トマトは、ビタミンC、カロテン、リコピンなどを多く含み、栄養や機能性に優れた野菜です。また、イタリア料理はもちろんのこと、日本でも家庭料理によく使われる人気の作物です。
栽培の時期や期間、方法によって、栽培の管理が異なります。家庭菜園では、プランターや鉢植えなどでも育てることができ、比較的手軽に栽培できる作物です。トマトとミニトマトでは、栽培の難易度が異なり、基本的にミニトマトのほうが育てやすく、トマトのほうが難しいと言われています。しかし、管理作業をしっかり行えば、トマトでも問題なく収穫まで栽培することができます。
日本ではプロ農家がビニールハウスを使った施設栽培(ハウス栽培)で長期間栽培(長期採り)されることが多く、トマトが一年中スーパーの店頭に並びます。
トマトの水耕栽培と聞くと、プロ農家だけが取り組んでいる栽培方法のように思えますが、実はご家庭でも簡単に水耕栽培に取り組むことができます。現在では、栽培システムも充実しており、キットを購入するだけで始められるものもあります。
また、一番手軽な水耕栽培の方法はペットボトルを使用した栽培です。トマトでは難しいですが、ミニトマトであれば十分に生長させることができます。
この記事では、トマトの基礎知識とトマトの水耕栽培の基本、おすすめの水耕栽培システム(水耕栽培キット)について、解説します。
そもそも水耕栽培とは?
水耕栽培(Hydropinics)とは、養液栽培の一種で、固形培地を使用しないで栽培する手法のことを指します。水耕法、水栽培などとも呼ばれます。
トマトの水耕栽培と聞くと、上記写真のような植物工場を思い出す方も多いかもしれません。実は、上記写真のような栽培方法は、水耕栽培と呼ばず、ロックウール栽培(養液栽培における固形培地耕の一種)と呼びます。
画像左上にロックウールのスラブ(ロックウールが詰まった細長い栽培培地)があります。わかりますか?
液肥栽培の種類 水耕栽培とはどのようなものを指すのか
水耕栽培は、養液栽培の一種で培地に土などの固形物を用いず、養液(培養液)の供給のみによって栽培する方法です。植物は、養分、水分、場合によっては酸素を培養液から吸収することで生長します。
水耕栽培の長所、短所は以下のように考えられます。
- 長所
- 土耕栽培のような連作障害が起きない
- 生育スピードが土耕栽培に比べて速く、再現性の高い栽培ができる
- 定植、収穫等の作業も比較的綺麗で楽に行うことができる
- 短所
- 作物の生理ストレスへの緩衝作用が弱く、生理障害が起きやすい
- 水伝染性の病害への緩衝作用が弱い
- 土耕栽培よりも肥培管理(培養液管理)が重要であり、常に植物と培養液濃度に注視する必要がある
先述したとおり、水耕栽培にもいくつか種類があり、主に下記3種類の方法が家庭菜園・プロ農家問わず主流となっています。それぞれの特徴をまとめましたので、栽培方法を検討するときに参考にしてください。コストについてはピンキリのため、ここでは取り扱いません。
方式 | DFT | NFT | 保水シート耕 |
---|---|---|---|
培地の有無 | なし | なし | なし |
根のある場所 | 培養液中 | 培養液中・空気中 | 湿気中(透水シートなど)・空気中 |
養分の供給源 | 培養液 | 培養液 | 培養液 |
水分の供給源 | 培養液 | 培養液 | 培養液 |
酸素の供給源 | 培養液 | 空気中 | 空気中 |
長所 | 栽培中の濃度や組成の変化が緩やか。 | 培養液の温度管理がしやすい、酸素欠乏症が起こりにくい | 酸素欠乏症が起こりにくい |
短所 | 作物によっては酸素欠乏症が起きやすい | 培養液の濃度・成分変化が起きやすい | 根圏に当たる培養液の濃度・成分変化が起きやすい |
栽培作物の例 | ミツバ、レタス、キャベツなどの葉菜類 トマト、キュウリ、イチゴなどの果菜類 | コマツナ、ホウレンソウなどの葉菜類 トマトなどの果菜類 | サラダナ、葉ネギなどの葉菜類 トマト、キュウリ、イチゴなどの果菜類 |
DFT(湛液水耕)
DFTは、Deep Flow Techniqueの頭文字で、日本語では湛液水耕法やDFT水耕と呼ばれます。栽培ベッド(培地)を水平に保ち、培養液を比較的大量に貯めたベッドに苗を浮かべ、培養液を循環させて栽培する方式です。
