ぼかし肥料を作成するときは、微生物の力を使って有機物を上手に発酵させることが重要です。発酵の方法は「好気性発酵」と「嫌気性発酵」の2つがあります。この記事では、好気性発酵で作るぼかし肥料の作り方を簡単に解説します。
好気性発酵と嫌気性発酵
ぼかし肥料を作るときの発酵方法の前提知識として、以下のことを知っておく必要があります。
- 発酵の方法は「好気性発酵」と「嫌気性発酵」の2つがある。
- 「好気性発酵」は、空気(酸素)のある状態で活動する微生物(好気性菌)の働きで有機物を分解し、発酵させること。好気性菌には、こうじ菌、納豆菌、酢酸菌などがある。
- 「嫌気性発酵」は、空気(酸素)に触れない状態で活動する微生物(嫌気性菌)の働きで有機物を分解し、発酵させること。乳酸菌や酵母菌は条件的嫌気性菌である。
好気性発酵の場合は、空気(酸素)に当てながら発酵を進めます。嫌気性発酵の場合は、逆に空気が入らない状態を意図的に作ります。嫌気性発酵は、細菌などが混入すると増殖しやすいので注意が必要です。使用する微生物に合わせて、発酵方法を選択しましょう。
好気性発酵させることのメリット
好気性発酵で作ることによるメリットは、大きく以下の3つがあります。
- 肥効の速効性が高くなる(早く効く)
- ぼかし肥料が比較的早く完成する
- 仕上がりにムラが出にくい
肥効の速効性が高くなる
好気性発酵を支える、こうじ菌や納豆菌などは有機物を糖やアミノ酸に分解します。完成したぼかし肥料は、アミノ酸なども多く含まれるので、実際に畑に施すと、作物はそれらを肥料分として吸収することができます。
ぼかし肥料が比較的早く完成する
こうじ菌や納豆菌などは、酸素があることで活性化されます。これら酸素を使う微生物を利用して好気性発酵させると、微生物の活性が非常に高まり分解のスピードも早くなります(高温にもなります)。
一般的に、嫌気性発酵と比べて発酵速度は早くなります。
仕上がりにムラが出にくい
嫌気性発酵とは異なり、切り返しをしながら作るので、ムラが出にくいといえます。
好気性発酵のポイント
- 原材料について、米ぬかなど粉っぽい有機物だけではなく、落ち葉や籾殻(もみ殻)など大きめの有機物を混ぜると、空気の層が確保されて好気性発酵しやすくなる。
- 窒素が多いと微生物の活性が高くなりすぎて、分解が進みすぎてしまう(ガス化する)。そのため、内部温度が50度以上にならないように切り返しをこまめに切り返しをして、温度を下げるようにする。
ぼかし肥料を作る前に用意したいもの
ぼかし肥料を作るにあたって、原材料や発酵菌などが必要になることはすでにお分かりいただけたと思いますが、その他にも必要なものがあります。下記を例に、ぼかし肥料づくりの準備をしてください。
- スコップ、移植ゴテなど
- ビニールシート(原材料と発酵菌の混合などに使用)
- 衣装ケース、発泡スチロール、ジップロック、ビニール袋など(限られたスペースで発酵を進める場合)
上記のものに加えて、pH計やEC計などがあると、発酵の目安や含有されている養分濃度の確認ができるので便利です。
好気性発酵で作るぼかし肥料の作り方
米ぬかや油かす、魚かすなどを使った好気性発酵で作るぼかし肥料を紹介します。もちろん、落ち葉や腐葉土などの有機物を混ぜ込んでも作ることができます。作り方もあくまで参考程度と考え、いろいろ試してみると良いでしょう。
- 手順1米ぬかなど原材料と水の混ぜ合わせ
米ぬかなど原材料と水を混ぜ合わせます。
- まず最初に米ぬかなどの原材料と発酵促進剤をビニールシートなどの上に広げます。最初から容器で混ぜ合わせてもOKです。
- その上から水をジョウロなどで加えながら、水分が均等になるように混ぜ合わせます。
- 水分量は混ぜ合わせながら加減をします。おおよそ40%〜60%の水分含量となっていれば良いでしょう。目安は混ぜ合わせた材料を強く握るとだんご状になり、軽い力で崩れるくらいが良いです。水のあげすぎには要注意です。
