この記事では、石灰肥料の種類や特徴、それぞれの基本的な使い方について解説します。
石灰肥料の種類と特徴
石灰肥料(カルシウム肥料)には、様々な種類があります。主な石灰資材とその特徴について紹介します。
名称 | 土壌酸度(pH)アルカリ側への矯正の強さ | カルシウムの肥効 | 特徴 |
---|---|---|---|
生石灰 (酸化カルシウム) | 強 | 速効性 | 加水により発熱し消石灰に変化する。速効性がある、アルカリ性が強い。施肥後、定植・播種まで2週間以上おく。反応が強すぎるので取り扱いづらい。 |
消石灰 (水酸化カルシウム) | 強 | 速効性 | 空気中の二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムとなる。速効性があり、アルカリ性が強い。施肥後、定植・播種まで20日以上おく。反応が強すぎるので取り扱いづらい。 |
石灰窒素 | 強 | 速効性 | 加水されるとシアナミドと水酸化カルシウムが生成され、やがてシアナミドも変化し窒素として吸収される。消石灰とほぼ同等の水酸化カルシウムが含まれている。 |
炭酸カルシウム | 中 | 緩効性 | 水に溶けにくく、カルシウムの効き方は緩効性である。反応が穏やかで効き目が持続する。 |
硝酸カルシウム | -(弱酸性) | 速効性 | 水に溶けやすく、カルシウムの効きは早い。硝酸態窒素も含み、水耕栽培によく使用される。 |
苦土石灰 | 中 | 緩効性 | 水に溶けにくく、カルシウムの効きは遅い。マグネシウムも含まれており、補給ができる。散布後すぐに定植・播種することができる。 |
カキ殻石灰 | 中 | 緩効性 | カキ殻を粉砕したもの。海のミネラル分も含む。炭酸カルシウムほどではないが、土壌pHを高める。 |
貝化石 | 弱 | 緩効性 | 古代の貝やヒトデの化石。海のミネラル分も含む。 |
草木灰 | 弱 | 緩効性 | 焼かれた草木(草や木)に由来する灰のことで、カリウムが豊富に含まれる。 |
塩化カルシウム | -(中性・弱酸性) | 速効性 | 水に溶けやすく、作物に利用されやすい。土壌酸度(pH)の矯正には使えない。葉面散布にもよく使われた。 |
硫酸カルシウム | -(中性・弱酸性) | 速効性 | 土壌溶液に溶けやすく、作物に利用されやすい。弱酸性または中性であり土壌酸度(pH)の調整には使えない。「畑のカルシウム」が有名。葉面散布にもよく使われた。 |
カルシウム資材でも土壌酸度(pH)の矯正に使用できないものやゆっくりとカルシウムが効き始めるものなど、特性がいろいろあります。
下記に栽培によく利用されるカルシウム系の肥料について、その特徴と使い方をさらに詳しく紹介します。
苦土石灰
苦土石灰はドロマイトと呼ばれる原料を粉砕後、粒度調整した肥料です。粉状または粒状の形態で販売されています。カルシウム分とマグネシウム分を含んでおり、主に肥料や土壌改良材等に利用されております。
苦土石灰の一番の使用目的として、土壌酸度(pH)の矯正があります。苦土石灰に含まれるカルシウムは、水に溶けにくく、カルシウムの効きは遅いです。しかし、植物の根を痛める心配は少ないため、プロ農家だけではなく家庭菜園や園芸でもよく使われる資材です。
マグネシウムも含まれているため、土壌にマグネシウムを補給する事ができます。ただし先述したとおりカルシウムが含まれているため土壌酸度の矯正が必要ない場合には、カルシウム分が含まれていない塩化マグネシウムや硫酸マグネシウムを使用したほうが良いでしょう。
炭酸カルシウム
炭酸カルシウムとは、石灰石、石灰岩を粉砕したもので、近年は利便性の良い粒状のものが多く販売されています。水に溶けにくく、カルシウムの効き方はゆっくりと効きます(緩効性)。
土壌中の中和反応(硝酸や硫酸、塩酸と反応して溶解する)が徐々に進み、反応が穏やかで効き目が持続する性質を持っています。
硝酸カルシウム
硝酸カルシウムは、水溶性でありカルシウムの効きが早いことが特徴です。また、窒素分には畑の作物が吸収しやすい硝酸態窒素を主成分としています。
アルカリ性のため、元肥として土壌酸度(pH)の矯正にも使用することができます。また、水溶性であることから追肥として施されることも多いです。特に水耕栽培において、カルシウム分と窒素分の追肥として施されることも多い肥料です。
硫酸カルシウム
