ミョウガ(茗荷)は、独特の香りとシャキシャキとした食感が特徴の香味野菜です。ほのかな苦味もあり、冷奴やそうめんの薬味など、日本料理によく使用される野菜となっています。ミョウガは、学名で「Zingiber mioga」、英名で「Japanese Ginger」と呼ばれます。英名の通り、主に日本で食用として栽培される作物となっています。一昔前は、日本だけが食用として栽培しているとされていましたが、最近では輸出用に中国などで栽培を始める事例もあるそうです。
日本国内のミョウガは、国産がほとんどで高知県が国産の8割以上を占めています(野菜情報2018.8 みょうがの需給動向)。また、若い芽は「ミョウガタケ」として収穫することもできます。
この記事では、花ミョウガを対象に基礎知識や栽培方法の基本、重要事項、注意点などについて解説します。記事が長いため、目次を見て必要な部分から読み進めてください。
ミョウガの基本知識
作物名 | 科目 | 原産地 | 育てやすさ | 根の価格 (円/1つ) | 苗の価格 (円/1苗) | 収穫までの日数 (目安) | 栽培できる地域 | 作型 | 栽培方法 | 土壌酸度 (pH) | 連作障害 | 萌芽適温(地温) | 生育適温 | 日当たり | 光飽和点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ミョウガ | ショウガ科 | 東アジア | ★★★★★ | 50円〜200円程度 | 150円〜600円程度 | 植え付けから、5ヶ月〜6ヶ月 | 全国 | 夏ミョウガ(花ミョウガ)栽培 秋ミョウガ(ハナミョウガ)栽培 ミョウガタケ栽培 | 露地栽培 施設栽培 プランター・鉢植え栽培 | 6.0〜6.5 | ほとんどないが植え替えの際に場所を変える(4〜5年) | 15℃〜25℃ | 22℃〜25℃ | 半日陰 | 10〜20klx |
ミョウガは、ショウガ科ショウガ属の多年生の宿根草です。原産地は東アジアとされており、日本では3世紀前半には渡来していたとされており、古来より食用として使われていたとされています(ミョウガ – e食材辞典 – eヘルシーレシピ – 第一三共株式会社)。北海道から沖縄まで、幅広く自生するようになっていますが、これは大陸から持ち込まれて栽培されたものが自生していると考えられています。
ミョウガ栽培のポイント
- ミョウガは、地下茎から発生する花蕾を収穫する「花ミョウガ」と、若い茎を軟化させるように栽培し収穫前に日に当て赤みを付ける「ミョウガタケ」の2つの栽培・収穫方法があります。この記事では、特記がなければ花ミョウガをミョウガとして取り扱います。
- 花ミョウガは、収穫される時期で「夏ミョウガ」「秋ミョウガ」に分けることができます。
- 土質の適応性は広く、比較的栽培のしやすい作物です。
- 乾燥と強い日射には弱く、半日陰でやや湿った土壌を好みます。そのため、直射日光ではなく、木漏れ日がさすような林内などが最適です。
- 日陰でも育てやすいため、ベランダでのプランター栽培も可能です。
- 乾燥を嫌うので、植え付けた場所にはワラや落ち葉を敷いておくと良いでしょう。
- 一度植え付けをすると、4年〜5年程度は同じ株から収穫することができます。複数年経つと、地下茎が混み合ってくる可能性があるので、地下茎を一部切除して間引きましょう。
- 4年程度経過すると、花蕾の出が悪くなったり、草勢が落ちてきます。そのため、3年目から地下茎の間引きを始め、古い根株から新しい根株へ更新していきます。
- 連作障害は起きづらい植物ですが連作障害の防除と土壌の休閑のため、根株を更新するときは元の栽培場所とは異なる場所に植え付けましょう。
- ミョウガは他の野菜と異なり種から栽培はしません。地下茎(根株)を植え付けて、地下茎を伸ばしていくことで、植物体が大きくなり、花ミョウガの収穫量が増えていきます。
知っておこう!ミョウガの品種
みょうが栽培をする上で、どのような品種があるのかを知っておくことは重要なことです。ここでおさらいしておきましょう。
まず、ミョウガの品種は大別すると下記3系統に分けることができます。
- 早生種
- 中生種
- 晩生種
品種の系統によって、花蕾(ミョウガ)の形成される時期や植物の姿が少し変わります。また、早生種を花ミョウガ、中生・晩生種をミョウガタケの栽培に使用することが多いです。