編集さん水については、各材料を混ぜ合わせて、様子を見ながら加水します。初期発酵をよくするには50℃〜60℃のお湯で加水するのもおすすめです。
- 手順2定期的な切り返し
好気性発酵の場合は、空気に触れさせるため定期的な切り返しが必要です。3日〜1週間程度で内部温度が50℃まで上がってくるので、それを目安に全体的に切り返してください。完成まで3回程度は切り返しが必要でしょう。
毎朝、夕方に温度を確認して、温度が55℃を超えるようであれば、山を少し広げて温度調整をすると良いでしょう。
- 手順3完成
3週間〜4週間程度で完成します。積算温度が1300〜1500℃くらいになったときが目安です。
- 手順4完成の確認
ぼかし肥料完成の判定基準としては下記2点があります。腐敗臭がした場合や青カビで埋め尽くされてしまった場合は密閉度が悪かったりして失敗した可能性があるので土壌に埋め戻すか、一部を使って再度発酵させましょう。
以下は目安となりますが、見た目・匂いを重視すると良いと思います。
- pH(酸性度)が5以下になった
- 甘酸っぱい匂いがする
嫌気性発酵などその他のぼかし肥料の作り方
ぼかし肥料は、使用される原材料や微生物(発酵促進剤)によって、種類(呼ばれ方)が異なります。一般的には、下記の種類が主流であると考えられます。
種類(呼ばれ方) | 概要 |
---|---|
EMぼかし肥料 | EMを使用して発酵させたぼかし肥料 |
米ぬかぼかし肥料 | 米ぬかを主原料としたぼかし肥料 |
籾殻ぼかし肥料 | 籾殻(もみ殻)を主原料としたぼかし肥料 |
生ゴミぼかし肥料 | 生ゴミを主原料としたぼかし肥料 |
また、原材料の種類によって、完成したぼかし肥料の保証成分量が異なるということも特徴です。
EM菌を使用してぼかし肥料を作る場合には、嫌気性発酵のやり方となります。下記にぼかし肥料の作り方をまとめていますので、参考にしてください。
ぼかし肥料の使い方
ぼかし肥料は、元肥・追肥として使用することできます。ただし、ぼかし肥料は速効性を兼ね備えているとともに窒素も多く含まれているため、使い方には注意が必要です。効かせすぎると樹勢が強くなりすぎたり、病害虫による被害を受けやすくなったりします。
私の印象ですが、速効性があるので、追肥として使用するほうが栽培しやすいかもしれません。元肥として使用して定植後に樹勢が強くなりすぎてしまう方を多く見てきました。
また、ぼかし肥料は、原材料によって成分が異なります。そのため、一概に「どの程度撒けばいいか」ということが言えません。含まれている成分と土壌、作物の様子を見ながら、少量から施していくと良いでしょう。
参考:ぼかし肥料とは
ぼかし肥料とは、油かすや米ぬか、籾殻(もみ殻)、鶏糞(鶏ふん)など複数の有機質資材を配合させたものに土(土着菌)や発酵促進剤などを加えて、発酵させた肥料のことを指します。昔は有機質を土などで肥料分を薄めて肥効を「ぼかす」としていたことから、ぼかし肥料という名前がついたと言われています。
ぼかし肥料は、昔の農家では自分たちで独自で作っていましたが、化学肥料が発明されて窒素、リン酸、カリウム(加里)などの養分が手軽に補えるようになったことから、製造、使用されることも少なくなりました。しかし、近年は可能な限り化学肥料を使わない栽培方法(特別栽培や有機栽培)が人気となり、再び「ぼかし肥料」に注目が集まっています。
発酵させることにより、有機肥料(有機質肥料)に比べて植物が吸収することができるアンモニア態窒素、硝酸態窒素に無機化されるため、施してからすぐに肥料が効き始める速効性が備わっています。緩効性、遅効性という有機肥料の特長に、速効性を併せ持つことによって、より使い方の幅が広がる肥料となっています。
また、自分でぼかし肥料を作ることもできます。正直、良質なぼかし肥料を作るのは結構難しく手間のかかる作業なので、家庭菜園や園芸などで有機栽培に挑戦されたいという方は購入されることをおすすめします。