硫酸カルシウムは、「石膏」とも呼ばれ、水溶性であり土壌溶液に溶けやすく、作物が根からカルシウムを吸い上げやすいことが特徴です。また、弱酸性または中性であるため、土壌酸度(pH)が上昇しにくいため、土壌酸度(pH)を高めずにカルシウムを施したい場合に最適です。
肥料名称として有名なものは、「畑のカルシウム」や「エコカル」です。最近では散布がしやすいようにペレット上に加工されているものもあります。
硫酸カルシウムは、溶液に溶けやすいことから葉面散布剤としてもよく使われています。「ダーウィンFC」はカルシウムの葉面散布剤として有名ですが、硫酸カルシウムが主な成分です。
過酸化カルシウム(過酸化石灰)
過酸化カルシウム(過酸化石灰)は、土壌への酸素供給剤や土壌酸度(pH)の矯正によく使われます。水に触れると徐々に水酸化カルシウム(消石灰)と過酸化水素となり、過酸化水素はカタラーゼの作用により、酸素を発生させます。
土壌酸素供給剤の「ネオカルオキソ」には過酸化水素が含まれており、上記反応によって土壌へ酸素を供給する資材となっています。固く締まりやすい土壌や水はけの悪い土壌に対して、定植前や土寄せのときに施用すると効果があります。
なお、過酸化カルシウムも最終的には水酸化カルシウムとして作用するので、使用すると土壌酸度(pH)が高まりますので使用にあたっては土壌酸度(pH)のバランスが崩れないようにすることが重要です。
牡蠣(カキ)殻、貝殻肥料(有機石灰肥料)
「貝化石」や「カキ殻石灰」などは有機石灰肥料と呼ばれます。貝化石は、貝化石層から原料を採取し、加工した肥料です。炭酸カルシウム、マグネシウムなどを含むほかミネラル分も含んでいます。カキ殻石灰は、カキの殻を焼いて細く砕いたもので、カルシウムの補給や土壌酸度(pH)の矯正によく使われます。
化成肥料と異なり有機質肥料なので、肥料成分の補給にとどまらず、堆肥となり土壌改良の効果も期待できます。有機物が有用な菌などの微生物の餌となることで、微生物の活性が高まり、団粒構造が促進されます。団粒構造が形成された土壌は、保水性、透水性、排水性が良好で、作物の増収や品質向上につながります。
さらに、微生物による分解や発酵(醗酵)などで堆肥化し地力の高まった土壌では、病害虫(病気と害虫)の発生が少ないため、農薬(殺菌剤や殺虫剤)の散布を抑えられるという利点もあります。
どの肥料もカルシウムの補給や土壌酸度(pH)の矯正に使用されます。反応がゆっくりであるため、根を傷めにくく散布後すぐに苗の植え付け・定植・播種しても問題ありません。逆に、土壌酸度(pH)の矯正をすぐに行いたい場合には適しません。
草木灰
草木灰とは、焼かれた草木(草や木)に由来する灰(炭)のことで、カリウムが豊富に含まれるためカリ肥料として利用されます。焼かれた草木(草や木)の種類によって成分含有量が異なるため、「特殊肥料」に分類されています。
燃やす草木(草や木)の種類によって成分含有量が異なりますが、カリウムとカルシウムが含まれています。したがって、草木灰の用途として、カリウムとカルシウムを供給する肥料の役割があります。また他の石灰肥料と同じく、土壌、用土を中性に調節する効果がありますが、消石灰や生石灰ほど強いアルカリ性でないため、使いやすい肥料です。
石灰窒素
石灰窒素も単肥としてよく使われる肥料の一つで、窒素肥料の一つです。石灰窒素は石灰石を原料とするカーバイドに高温で窒素を吸収化合させたもので、窒素成分の他に、カルシウムや炭素成分が含まれています。石灰窒素の特長としては、以下の3点が挙げられます。
- 土壌から流亡しにくく、緩効性があり、施肥量・回数を削減することができる。
- 土壌の酸度(pH)矯正ができる。
- 有機物の腐熟を促進し、ふかふかの土を作ることができる。
石灰窒素は、土作り、耕す際、土壌の酸度(pH)を高めつつ窒素を施用したい場合や有機態窒素の無機化を促進させたい場合に使用します。基本的には追肥というより、土作りのときに元肥として施用することがほとんどです。元肥として施用する場合には、植え付け、作付(定植)の2週間前には土壌に混ぜ込んでおくことが必要となります。粉状、粒状などの形態があるので使いやすいものを選択しましょう。
また、石灰窒素は農薬成分であるカルシウムシアナミドが含まれていて、土壌中で水分と反応して有効成分のシアナミドを分離し、このシアナミドが病害虫と接触して効果をあげる殺虫、殺菌効果を持ちます。さらにシアナミドは雑草に対して除草、防草効果もあります。石灰窒素の防除、除草効果について詳しく知りたい方は下記を参考にしてください。