ベッドの培養液の量が多いことから、栽培中の培養液濃度や組成の変化が起こりづらくなっています。しかし、高温時には溶解酸素量(溶存酸素量とも呼ばれる、水中にどれだけの濃度の酸素が溶存しているかを指す指標)が不足してしまい、作物によっては酸素欠乏症が起きやすいものもあります。
NFT(薄膜水耕)
NFTは、Nutrient Film Techniqueの頭文字で、日本語では薄膜水耕法やNFT水耕と呼ばれます。栽培ベッド(培地)を緩やかに傾斜させ、培養液を少量ずつ流しながら栽培する方式です。
培養液を薄く(少なく)循環させることによって、空気中の酸素をより多く溶解させるとともに、液面上の植物の根が酸素を空気中からも取り込むことができ、水耕栽培で起きやすい「酸素欠乏」を防ぎやすい方式となっています。また、培養液の冷却や加温(温度管理)が低コストでできる一方、培養液の濃度や成分の変化が起こりやすいため、培養液管理が難しいとされています。
保水シート耕
毛管水耕法は、苗のパネルの下に遮根シート、吸水性・親水性のある不織布を敷き、培養液を吸わせて、そこから植物の根に培養液を供給する方法です。栽培ベットはDFTと同じように水平にして、不織布の一部が培養液に浸かるように設置します。
NFT水耕と同じように根が空気に触れていることから、酸素欠乏症が起きづらい栽培方式となっています。また、植物への水分供給量のコントロールが可能となり、作物の生育コントロールや食味の向上なども期待できます。
家庭でできるトマトの水耕栽培システム
「家庭でトマトの水耕栽培をしてみたいけど、農家さんが使っているような資材は扱えない…」という方も多いのではないでしょうか?実は、水耕栽培は身近なものでもシステムを作ることができます。また、システムを作ることが難しそうであれば、栽培キットとして販売されているものもありますので、それらを活用することも良いでしょう。
下記に、水耕栽培に必要な設備、各システムの概要や自作するときに必要な資材についてまとめましたので参考にしてください。
前提条件!必要な設備
そもそも水耕栽培を始める上で、必要な設備にはどのようなものがあるのでしょうか?基本的には下記の設備が整っていれば、システムを導入したり、自作したりすることで水耕栽培は可能かと思います。
- 水源(水道水、または飲用適の地下水など普段使用している水で良いです(※))
- 100V電源(流動法の水耕栽培の場合、培養液を循環させるためのポンプや酸素を取り込むためのエアーポンプなどを使用することがあります)
- 広く安定した場所(使用するシステムなどによりますが、それなりに広い場所が必要です。室内用の水耕栽培システムであればそこまで大きくないので安心です)
家庭で使用しやすい水耕栽培システム・水耕栽培キット
トマトなど果菜類を育てるための水耕栽培システムも多数用意されています。使用する際に少し工夫が必要となってくることもありますが、果菜類用の水耕栽培システムをベースにトマト栽培のしやすいようにアレンジすると良いでしょう。
ホームハイポニカ 303/ぷくぷく/MASUCO/Sarah/Sarah+/601 果菜ちゃん(屋外向け)
ホームハイポニカは、協和株式会社から発売されている家庭・小規模用の水耕栽培システムです。ハイポニカは、1970年に協和株式会社の創業者によって開発された画期的な水気耕栽培システムで、それを家庭用にも使用できるように改良した栽培システムがホームハイポニカシリーズです。
ホームハイポニカには、いくつか種類があり、栽培する作物や大きさ、規模によって適している栽培システムが異なります。それぞれの特徴と屋外/屋内向けかをまとめましたので参考にしてください。ホームハイポニカは、ポンプを使用して培養液を循環する方式のため100Vの電源が必要です。
品名 | ホームハイポニカ303 | ホームハイポニカ ぷくぷく2 | ホームハイポニカMASUCO(マスコ) | ホームハイポニカSarah+(サラプラス) | ホームハイポニカ601 果菜ちゃん |
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商品 | |||||
大きさ | 幅800mm×奥行665mm×高さ310mm | 縦370mm×横370mm×高さ200mm | 約幅400mm×奥行396mm×高さ263mm | 幅640mm×奥行360mm×高さ330mm | 直径467mm×高さ300mm |
