栽培によく使われる石灰(せっかい)肥料。そもそも石灰肥料とはどういうものでしょうか。この記事では、石灰肥料の種類やそれぞれの基本的な使い方について解説します。
石灰肥料とは?
「カルシウム」と「石灰」
石灰肥料について調べていると「カルシウム」という単語をよく目にすると思います。「石灰」はそもそも、生石灰(酸化カルシウム・CaO)または消石灰(水酸化カルシウム・Ca(OH)2)のことを指しますが、単純な炭酸カルシウム(CaCO3)やカルシウム(Ca)を指すこともあります。
つまり、肥料で「石灰」と名前が付くものは、カルシウム系の資材となります。
カルシウムの効果
カルシウムは植物にとって重要な多量要素(二次要素)の一つです。(植物に必要な栄養素(チッソ、リン酸、カリの三要素、多量要素、微量要素)について詳しく知りたい方はこの記事の最後の補足をチェックしてください。)
カルシウム成分は栽培において、以下の働きがあります。
- ペクチンという多糖類と結合し、細胞膜を丈夫にして病害虫に対する抵抗力をつける働き
- 根の生育を促進する働き
- 植物体内でできる過剰な老廃物(有機酸)を中和する働き
- 土壌酸度(pH)の調整剤としての働き
カルシウムが不足(欠乏)すると、生長の盛んな新芽や根の生育が悪くなります。カルシウムは植物体内での移動がほとんどありませんので、新芽に症状があらわれやすいのが特徴です。
また、カルシウム欠乏症は単に土壌中のカルシウム成分が不足している場合だけでなく、土壌の酸性化、乾燥、窒素過多など養分バランス(塩基バランス)の崩れが原因の場合も多くあります。カルシウム成分を与えているにも関わらず、カルシウム欠乏が発生する場合には、土壌の水不足や養分バランス(塩基バランス)にも気を使ってみてください。
代表的なカルシウム欠乏症(石灰欠乏症)には、トマトのしり腐れ果、ハクサイの心腐れ・縁腐れ、レタス、イチゴのチップバーン、ネギ、ユリの葉先枯れ、サトイモの芽つぶれなどがあります。肥料のラベルなどには元素記号で「Ca」と表される事が多いです。
カルシウム過剰は、通常の栽培では起きにくいことですが、極端に過剰な状態が続くと土壌がアルカリ性となり、生育不良を引き起こします。特に、土壌酸度(ペーハー)が高くなるとマンガン、亜鉛、鉄、ホウ素などの微量要素の吸収が阻害され、欠乏症状を引き起こします。
土壌を適正な環境に整え、適量を必要なときに与え続けることが重要となります。
カルシウムはチッソ、リン酸、カリウムと合わせて肥料の4要素まで言われたりもしますが、このようなカルシウムの土壌の酸性を改良する特性から間接肥料とも呼ばれたりします。
石灰肥料の種類
石灰肥料(カルシウム肥料)には、下記の表のように、様々な種類があります。
名称 | 土壌酸度(pH)アルカリ側への矯正の強さ | カルシウムの肥効 | 特徴 |
---|---|---|---|
生石灰 (酸化カルシウム) | 強 | 速効性 | 加水により発熱し消石灰に変化する。速効性がある、アルカリ性が強い。施肥後、定植・播種まで2週間以上おく。反応が強すぎるので取り扱いづらい。 |
消石灰 (水酸化カルシウム) | 強 | 速効性 | 空気中の二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムとなる。速効性があり、アルカリ性が強い。施肥後、定植・播種まで20日以上おく。反応が強すぎるので取り扱いづらい。 |
石灰窒素 | 強 | 速効性 | 加水されるとシアナミドと水酸化カルシウムが生成され、やがてシアナミドも変化し窒素として吸収される。消石灰とほぼ同等の水酸化カルシウムが含まれている。 |
炭酸カルシウム | 中 | 緩効性 | 水に溶けにくく、カルシウムの効き方は緩効性である。反応が穏やかで効き目が持続する。 |
硝酸カルシウム | -(弱酸性) | 速効性 | 水に溶けやすく、カルシウムの効きは早い。硝酸態窒素も含み、水耕栽培によく使用される。 |
苦土石灰 | 中 | 緩効性 | 水に溶けにくく、カルシウムの効きは遅い。マグネシウムも含まれており、補給ができる。散布後すぐに定植・播種することができる。「ドロマイト」と呼ばれる岩石を粉砕したもの。 |
