ピーマンはカロテンやビタミンCを多く含んでいる栄養価の高い野菜です。サラダや和え物だけではなく、日々の炒めものなどにも使用している方も多いと思います。ピーマン独特の匂いや苦味が苦手な方もいると思いますが、加熱したり味付けをすることによって美味しくいただけます。
ピーマンは、肥料を贅沢吸収(いわゆる肥料食い)すると言われますが、肥料を与えれば与えるほど生長が良くなるというわけではありません。逆に、少なすぎると花や果実が着かないだけではなく、植物体自体が枯れてしまいます。
この記事では、ピーマン栽培における肥料過多・肥料不足について、見分け方、考えられる原因と対処方法を解説します。
肥料過多と肥料不足のときに見るポイント
生長がうまくいっていない状況のときは、植物の状態をよく見ましょう。ピーマンの場合は、下記のポイントを確認することで植物の生長が順調かどうかを確認することができます。
- 葉の色(葉色)
- 葉の厚さ
- 葉の大きさ
- 花の形(短花柱花・中花柱花・長花柱花)
- 花の色
- 花付き・実付き
「なんかおかしいな」と感じたら、まずは上記のポイントを確認してください。そのうえで、肥料過多なのか、肥料不足なのかを見分けましょう。
生育不良の原因は肥料不足・過多だけではないですよ。日当たりが悪いところで育てていることによる日照不足や生育適温ではない時期、場所での栽培、わき芽の摘み取りや摘花・摘果などの手入れ不足も原因となり得ます。
ピーマンの肥料不足 見分け方
下記のポイントを参考に肥料不足かどうかを判断しましょう。下記のポイントの複数に当てはまる場合は肥料不足の可能性が高いですが、必ずしもそうであるとは断言できません。これまでの肥料のやり方(頻度や量)を振り返りながら、総合的に判断しましょう。
特に収穫最盛期には、肥料不足となりやすいので注意が必要です。
雌しべ(柱頭)の長さが短い
肥料不足の初期症状が顕著に現れるのは花です。特に、花の形はしっかりと観察しておくことをおすすめします。
花の形の観察するポイントを解説します。状態の良い花は「長花柱花」となっていることが多いです。長花柱花は、柱頭(雌しべ)が葯(雄しべ)よりも長く出ており、正常に受粉(授粉)がしやすい構造となっています。
逆に、肥料が不足してくると柱頭(雌しべ)が短くなり、葯(雄しべ)に隠れてしまいます。このような花は「短花柱花」と呼び、受粉不良となりやすく、着果せずに落ちてしまうことが多くなります。ちなみに、短花柱花と長花柱花の中間を「中花柱花」と呼びます。
花の大きさが異常に小さい
株が疲れてくると、花の形が小さくなってきます。基本的にピーマンの花はそこまで大きくならないということはありますが、それでも相対的にどんどん小さくなってきているようであれば、肥料不足が疑われます。そのようなときには、追肥の量を増やしてやる必要が出てきます。
特に、着果負担が大きい(実がたくさん着いている状況)では、新しい花が小さくしか咲かなかったり、落花することも多くなるのでよく観察しましょう。
花付きが悪い
肥料不足の状態になると、花落ち(落花)が多くなります。花落ちとは、花が咲いてもすぐに散ってしまうような状況を指します。栽培の終盤では株が疲れてしまい、どうしてもそのような状況になってしまいますが、収穫盛期にそのような状況になってしまっては困ります。
もし、花付きが悪い状況が続くようであれば、速効性の液体肥料(液肥)での追肥や追肥の量を増やすなどの対処を検討してください。
最上部で開花している花と生長点の距離が縮まってきている
最上部で開花している花と生長点との距離も重要な指標となります。通常、定植後の若い株ではその距離が10cm以上ひらいていますが、着果負担(果実が着いていることによる株への負担)が増加すると5cmほどに縮まってきます。
そのような状況に陥ったときには肥料不足になっている可能性が高く、早急に草勢を立て直す必要があります。
生長点付近の葉が小さく、立つようになっている
生長点(植物の頂点)付近の葉が小さく、立つようになってきていると窒素欠乏になりつつあることが想定されます。
斜め上に立っている状態であればまだ肥料が少し不足しているというレベルですが、逆に横に広がってくると心止まり(芯止まり)が発生している可能性もあります。
葉の色が薄い
葉の色も植物の状態を示す重要なパラメーターです。肥料が不足してくると葉の色が薄くなってきます。
どの位置の葉の色が薄くなるかによって、不足していると考えられる栄養素が異なります。
- 下位葉(下の方の葉)から順番に色が薄くなったり、黄化する場合→窒素欠乏
- 下位葉から順番に黄化し、生長が止まる場合→リン酸欠乏
- 葉脈が緑色、その周りや葉先が黄化する場合→マグネシウム欠乏
- 新葉(新芽)が葉脈も含めてすべて黄化する場合→鉄欠乏
露地栽培や施設栽培(土耕)など土壌を使った栽培においては、化成肥料など複合肥料や有機肥料を組み合わせて施肥をされている場合、微量要素欠乏になる可能性は低いです。