重量 | 4.5kg | 2.5kg | 約5.3kg | 5.5kg | 3kg |
液肥容量 | 50L | 約9L | 約20L | 35L | 12L |
参考価格 | 34,800円(税別) | 8,250円(税別) | 17,000円(税別) | 26,500円(税別) | 16,000円(税別) |
付属品 | 果菜用マルチパネル、葉菜用マルチパネル、ハイポニカ液体肥料(1リットル)・果菜用培地(4セット)・葉菜用培地(300個)・鉢カバー(2個)・栽培鉢(2個)・計量カップ・取扱説明書・栽培のしおり | ハイポニカ液体肥料(250ml)、培地(10個)、穴カバー(4個)育苗プラグ(5個)、ペットボトルキャップ(1個)、エアポンプ(1個)、 ※ペットボトルは付属していません。 | ハイポニカ液体肥料(500ml)・果菜鉢・鉢カバー・支柱枠・うき・仕切り板・果菜/葉菜プレート・給液カバー・液肥タンク・栽培槽・液肥槽・循環ポンプ・チューブ・水位調節管・空気混入器・果菜、葉菜用スポンジ | 果菜用マルチパネル、葉菜用マルチパネル、ハイポニカ液体肥料(1リットル)・果菜用培地(4セット)・葉菜用培地(120個)・栽培鉢(1個)・栽培鉢カバー・計量カップ・取扱説明書・栽培のしおり | ハイポニカ液体肥料(500ml)・果菜用培地(4セット)・栽培鉢(1個)・支柱支持枠(2個)・取扱説明書・栽培のしおり |
屋内向き/屋外向き | 屋外向き | 屋外向き | 屋外向き | 屋外向き | 屋外向き |
2021年5月時点の情報です。掲載情報から変更されている可能性もありますのであらかじめご了承ください。
上記は、果菜類の栽培に対応したホームハイポニカシリーズです。定植用のマルチパネル(果菜用マルチパネル)や栽培鉢も付属しているため、すぐに栽培を始めることができます。
うまくできると、この動画のようにたくさんの果実を収穫することができますよ。
ハイポニカについて、肥料などの記事もまとめています。培養液づくりの参考にしてください。
ミニトマト(プチトマト)であれば、ペットボトル栽培など小さい容器で可能!
トマトは、植物体が大きく、果実ができることの負担も大きいことから、水耕栽培ではある程度大きい容器で育てる必要があります。植物の地上部に見合うだけの根を張ってもらう必要があるからです。
しかし、ミニトマト(プチトマト)であれば、トマトに比べて負担が小さいので、ペットボトルや室内栽培用の小さな水耕栽培用容器でも栽培が可能となります。手軽に始めてみたい方はまず、ミニトマト(プチトマト)の水耕栽培から始めてみると良いかと思います。ミニトマトの水耕栽培については、下記の記事にまとめていますので、参考にしてください。
身近なもので作ることができる!自作のトマト水耕栽培システム
トマトの水耕栽培は、実は身近なもので簡単に実践することができます。今回は、以前、水耕栽培に挑戦したときに作った自作の水耕栽培システムを紹介します。
かなり昔に挑戦したもので写真がありません…今度時間をみつけて、また水耕栽培に挑戦してみたいと思います。
必要なもの
自作の水耕栽培システムに必要なものは以下のとおりです。
- 容器(衣装ケースなどのプラスチックの箱、発泡スチロールの箱など)
- アルミシート(栽培槽の水に光が当たらないようにします)
- 培地用のロックウールやハイドロボール、パーム用土、バーミキュライト
- 苗床用のロックウールやスポンジ(播種から育苗する場合)
- 水耕栽培用のポット
- 循環式ポンプ(水槽用のウォーターポンプでOK)
- ポンプ用のフィルター(あればでOK)
- エアポンプ(酸素供給や培養液循環用、循環式ポンプがある場合はそれに空気混入器を付ければ十分な酸素が入ります)
- 種、もしくは苗(市販で売られている苗も使えます)
- 水耕栽培用の液体肥料(ハイポニカ、ハイポネックス、OATハウス肥料など)
- あとはちょっとしたアイデアと工夫とやる気
自作水耕栽培システムの作り方(簡易版)
自作水耕栽培システムの作り方について、概要を簡単に解説します。正直、その場のアイデアと工夫、やる気のほうが大事です。DIYが得意な方は、挑戦してみると意外にあっさりできたりします。
全体像は下記の図のようになります。
- 手順1容器の準備
まず、容器を準備しましょう。発泡スチロールでもプラスチックの箱でもなんでも良いです。