また、生石灰は海苔やお菓子の湿気を防ぐために「石灰乾燥剤」としてもよく使われています。
その他のカルシウム肥料
有機キレートカルシウム
近年、カルシウムの葉面散布剤としてよく使用されている肥料が「有機キレートカルシウム」です。
従来、無機のカルシウムイオンである硝酸カルシウムや塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどをそのまま水に溶かして葉面散布をしていましたが、植物への吸収や植物体内の移行性が低く、効果が思ったよりも見られないことがありました。これは植物体内の有機酸とカルシウムが結合してしまい、不溶性のカルシウムとなってしまうためです。
有機キレートカルシウムは、無機のカルシウムを水に馴染みやすい有機酸(キレート剤:クエン酸やりんご酸、EDTAなど)とあらかじめ結合させ、葉の中にある他の有機酸には反応しないように加工し、植物体内でカルシウムが移動しやすくするようにしたものです。「カルプラス」や「カルエキス」「本気Ca(マジカル)」などがカルシウムの葉面散布剤として有名ですが、これらも有機キレートカルシウム剤です。
含まれている成分によって、適用作物が異なることがありますので必ずラベルの適用作物を確認しましょう。
クエン酸カルシウム
クエン酸カルシウムは、カルシウムをクエン酸でキレート結合させた有機キレートカルシウム剤です。他の有機キレートカルシウム剤と同様の効果を発揮します。クエン酸カルシウムを含んだカルシウム剤の「ビタカルシウム」は、りんごのビターピット(カルシウム欠乏症の一つ)の防止に役立てることができます。
酢酸カルシウム
酢酸カルシウムは、カルシウムを酢酸でキレート結合させた有機キレートカルシウム剤です。他の有機キレートカルシウム剤と同様の効果を発揮します。酢酸カルシウムを含んだカルシウム剤として「本気Ca(マジカル)」があり、キャベツ・白菜の芯腐れやりんごのビターピット、トマトの尻腐れ、イチゴのチップバーンなどのカルシウム欠乏症の予防に役立てることができます。
ケイ酸カルシウム
ケイ酸カルシウムは、カルシウムのほかにケイ酸の補給効果があります。そのため、ケイ酸の効果が大きく現れる水稲の土作り資材として有効な資材です。
特に「ケイカル」という肥料が有名で、カルシウム、ケイ酸の他にマンガン、鉄、ホウ素などの微量要素を含むため、水田の土作り資材としてよく使われます。もちろん、畑の資材としても使用することができます。
リン酸カルシウム
リン酸カルシウムは、その名の通りリン酸とカルシウムが結合した化合物です。リン酸カルシウム単体は不溶性であり、施肥しても肥料としての効果は現れづらいです。
リン酸肥料の一種である過リン酸石灰は、リン酸カルシウムを硫酸で分解して作られます。水溶性のリン酸とカルシウム(硫酸カルシウム)を含んでいるため、速効性があります。元肥としても追肥としても使用することができ、油かすや魚粉と混ぜて使うことも可能です。
家庭菜園や園芸で気軽に使えるカルシウム肥料とその使い方
家庭菜園や園芸で気軽に使えるカルシウム肥料として、以下の資材があります。生石灰や消石灰などは取り扱いが難しいので、まずは下記の資材の使用を検討してみてください。「トマトの尻腐れ予防スプレー」などの葉面散布剤もおすすめです。
元肥・追肥の散布剤として使うなら・・・
苦土石灰やカキ殻石灰や貝化石などの有機石灰がおすすめです。反応も緩やかで有害なガスや発生したりする心配も少ないです。また、毒性などもないので取り扱いがしやすく、家庭菜園や園芸にはピッタリです。散布後にすぐに定植・播種が行えるという点でもおすすめできます(ただし、肥料をなじませるために1〜2週間程度おいたほうがより良いでしょう)。
カルシウム欠乏症の予防、対処として使うなら・・・
有機キレートカルシウム剤がおすすめです。キレート化されているので植物体内にすばやく吸収、移行され、効果が現れやすいです。家庭菜園や園芸にも使いやすい「トマトの尻腐れ予防スプレー」や「カルタス」、「カルプラス」など多数の有機キレートカルシウム剤が販売されています。
石灰・カルシウム肥料の使い方と施用量
基本的には土作りの際の土壌酸度(pH)の矯正やカルシウム分の補給のために使用します。使用する量は、その土壌の酸度や栽培する作物の適正pHによって異なります。土壌診断や土壌酸度計による酸度測定を行って、適正なpHになるように施肥しましょう。
