農業者にとって非常によく聞く、うどんこ病、べと病、そして灰色かび病。灰色かび病は非結球あぶらな科などの葉菜、根菜の野菜から果実、観葉植物、多肉植物、草花、球根/宿根・多年草まで幅広く発生し、農家の方にとって主要病害になっています。特にイチゴやブドウで有名な病気です。
ここでは、ブドウ(葡萄)の灰色かび病を予防、治療するためにはどのような農薬を使えばいいのか、その他、効果的な防除法について詳しく解説してきます。
灰色かび病とはどんな病気?
灰色かび病とは?
灰色かび病(白斑葉枯病)はカビ(糸状菌)によって起こり、灰色の粉(分生子)が生じてしまう病害です。通称、灰カビ病とも呼ばれます。
主に、春から秋にかけて発生(4~11月)し、ある程度の温度と多湿な環境で多発生します。梅雨時期は特に発生が目立つ病害です。
灰色かび病はほとんどすべての野菜や花を冒すばかりでなく、多くの果樹や畑作物、林木までも冒し、その範囲はかなり広いのが特徴です。
灰色かび病の症状
ブドウでは、灰色かび病は主に、開花前の花穂、成熟時の果実に発生しますが、若葉や幼果房、未成熟の果実にも発生することがあります。
灰色かび病が発病すると、花穂や葉の場合、一部が淡い褐色に変色し、小班ができます。次第に灰色、黒褐色に変色して枯れます。果実に発病すると、褐色になり次第に腐り、果皮から灰色かび病の菌糸が形成されます。放っておくとカビが一面に生え、果汁がもれてカビを促進させます。
このようになってしまうと、接した果実は次々にカビに侵され、被害を拡大させてしまいます。
発生する原因
カビ(糸状菌)の胞子が風によって運ばれ、葉に付着することで感染します。
灰色かび病のカビは水分がないと病原菌の胞子は発芽・侵入しないタイプです。やや冷涼な多湿の環境で発生しやすいタイプといえます。
特に農業では、ジメジメした湿度の高いハウスや、低温多雨で湿度の高い場合に出やすい病害です。
灰色かび病の菌は作物への侵入力は弱く、生きている植物細胞よりも死んでしまった組織(枯れた花、葉先など)や活力の衰えた栄養状態の悪い組織を好む傾向があります。枯死した葉や芽などは,有力な伝染源になります。老化した葉,枯死した葉は,最初の寄生部位となり,ここで増殖した菌が有力な伝染源となっていきます。
そして、いったん侵入すると発芽力は強く、今度は植物の健全な組織を栄養源にして次々と冒していく特徴があります。
防除における、予防と治療
病原菌の中でも、カビ(糸状菌)は以下のような3段階で病気の発病させます。
- カビの胞子が葉に付く
- 付いた菌が葉の表面のワックス層を溶かして菌糸を伸ばし、植物の細胞内に吸器を作る
- 植物の細胞から栄養を取り、、分生胞子を作って繁殖し、再び胞子を拡散、増殖させる
1の段階でカビを防ぎ、2の段階に行かないように、胞子の発芽を抑制したり菌糸の侵入を阻害するのが「予防剤」で、2、3以降になり、菌糸を死滅させたり、分生胞子が作られるのを阻害するのが「治療剤」になります。
農薬のラベルには、「予防剤」「治療剤」の表記はありません。菌が蔓延した状態で完全に効く治療剤はほぼないため、「治療剤」と名乗ると、効かなかった場合にメーカーとして不利益を被るのを避けるためだと思われます。
「予防剤」か「治療剤」かは、「病気の初発後に使用しても効果が期待できる」など、発病後でも防除効果が期待できるような記載があるかどうかで判断することができます。
ブドウの灰色かび病に効果がある農薬
灰色かび病には様々な適用農薬があります。ここでブドウ栽培に使える代表的な農薬を紹介します。
予防のため
アフェットフロアブル(FRAC 7)
アフェットフロアブルは担子菌、子のう菌、不完全菌に属する幅広い植物病原菌に対し、高い活性を示す新規なチオフェン系殺菌剤で、多くの病害に優れた予防効果を有する薬剤です。
カンタスドライフロアブル(FRAC 7)