大きさの目安は、高さ20cm以上、幅・奥行 各30cm以上は必要になるかと思います。あとは、植物の大きさや栽培したい株数によって選んでください。トマト1株であれば、先述した大きさの箱で十分育てることができると思います。
編集さん市販の水耕栽培システムの大きさ(サイズ)を調べて、参考にすると良いですよ。
- 手順2容器の細工
水耕栽培システム用に細工をしていきます。主にやることは2つです。
- 水耕栽培用の鉢(苗)を固定できるような仕掛けを作る
- 栽培槽と液肥槽を分ける(可能であれば)
- 箱の周りをアルミシートで巻く
一番大事なことは、これから育てる苗をしっかりと固定できる工夫をすることです。私の場合は、ワイヤー(針金)を使って容器に引っ掛けることで固定しました。発泡スチロールで容器の上部をすべて覆い、苗を植える場所だけ穴を開けて固定するのも良いでしょう(いわゆる、水耕栽培システムのマルチパネル)。固定の方法はそれぞれなので、一番いいやり方を見つけてみてください。
また、本当であれば市販のシステムのように栽培槽と液肥槽をプラスチックシートなどで分けると良いでしょう。これは根域の培養液の濃度の安定と酸素の供給のためです。下記の図のように分けられると良いでしょう。
アルミシートは、箱の周りをすべて囲むように巻きます。アルミシートでなくてもOKですが、なるべく光を通さず、反射できるものが良いでしょう。容器の培養液に日光などの光が当たると、藻が繁殖したりして水質が悪化します。
編集さんアブラムシの防除には、アルミシートやアルミホイルが手軽にできる有効策です。アルミシートやアルミホイルは太陽光を反射しますが、この反射光をアブラムシは嫌がります。理由はまだ解明されていないようですが、どちらが空かわからなくなったり、水面と勘違いしたりするのではないかと考えられています。
上の画像のようなアルミシートの商品も販売されています。まずは身近にあるアルミホイルから試してみるのも良いでしょう。
- 手順3培養液の準備
容器の準備が整ったら、培養液を準備します。培養液は、ハイポニカや微粉ハイポネックスなど水耕栽培用の肥料を使用して作ります。
ハイポニカの場合、基本となる培養液濃度は500倍程度です。仮に栽培容器の中に10L程度水が入るとしたら、水10Lに対してハイポニカ液体肥料A液、B液をそれぞれ20mlずつ投入して混ぜ合わせます。
- 手順4ポンプの設置、稼働の確認
培養液の準備が終わったら、ポンプを設置し、稼働を確認しましょう。ポンプは、下記2種類方式があります。どちらのポンプでも水耕栽培は可能ですが、それぞれに合った設置方法が良いかと思います。
- 循環式ポンプ(水槽用のウォーターポンプなど)
- エアーポンプ(水槽用のエアーポンプなど)
循環式ポンプは、その名の通り水を汲み上げて押し出すものとなります。そのため、底面付近の液肥槽に設置し、栽培槽に送り出してあげるようにします。こうすることで培養液が栽培槽と液肥槽を循環するようになります。
また、このとき酸素の供給を増やしたい場合は、空気混入器を使用することをおすすめします。栽培槽に培養液を流し込むときに空気も混入してくれるため、根に酸素を十分に供給することができます。
エアーポンプは、水中に空気を送り込むためのものとなります。エアーポンプ自体は水中に沈めず、エアーポンプに接続されたエアストーンを水中に設置します。エアストーンは、液肥槽に設置します。エアストーンから出る空気によって、培養液が循環するのと同時に空気の供給も行ってくれます。
トマトの水耕栽培 栽培方法の基礎知識
まずは、トマトの植物としての特性や基本的な栽培知識をおさらいしましょう。下の記事にトマトと栽培方法の基礎知識(家庭菜園の土耕栽培をベースにしています)をまとめていますので、参考にしてください。
水耕栽培においても、摘葉(葉の摘み取り)、摘芯(摘心)、誘引、わき芽かき、人工受粉(人工授粉)作業、摘果(不要な果実の摘み取り)、病害虫管理なども同様の方法で問題ありません。
トマトは、芯止まり系の品種・非芯止まり系の品種、単為結果性(授粉の必要がない)の品種などさまざまあり、それらの品種に合わせた管理作業が必要です。種を購入する際に、パンフレットをよく読んだり、販売店に問い合わせをしてみてください。