下記に日本で栽培される品種の特徴についてまとめましたので、参考にしてください。
項目 | 早生種 | 中生・晩生種 |
---|---|---|
特徴 | 葉が小さく、早く花芽を形成し収穫される。花蕾が小さく、主に夏ミョウガとして収穫される。 | 葉が大きく、花芽の形成も遅くなるが花蕾が大きく収量が多い。主に秋ミョウガとして収穫される。 |
ミョウガ栽培のスケジュール
萌芽適温 | 生育適温 |
---|---|
15〜25℃前後 | 22〜25℃ |
各地域ごとに合わせて考えた、みょうが栽培のスケジュールです。品種によって、夏ミョウガ、秋ミョウガ、ミョウガタケ栽培のどの栽培に適当かが異なりますので、種苗店やホームセンターで確認してください。
花ミョウガの場合、どの地域でも基本的に春に植え付け(定植)を実施し、夏もしくは秋ころに収穫します。ミョウガタケの栽培は、栽培や管理の方法も花ミョウガとは異なりますので、注意してください。
ミョウガ栽培の流れ・栽培方法
ミョウガ栽培の流れは、下記のようになります(関東・露地栽培の目安)。下記は、植え付けをして収穫まで栽培する流れとなっています。先述したように、地域によって気候などが変わりますので、そのときに合った栽培スケジュールを立てて、同じような流れで栽培してください。
- 植え付け前
- 「ミョウガの種」で販売されていることはない
- 根株は、種苗店やホームセンターなどで早めに確保しておく
- すでにミョウガ栽培を始めている園芸仲間や農家から根株を分けてもらうのも良い
- ポット苗を販売している種苗店もある
- 植え付けの3週間前
- 3月〜4月頃
- 植え溝を作り、根株を並べて植え付ける
- プランター栽培も可能
- 4月〜8月頃
- 8月〜9月頃
- 冬〜春
- 敷わら
- 間引き(3年目から)
- 植え付けから4年〜5年経過
ミョウガ栽培 根株の準備
まずはじめに、根株を準備します。ミョウガは、他の野菜とは異なり種で販売されているわけではなく、根そのものや苗として販売されています。根株や苗は、時期になると種苗店やホームセンターなどで販売されますので見かけたら早めに入手するようにしましょう。種苗店などがネット販売しているケースもあるので、覗いてみるのもおすすめです(例:ミョウガの苗|種・苗・球根・園芸用品・農業資材の通販サイト【タキイネット通販】)。
根株は、すでにミョウガ栽培を始めている方(園芸者や農家など)から分けてもらうことも可能です。また、すでにご自身でミョウガ栽培をしている場合には、根株を切り分けて新たな株を育てることも可能です。
根株を分ける場合には、下記の手順で行うと良いでしょう。
- すでに植わっている株を、できるだけ根を切らないように掘り起こします。
- 掘り起こした株から根茎(新芽)が充実した根を選び、根茎(新芽)を3〜4節つけるようにして切断します(15cm〜20cm)。
- すぐに植え付けをしない場合は、籾殻などで乾燥を防いで比較的低温の場所で補間すると良いでしょう。なお、乾燥には弱いため湿度を保つことが重要ですし、管理するのも大変になってくるので可能な限り早めに植え付けをしたほうが良いです。
畑の準備(土作り)
ミョウガを植え付ける畑の土作りを実施します。ミョウガはプランターでも栽培することが可能です。地植え(露地栽培)とプランター栽培に分けて、土作りの方法を解説します。
露地栽培における土作り
まず、圃場(畑)の場所を選びましょう。適切な場所を選ぶポイントは以下のとおりです。なかなか難しいと思いますが、可能な限り満たすような場所を選びましょう。日当たりについては、日除けなどの資材を使って工夫することも有効です。
- 場所は半日陰でやや湿ったところを選ぶ
- 直射日光は避け、樹木の影など木漏れ日くらいの日当たりの場所を選ぶ
土作りには、主に下記の肥料を使用します。
- 苦土石灰
- 熔成燐肥(熔成リン肥)
- 堆肥
元肥の散布(定植3週間前)
定植の3週間前ころになったら、定植する予定の場所に苦土石灰などを散布します。散布したあとは鍬(クワ)や耕運機などで深く耕してしっかりと馴染ませましょう。
肥料(全種類施用) | 施用目安量(1平方メートル当たり) |
---|---|
苦土石灰 | 100g程度 |
熔成燐肥(熔成リン肥) | 60g程度 |
堆肥 | 2kg程度 |
プランター栽培における土作り