カンタスドライフロアブルは、灰色カビ病菌、菌核病菌にたいして卓効があり、浸透移行性があることから散布ムラなどがなく葉裏まで十分な効果が期待できます。
また残効性もあり、発病初期からの散布で高い防除効果を示します。灰色カビ病にたいして、従来とは作用機作の異なるため、体系防除に組み入れることができます。
ロブラール水和剤
ロブラールはアルタナリア属菌、ボトリチス属菌、スクレロチニア属菌、モニリア属菌、ヘルミントスポリウム属菌、カーブラリア属菌などの重要病害に卓効を示します。幅広い作物に使えるのが特長で、散布以外にも多くの使用方法を持ちます。
ボトキラー水和剤
ボトキラーはバチルス・ズブチリス水和剤で、微生物を有効成分とする国内初の灰色かび病防除用微生物剤で、有機栽培に使用できます。耐性菌に対しても有効で、発病前に散布し、病原菌の活動をおさえることができます。
治療のため
アミスター20フロアブル
アミスターは予防効果だけでなく、侵入した病原菌に対して治療効果も有する、優れた薬剤です。作物体に取り込まれる浸透移行性があり、雨にも強いので長く効果が持続します。また、子のう菌、担子菌のほか藻菌類などに対しても効果があり、各種野菜、畑作物、茶のさまざまな病害の効果が期待でき、同時防除にも最適です。
灰色かび病は、耐性菌のために薬剤の選択が難しい病害の一つです。耐性菌が発生していると、昔から常用されている「トップジンM」「ベンレート」「ゲッター」などのベンズイミダゾール系剤(チオファネートメチル、ベノミル)やジエトフェンカルブ剤の散布で効かないことが問題になっています。
ここでは、耐性菌にも比較的効果を発揮する農薬をおすすめしています。この他、ゲッター水和剤やスイッチ顆粒水和剤、セイビアーフロアブル(フルジオキソニル水和剤)、ストロビードライフロアブルも防除効果が高く、利用されている農家の方も多くいらっしゃいます。 (農薬を使用する際は、薬害等が出ないようにラベルの使用上の注意をよく確認するようにしましょう。)
上記の農薬は原液を水で溶かして薄めて使用する液剤、乳剤や水溶性の粉剤、粒剤(粒状や顆粒)です。希釈方法等については下記をご参考ください。
展着剤を利用してみよう
農薬を散布する際、展着剤を活用できると、効果が大きく違ってきます。展着剤は、一般展着剤、アジュバント(機能性展着剤)、固着剤と、本当に様々な種類があります。是非、下記を参考にして、展着剤を活用してみましょう。
カルシウムを散布する
カルシウムを散布することで植物細胞を硬くし、灰色かび病にかかりにくなるとしてカルシウムを使う方もいます。カルシウムはとても作物に吸収されにくい養分なので、サンカルシウムやスーパーシェルカンなどの「水溶性石灰」を使うのがポイントです。
この他、虫除けの忌避剤としてよく使われる木酢やえひめAIを希釈して散布するのも灰色かび病の予防に効果があると言われています。
防除する際のポイント
灰色かび病に限りませんが、菌が一度蔓延し、発病してしまうと、完全に防除するのは非常に難しくなります。このため、防除において最も大事なのは、如何に予防剤などを用いて初発で叩いて、発病させないか、です。
また同じ系統の治療剤・予防剤の連続使用は、農薬が効かなくなる耐性菌の発生を招いてしまいます。菌が抵抗性を持つのを避けるために、系統の異なる薬剤を使うことが重要です。
化学的防除以外の防除方法
発症した葉、花冠の早期除去
灰色かび病は胞子が風で飛んで伝染します。このため、灰色かび病が発生した葉、花冠はコンプレッサーなどですぐに取り除きましょう。
ハウスであれば、ハウス内の湿度を下げる
灰色かび病が多発するのは多湿の環境です。このため、湿度を出来るだけ下げる方法は防除に有効です。
例えば、水が溜まりやすいハウスの谷間は水をハウス外に出し、通路にイナワラやムギワラなどを敷いて敷いて吸水させることでハウス内の湿度を下げることができます。また、チューブ灌水だとハウス内の湿度が上がるので、養液土耕(点滴灌水)のような地中灌水を使うことでハウス内の湿度を下げることもできます。