また、ベランダなど屋外での栽培においては、病害虫にも注意しましょう。特に、ワタアブラムシやなどのアブラムシ類、チャノホコリダニやハダニなどのハダニ類、アザミウマ類など、害虫には注意が必要です。
水耕栽培のときは基本的には種から育てる
トマトの水耕栽培において、苗は購入するよりも種から育てることが多いです。理由は、以下3点です。
- 市販の苗の販売時期が限られている(冬場に栽培を始めようと思っても苗がない)
- 市販の苗は土植えが基本のため、水耕栽培システムに植え付けするときには土を落としたり、根を水に慣らしたりなど面倒なことが多い
- 最初から水耕栽培の育苗培地で育苗することで、培地を水耕栽培システムに埋め込むだけで植え付けが済む。
水耕栽培キットには、育苗用の培地があらかじめ含まれているものもあるので、それらを使用すると何も準備が必要ありませんので楽ができます。
市販の水耕栽培キットを使用しない場合は、育苗用の培地としてスポンジやロックウールを用意して、発芽、育苗しましょう。
育苗には、育苗用の容器(小さめの水耕栽培容器)や発芽までの期間に光を当てないための黒フィルムなどが必要となります。面倒な方は、水耕栽培の育苗キットも販売されていますので検討してみてください。
種は、ホームセンターや種苗店で購入しましょう。今ではネット通販でも手軽に手に入るのでおすすめです。
水耕栽培におけるトマトの播種・育苗
植え付ける苗は、基本的には育苗用の培地(スポンジやロックウール)を使って発芽させ、育苗します。簡単に育苗の流れを記載しますので、参考にしてください。
- 手順1スポンジやロックウールを用意する
育苗用の培地として、スポンジやロックウールを用意しましょう。スポンジであれば、2〜3cm程度の正方形に切り分けて、その中心部に十字の切込みを入れておきましょう。そうすることで、種がしっかりと固定され、発芽したあとも根が張りやすくなります。
- 手順2スポンジやロックウールをしっかりと水に湿らせる
育苗用の培地として使用するスポンジやロックウールを水に浸け、十分に湿らせましょう。
- 手順3育苗トレイなど小さな容器にスポンジを入れて固定する
育苗トレイなどの小さな容器に培地を入れて固定します。培地を容器に入れたあと、容器内にも水を満たします。スポンジの高さくらいまで水があれば問題ありません。また、このとき液肥は必要ありません。
小さな容器は、食品用の保存容器(タッパー)などでも構いません。
- 手順4播種をする(種をまく)
準備が整ったら、スポンジの上に種を置いていきましょう。種は、1粒ずつでかまいませんが、その場合は複数の育苗培地に種をまくようにしてください。全く発芽しないというリスクを回避するためです。
- 手順5発芽させる
発芽には、3つの大事な要素があります。
- 水分(種の内部まで水が浸透することで発芽が促されます)
- 温度(発芽適温というものがあります)
- 酸素(ウレタン培地は酸素が取り込みやすくなっています)
上記の3つを守っていくことが大事となります。トマト・ミニトマトの場合は、25℃〜28℃程度です。25℃前後あれば、問題なく発芽してくるでしょう。
温度と水分を保持するために、栽培容器にラップをかけることもおすすめです。ラップはサランラップなど食品用のラップでかまいません。かけてあげたあと、爪楊枝で複数箇所、穴を開けてください。また、トマト・ミニトマトの種は嫌光性種子ですので、暗い場所で発芽します。黒いフィルムをかけてあげても良いでしょう。
- 手順6発芽した後
数日〜1週間程度で発芽してくると思います。発芽してきたら、すぐにフィルムをはがして光に当てるようにしてください。
- 手順7育苗
水耕栽培システムに植え付けするまで、育苗していきます。普通栽培での定植適期は、本葉が8枚程度になってからが定番ですが、水耕栽培では苗の状態を見ながら生長が安定してきたら移しても良いでしょう。
育苗している間に、もとの培地では大きさがもたなくなってきた場合は、さらに大きな育苗培地を用意して苗をさらにくるんであげると良いでしょう。水耕栽培システムの定植パネルに植え付けるのであれば、その穴の大きさに合わせた培地を用意して苗をくるんでおくと、植え付けのときに楽です。
市販のトマトの苗も水耕栽培に使用可能
市販の苗(土植えの苗)で問題ありません。市販の苗を使用するときには、よく土を落とし、根元付近を培地用のスポンジでくるんであげます。
