に主な生理障害、病害虫の対策方法をまとめました。症状などと照らし合わせながら、適切な対策を行いましょう。また早めの防除が成長のカギとなりますので、植物の観察は怠らないようにしましょう。
ジャガイモの収穫作業
地上部の草(茎葉)が枯れ、黄ばみ始めてきたら収穫適期です。イモが肥大していることを確認して、株ごと掘り上げて収穫しましょう。雨が降っている日などは、イモに湿った土が付き、その後の保存中に腐りやすくなるため、天気が良く土壌が乾いている日に収穫しましょう。春作の場合は、梅雨前に収穫を終えましょう。
ジャガイモの保存方法
収穫したジャガイモを長期保存するためには、下記に記載していることが基本となりますので、実践してみましょう。
- 収穫は晴天、かつ土壌が乾いている日に行いましょう。
- 収穫したジャガイモは、1時間〜2時間ほど掘り起こした場所でそのまま乾燥させます。
- その後、ジャガイモを日陰に移動させて3日〜7日間ほどそのままにして、ジャガイモの表面を乾燥させます。このとき、ジャガイモは重ならないように置きましょう。ジャガイモの表面が乾けばOKです。
- 乾燥させたじゃがいもは網かごやダンボール、コンテナなどに入れて、冷暗所で保存しましょう。ベストの貯蔵温度は、食用の場合5℃前後です(ちなみに種イモ貯蔵の場合、3℃程度とさらに低くなります)。高すぎず、低すぎない気温での保管を心がけてください。
ジャガイモ栽培の気をつけるポイント!おさらい!
種イモは購入する!
ウイルスに罹病させることなく、確実に栽培を成功させるためにも種イモは購入しましょう。
種イモは縦に切る!
頂部に芽がたくさん集まっているので、優勢な芽の数が均等になるように縦に切りましょう。
たっぷり土寄せする!
じゃがいもは塊茎が太陽光に当たると緑化して品質が落ちるので、追肥後は必ず株元にたっぷりと土寄せをしましょう。
ジャガイモ栽培の生理障害・病害虫管理
ジャガイモを栽培していると、いろいろなトラブルが発生します。しかし、適切な対処方法を知っていれば慌てる必要はありません。代表的な生理障害と病害虫への対処方法を説明していますので参考にしてください。
青枯病は発見次第、他の株に伝染しないようにすぐに植物ごと抜いて処分しましょう。黒褐色の斑点が出る疫病(ジャガイモえそ病、Yモザイク病)は大敵であり、同じナス科のトマトにも伝染するので気をつけましょう。
主な病気
- 疫病
- 夏疫病
- 灰色かび病
- 乾腐病
- 菌核病
- 銀か病
- 黒あざ病
- 輪紋病
- 指斑病
- 炭疽病
- 半身萎凋病
- 緋色腐敗病
- 粉状そうか病
- 黒あし病
- 青枯病
- 軟腐病
- 輪腐病
- そうか病
- 葉巻病
- モザイク病についての総論
- 塊茎褐色輪紋病
- てんぐ巣病
主な生理障害
- 黒色心腐病
- 褐色心腐病
- 空洞病
- 低温障害(凍害)
- 打撲症