通称ヘタムシとも呼ばれるカキノヘタムシガは、カキ農家にとって最も厄介な害虫の一つです。ここではカキノヘタムシガとはどういう虫なのか、その特性と、カキノヘタムシガを防除するための方法を、農薬、またその他の効果的な方法も合わせて徹底解説していきます。
そもそも、カキノヘタムシガはどういう害虫?
カキノヘタムシガとは?
カキノヘタムシガはチョウ目のガの一種で、学名Stathmopoda masinissa Meyrick、別名、ヘタムシ、カキミガ、カキミムシなどと呼ばれます。
カキノヘタムシガの幼虫は体長約4(中齢)〜15mm(老齢)ほどです。
孵化してすぐに葉柄と芽の間から食入していき、ヘタの部分から果実まで食入し、中を食い荒らし加害します。被害芽には幼虫が排出した糞(褐色の小粒)が見られます。
食い荒らされた実は写真のように、早期着色し、ヘタを残して落果してしまいます。このような現象を起こすことから、ヘタムシなどと呼ばれているのです。
果実1つに対し、大体1匹の幼虫が食入します。幼虫は果実が落下する前に別の果実に移ることが多く、1匹で通算4個ほどの果実を食害すると言われています。このため、多発するとかなり収穫に影響を与えてしまう、恐ろしい害虫です。
老齢幼虫は、枝の樹皮の割れ目や粗皮の下などに薄い繭を作り、越冬します。4月頃から蛹になり、5月上旬〜中旬に第1回目の成虫が発生します。(発生時期は地域差があります。)成虫は枝の芽の付近に産卵し、10日ほどで孵化(ふ化)、食入して芽から果実に被害を与えます(第1世代)。
そして30日程度で幼虫期を終え繭を作って蛹になり、15日程度で羽化し、第2回目の成虫が発生します。その後産卵、ふ化を経て、7月中旬あたりに幼虫になり加害します。(第2世代)発生時期は内陸部ではそれよりも遅くなる傾向があります。1回目と同様、発生時期には地域差があるので注意しましょう。
このように、発生のタイミングは年に2回ですが、東北地方では年1回の地域もあります。近年、発生時期が長期化していて、防除が難しい病害虫の一つになっています。
成虫の体長は6〜7mmほどで、紫黒色、毛束が多い外見をしています。
カキノヘタムシガに効く農薬
カキノヘタムシガは果実に侵入してしまうと薬剤を付着させれないので、孵化幼虫が果実に食入する以前の,芽を食害している時期に散布することが重要です。このため、散布時期が薬剤での防除の要と言えるでしょう。
カキノヘタムシガに効く代表的な農薬
カキノヘタムシガには、様々な農薬の適用があります。下記から気になるものをピックアップしてみてください。
有機リン系
有機リン系殺虫剤は殺虫剤の中でも、昆虫の神経系を阻害するタイプで、殺虫剤の代表的なタイプです。代表的な有機リン系農薬は、エルサン、オルトランやスミチオンがあります。
ピレスロイド系
ピレスロイド系は殺虫剤の中でもメジャーで、速効性が高い薬剤です。アディオン水和剤、ロディー水和剤やアーデント水和剤が使えます。
ネオニコチノイド系
ネオニコチノイドは、昆虫の神経細胞のシナプス部分の後膜に存在する神経伝達物質のアセチルコリンの受容体である「ニコチン性 アセチルコリン受容体(nAChR)」に結合し、神経細胞を興奮させ続ける事で、死に至らしめる効果をもっています。致死濃度以下でも、食害や交尾、産卵や飛行など、虫のあらゆる行動が減少します。
パダンSG水和剤
パダンは特異な殺虫作用のため、他剤が効きにくくなった害虫にも効果を発揮します。
カキノヘタムシガに効く農薬一覧表
RACコード別に分類した、カキノヘタムシガに効く代表的な農薬は以下のようになります。
※農薬を使用する際にはラベルをよく読み、適用作物、用法・用量を守ってお使いください。
殺虫剤はカキノヘタムシガだけでなく、ヨトウムシやカメムシ類、カイガラムシ類やハダニ類、アブラムシ類、アザミウマ類、コナジラミ、コガネムシ、キスジノミハムシ、ネキリムシ、ヨコバイ、ハモグリバエ、ハマキムシ、イラガ、ウンカ、メイガ、ハムシ、ケムシ、テントウムシダマシ、ナメクジ、シンクイムシ、コオロギ、タマネギバエ、ダンゴムシ、ウリハムシ、アオムシ、ゾウムシ、ハバチ、グンバイムシ、モモハモグリガ、ハモグリガなど幅広い殺虫スペクトラムを持つものも多いので、うまく活用しましょう。
上記の農薬は水で溶かして薄めて使用する液剤(乳剤など)や水溶性の粉剤、粒剤(粒状や顆粒)です。希釈方法等については下記をご参考ください。
防除する際のポイント
近年では、特定の農薬に抵抗性を持った害虫も多く発生し、農薬の効率的な使用のため、農薬のRACコードを確認して、タイプの異なる殺虫剤のローテーション散布を心がけること、また、農薬の使用量を減少させ、薬害を少なくするために、生物的、物理的、耕種的防除法を取り入れたIPM防除体系を組んで、統合的に実践することが重要になってきています。
物理的防除
カキノヘタムシガの物理的、耕種的防除方法は、昔から様々な方法が存在します。これ一つで完全に防除できる、といった方法はありません。下記情報を参考に、是非、様々な方法を複数試してみてください。
12月〜2月に粗皮削りを行う
カキノヘタムシガは粗皮の下などに薄い繭を作り、越冬するので、冬に粗皮削りを行うのは非常に効果的です。粗皮削りをする方法としては、専用の刃物で行う方法と、バークストリッパー(高圧水流を噴射する器具)の水圧で剥がす方法があります。バークストリッパーが使用できる場合は、水圧で害虫自体を圧殺できます。ただし、分枝部などの粗皮は,粗皮削りガマなどを使って丁寧に削り取るのがいいでしょう。
また、粗皮削りは柿(カキ)でよく発生するカイガラムシの防除にも有効です。カイガラムシにお困りの方は、下記を参考にしてみてください。
被害果を早めに除去
被害を受けた果実は着色するため、変色し始めたらすぐに摘み取り、果実の中にいる幼虫を殺して、その後の被害の拡大を防ぐことは有効です。
また、カキノヘタムシガの性フェロモンの研究が進んでおり、防除するためのフェロモン剤も近い将来使えるようになるかもしれません。
まとめ
柿(富有柿、太秋など)の代表的な病害虫で、大量発生すると収穫に大打撃を与えるカキノヘタムシガ。本記事が、適切に退治、防除を行うためのカキノヘタムシガ対策の一助となれば幸いです。
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
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