ミョウガは、プランターでも栽培することができます。プランターで栽培する場合は、深さ30cm程度のプランターを用意すると良いでしょう。日陰でも育てやすい作物であるため、ベランダでの栽培も可能です。
プランター栽培においては、基本的に土作りはせずに栄養分が含まれている培養土を使用することが一般的です。一般的な野菜の培養土を用意すれば、大きな問題はないと思います(追肥は必要です)。
根株の植え付け
土作りが完了したら、畑に根株を植え付けます。地温が15℃以上になるころが適している時期です。
植え付けの手順は以下のとおりです。
- 植え溝を掘ります。
- 根株を並べて、植え付けます。
- 地上から5〜6cmほどの厚さに覆土し、軽く鎮圧します。
- 乾燥が気になるようであれば、稲わらなどでマルチングします。
植え溝を掘る
植え付ける場所に、植え溝を掘っていきます。植え溝の大きさは、下記を参考にしてください。あくまで目安ですので、その場所に合わせたレイアウトにアレンジしてください。
溝幅 | 溝の深さ | 畝間 | 畝高 | 条間(列間) | 株間 |
---|---|---|---|---|---|
20cm程度 | 5cm程度 | 75〜100cm | 5〜6cm | 15cm程度 | 20cm程度 |
植え付け
あらかじめ用意しておいた畑に、根株を植え付けていきます。畑の準備が済んでいない場合は、畑の準備(土作り)を参考にしてください。
根株は1畝(1つの溝)に2列に並べて、千鳥になるよう互いにずらしながら植え付けていきます。
ここで気になる点が2つあると思います。
- 植え付ける向き
- 植え付ける深さ
植え付ける向き
根株の植え付ける向きは、根茎(新芽)が出ているほうが上となります。植え付けるときには、根茎(新芽)が出ている方が上になっていることを確認しながら植え付けてください。
植え付ける深さ
根株の植え付ける深さは、溝の最底辺で構いません。植え付けるときには、根株を溝の最底辺に並べて置き、その上から土を戻していきます。
覆土・鎮圧・マルチング
溝に根株を並べ終わったら、土を戻します。このとき、元の地面の高さよりも5〜6cm程度高くなるように土を盛り上げ、畝にしましょう。そして、クワなどで軽く鎮圧してあげます。
そして、土壌の乾燥防止と花蕾の緑化防止の為、敷ワラ(稲ワラなど)をして、水やりをしてあげましょう。
プランター・鉢植えの場合は?
鉢植え・プランターの場合は、下記の手順で植え付けてみてください。
- 元肥入りの野菜専用の培土2:堆肥1の割合で混ぜてプランターの上部2〜3cm程度のところまで敷き詰めます。底には、あらかじめ鉢底石やネットを敷いておいてください。
- 深さ5cm程度の溝を掘り、植え付けます。ミョウガは地下茎を伸ばすことで大きくなる作物ですので、一つのプランターに多くの根株を植え付けると窮屈になります。混み合わないように、一つのプランターに対して植え付ける根株は1〜3株程度で良いでしょう。
- 植え付けが終わったら、その上からマルチングすることをおすすめします。ワラや腐葉土などを敷きましょう。その上からしっかりと水やりをします。
- 半日陰(日当たりが良いところよりも半分程度の日当たり)のところに置いておきます。1〜2週間程度、遅くとも1ヶ月程度で萌芽してきます。
ミョウガ栽培の管理作業(手入れ作業)
ミョウガ栽培の生育期に関する管理作業(手入れ作業)には、主に4つの作業があります。
- 水やり
- 追肥(施肥)
- 間引き(2年目)
- 除草・病害虫管理
水やり
土壌の乾燥が続くようであれば、水やりをしてください。特に6月〜7月頃には生育が旺盛になりますので、降雨が少ないときが続いたら潅水します。
プランターについても同様で、土壌表面が乾いたら水やりを適宜行いましょう。
追肥(施肥)
地植えの場合
追肥は、生育期間中に2回程度実施すると良いでしょう。下記を参考に追肥を施してみてください。また、生長の度合いによって追肥の回数や量を調整してください。
追肥の施し方は、畝の肩部分に肥料を散布してから、畝の周りの土と肥料を一緒に株元に土寄せします。
2年目以降も同様に施肥してみてください。
追肥 | 実施時期 | 施用目安量(1平方メートル当たり) |
---|---|---|
1回目 | 葉が5〜6枚の頃 | 化成肥料もしくは有機配合肥料50g程度 |
2回目 | 1回目の約1ヶ月後 | 化成肥料もしくは有機配合肥料50g程度 |
プランター・鉢植えの場合は?
