白い線で絵を描いたような食害痕を残すので、「エカキムシ」とも呼ばれるハモグリバエ。ここではハモグリバエとはどういう虫なのか、その特性と、ハモグリバエを駆除、防除するための農薬、またその他の効果的な方法、対策についても解説します。
そもそも、ハモグリバエはどういう害虫?
ハモグリバエとは?
ハモグリバエは、ハエ目ハモグリバエ科(学名:Agromyzidae)に属する昆虫です。全世界で2500種以上の種類があり、日本では1990年代から農業害虫として認知されています。主に日本では、トマトハモグリバエ、マメハモグリバエ、ナモグリバエの3種類が有名です。
種類 | トマトハモグリバエ (L.satibae) | マメハモグリバエ (L.trifolli) | ナモグリバエ (C.horticora) |
---|---|---|---|
成虫の大きさ(体長) | 1.3~2.3㎜ | 約2㎜ | 1.7~2.5㎜ |
幼虫の大きさ(体長) | 約3㎜ 蛹:1.3~2.3㎜ | 2.5㎜ 蛹:約2㎜ | 約3㎜ |
特徴 | 主に葉表を食害。 線状、蛇行型の食害痕。 | 主に葉表を食害。 渦巻き型の食害痕。 | 主に葉裏を食害。 点状(斑点)の食害痕。 |
主な寄生植物 | マメ科:インゲン,エンドウ,ソラマメ ナス科:トマト,ピーマン ウリ科:カボチャ,キュウリ,メロン | マメ科:インゲン,エンドウ,ソラマメ ナス科:トマト,ピーマン ウリ科:カボチャ,キュウリ,メロン キク科:キク,シュンギク,ガーベラ アカザ科:ホウレンソウ アブラナ科:コマツナ | マメ科:エンドウ キク科:レタス |
幼虫は葉の内部に潜り込んでトンネルを掘るように食い進みます。成虫は飛来し、歯の表面を傷つけ、葉の汁を舐めます。生長した幼虫は、ナモグリバエは葉の内部で蛹になり、マメハモグリバエは外に出て蛹になります。マメハモグリバエ以外(トマトハモグリバエ、ナモグリバエ、ネギハモグリバエ、ナスハモグリバエなど)は成虫や蛹で越冬します。葉の組織内に産卵し、孵化した幼虫が葉の内部を食害する、というサイクルです。
どうしてハモグリバエは害虫なのか?
ハモグリバエの幼虫は、葉の内部を食べて、「エカキムシ」と呼ばれるような食害痕を残してしまいます。食害痕で農作物の価値を下げてしまうため、農家にとっては厄介な害虫です。
ハモグリバエに効く農薬
ハモグリバエは農作物の代表的な害虫のため、下記のように、多くの適用農薬があります。
ハモグリバエに効く代表的な農薬
有機リン系
有機リン系殺虫剤は殺虫剤の中でも、昆虫の神経系を阻害するタイプで、殺虫剤の代表的なタイプです。代表的な有機リン系農薬は、エルサン、オルトランやスミチオンがあります。
ネオニコチノイド系 スタークル、モスピランなど
ネオニコチノイド系とは、90年代に登場した比較的新しい殺虫成分で、ニコチンの仲間です。ニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、信号の伝達を阻止し、結果、昆虫は麻痺し、死に至ります。
浸透性、速効性、持続性が優れていることや幅広い殺虫スペクトラムを持つため、現在非常によく使用されている殺虫剤です。ネオニコチノイド系農薬については下記で詳しく説明しています。ご参考ください。
家庭園芸でよく使われる住友化学の「ベニカベジフルVスプレー」や「ベニカXファインスプレー」「ベニカXネクストスプレー」「ベニカベジフルスプレー」は、ネオニコチノイド系のクロチアニジンを成分にしています。
アニキ
アニキ乳剤の最大の特徴は、新規系統の殺虫剤のため、既存の殺虫剤に抵抗性がある害虫に効く可能性が高いこと、また高い即効性(速効性)があること、訪花昆虫・天敵等の有用昆虫に対する悪影響が少ないため、IPM(総合的害虫管理)に非常に適した薬剤であることです。
メタジアミド系 グレーシア
グレーシア乳剤は、日産化学(株)が発明した非常に新しい殺虫剤です。日産化学(株)が開発した新規化合物である、イソオキサゾリン系の有効成分「フルキサメタミド」が害虫の神経に作用して速攻的な殺虫作用を示します。
コナガなどのチョウ目や、アザミウマ目、ハエ目、ダニ目等の幅広い作物害虫に高い効果を発揮します。
ハモグリバエに効く農薬一覧表
RACコード別に分類した、ハモグリバエに効く代表的な農薬は以下のようになります。
