柑橘類によく発生するミカンハダニを防除するための農薬の解説、使い方、使う時期、またミカンハダニの生態についても解説します。
ミカンハダニに使える農薬
ミカンハダニは生育サイクルが早く、薬剤に抵抗性を持ちやすい病害虫です。防除には天敵を最大活用したいこともあり、どのような農薬をいつ使うか、は大変重要なポイントです。
以下の代表的な農薬の種類と種類別の対応表を参考にしてください。農薬による化学的防除だけでなく、天敵などの防除を組み合わせた、IPM(総合的害虫管理)をおすすめします。
マシン油乳剤
冬〜春季にマシン油乳剤を散布して、ミカンハダニの越冬密度を下げるのは、大変効果的です。逆に、6〜7月にマシン油乳剤を散布するのは、ミカンハダニの天敵も殺してしまうので、使わないのが無難です。
マシン油乳剤(マシンゆにゅうざい)とは、鉱物油などを由来とする機械油に乳化剤を混ぜ合わせたものです。害虫の気門を封鎖して窒息させる殺虫効果があります。有機JASの栽培で使用できる農薬として有名です。
また、マシン油乳剤には機能性展着剤(アジュバント)の効果(表層に成分が染み込む働き)があり、殺菌剤に混用して防除効果を高めている方もいます。
雨で流れてしまうため、降雨が予想される場合は、使用するタイミングをずらすようにしましょう。できれば雨の後がベストです。
果樹の場合、厳寒期の散布は激しい落葉を生じさせる可能性があるので、1月下旬〜2月の散布は避けた方がいいでしょう。(冬の散布は1月上旬までに負えれるとベストです)
マシン油乳剤には様々な種類があり、最もメジャーな「ハーベストオイル」は殺ダニ効果、機能性展着剤効果に優れますが、果実糖度に若干影響があること、また「スプレーオイル」「スピンドロン乳剤」は、効果はやや劣るものの、果実糖度は下がらない、「アタックオイル」はその中間、などそれぞれに特性があります。
ミルベメクチン コロマイト
コロマイトは、カンザワハダニ,ナミハダニ,ミカンハダニ,リンゴハダニなどのハダニ類や,チャノホコリダニ,ミカンサビダニ,チャノホソガに対する防除効果も高く、『ハダニ類の成虫,若虫,幼虫,卵』のどの発育ステージに対しても高い活性を示し,速効的、また既存剤に対する薬剤抵抗性のあるダニにも有効です。
さらに、有効成分であるミルベメクチンは微生物が生産する天然物なので、「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」において、農薬にカウントされません。
エトキサゾール(IGR) バロック
新しいタイプの化合物で、ダニ類の成長を阻害します。ハダニ類に対して卓効を示し、 ミカンハダニ、リンゴハダニ、ナミハダニ、カンザワハダニなど各種ハダニ類に優れた殺卵・ 殺幼若虫作用が期待できます。また、天敵昆虫や花粉交配用昆虫に対する影響が少ないのも特長といえます。
β- ケトニトリル誘導体 スターマイト、ダニサラバ
抵抗性ハダニに効果が高く、卵から成虫までの全ステージに安定した効果を発揮するタイプの農薬です。低温時でも安定した効果を発揮し、且つ耐雨性に優れています。
メタジアミド系 グレーシア
グレーシア乳剤は、日産化学(株)が発明した非常に新しい殺虫剤です。日産化学(株)が開発した新規化合物である、イソオキサゾリン系の有効成分「フルキサメタミド」が害虫の神経に作用して速攻的な殺虫作用を示します。
コナガなどのチョウ目や、アザミウマ目、ハエ目、ダニ目等の幅広い作物害虫に高い効果を発揮します。
上記の農薬は原液を水で溶かして薄めて使用する液剤や水溶性の粉剤、粒状、粒タイプです。適切な量、希釈方法等については下記をご参考ください。
ミカンハダニには生物農薬(生物的防除・天敵)が最重要
生物農薬とは、「農薬の目的に使われる生物を使い、病害を防除する農薬」のことを言います。
天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。
天敵を効果的に使うためには
ミカンハダニの土着天敵は主に、ダニヒメテントウ類やカブリダニ類がいます。これらを殺さずに増やし、活躍してもらうことが重要です。そのためには、
- 6〜7月に土着天敵も殺してしまうような殺虫剤の使用(有機リン系(IRAC 2)、ピレスロイド系(IRAC 3)、マシン油など)は避ける
- 6〜7月時のミカンハダニの発生は、土着天敵を増やすために、ある程度目をつぶる
- 下草は天敵を温存し供給する場所になるので、株元を地面が見えるほど刈り込むのは避ける
ことを心がけましょう。また下記のような、生物農薬の製品もあります。
