中小企業・小規模事業者等を支援するための「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」。製造業やサービス業のみが使える補助金と勘違いされがちですが、実は農業でも活用することができます。
本記事では、農業における「ものづくり補助金」の活用方法について、概要から実際の事例まで解説します。
ものづくり補助金とは
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)とは、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものです。
2013年(平成23年)に「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」として公募がスタートした補助金ですが、2023年(令和5年)においても第16次応募が公募されています(2023年11月1日現在)。
第16次応募では、下記5つの申請枠があります。
申請枠 | 補助金額 | 補助率 | 概要 |
---|---|---|---|
通常枠 | 従業員数 5 人以下 :100万円~750万円 6人~20人:100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 | 1/2、小規模企業者・小規模事業者、再生事業者 2/3 | 革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 従業員数 5 人以下 :100万円~750万円 6人~20人:100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 | 2/3 | 業況が厳しいながら賃上げ・雇用拡大に取り組む事業者(※)が行う、革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援 |
デジタル枠 | 従業員数 5 人以下 :100万円~750万円 6人~20人:100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 | 2/3 | DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品・サービス開発又はデジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
グリーン枠 | 従業員数 5 人以下: 100万円~ 750万円 6人~20人: 100万円~1,000万円 21人以上 : 100万円~1,250万円 等 | 2/3 | 温室効果ガスの排出削減に資する取組に応じ、温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発又は炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
グローバル市場開拓枠 | 100万円~3,000万円 | 1/2、小規模企業者・小規模事業者 2/3 | 海外事業の拡大・強化等を目的とした「製品・サービス開発」又は「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等を支援(①海外直接投資類型、②海外市場開拓(JAPAN ブランド)類型、③インバウンド市場開拓類型、④海外事業者との共同事業類型のいずれかに合致するもの) |
上記の他にもビジネスモデル構築型がありますが、こちらは農業・農家は活用が難しいです。
農業においては、具体的に「防除作業用農業ロボット」「農作物の温度管理のためのプラットフォーム利用料」「スマート農業を構築するための作業を一部外注するための費用」などの経費が補助の対象として採択されています。例えば、「測量用ドローン」「GPSトラクターと大型スプレーヤー」などが補助の対象となりました。
農業でも、ものづくり補助金は幅広く活用できそうです!
農業におけるものづくり補助金の活用方法
農業におけるものづくり補助金の活用方法について、まとめました。
ものづくり補助金の対象者
対象者の要件としては、資本金又は従業員数(常勤)が下表の数字以下となる会社又は個人であることと記されています。農業の場合、資本金3億円、常勤従業員数300人以下となる会社、もしくは個人が対象となります。
業種 | 資本金 | 常勤従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、旅行業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円 | 100人 |
小売業 | 5,000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業 (自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円 | 900人 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
旅館業 | 5,000万円 | 200人 |
その他の業種(上記以外) | 3億円 | 300人 |
また、農家としての組織は、農業協同組合(農協)、農事組合法人などがありますが、こちらは対象外と思われます。理由としては、下記組織形態の事業者は対象となりますがそれ以外は対象外とされていること、今までの採択実績を確認すると農事組合法人(農協)や農事組合法人の事業者がなかったことが挙げられます。
- 組織形態
- 企業組合
- 協業組合
- 事業協同組合、事業協同小組合、協同組合連合会
- 商工組合、商工組合連合会
- 商店街振興組合、商店街振興組合連合会
- 水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会
- 生活衛生同業組合、生活衛生同業小組合、生活衛生同業組合連合会
- 酒造組合、酒造組合連合会、酒造組合中央会、酒販組合、酒販組合連合会、酒販組合中央会
- 内航海運組合、内航海運組合連合会
- 技術研究組合(直接又は間接の構成員の3分の2以上がアに該当するもの、企業組合、協業組合であるもの)
ものづくり補助金の申請要件
ものづくり補助金は補助対象者であること以外にも、申請要件を満たす必要があります。申請する際は、以下の要件を全て満たす3〜5年の事業計画書の策定が必須です。
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加。
- 事業計画期間において、事業場内最低賃金(補助事業を実施する事業場内で最も低い賃金)を、毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準とする。
- 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加。
5年程度の事業計画書を作るのは、結構骨が折れる作業になります。各地域には「よろず支援拠点」という無料で相談にのってもらえる国の施設もあるので、積極的に活用しましょう。よろず支援拠点が支援した農業×ものづくり補助金の事例もあります!