※農薬を使用する際にはラベルをよく読み、適用作物、用法・用量を守ってお使いください。
殺虫剤はキスジノミハムシだけでなく、カメムシ類、カイガラムシ類やハダニ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ヨトウムシ、コナジラミ、コガネムシ、ハスモンヨトウ、ネキリムシ、ヨコバイ、ハモグリバエ、ハマキムシ、イラガ、ウンカ、メイガ、ハムシ、ケムシ、テントウムシダマシ、ナメクジ、シンクイムシ、コオロギ、タマネギバエ、ダンゴムシ、ウリハムシ、アオムシ、ゾウムシ、ハバチ、グンバイムシ、モモハモグリガ、ハモグリガなど幅広い殺虫スペクトラムを持つものも多いので、うまく活用しましょう。
上記の農薬は水で溶かして薄めて使用する液剤や水溶性の粉剤、粒剤(粒状や顆粒)です。希釈方法等については下記をご参考ください。
防除する際のポイント
近年では、特定の農薬に抵抗性を持った害虫も多く発生し、農薬の効率的な使用のため、農薬のRACコードを確認して、タイプの異なる殺虫剤のローテーション散布を心がけること、また、農薬の使用量を減少させ、薬害を少なくするために、生物的、物理的、耕種的防除法を取り入れたIPM防除体系を組んで、統合的に実践することが重要になってきています。
生物農薬(生物的防除)
生物農薬とは、「農薬の目的に使われる生物を使い、病害を防除する農薬」のことを言います。
その生物とは主に、昆虫、線虫、微生物で、害虫(例えばアブラムシやアザミウマ、コナジラミ、ハダニなど)を捕食する、天敵に当たる昆虫や、昆虫に寄生するもの、センチュウ、また病原菌にあたる生物になります。
天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。
ハモグリバエ対策に使えるおすすめの生物農薬は、天敵資材としてハモグリミドリヒメコバチ成虫を利用したものがあります。
商品名 | ミドリヒメ |
---|---|
有効成分の種類 | ハモグリミドリヒメコバチ成虫 |
作物名 | 野菜類(施設栽培) |
適用病害虫名 | ハモグリバエ類 |
生物農薬は、在来種以外の天敵昆虫を使用することが多く、本来の生態系に影響を与える恐れがある為、閉鎖系の圃場以外では使用、散布し難いものがあるなどの注意点もあります。
その他、生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、ご参考ください。
物理的防除
防虫ネット
ハモグリバエの被害は直接的な食害なので、網目の細かい防虫ネットなどで農作物を物理的に守るのも効果的です。家庭菜園だと、寒冷紗(かんれいしゃ))も便利です。
黄色の粘着テープで捕まえる
ハモグリバエはアブラムシ、コナジラミなどと同様、黄色のものに集まる習性があります。これを利用して、黄色の粘着テープを設置するのは防除に有効です。
耕種的防除
しっかり除草する
圃場の周りに、特にキク科の雑草があると、ハモグリバエの発生を促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけこまめに除草するのが、被害を少なくするのに極めて重要です。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。
コンパニオンプランツ
ピーマンのフラボノイド配糖体、ニガウリのトリテルペン配糖体が、マメハモグリバエの産卵機能を阻害する、ということが近年の研究で明らかになっています。このため、コンパニオンプランツとして、これらの植物を植えるのも防除に寄与します。
まとめ
植える苗や、播種(は種)、定植して生育している苗木、葉菜類、果樹の葉に食害をもたらすハモグリバエ。ハモグリバエは、トマトハモグリバエ、ナモグリバエ、ネギハモグリバエ、ナスハモグリバエ、マメハモグリバエ、アシグロハモグリバエなど、多くの種類がいます。
農作物の限らず、マリーゴールドや様々な花木、観葉植物の葉、茎にも被害が出ています。本記事が、適切に退治、防除を行うためのハモグリバエ対策の一助となれば幸いです。
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
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