プランター栽培など、限られた培地での栽培においては、微量要素欠乏に比較的なりやすいので生長に異常が起きているときには原因の一つとして考慮してください。
枝が細く短くなってきている
肥料が不足してくると生長が悪くなることで、単純に枝が細くなったり短くなったりしてきます。
生育診断(葉の大きさや茎の太さを測ったり、開花した花、果実の数を数える診断方法)は、プロ農家でも行われます。
大事なのは、そのデータがどのように推移しているかということです。枝の太さなども何mmだから良いということではなく、どういう変化になっているかを捉えることが重要です。
ピーマンの肥料過多 見分け方
下記のポイントを参考に肥料過多かどうかを判断しましょう。下記のポイントの複数に当てはまる場合は肥料過多の可能性が高いですが、必ずしもそうであるとは断言できません。これまでの肥料のやり方(頻度や量)を振り返りながら、総合的に判断しましょう。
肥料過多のときには病気や害虫の被害にも遭いやすくなるので注意が必要です。
葉の色が濃くなる
肥料の中でも、特に窒素成分が多いと起きやすい症状です。
ピーマンも、品種によって葉色が微妙に異なります。そのため、葉色が濃い・薄いと一概に判断しづらいということがあります。
そのようなときには、ネット上で品種の画像検索をしたり、メーカーのページを見てみると良いでしょう。一番良いのは、しっかりと生長しているときのピーマンの姿を覚えておく、記録に残しておくことです。
肥料過多の場合は葉色が標準よりも濃くなるので、そのような兆候が見られた場合は肥料過多が疑われます。
葉柄が長くなる
窒素過剰の症状になってくると、葉柄が長くなります。生長点から10cm〜15cm下くらいの葉を根本から摘み取って、葉柄を葉に折り曲げてみてください。葉の長さより、葉柄の長さが長いと、窒素過剰となってきていると推定できます。
葉が縁が波打つ
肥料過多、特に窒素過剰となってくると葉の縁が波打ってきます。
葉が大きい
窒素が過剰になってくると、葉の色が濃くなるとともに葉の大きさも大きくなったりします。葉が生い茂るような状態(過繁茂)になってくると、窒素過剰を疑ったほうが良いかもしれません。
また、ピーマンの場合は葉の厚みが少し薄くなってくることもあります。
花の形がおかしい
肥料過多の状態では、花の形や色がおかしくなることがあります。
例えば、花の色が通常よりも濃い紫色になったり、花の中心にある柱頭(雌しべ)が長すぎたり、花の形が変形したりします。ピーマンの場合、花びらの数が通常時6枚程度に対し、窒素過剰になってくると5枚など減少する傾向にあります。
また、肥料不足のときに限らず、窒素過剰の場合も「短花柱花」となる場合があります。
窒素過剰などによって、花の形や茎の形が悪くなることで、実の形が悪くなることは知っておきましょう。
状態の良いピーマンの花は「長花柱花」となります。長花柱花は、柱頭(雌しべ)が葯(雄しべ)よりも長く、正常に受粉(授粉)しやすい構造となっています。
花殻(花ガラ)の落ちが悪くなる
ピーマンは、花が咲いたあとにそのまま実を形成しますが、咲いたあとの花びら(花殻、花ガラ)がそのまま実に付いたままになってしまうことがあります。この現象も窒素過剰など肥料過多の傾向と言えます。
花付き、実付きが悪い
植物がよく生長し茎葉などはしっかりしているけど、花や実の付き方が悪いという状態に陥る場合があります。花落ちや着果不良などが多い場合には、肥料過多(主に窒素分)である可能性があります。
しかし、肥料不足の場合も落下や着果不良となることがあるので、注意が必要です。
どの症状もそうですが、一つの要因だけで特定するのではなく、複数の要因を総合的に考えて対処する必要があります。
ピーマンの肥料不足の考えられる原因と対処方法
考えられる原因
まず、追肥を定期的な頻度で行っているか確認してください。ピーマンは、栽培期間も長く果実をたくさん着けるため追肥に重点を置く必要があります。下記の記事に追肥のやり方や目安となる施用量を記載していますので、参考にしてください。
また、追肥を定期的にしっかり行っているという場合には、土壌中のバランスが崩れていることも考えられます。バランスは「土壌酸度(pH)」と「栄養分の含有バランス」がありますが、まず気にしなければならないのは、土壌酸度でしょう。土壌酸度計を使って、ピーマンの適正土壌酸度(6.0〜6.5)になっているかを確認しましょう。
仮に土壌酸度が酸性に傾いている場合には、苦土石灰などの石灰質肥料(カルシウム肥料)を施して土壌酸度を矯正します。基本的には、苗を植える前の土作りの段階で矯正します。苗を植える2週間〜3週間前くらいには苦土石灰などを散布し、耕します。そうすることで、カルシウムが土壌に馴染みます。
土壌中には十分な養分が含まれているが、拮抗作用により作物が吸収できない事例が多く、土壌中の養分バランスを適切に保つような施肥が必要です!何事もバランスです!