カキ殻石灰 | 中 | 緩効性 | カキ殻を粉砕したもの。海のミネラル分も含む。炭酸カルシウムほどではないが、土壌pHを高める。 |
貝化石 | 弱 | 緩効性 | 古代の貝やヒトデの化石。海のミネラル分も含む。 |
草木灰 | 弱 | 緩効性 | 焼かれた草木(草や木)に由来する灰のことで、カリウムが豊富に含まれる。 |
塩化カルシウム | -(中性・弱酸性) | 速効性 | 水に溶けやすく、作物に利用されやすい。土壌酸度(pH)の矯正には使えない。葉面散布にもよく使われた。 |
硫酸カルシウム | -(中性・弱酸性) | 速効性 | 土壌溶液に溶けやすく、作物に利用されやすい。弱酸性または中性であり土壌酸度(pH)の調整には使えない。「畑のカルシウム」が有名。葉面散布にもよく使われた。 |
それぞれについてより詳しい情報、また購入したい方は、下記を参照してください。
石灰肥料の使い方
石灰肥料の基本的な使い方
石灰肥料は、基本的には土作りの際の土壌酸度(pH)の矯正やカルシウム分の補給のために使用します。使用する量は、その土壌の酸度や栽培する作物の適正pHによって異なります。出来れば土壌診断や土壌酸度計による酸度測定を行って、適正なpHになるように施肥しましょう。
また、石灰肥料は他の資材との混合による使用を避けたほうがよいものが多数あります。肥料ラベルに注意事項が記載されていますので必ず読みましょう。基本的に、石灰肥料はアルカリ性資材ですので、酸性資材と混ぜ合わせると有害なガスが発生したりします。
また石灰肥料の中でも、粒状の化成肥料のほかに、牡蠣殻、貝殻や草木灰といった有機質肥料があります。これらは用土を耕し混ぜて堆肥化するのに有効です。また化成肥料の石灰窒素のように、防虫や防草(雑草を生えにくくする)といった効果をもつものもあります。
家庭菜園や園芸で気軽に使える石灰肥料(カルシウム肥料)
家庭菜園や園芸で気軽に使えるカルシウム肥料として、以下の資材があります。生石灰や消石灰などは取り扱いが難しいので、まずは下記の資材の使用を検討してみてください。「トマトの尻腐れ予防スプレー」などの葉面散布剤もおすすめです。
元肥・追肥の散布剤として使うなら・・・
苦土石灰やカキ殻石灰や貝化石などの有機石灰がおすすめです。反応も緩やかで有害なガスや発生したりする心配も少ないです。また、毒性などもないので取り扱いがしやすく、家庭菜園や園芸にはピッタリです。散布後にすぐに定植・播種が行えるという点でもおすすめできます(ただし、肥料をなじませるために1〜2週間程度おいたほうがより良いでしょう)。
カルシウム欠乏症の予防、対処として使うなら・・・
有機キレートカルシウム剤がおすすめです。キレート化されているので植物体内にすばやく吸収、移行され、効果が現れやすいです。家庭菜園や園芸にも使いやすい「トマトの尻腐れ予防スプレー」や「カルタス」、「カルプラス」など多数の有機キレートカルシウム剤が販売されています。
また、海苔やお菓子の包装の中に入っている乾燥剤の中には生石灰として肥料に使えるものもあります。
その他 注意点
カルシウムは地域によってはそもそも、水道水や井戸水にある程度含まれている場合もあります。その場合はカルシウムを与える量も変わってきます。できれば農業用水の水質調査を行い、水にどんな成分が含まれているのか調べることをおすすめします。
石灰(カルシウム)の積極的な施肥が必要な作物
カルシウムは欠乏しがちな要素の一つとなります。果樹や果菜類、葉菜類といった野菜類など多様な植物に対してカルシウム欠乏症が発生する可能性があるため、注意が必要です。全般的に新しい葉の葉先が枯れたり、果実の尻腐れなど、植物の生長が盛んな部分に異常が出ます。
以下に解説する症状が出た場合には、カルシウム欠乏を疑いましょう。
果樹
リンゴ
「ビターピット(苦痘病)」が現れます。果実の皮にくぼみができ、果肉や皮に茶色の斑点が現れます。斑点部分の味が苦くなることからビターピットと呼ばれています。
カンキツ