ものづくり補助金の申請方法
まずは、公募のスケジュールを確認しましょう。公募自体は通年行われていますが、採択発表が行われる時期は概ね決まっています。6月・9月・12月・翌3月の四半期ごととなる事が多いですが、公募ページにて最新情報を確認しましょう。
申請から補助金交付までの大まかな流れは、下記のとおりです。
- 1事前準備・申請準備
ものづくり補助金の申請手続きは、すべて電子化されているため、申請するためにはGビズIDのgBizIDプライムアカウントが必要となります。gBizIDプライムアカウントの発行には書類審査が必要となるので、発行されるまでに1週間程度の時間を要します。早めに準備することをおすすめします。
また、申請に必要な各種書類の作成、発行も同時に進めましょう。
- 2申請
電子申請システムを使って申請します。予め用意したgBizIDプライムアカウントを使って申請しましょう。
- 3審査結果の通知・公表
応募申請者全員に対して、採択・不採択の結果が通知されます。補助金交付候補者となった場合には、ホームページなどで公表されます。
編集さんどのような案件が採択されたかは自由に見ることができます。申請を検討する際に参考にしても良いでしょう。
- 4交付申請手続き
補助金交付候補者として採択された後、補助対象経費を精査し、補助金の交付申請手続きを行います。
- 5補助事業の実施
無事に交付が決定されると、事業を開始できます。事業中は、中間検査がされる場合があったり、実績報告が必要となったりします。
- 6確定検査
補助金交付額の確定検査が行われます。
- 7補助金の請求
確定した補助金交付額に従って請求します。
- 8補助金の支払い
請求した補助金が口座に振り込まれます。
- その後事業化状況の報告・知的財産権等報告
実は、補助事業が終わった後も、5年間に渡って本補助事業にかかる事業化等の状況を報告する必要があります。また、調査等が必要となった場合には、協力しなければなりません。
ものづくり補助金の対象となる経費・対象外の経費
ものづくり補助金の補助対象経費は主に、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費となります。
農業においては、下記のものが対象経費として認められやすいでしょう。
- ビニールハウス内などで使用するミスト発生装置
- ビニールハウス内で使用するCO2発生装置
- ビニールハウス内で使用する2層自動カーテン装置
- ビニールハウス内で使用する除湿機
- 農作物の温度管理のためのプラットフォーム利用料
- 防除作業用農業ロボット
- 人事評価システム
- 土壌診断サービ
- 廃棄物有効利用について農業大学教授への相談する際の謝礼
- 農業ITプラットフォーム利用料
- スマート農業を構築するための作業を一部外注するための費用
- 農産物の特殊な栽培方法を開発した際の特許関連費用
その事業の内容にもよりますが、効率化や省力化、商品の高品質化に寄与するスマート農業機器やサービスは認められやすいと思います。
ただし、下記のような汎用性の高いものや簡易建物等については認定されづらいので注意が必要です。
- 軽トラック、乗用車
- トラクター
- ビニールハウス、コンテナ、ドームハウス
- ソーラーパネル
- 設置場所の整備工事や基礎工事
- 事務所の家賃、敷金礼金、光熱水道費 など
ものづくり補助金採択のためのポイント
ものづくり補助金の採択率は30%〜50%程度であり、出せば採択されるものではありません。採択率も決して高くはないでしょう。審査に通るためには、その事業がいかに実現性・革新性があって、今後の事業成長に繋がるかを明確にする必要があります。
下記にものづくり補助金採択のためのポイントを簡単に紹介します。
客観的なデータに基づいて課題を定義し、解決策を明示する
事業計画を作成するうえでは、現状課題のから課題解決方法の説明まで客観的なデータを示しながら、具体的な取り組みについて述べることが重要です。
例えば、農業においては下記のような整理をして、事業計画の骨子を作り、肉付けしていくのも良いでしょう。
- 課題
- 現在の生産方法、生産設備のままだと、品質・収量の向上に限界がある。
- 勘や経験に頼る農業を続けていては、次の担い手へ事業をつなげることができない。
- 解決策
- データに基づく農業ができるよう、スマート農業機器を導入する。また、農法もそれに適合するものに変える。
- 栽培に関する事象をすべてデータ化し、分析・フィードバックができるよう業務フローを改善する。
- 具体的な導入設備
- 2層自動カーテン装置
- CO2発生装置
- 灌水装置
- ハウス環境制御装置
事業内容の革新性を高める
採択されるためには、革新性も重要なポイントです。他の農家や過去の農法とは異なる先進的な取り組みを示す必要があります。誰も取り組んだことがないようなポイントを織り込むことによって、革新性が高まります。
また、その事業の将来のビジョンも重要です。補助事業を活用した後、どのような先進的な取り組みが継続できるかも示すと良いでしょう。
加点条件を満たす