対処方法
基本的な対処方法は、肥料の量や頻度を多くすることです。
重度の生理障害(欠乏症)が起きていない場合は、速効性の液体肥料(液肥)をいつもの追肥の他に施したり、追肥の量や頻度を増やすことで、1週間後には効果が現れてくると思います。
葉が黄化しているなど、重度の欠乏症が見られる場合には、欠乏していると思われる養分が含まれた液体肥料(液肥)を葉面散布するのが最も効果的です。
葉面散布できる液体肥料かどうか確認をしてから実施しましょう。
ピーマンの肥料過多の考えられる原因と対処方法
考えられる原因
考えられる原因は、「肥料のやりすぎによって、土の中に肥料分が多く残ってしまっている」です。土壌中の栄養分が多い状態と考えられるため、対処していく必要があります。
養分間には養分の吸収をお互いに促進する相乗作用と、逆に互いに吸収を抑えあう拮抗作用があります!家庭菜園などで、連作年数も少なく肥料も複合肥料のみを与えている場合には、相乗作用によって肥料過多になっているとは考えにくいので、まずは土壌中の肥料分を薄くするか、植物へ吸わせないようにすると良いでしょう。
対処方法
肥料過多への対処方法は、主に下記2つです。
- 土壌中の肥料濃度を薄くする
- 土壌中の肥料分を植物に吸わせないようにするため、水やりの量を少なくする
相反する2つの行動ですが、それぞれ理由があります。
土壌中の肥料濃度を薄くする
土壌中の肥料濃度が高いと推測される場合は、潅水(水やり)を多くやることによって肥料成分の流亡を促します。
いつもよりも多くの量の潅水(水やり)を実施することで、肥料分が水に溶けてそのまま地下(もしくは容器外)へ流れ出します。
環境のことを考えるとあまり良い方法とは言えません。何よりもまず、肥料をやりすぎないという意識が必要です。
土壌中の肥料分を吸わせないようにする
逆に、潅水(水やり)を少なくすることによって、植物の肥料成分の吸収を抑えるというやり方もあります。潅水(水やり)を少なくすることで、肥料の溶出を抑え、植物の養分の吸い上げも抑えるというやり方です。
ただ、ピーマンの場合は乾燥にも弱く、水やりを控えたことで水不足となり、他の生理障害になりやすくなるため注意する必要があります。
他にも肥料分を吸収させづらくする方法として、食酢の葉面散布などの方法があります。酢を500倍〜1000倍に薄め葉面散布することで、酢の成分を葉から吸収し窒素の吸収を抑えると言われています。
ピーマンの養分吸収特性と施肥のポイント
ピーマンの養分吸収量は、以下の通りとなっており、窒素・リン酸・カリウムが万遍なく吸収されることがわかります。また、カルシウムとマグネシウムの吸収量もそれなりにあり、欠乏症を起こさないように土作り・追肥が必要なことがわかります。
成分吸収量(kg/a) | 窒素 | リン酸 | カリウム(加里) | カルシウム | マグネシウム |
---|---|---|---|---|---|
ピーマン | 2.08 | 0.44 | 3.45 | 0.54 | 0.38 |
出典:(第1報)ピーマンの施肥量と養分吸収について(PDF)
ピーマンは吸肥力が強く、肥料が不足してくると収穫量(収量)が下がります。逆に窒素過剰の場合、過繁茂(葉が茂りすぎる)の状態となり病害虫の被害や生長への影響が大きくなるので、追肥は一度に多くやるのではなく、細かな頻度で少量ずつ与えるほうが良いです。
本来、施肥量は前作の状況(植物がどのように育ったか、どのくらいの肥料を散布したか)や土壌の性質を考えて計算する必要があります。「その土地で育てたことがない」、「ピーマンは初めて」という場合には、まずは基本にならって、一般的な栽培方法の施肥量をベースに考えると良いでしょう。
プランターやポットなどは用土を使って栽培しますが、適切な養分が常に供給されていないと正常に育ちません。培養土に元肥が含まれている場合は、そのまま定植(植え付け)して、実をつけ始めたころから追肥を開始しましょう。培養土に元肥が含まれていない場合は、別途元肥を施す必要があります。
ピーマン栽培における施肥の考え方で大事なポイントをまとめました。
ピーマンにおすすめの肥料
ピーマンは、いろいろな栽培方法で育てることができます。栽培方法によって、適している肥料の材質やタイプが異なってきます。下記の記事で、各栽培方法でおすすめの肥料とそのやり方を紹介します。