密植せず、通気性や排水性を確保する
灰色かび病は湿度が高いところで蔓延するので、圃場を密植させず、通気性や日当たりをしっかり確保することが防除につながります。また、暗渠排水や明渠排水、畝立てなどで、排水を良くするのも大事です。
ハウスに循環扇を設置する
上記の通気性に通しますが、循環扇をハウスに設置することで結露防止の効果があり、灰色かび病を減少させる効果があります。
周りをしっかり除草する
圃場の周りに雑草が多くあるとその雑草に病害虫が発生し、繁殖、促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけ除草しておくことが、被害を少なくするのに重要です。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。(この他、イネ科雑草、広葉雑草、多年生やその他の厄介な雑草(スギナやヤブガラシ、スズメノカタビラなど))は個別の対策、防除記事もあります。
栽培に役立つ 農家webのサービス
農家web 農薬検索データベース
作物に適用がある農薬を一覧で探したいときには、「農家web農薬検索データベース」が便利です。
検索機能は、適用作物・適用病害虫に合致する農薬を探す「農薬検索」、「除草剤検索」をはじめ、さまざまなキーワードで検索できる「クイック検索」、農薬・除草剤の製品名で検索できる「製品検索」、農薬・除草剤に含まれる成分名で検索できる「成分検索」の4つで、農薬・除草剤の作用性を分類したRACコードや特性、 効果を発揮するためのポイントなど実際の使用に役立つ情報も知ることができます。
農家webかんたん農薬希釈計算アプリ
除草剤、殺虫剤を代表する農薬の液剤は、かなりの割合が原液で、水で希釈して散布するのが一般的です。希釈倍率に合わせて水と混ぜるのですが、希釈倍率が500倍、1000倍と大きく、g(グラム)やL(リットル)などが入り混じっていて、計算が難解だと感じる方も多いのではないでしょうか。
「農家webかんたん農薬希釈計算アプリ」は、使用する農薬の希釈倍数を入力し、散布する面積などから薬量・液量を算出します。面積の単位や薬剤の単位も簡単に行えます。
ラベルを見て希釈倍率を入力するだけでなく、農薬検索データベースと連携しているので、使いたい製品・適用ラベルを選択することで、希釈倍数を自動入力することができます。
農家web かんたん栽培記録
作物を栽培するときに、植え付けから収穫までの栽培記録をつけることは、作物の安全性を守る他にも、ノウハウを蓄積し、よりよい作物を栽培するためにも大切な作業です。
農家webのかんたん栽培記録はこれひとつで、無料で作物ごとに栽培記録できるだけでなく、その作物に発生しやすい病害虫やおすすめ農薬、また農薬に頼らない防除方法も、簡単にカレンダーから確認することができます。会員登録すれば、LINEに予察情報も届きます。パソコン等が苦手でも、タップで簡単に作業日誌をつけられます。
まとめ
灰色かび病は寄生した植物に拒絶反応を起こさせ、蔓延してしまうと腐る、腐敗するなど、収穫作物が全滅になる恐ろしい病気です。レタス、エンダイブ、イチゴ、ピーマン、ブロッコリーなどの葉菜(非結球あぶらな科葉菜類も)、根菜の野菜からぶどうといった果実、トルコギキョウ、パンジー、シクラメンなどの観葉植物、草花、多肉植物、花き、球根/宿根・多年草まで幅広く発生するのも厄介です。
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
多発してからの圃場の回復は非常に難しいので、予防でしっかり防除することを心がけましょう。
(補足)殺虫剤など、他の農薬について
農家webでは、下記のような害虫別のコンテンツがあります。気になるコンテンツがあれば、ぜひ参考にしてみてください。