ぼかし肥料を作成するときは、微生物の力を使って有機物を上手に発酵させることが重要です。発酵の方法は「好気性発酵」と「嫌気性発酵」の2つがあります。この記事では、嫌気性発酵で作るぼかし肥料の作り方を簡単に解説します。
好気性発酵と嫌気性発酵
ぼかし肥料を作るときの発酵方法の前提知識として、以下のことを知っておく必要があります。
- 発酵の方法は「好気性発酵」と「嫌気性発酵」の2つがある。
- 「好気性発酵」は、空気(酸素)のある状態で活動する微生物(好気性菌)の働きで有機物を分解し、発酵させること。好気性菌には、こうじ菌、納豆菌、酢酸菌などがある。
- 「嫌気性発酵」は、空気(酸素)に触れない状態で活動する微生物(嫌気性菌)の働きで有機物を分解し、発酵させること。乳酸菌や酵母菌は条件的嫌気性菌である。
好気性発酵の場合は、空気(酸素)に当てながら発酵を進めます。嫌気性発酵の場合は、逆に空気が入らない状態を意図的に作ります。嫌気性発酵は、細菌などが混入すると増殖しやすいので注意が必要です。使用する微生物に合わせて、発酵方法を選択しましょう。
嫌気性発酵で作るぼかし肥料の作り方
米ぬかや油かすなどを使った嫌気性発酵で作るぼかし肥料を紹介します。作り方もあくまで参考程度と考え、いろいろ試してみると良いでしょう。
気温が高い時期はウジ虫が発生しやすかったり、腐敗してしまうリスクが高かったりするので、初心者の方は気温の低い冬期に作るとよいでしょう。
- 手順1米ぬかなど原材料と水の混ぜ合わせ
米ぬかなど原材料と水を混ぜ合わせます。
- まず最初に米ぬかなどの原材料と発酵促進剤をビニールシートなどの上に広げます。
- その上から水をジョウロなどで加えながら、水分が均等になるように混ぜ合わせます。
- 水分量は混ぜ合わせながら加減をします。目安は混ぜ合わせた材料を強く握るとだんご状になり、軽い力で崩れるくらいが良いです。水のあげすぎには要注意です。
- 手順2容器への格納
混ぜ合わせた米ぬか等を厚手のビニール袋や発泡スチロールの箱、フタのできるプラスチック箱、バケツなどの容器に入れ、口をしっかりと閉め、密閉状態にします。
嫌気性発酵をするため必ず空気に触れないように密閉してください。量が少ない場合はジップロックなどで作られる方もいるようです。
- 手順3保管・発酵
平均気温の積算温度(作った日から日平均の気温を足し算した数値)が600℃以上(平均気温を20℃と考えると30日前後)になると発酵期間終了の目安です。一般的に発酵期間は長ければ長いほどよいと言われています。
- 手順4完成の確認
ぼかし肥料完成の判定基準としては下記2点があります。腐敗臭がした場合や青カビで埋め尽くされてしまった場合は密閉度が悪かったりして失敗した可能性があるので土壌に埋め戻すか、一部を使って再度発酵させましょう。
- pH(酸性度)が5以下になった
- 甘酸っぱい匂いがする
- 手順5保管
保管は密閉したそのままの状態を保ち続けます(嫌気性発酵の場合は、一度でも開けてしまうと空気に触れてしまうため保管が難しくなります)。1日の温度変化が少ない暗いところで保管してください。
長期に渡って使用し続けたい場合というときには、風の通しの良い日陰に完成したぼかし肥料を広げて乾燥させましょう。乾燥させると微生物による発酵も止まり保存が可能となります。乾燥させたものは袋に入れるなどして保管しましょう。但し、肥効の低下やカビの発生などのリスクがありますので、半年以内に使い切ることをおすすめします。
嫌気性発酵のポイント
- 嫌気性発酵は、可能な限り無酸素状態に置きます。そのため、密閉できる容器(漬物容器やぼかしコンポスト、蓋のできるプラスチック箱・バケツなど)を使って作ります。