ものづくり補助金の審査では加点項目があらかじめ決まっています。第16次公募の加点項目と概要は以下のとおりです。これらの加点項目を積極的に織り込むことも重要でしょう。
加点項目 | 概要 |
---|---|
成長性加点 | 有効な期間の経営革新計画の承認を取得した事業者 |
政策加点 | ・創業・第二創業後間もない事業者(5年以内) ・パートナーシップ構築宣言を行っている事業者 ・再生事業者(本事業における再生事業者の定義は別紙4の通り) ・デジタル技術の活用及びDX推進の取組状況(デジタル枠のみ) ・令和4年度に健康経営優良法人に認定された事業者 ・技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者 ・J-Startup、J-Startup 地域版に認定された事業者 ・新規輸出 1 万者支援プログラム」に登録した事業者 ・取引先の事業者がグリーンに係るパートナーシップ構築宣言をしている事業者 |
災害等加点 | 有効な期間の事業継続力強化計画の認定を取得した事業者 |
賃上げ加点等 | ・事業計画期間(補助事業完了年度の翌年度以降)における給与支給総額と事業場内最 低賃金をそれぞれ以下(ア)もしくは(イ)の通りとする計画を有し、事務局に誓約書を 提出している事業者 ・被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り 組む場合 |
女性活躍等の推進の取り組み加点 | ・女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)に基づく「えるぼし認定」を受けている事業者、もしくは従業員 100 人以下の事業者で「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者 ・次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づく「くるみん認定」を受けている事業 者、もしくは従業員 100 人以下の事業者で「両立支援のひろば」に次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者 |
農業におけるものづくり補助金の活用事例
農業におけるものづくり補助金の活用事例は豊富にあります。下記に成果事例が掲載されていますので、検討時の参考にすると良いでしょう。
その中からいくつか実際の事例を取り上げました。
都道府県 | 企業名 | 事業計画名 | 業種 | 技術分野 | 年度 |
---|---|---|---|---|---|
岩手県 | 有限会社越戸きのこ園 | 脱水装置導入による廃菌床の燃料化 | 農業 | バイオ,バイオ | 平成29年度 |
長野県 | 株式会社なかひら農場 | 独自の加熱・冷却技術による「完全無添加100%ジュース」の試作・開発 | 農業 | 製造環境,製造環境 | 平成29年度 |
滋賀県 | 近江屋米店-大地堂 | 世界初の新品種・早生デュラム小麦を使った「国産・生パスタ」の製造による新市場の開拓 | 農業 | 平成29年度 | |
奈良県 | 株式会社華金剛 | 温室の自動温度・湿度管理システム導入による高品質・量産化体制確立と新商品開発 | 農業 | 製造環境,製造環境 | 平成29年度 |
徳島県 | 株式会社みやび | 耕作放棄地・休耕田を利用した季節型別農業の実施 | 農業 | 平成29年度 | |
沖縄県 | 農業生産法人株式会社今帰仁ざまみファーム | 伝統野菜の原料・食品製造作業の機械化による生産性と品質の向上 | 農業 | 製造環境,製造環境 | 平成29年度 |
茨城県 | ほしいも株式会社 | 製造環境整備と生産データ管理のIT化によるほしいもの品質向上と販売拡大 | 農業 | 製造環境 | 平成29年度 |
島根県 | 有限会社桜江町桑茶生産組合 | オーガニックを中心とした健康食品の販路拡大と生産プロセス確立 | 農業 | 平成29年度 | |
千葉県 | 株式会社プランツファクトリー・インザイ | 生分解性ネットを活用した培土培地とロックウールプラグの生産 | 農業 | 機械制御 | 平成28年度 |
山梨県 | まるいわぶどう園 | カフェレストランの開業と複合機能の提供による顧客満足度の向上 | 農業 | 平成28年度 |
また、採択案件一覧を参考にするのも良いでしょう。事業計画名を見て、どのような案件が採択されやすいかを分析してみてください。第15次公募で採択された農業関連の案件には、以下のようなものがありました。
- 新型スプレーヤ、農業用ドローン導入による生産性向上とスマート農業の実現
- スマート農業で飼料を増産しチーズ需要及び飼料自給率向上へ貢献
- GPSトラクターと大型スプレーヤーを活用した高品質・高効率農業
- 小豆栽培拡大に向けた、機械化による収穫および施肥効率化
- 立ち植え式長芋プランター導入による持続可能な農業体制確立へ
- スマート農業と乾田直播でとりくむ新たな需要開拓
- RTK連動玉葱収穫機の導入による農業スマート化への更なる発展
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