商品名 | スパイカルEX | スパイデックス | チリガブリ | ミヤコバンカー (システムミヤコくん) | スワルスキー | ボタニガードES |
---|---|---|---|---|---|---|
有効成分の種類 | ミヤコカブリダニ | チリカブリダニ | チリカブリダニ | ミヤコカブリダニ | スワルスキーカブリダニ | ボーベリア バシアーナ GHA株 分生子 |
作物名 | 野菜類 果樹類 花き類・観葉植物(施設栽培) 茶 | 野菜類(施設栽培) 豆類(種実)(施設栽培) いも類(施設栽培) 果樹類(施設栽培) 花き類・観葉植物(施設栽培) | 野菜類(施設栽培) 花き類・観葉植物(施設栽培) | 果樹類(施設栽培) りんご(露地栽培) 日本なし(露地栽培) おうとう(露地栽培) 野菜類 花き類・観葉植物(施設栽培) | 野菜類(露地栽培) 野菜類(施設栽培) 花き類・観葉植物(施設栽培) | 野菜類 |
適用病害虫名 | ハダニ類 カンザワ ハダニ | ハダニ類 | ハダニ類 | ハダニ類 | アザミウマ類 チャノホコリダニ コナジラミ類 ミカンハダニ | アブラムシ類 アザミウマ類 コナジラミ類 ハダニ類 コナガ アオムシ など |
その他、生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、ご参考ください。
ミカンハダニとは?
ミカンハダニ(Panonychus citri)はダニの仲間で、クモの仲間、ダニ目ハダニ科に属します。体長は雌成虫で0.5mmで赤色、なんとか肉眼で確認できるレベルです。雌成虫が寄生した葉をルーペなどで観察すると、卵や幼虫も確認できます。卵は葉脈に沿って産卵されることが多いため,主脈に沿って観察すれば、産卵状況を把握できます。
卵→幼虫→第1若虫→第2若虫→成虫と成長していきます。発生のピークは、一般的に、6〜7月と、10〜11月の年2回と言われています。
ミカンハダニが発生し、加害された葉は、葉緑素が抜けて白化していきます。白化した葉が樹や果樹園内で増えていくようであれば、ミカンハダニが大量発生していると言えるでしょう。
ミカンハダニの防除基準
ミカンハダニの要防除水準は、春〜夏季は雌成虫3匹/葉、9月以降は雌成虫1匹/葉が目安と言われています。しかし、夏季はある程度ミカンハダニを発生させることで、ミカンハダニの土着天敵をあえて増やし、最も防除が大事な、9月以降のミカンハダニの大量発生を防ぐ方法を取る方もいらっしゃいます。
なので、夏季のミカンハダニの発生にはある程度寛容にかまえて、その期間の土着天敵を殺してしまう殺虫剤の使用を控えるのが、農薬の使用回数を減らす、という観点でもおすすめと言えます。
ミカンハダニに使える農薬一覧
IRACコード | グループ名 | 農薬名 |
---|---|---|
1B | 有機リン系 | マラソン粉剤3・乳剤 トクチオン乳剤 |
3A | ピレスロイド系 | ロディー乳剤・水和剤 ロディーくん煙顆粒 アーデント水和剤・フロアブル |
6 | アベルメクチン系 ミルベマイシン系 (マクロライド系) | コロマイト水和剤・乳剤 アファーム乳剤 |
10B | エトキサゾール(IGR) | バロックフロアブル |
13 | ピロール | コテツフロアブル |
15 | ベンゾイル尿素系(IGR) | カスケード乳剤 |
20B | アセキノシル | カネマイトフロアブル |
21A | METI剤 | ダニトロンフロアブル ダブルフェースフロアブル |
23 | テトロン酸およびテトラミ ン酸誘導体 | モベントフロアブル |
25A | β- ケトニトリル誘導体 | スターマイトフロアブル ダニサラバフロアブル |
25B | カルボキサニリド系 | ダニコングフロアブル |
29 | フロニカミド | フロンサイド水和剤 |
30 | メタジアミド系 | グレーシア乳剤 |
サンクリスタル乳剤 ムシラップ エコピタ |
栽培に役立つ 農家webのサービス
農家web 農薬検索データベース
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農家webかんたん農薬希釈計算アプリ
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「農家webかんたん農薬希釈計算アプリ」は、使用する農薬の希釈倍数を入力し、散布する面積などから薬量・液量を算出します。面積の単位や薬剤の単位も簡単に行えます。
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