トビイロウンカは秋ウンカとも呼ばれ、稲(イネ)に被害をもたらす大変有名で、厄介な害虫です。ここではトビイロウンカとはどういう虫なのか、その特性と、トビイロウンカを駆除、防除するための農薬について解説します。
そもそも、トビイロウンカはどういう害虫?
トビイロウンカとは?
トビイロウンカは半翅目ウンカ科に属する昆虫です。日本で農業害虫として認知されているウンカ類は3種類のウンカ(セジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ)が有名ですが、その中でもトビイロウンカは特に被害が大きく、よく話題にあがります。
南西諸島や九州では5月、西日本は梅雨時期6月中旬〜7月中旬に飛来し、年3〜4回発生します。産卵された卵は1週間ほどで孵化し、2週間ほどで成虫にと、産卵から4週間ほどで成虫と、生長サイクルが早いのが特徴です。国内で越冬はしません。
稲(イネ)の株元に群れるのが特徴で、最初に飛来したウンカの子供(第1世代)、孫(第2世代)、ひ孫(第3世代)と代を重ね、秋に急激に増殖します。このため、秋ウンカと呼ばれます。秋ウンカの被害発生日は第3世代の発生する時期なので、大体飛来から70日後以降、9月の中旬あたりが目安になります。
色は鳶色,すなわち茶褐色で、体の大きさはセジロウンカより少し大型、雌が約5mm、雄は約4mmほどになります。
どうしてトビイロウンカは害虫なのか?
トビイロウンカを含むウンカ類はイネに発生し、幼虫も成虫もイネの茎や葉にストロー状の口針を刺して吸汁します。大量発生し、激しく吸汁されたイネは枯れてしまいます。また、トビイロウンカが寄生している株元には排泄物に発生する白いカビ、すす病を招きます。
吸汁により枯れ、枯死してしまったイネの群は、水田の中にぽっかり穴が空いたように見えることから、このような現象を「坪枯れ」と呼んでいます。
トビイロウンカに効く農薬
トビイロウンカは生育サイクルが早く、抵抗性を持ちやすいのが特徴です。以前効いていた農薬が効かないことはままあります。
以下の代表的な農薬の種類と種類別の対応表を参考に、ローテーション活用など、IPM(総合的害虫管理)をお勧めします。
トビイロウンカに効く代表的な農薬(箱処理剤 以外)
有機リン系 スミチオン
有機リン系殺虫剤は殺虫剤の中でも、昆虫の神経系を阻害するタイプで、殺虫剤の代表的なタイプです。代表的な有機リン系農薬は、エルサン、オルトランやスミチオンがあります。
ネオニコチノイド系 モスピラン、スタークル、ダントツなど
ネオニコチノイド系とは、90年代に登場した比較的新しい殺虫成分で、ニコチンの仲間です。ニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、信号の伝達を阻止し、結果、昆虫は麻痺し、死に至ります。
浸透性、速効性、持続性が優れていることや幅広い殺虫スペクトラムを持つため、現在非常によく使用されている殺虫剤です。代表的な製剤ダントツやネオニコチノイド系農薬については下記で詳しく説明しています。ご参考ください。
家庭園芸でよく使われる住友化学の「ベニカベジフルVスプレー」や「ベニカXファインスプレー」「ベニカXネクストスプレー」「ベニカベジフルスプレー」は、ネオニコチノイド系のクロチアニジンを成分にしています。
トビイロウンカに効く農薬一覧表
RACコード別に分類した、トビイロウンカに効く代表的な農薬は以下のようになります。
※農薬を使用する際にはラベルをよく読み、適用作物、用法・用量、使用適期を守ってお使いください。
殺虫剤はコナジラミだけでなく、アザミウマ類、カイガラムシ類やハダニ類、アブラムシ類、ヨトウムシ、コガネムシ、ハスモンヨトウ、ネキリムシ、ヨコバイ、ハモグリバエ、ハマキムシ、イラガ、カメムシ、ウンカ、メイガ、ハムシ、ケムシ、テントウムシダマシ、ナメクジ、シンクイムシなど幅広い殺虫スペクトラムを持つものも多いので、うまく活用しましょう。
上記の農薬は原液を水で溶かして薄めて使用する液剤や水溶性の粉剤、粒状、粒タイプです。適切な量、希釈方法等については下記をご参考ください。
トビイロウンカに効く水稲育苗箱処理剤(通称「箱剤」「箱処理剤」)
RACコード別に分類した、トビイロウンカに効く代表的な箱剤は以下のようになります。
IRACコード | グループ名 | ウンカ類 |
---|---|---|
2B | フェニルピラゾール系 (フィプロール系) | ビームプリンスグレータム箱粒剤 |
4A | ネオニコチノイド系 | エバーゴルワイド箱粒剤 ツインターボフェルテラ箱粒剤 デジタルコラトップアクタラ箱粒剤 デラウスダントツ箱粒剤 DR.オリゼスタークル箱粒剤 フルサポート箱粒剤 ブイゲットアドマイヤースピノ箱粒剤 |