プランターの場合も、畑と同じタイミングで化成肥料や油かすなどを軽く散布してあげます。また、液体肥料も有効ですが、固形の化成肥料などに比べて流亡もしやすいため肥効が長続きしませんのでご注意ください。
間引き(2年目)
2年目になると、茎葉が混み合ってくるので間引きをしましょう。ちなみに、2年目の間引きは生育期間中、3年目からの間引きは葉が枯れて休眠に入った頃に行います。その違いについて、下記にまとめましたので間違わないように注意してください。3年目からの間引きについての詳細は、「間引き(3年目から)」に記載していますのでご確認ください。
項目 | 2年目の間引き方法 | 3年目からの間引き方法 |
---|---|---|
いつやるか | 葉が5枚から6枚の頃 | 葉が枯れ上がって、根株が休眠に入った頃 |
どうやるか | 主茎をハサミなどで切除する。1平方メートルあたり、25〜30本の主茎を残すようにする。 | 地下茎(根株)が畑全面に広がっているので、間隔を空けるために地下茎の一部を掘り取る。掘り取りたい場所に鍬(クワ)を打ち込んで、テコの原理を使い根株を土壌中で切除し、そのまま掘って取り出す。 |
茎葉が5枚〜6枚くらいになったら、主茎を間引いて適切な密度になるようにしましょう。プランター栽培の場合も同様で、混み合ってきたら主茎の間引きをしましょう。
除草・病害虫管理
地植えの場合、特に春ころから雑草が生い茂ってきます。雑草は、害虫生息の温床にもなるので、こまめに抜き取ることをおすすめします。また、落ち葉やワラなどをある程度の厚さ(5〜10cm)に敷き込んでおくと雑草の発生を抑制することができます。除草剤を活用するのも有効です。
病害虫と聞くと少し怖いですよね。ミョウガは病害虫に強い植物と言われますが、病害虫に侵されてしまうリスクがないわけではありません。病害虫に対して適切に処理することでまん延を防ぐこともできます。「ミョウガ栽培の生理障害・病害虫管理」に生理障害、病害虫の対処方法をまとめました。
ミョウガの場合、梅雨明け後の高温乾燥時に枯れを起こす根茎腐敗病の発生が問題となるケースが多いです。
ミョウガの収穫
夏ミョウガであれば7月〜8月頃、秋ミョウガであれば8月〜9月頃に収穫することが可能です。
ミョウガは、株元付近を注意深く探して、適期を逃さずに収穫することが重要です。花蕾(ミョウガ)が地上部に出てきて十分肥大し、花穂が開き始める直前が収穫適期です。「花蕾が出た後にボーッとしていたら、花が咲いていた」なんてことは多くあることですので、注意深く毎日観察する必要があります。
収穫するときは、花蕾の根本を掴み、ねじりながら引っ張ります。
ちなみに花が開いてしまったミョウガは品質が著しく劣化してしまうため、小売用としての販売はされず加工品として使用されることがほとんどです。
休眠期の管理
収穫が終わると、茎葉が枯れ上がって根株が休眠期を迎えます。休眠期を迎える冬〜春にかけて実施しておきたい作業は、以下の2つです。
- 間引き(3年目から)
- 籾殻や落ち葉などの敷き込み
ちなみに枯れ上がった茎葉は、翌年の病害虫防除のため刈り取り、圃場外へ持ち出すと良いですよ。
間引き(3年目から)
2年目までは茎葉の切除によって間引きをしますが、3年目からは地下茎を切除することによって間引きを行います。11月下旬〜12月上旬頃に行うと良いでしょう。
地下茎(根株)が畑全面に広がっているので、間隔を空けるために地下茎の一部を掘り取る。掘り取りたい場所に鍬(クワ)を打ち込んで、テコの原理を使い根株を土壌中で切除し、そのまま掘って取り出す。もちろん、掘り取る根株は古いものからです。
1mおきに40cmくらいずつ根株を掘りとっていくとちょうどよいと思います。
籾殻や落ち葉などの敷き込み
冬の休眠期も乾燥を防ぐために籾殻や落ち葉などを敷き込んでおきましょう。
プランター・鉢植えの場合は?
プランター・鉢植えの場合は、茎葉が枯れ上がったころに下記の手順で手入れをすると良いでしょう。
- 地上部の茎葉を切り取って捨ててしまう。
- 一度、根株を掘り起こす。
- 土壌に堆肥を混ぜ込んでよく耕す。
- 根株を植え付け直す。
- 土壌の乾燥を防ぐため、籾殻や堆肥を土壌の上にかぶせる。
- 乾燥しないように、定期的に水やりをする。
株の更新
3〜4年以上経過すると、根株が貧弱になってきますので株の更新も頭に入れておく必要があります。株の更新は、間引きによって行います。先述した3年目からの間引き方法を実施して、新しい根株を残して古い根株を掘り取っていってください。そうすると5年目には、新しい根株が主力の栽培が可能となり、なり疲れなどが発生しないでしょう。
プランターの場合は、新芽が動き出す前の2月ころに間引きをして株を更新していきます(考え方は地植えのときと同じです)。その際に、全体の半分程度の地下茎の大きさとなるように、古い株を切除してください。
ミョウガ栽培の生理障害・病害虫管理
ミョウガを栽培していると、いろいろなトラブルが発生します。しかし、適切な対処方法を知っていれば慌てる必要はありません。代表的な生理障害と病害虫への対処方法を説明していますので、参考にしてください(準備中)。