なしの黒星病は、幸水や豊水などの赤梨に発生しやすい病気で、果実にも発生し商品価値の低下果実をもたらすため、防除が重要です。ここでは梨の黒星病に使える農薬や使い方の他、化学農薬以外の方法についても説明します。
梨(なし)の黒星病の症状・防除時期
黒星病は生育期間中に葉、葉柄、果実、緑枝、りん片に黒いススのような病斑を発生し、病斑から胞子を飛ばして感染を広めます。幼果の時期に感染すると、果実のゆがみや裂果、落果を起こすため梨農家にとっては、重要な病害の一つです。
防除の時期は、3月下旬~10月までの梨の生育期に行う必要があります。特にりん片脱落直前、落花期、果実肥大最盛期前には黒星病が発生しやすい時期なので、薬剤の散布間隔が開かないよう農薬を散布します。
また秋に芽の中に入り込んだ病原菌は、翌年の伝染源が多くなるため秋の防除も重要です。



梨(なし)の黒星病の防除方法
梨の黒星病の防除方法は、化学農薬による化学的防除の他、落葉を処分するなどの病害を発生しない環境をつくる耕種的防除、袋かけなどの物理的防除があり、組み合わせて行うことで黒星病の被害を抑えることができます。
梨の黒星病に使える農薬と使い方
黒星病の防除に使われる農薬は、浸透移行性のあるDMI剤(EBI剤)が長く使用されてきましたが、近年DMI剤耐性菌の発生が報告されるようになりました。そのためDMI剤耐性が発生している地域では、DMI剤耐性菌にも効果のある農薬、発生していない地域では今後の発生を抑えるためにDMI剤の使用回数を減らし、作用の違う農薬を代わりに散布するなどの対策が必要です。
黒星病の胞子は降雨後に飛散するので、農薬の散布は降雨直後の散布が効果的です。
梨の黒星病に適用のある農薬と散布時期
なしの黒星病に使える農薬と散布時期の一例です。
散布時期 | 農薬名 | 希釈倍率 | 使用液量 | 使用期間 | 使用回数 | 使用方法 | FRACコード | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3月下旬 (発芽前) | デランフロアブル | 1000倍 | 200〜700㍑/10a | 収穫60日前まで | 4回以内 | 散布 | M9 | ジチアノン水和剤で、幅広い殺菌スペクトラムを持ちます。 発芽前の散布は、マシン油剤との混用で耐雨性、残効性UP(発芽後は薬害が生じるため混用はしない) |
4月上旬 (りん片脱落直前) | トリフミン水和剤 | 2000〜3000倍 | 200〜700㍑/10a | 収穫前日まで | 3回以内 | 散布 | 3 | DMI剤 DMI 剤は耐性菌が発生しやすいため、ローテンション散布を心がける。 幸水には高濃度だと葉に黄斑を生じる場合があるので低濃度で散布 |
4月下旬 (落花期) | ベルクートフロアブル | 1500倍 | 200〜700㍑/10a | 収穫14日前まで | 5回以内 | 散布 | M7 | DMI剤とは異なる作用点を持ち、黒星病や黒斑秒の耐性菌に有効な薬剤です。 DMI剤との混用で防除効果が上がったとう実験結果があります。 |
5月~7月 | 上記薬剤or ミギワ20フロアブル | 2000〜4000倍 | 200〜700㍑/10a | 収穫前日ま | 3回以内 | 散布 | 52 | 新規作用機構(DHODH 阻害)で既存剤の耐性菌にも有効な薬剤です。 浸透移行性もあり予防に効果的です。 |
10月~11月 | オキシラン水和剤 | 500〜600倍 | 200〜700㍑/10a | 収穫3日前まで | 9回以内 | 散布 | M1,M4 | 有機銅とキャプタンの2つの有効成分を含有している殺菌剤 アビオンEなどの固着剤の展着剤で耐雨性を高めて残効性を延ばすことができます。 |
化学農薬以外の防除方法
落葉の除去・粉砕
黒星病の防除には、落ち葉の除去(処分)が一番のポイントです。10月~11月に落ち葉を集めて処分してから農薬散布をすることで、翌年の発生を抑制します。
落ち葉の処理は、落ち葉を集めて、溝をつくり落ち葉を埋める、園外に持ち出して焼却処分するなどの方法がありますが、多大な労力がかかります。
そこで最近では、乗用草刈機による落ち葉の粉砕が黒星病の発生を減らすとして各地で広まっています。時期は落葉後から降雪前までに行います。
- 幹元や支柱周りの落葉を熊手、ブロワで乗用草刈機の走路まで掻きだす
- 側溝などの落ち葉は収集するか、乗用草刈機の走路に集める
- 刈高3~5cmに設定した乗用草刈機で縦横に複数回(最低2回)走行し、落ち葉の原型がなくなるまで粉砕します。
- 粉砕まででも効果はありますが、さらにロータリーで残存落葉量が5%以下になるようすき込むとより効果が高くなります。
発病した枝・葉・芽の切除
春先にまずりん片に病斑が発生し、次第に拡大して基部に達します。りん片の基部近辺に黒い大きな病斑ができるのでここで発見して、取り除くことが病気の拡大を防ぐポイントです。枝の内側に発生することが多いので注意深く観察し、早期に取り除きましょう。
葉にも発生します。葉脈や葉の裏側などに黒いすすを発生させ、手で触ると指先に黒い粉がついてくるのが黒星病の特徴です。
常に発病した葉やりん片がないか確認し、発病した枝・葉・芽を取り除いてから農薬を散布しましょう。
袋かけ
一部の品種では袋かけを行って栽培しますが、袋かけをする際には農薬散布後、乾いたらすぐに袋かけをすることで、黒星病の予防につながります。
その他対策のポイント
徒長枝には夏から秋に発病しやすいため、徒長枝への農薬散布は丁寧に行いましょう。また芽基部病斑からの病気の広がりを防ぐため、開花前までに切り取ることが重要です。
各地域の防除暦や予察情報などに注意し、適期に防除対策をすることが大切です。多発している場合には、地域で対策に取り組む必要があります。
黒星病以外にも梨に発生する病害虫は多いため、発生しやすい病気と一緒に予防しましょう。梨の防除暦については詳しい記事がありますのでそちらも参考にしてください。
農業アプリを活用しましょう
今まで農業日誌や栽培記録、ノートやパソコンで管理していたという人には、農業に役立つアプリを活用しませんか。農家webの「かんたん栽培日誌」アプリはスマホから作物と地域を入力するだけで、防除暦、栽培カレンダーが自動表示。実際の栽培記録はタップ一つで登録可能。自社の「農薬検索データベース」「かんたん農薬希釈計算アプリ」と連動しているので、散布したい農薬をいれればラベルをみなくとも希釈計算も可能で、散布回数もカウントしてくれます。
また地方自治体から発表される予察情報も反映しているので、農家の防除に役立つアプリです。ダウンロードも不要で、ID登録だけですべての機能が無料で使えるアプリです。ぜひ一度使ってみてください。