- 嫌気性発酵は無酸素状態とするため、嫌気性の有用な微生物が増える一方で腐敗菌や雑菌も増加しやすい環境となり得ます。そのため、可能な限り空気に触れさせない、水分量をしっかりと管理することが重要です。
- 好気性発酵に比べて分解が遅く時間がかかります。しかし、好気性発酵のような切り返し作業は必要ありません。
嫌気性発酵のメリット・特長
嫌気性発酵で作ることによるメリットは、大きく以下の3つがあります。
- 切り返し(撹拌)の手間がかからない:好気性発酵とは異なり、切り返し作業が必要ありませんので、その分の手間は省けます。
- 作っている最中に漏れる臭いが少ない:ボカシを作っていると少なからず、臭いが発生します。その臭いの程度にもよりますが、嫌気性発酵の場合のほうが臭いの漏れが少なく、周囲への影響が少ないです。
好気性発酵などその他のぼかし肥料の作り方
先述した通り、好気性発酵でもぼかし肥料は作れます。いわゆる、「切り返し」と呼ばれる作業が必要になったりしますが、基本的な考え方などは一緒です。下記の記事に、好気性発酵で作るぼかし肥料の作り方をまとめていますので、気になる方は参考にしてください。
また、ぼかし肥料は、使用される原材料や微生物(発酵促進剤)によって、種類(呼ばれ方)が異なります。一般的には、下記の種類が主流であると考えられます。
種類(呼ばれ方) | 概要 |
---|---|
EMぼかし肥料 | EMを使用して発酵させたぼかし肥料 |
米ぬかぼかし肥料 | 米ぬかを主原料としたぼかし肥料 |
籾殻ぼかし肥料 | 籾殻(もみ殻)を主原料としたぼかし肥料 |
生ゴミぼかし肥料 | 生ゴミを主原料としたぼかし肥料 |
原材料の種類によって、完成したぼかし肥料の保証成分量が異なるということも特徴です。
ぼかし肥料の使い方
ぼかし肥料は、元肥・追肥として使用することできます。ただし、ぼかし肥料は速効性を兼ね備えているとともに窒素も多く含まれているため、使い方には注意が必要です。効かせすぎると樹勢が強くなりすぎたり、病害虫による被害を受けやすくなったりします。
私の印象ですが、速効性があるので、追肥として使用するほうが栽培しやすいかもしれません。元肥として使用して定植後に樹勢が強くなりすぎてしまう方を多く見てきました。
また、ぼかし肥料は、原材料によって成分が異なります。そのため、一概に「どの程度撒けばいいか」ということが言えません。含まれている成分と土壌、作物の様子を見ながら、少量から施していくと良いでしょう。
参考:ぼかし肥料とは
ぼかし肥料とは、油かすや米ぬか、籾殻(もみ殻)、鶏糞(鶏ふん)など複数の有機質資材を配合させたものに土(土着菌)や発酵促進剤などを加えて、発酵させた肥料のことを指します。昔は有機質を土などで肥料分を薄めて肥効を「ぼかす」としていたことから、ぼかし肥料という名前がついたと言われています。
ぼかし肥料は、昔の農家では自分たちで独自で作っていましたが、化学肥料が発明されて窒素、リン酸、カリウム(加里)などの養分が手軽に補えるようになったことから、製造、使用されることも少なくなりました。しかし、近年は可能な限り化学肥料を使わない栽培方法(特別栽培や有機栽培)が人気となり、再び「ぼかし肥料」に注目が集まっています。
発酵させることにより、有機肥料(有機質肥料)に比べて植物が吸収することができるアンモニア態窒素、硝酸態窒素に無機化されるため、施してからすぐに肥料が効き始める速効性が備わっています。緩効性、遅効性という有機肥料の特長に、速効性を併せ持つことによって、より使い方の幅が広がる肥料となっています。
また、自分でぼかし肥料を作ることもできます。正直、良質なぼかし肥料を作るのは結構難しく手間のかかる作業なので、家庭菜園や園芸などで有機栽培に挑戦されたいという方は購入されることをおすすめします。