また、カルシウム肥料は他の資材との混合による使用を避けたほうがよいものが多数あります。肥料ラベルに注意事項が記載されていますので必ず読みましょう。基本的に、カルシウム肥料はアルカリ性資材ですので、酸性資材と混ぜ合わせると有害なガスが発生したりします。
カルシウムの積極的な施肥が必要な作物
カルシウムは欠乏しがちな要素の一つとなります。果樹や果菜類、葉菜類といった野菜類など多様な植物に対してカルシウム欠乏症が発生する可能性があるため、注意が必要です。全般的に新しい葉の葉先が枯れたり、果実の尻腐れなど、植物の生長が盛んな部分に異常が出ます。
以下に解説する症状が出た場合には、カルシウム欠乏を疑いましょう。
果樹
リンゴ
「ビターピット(苦痘病)」が現れます。果実の皮にくぼみができ、果肉や皮に茶色の斑点が現れます。斑点部分の味が苦くなることからビターピットと呼ばれています。
カンキツ
新梢葉(新梢に付いている葉)の先端から、黄化症状が出始めます。さらに症状が進むと、葉の全体が黄化していきます。
果菜類
トマト
尻腐れが発生します。実が赤くなる前に、花の先端(果実の尻の方)が柔らかくなり、黒褐色になって陥没します。
イチゴ
新芽の展開時に先端部が枯れる「チップバーン」が現れます。症状が進むと新芽全体が展開前に枯れます。
ピーマンなどのトウガラシ属
尻腐れが発生します。花の先端(果実の尻の方)において、くぼみが発生し、その部分から乾燥、腐敗が進みます。
葉菜類
ハクサイ
芯腐れ(心腐れ)、縁腐れが発生します。芯の部分や葉の縁の部分が枯れます。
レタス
縁腐れが発生します。葉の縁の部分が枯れます。
根菜類
サトイモ
芽つぶれ症が発生します。サトイモの子・孫イモの芽の部分が欠落して、中身が露出している状態になり、そこから腐敗します。
ダイコン・カブ
心腐れ(芯腐れ)が発生します。
その他、石灰肥料を使うときの注意点
カルシウムは地域によってはそもそも、水道水や井戸水にある程度含まれている場合もあります。その場合はカルシウムを与える量も変わってきます。できれば農業用水の水質調査を行い、水にどんな成分が含まれているのか調べることをおすすめします。
石灰・カルシウムの成分について
「カルシウム」と「石灰」
石灰肥料について調べていると「カルシウム」という単語をよく目にすると思います。「石灰」はそもそも、生石灰(酸化カルシウム・CaO)または消石灰(水酸化カルシウム・Ca(OH)2)のことを指しますが、単純な炭酸カルシウム(CaCO3)やカルシウム(Ca)を指すこともあります。
つまり、肥料で「石灰」と名前が付くものは、カルシウム系の資材となります。
カルシウムは植物に必要な多量要素!主な効果は?
カルシウムは植物にとって重要な多量要素(二次要素)の一つです。カルシウム成分は栽培において、以下の働きがあります。
- ペクチンという多糖類と結合し、細胞膜を丈夫にして病害虫に対する抵抗力をつける働き
- 根の生育を促進する働き
- 植物体内でできる過剰な老廃物(有機酸)を中和する働き
- 土壌酸度(pH)の調整剤としての働き
カルシウムが不足(欠乏)すると、生長の盛んな新芽や根の生育が悪くなります。カルシウムは植物体内での移動がほとんどありませんので、新芽に症状があらわれやすいのが特徴です。
また、カルシウム欠乏症は単に土壌中のカルシウム成分が不足している場合だけでなく、土壌の酸性化、乾燥、窒素過多など養分バランス(塩基バランス)の崩れが原因の場合も多くあります。カルシウム成分を与えているにも関わらず、カルシウム欠乏が発生する場合には、土壌の水不足や養分バランス(塩基バランス)にも気を使ってみてください。
代表的なカルシウム欠乏症(石灰欠乏症)には、トマトのしり腐れ果、ハクサイの心腐れ・縁腐れ、レタス、イチゴのチップバーン、ネギ、ユリの葉先枯れ、サトイモの芽つぶれなどがあります。肥料のラベルなどには元素記号で「Ca」と表される事が多いです。
カルシウム過剰は、通常の栽培では起きにくいことですが、極端に過剰な状態が続くと土壌がアルカリ性となり、生育不良を引き起こします。特に、土壌酸度(ペーハー)が高くなるとマンガン、亜鉛、鉄、ホウ素などの微量要素の吸収が阻害され、欠乏症状を引き起こします。
土壌を適正な環境に整え、適量を必要なときに与え続けることが重要となります。
カルシウムはチッソ、リン酸、カリウムと合わせて肥料の4要素まで言われたりもしますが、このようなカルシウムの土壌の酸性を改良する特性から間接肥料とも呼ばれたりします。