新梢葉(新梢に付いている葉)の先端から、黄化症状が出始めます。さらに症状が進むと、葉の全体が黄化していきます。
果菜類
トマト
尻腐れが発生します。実が赤くなる前に、花の先端(果実の尻の方)が柔らかくなり、黒褐色になって陥没します。
イチゴ
新芽の展開時に先端部が枯れる「チップバーン」が現れます。症状が進むと新芽全体が展開前に枯れます。
ピーマンなどのトウガラシ属
尻腐れが発生します。花の先端(果実の尻の方)において、くぼみが発生し、その部分から乾燥、腐敗が進みます。
葉菜類
ハクサイ
芯腐れ(心腐れ)、縁腐れが発生します。芯の部分や葉の縁の部分が枯れます。
レタス
縁腐れが発生します。葉の縁の部分が枯れます。
根菜類
サトイモ
芽つぶれ症が発生します。サトイモの子・孫イモの芽の部分が欠落して、中身が露出している状態になり、そこから腐敗します。
ダイコン・カブ
心腐れ(芯腐れ)が発生します。
(補足)植物に必要な三大栄養素(三要素)と微量要素
植物が育つために必要な三大栄養素(三要素)は窒素(チッソ)、リン酸(リンサン)、カリウム(カリ・加里)です。まずはこの三要素と中量要素、微量要素について、おさらいしましょう。
窒素(チッソ)とは
窒素(N)は、肥料の三要素の一つで植物の生育に最も大きく影響する要素です。光合成に必要な葉緑素、植物の体を形作るタンパク質など、植物が生長する上で重要な働きをする物質となります。窒素肥料は「葉肥(はごえ)」とも呼ばれ、生育の初期に効果的であり、茎と葉の生長に大きく影響します。
リン酸(リンサン)とは
リン酸(P)は、肥料の三要素の一つで植物の遺伝情報の伝達やタンパク質の合成などを担う核酸の重要な構成成分となります。施肥を考える上では、「実肥」と呼ばれ、開花・結実を促すためにリン酸が必要となります。また、植物全体の生育や分げつ、枝分かれ、根の伸長など様々な要素に関わっています。
カリウム(加里・カリ)とは
カリウム(K、加里)は、肥料の三要素の一つで植物体内でカリウムイオンとして存在しています。カリウムイオンは葉で作られた炭水化物を根に送り、根の発育を促したり、植物を丈夫にして病気などに対する抵抗力を高める働きがあります。そのため、カリウム肥料は「根肥(ねごえ)」と呼ばれます。
その他の中量要素
窒素、リン酸、カリウムの三要素以外の中量要素として、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、マグネシウム(Mg)があります。
要素名 | 主な役割 |
---|---|
カルシウム(石灰・Ca) | 葉や実の組織を作る(細胞膜の生成と強化)、根の生育促進 |
硫黄(S) | 酸化・還元・生長の調整などの植物の生理作用や葉緑素(葉にある光合成を担う葉緑体に含まれる)の生成に関与 |
マグネシウム(苦土・Mg) | 葉緑素の構成元素、リン酸の吸収と移動 |
また、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)も中量要素ですが、主に水や大気から吸収される要素です。
微量要素とは
微量要素には、ホウ素(B)、塩素(Cl)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)があります。三要素や多量要素と比較すると、必要な量は多くありませんが、欠乏すると様々な生理障害が発生します。
要素名 | 主な役割 |
---|---|
ホウ素(B) | 細胞壁の生成、カルシウムの吸収と転流 |
塩素(Cl) | 光合成(光合成の明反応) |
マンガン(Mn) | 葉緑素の生成、光合成、ビタミンCの合成 |
鉄(Fe) | 葉緑素の生成、鉄酵素酸化還元 |
亜鉛(Zn) | 酵素の構成元素、生体内の酸化還元、オーキシンの代謝、タンパク質の合成 |
銅(Cu) | 光合成や呼吸に関与する酵素の構成元素 |
モリブデン(Mo) | 硝酸還元酵素(硝酸をタンパク質にする過程で利用される)、根粒菌の窒素固定 |
ニッケル(Ni) | 尿素をアンモニアに分解する酵素の構成元素、植物体内で尿素を再利用 |