28 | ジアミド系 | フェルテラチェス箱粒剤 サンエース箱粒剤 サンスパイク箱粒剤 サントリプル箱粒剤 サンフェスタ箱粒剤 箱維新粒剤 防人箱粒剤 |
水稲育苗箱処理剤とは、稲の育苗箱に処理するために作られた農薬で、殺虫剤と殺菌剤の混合剤です。田植え(移植)後の本田での農薬散布を減らせることや、育苗箱時に農薬を使用することで散布ムラをなくし、薬剤効果を安定させます。このため、水稲育苗箱処理剤は次第に普及しています。
特にチェス(ピメトロジン)という、RACコード「9B」(ピリジン アゾメチン誘導体)の農薬が、ネオニコチノイド系やフィプロニルの抵抗性を持つウンカ類に対して、高い効果を発揮することから、チェスが含有された箱粒剤が近年普及しています。
また、最近では、抵抗性ウンカ対策として、規有効成分ピラキサルト(一般名:トリフルメゾピリム)RACコード「4E(メソイオン系)」を含む箱剤ゼクサロンも販売されています。
抵抗性トビイロウンカの対処法
抵抗性トビイロウンカとは、農薬の種類、活用が増えることで、たまたま耐性があって生き残った特定の農薬が効かない性質のトビイロウンカが、世代を重ねて集団化したものです。
ウンカ類は発育スピードが速く、短期間で世代を繰り返すため、ほかの害虫より抵抗性の発達スピードが速い害虫です。
殺虫剤を散布しても、翌日集団でウンカが生息している場合は、抵抗性を疑ってよいでしょう。
このような場合は、お使いの農薬のRACコードを確認して、タイプの異なる殺虫剤のローテーション散布を心がけること、さらには生物的、物理的、耕種的防除法を取り入れたIPM防除体系を組んで、統合的に実践することが重要です。
生物農薬(生物的防除)
生物農薬とは、「農薬の目的に使われる生物を使い、病害を防除する農薬」のことを言います。
その生物とは主に、昆虫、線虫、微生物で、害虫(例えばアブラムシやアザミウマ、コナジラミ、ハダニなど)を捕食する、天敵に当たる昆虫や、昆虫に寄生するもの、センチュウ、また病原菌にあたる生物になります。
天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。
トビイロウンカの天敵としては、アイガモが有名です。アイガモは虫が大好物で、かなりの量のウンカを食べます。
その他、生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、興味がある方はご参考ください。
物理的防除
廃食油などを水面に垂らして、ウンカを落とし、溺死させる
9月中旬頃に秋ウンカの発生が目立ってきた場合に油を10a当たり約2L(リットル)程、水口側のアゼを歩きながら、5m間隔で水面に垂らして油膜を作ります。
その後、株元にいるウンカを水面に落とすことで溺死させる方法です。雲霞が多発している場合はブロワーなどを使用すると効果的です。
水面に油膜を作ってウンカを落とすこの方法は、江戸時代の書物にも残っているという昔から有効な防除方法です。新しい油は水面で広がりにくいので、使い古しの廃油を使うのがおすすめです。
耕種的防除
チッソ(窒素)を減らす
施肥がチッソ過多になるとイネが必要以上に繁茂し、ウンカの大量発生を招いてしまいます。このため、チッソ過多にならないように適切な施肥量を保つことが重要です。
周りをしっかり除草する
圃場の周りに、イネ科雑草があると、トビイロウンカの発生を促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけ除草して綺麗な田んぼにしておくことが、被害を少なくするのに極めて重要です。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。
まとめ
ウンカは江戸時代に享保の大飢饉を招いた元凶とも言われ、日本の水稲栽培において、切っても切れない害虫です。近年、大発生が起こるなど、その存在感は相変わらず際立っており、いもち病、ジャンボタニシと並んで稲作農家にとって非常に厄介な病害虫です。
病害虫防除所や関係機関から発出される予察情報等に注意し、飛来を予測できると、被害発生時期の予測もでき、防除しやすくなります。
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、退治できると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
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