さらに苗を安定させるためには、水耕栽培用のポットを使います。水耕栽培のポットは普通の育苗ポットとは異なり、穴がたくさん空いています。そこにハイドロカルチャーで使うようなハイドロボールと苗を入れて安定させます。
苗の準備ができたら、いきなり栽培容器にセットはせず、バケツなどに水を入れてそこで一週間程度慣れさせます。植物に萎れや根腐れなどの症状が起きなければ、栽培容器に移しましょう。
ハイポニカのメーカーである協和株式会社が詳しい解説をしていますので、こちらも参考にしてください。
水耕栽培用の液体肥料(液肥)について
水耕栽培においては、土耕栽培(プランターや庭植えなど土を使った栽培)とは、肥料のやり方が異なります。土耕栽培では、栽培を始める前に元肥を施して土作りをし、栽培途中に肥切れが起こらないように適宜、追肥を施します。
しかし、水耕栽培では、土を扱いませんので、元肥という考え方はなく、植物がある程度育ったら、追肥にあたる培養液を常に供給する必要があります。土耕栽培では、土が養分を保持しているので、ある程度の期間、肥料をやらなくても大丈夫ですが、水耕栽培は土がありませんのでそういうわけにはいきません。土耕栽培の元肥・追肥による肥培管理以上に、しっかりと培養液を管理することが必要です。
培養液は、水耕栽培用の液体肥料を混ぜて使用しましょう。水耕栽培用の液体肥料には、ハイポニカやハイポネックス、OATハウス肥料が有名です。下記のページにて、水耕栽培用の肥料をまとめていますので参考にしてください。
生長が悪いからといって、培養液濃度を上げることは望ましくありません。生長の阻害は、環境(温度、湿度、日射量など)や管理作業、水温などさまざまな要因が重なっておきます。まずは、培養液をしっかりと一定濃度で与え続けることから始めてください。
ハイポニカ液体肥料であれば、標準を500倍希釈として培養液を作るようにしてください。植物の生長ステージに合わせて、1000倍〜500倍の範囲で調整してみると良いでしょう。
培養液の濃度の別の目安として、EC(Electrical Conductivity/電気伝導率)値があります。プロ農家の場合、養液栽培を実践するときには必ずと言っていいほど、培養液の給液EC、排液ECを測定しています。
家庭用の水耕栽培キットで実践するのであれば、栽培槽の培養液にEC計を設置して測定してみるのが良いかと思います。ミニトマト・トマトは、塩濃度がある程度高くても根が持ちますので、1.0mS/cmから始めて、果実が肥大するころに2.5mS/cm 程度になるように徐々に上げていきましょう(あくまで一例です)。もちろん、高すぎると肥料やけを起こし、生長が悪くなりますので注意してください。基本は、薄めで管理することを心がけましょう。
EC値は、EC計で計測できるのでハンディタイプのものを一台持っておくと便利です(少し高いですが…私はこれを使っています)。
トマトの水耕栽培におけるポイント・注意点
トマトの基本的な栽培ポイントに追加して、水耕栽培におけるポイントと注意点を下記にまとめましたので意識してみてください。
- トマトは、植物体が大きくなるにつれて根をたくさん張り出します。栽培容器を少し大きめに余裕を持っておくと、のびのびと生長します。
- 水耕栽培は、水が命です。水を切らしたり、水質が悪くならないように定期的に培養液のチェックをしてください。
- トマトは、日当たりの良い場所を好みます。屋外、屋内に関わらず日中帯は日当たりの良い場所に置くようにしましょう。
プロ農家向け!トマトの植物工場、水耕栽培システムについて
今までご紹介してきた栽培システム、栽培方法はあくまで家庭菜園など趣味向けのものです。プロ農家向けには、最適化された水耕栽培システムが他にもあります。また、最近では養液栽培の一つであるロックウール耕も盛んに行われています。プロ農家向けには、別途記事を執筆しておりますので、参考にしてください。
(準備中)
トマト・ミニトマト栽培の記事一覧
その他の水耕栽培のコンテンツ
農家webにもトマト以外の果菜や、葉物野菜、スプラウトや再生栽培(リボベジ)などのコンテンツも豊富です。下記から育てたい野菜名から探すこともできます。
また野菜以外にも収穫を楽しむハーブやポトスやパキラなどの観葉植物、サボテンやエケベリア、ハオルチアなどの多肉植物、ヒヤシンスやチューリップなどの球根の水耕栽培の記事もあります。