ホームセンターやインターネットで数多くの除草剤が販売されていますが、全てが畑地や水田、果樹園などの農耕地に使えるというわけではありません。それぞれ、使える作物と適用場所が定められています。
ここでは、農耕地に使えるものかそうでないものの違い、またどのように見分けれればいいのか解説するとともに、代表的な畑地で使える除草剤を紹介します。
その除草剤は「農耕地用」か、「非農耕地用」か
除草剤を家の芝生や 花壇 、庭以外の畑などで使う場合は、その除草剤が農耕地で使用できるものかどうか、注意が必要になってきます。具体的には、農薬取締法に基づき国に農薬登録をされている除草剤(農薬として登録された除草剤のパッケージには[農林水産省登録第○○号]と表記されています)しか、畑や田んぼ、菜園、植物を植えた庭などの所謂「農耕地」に散布することはできません。安全を担保するため、そのような場所での使用は、薬効、薬害・残留性、動植物への毒性・影響を調査し、農林水産省の登録がなされたものに限定されているのです。
農林水産省の登録がない除草剤を農耕地で使用した場合、「農薬取締法」違反となり、罰則の対象となるので、注意しましょう。一方、通路や空き地など、人が植えた植物がない場所に散布するときには、非農耕地用の除草剤が使用できます。非農耕地用の除草剤は、同法で「農薬として使用できない」旨の表記が義務付けられているので、パッケージを確認すると、その除草剤が非農耕地用かどうかわかります。
また、農薬登録されているものでも、「作物名」が「 樹木 等」になっている除草剤は注意が必要です。なぜなら、「作物名」が「樹木等」に限られている除草剤は、適用場所が「公園、庭園、堤とう、駐車場、道路、運動場、宅地など」に限られ、畑や菜園、圃場、水田は勿論、田んぼの畦畔にも使用することはできないのです。このため、「樹木等」に限定されている除草剤も、非農耕地用になります。
畑で使える除草剤をタイプ別に紹介します!
「非選択性」かつ「茎葉処理剤」
グリホサート系
グリホサート は、イネ科、広葉の一年生雑草、多年生雑草、ササ類、雑灌木などほぼすべての草種に有効で、枯らす効果があります。性質は遅効性で効果の発現に3 ~ 7日、そして完全 な効果に10日~ 2カ月ほどを要します。グリホサートは、(茎葉)吸収移行型のため、葉だけでなく、接触した植物の地下茎、根っこも含めて全体を枯らし、根絶する効果があるため、根を残したい田んぼの畔や傾斜地には向きません。非選択性のため、散布の際に作物にかからないよう注意する必要があります。
また、グリホサートイソプロピルアミン塩よりも、ラウンドアップマックスロード、タッチダウンiQのような、グリホサートカリウム塩の方が、散布後の雨に強く、雨が降っても効果が持続しやすい特性があります。
サンダーボ ルト 007のように、移行性のあるグリホサートに、接触型のピラフルフェンエチルを混合した、速効力と持続力を合わせもつ強力な非選択性茎葉処理型除草剤もあります。ツユクサ類やヒルガオ類 への効果が補強されています。
商品名 | ラウンドアップマックスロード | サンフーロン | タッチダウンiQ | サンダーボルト007 |
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概要 | ||||
販売元 | 日産化学(株) | 大成農材(株) | シンジェンタジャパン(株) | 日本農薬(株) |
有効成分 | グリホサートカリウム塩 | グリホサートイソプロピルアミン塩 | グリホサートカリウム塩 | グリホサート ピラフルフェンエチル |
農耕地使用 | ○ | ○ | ○ | ○ |
サンフーロンはラウンドアップ のジェネリック商品になります。
グルホシネート系
効果の進展はグリホサートよりも早く、1 ~ 3日で効果が発現し、5 ~ 20 日で完全な効果がでる強力除草剤ですが、吸収移行型ではないため、地下部 、つまり根までは枯死せず、雑草・草はグリホサートに比べ、再生しやすい特徴があります。こちらも非選択のため、畑地、圃場での散布の際に、農作物にかからないよう注意が必要になります。代表的な製品として、バスタ液剤とザクサ液剤があります。
商品名 | バスタ液剤 | ザクサ液剤 |
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概要 | ||
販売元 | BASFジャパン(株) | 明治製菓ファルマ(株) |
有効成分 | グルホシネート | グルホシネートPナトリウム塩 |
農耕地使用 | ○ | ○ |
「選択性」かつ「茎葉処理剤」
非選択性は、どんな植物でも枯らしてしまうため、畑で使用するには、作物に当たらないように注意する必要があります。このため、決まった種類の雑草を枯らす選択性の除草剤が、畑地では活躍します。ここでは代表的な選択性の葉茎除草剤を紹介します。
アージラン液剤 (石原バイオサイエンス(株))
アージランはアシュラムが成分で一年生、多年生雑草を問わず、広範囲の雑草に効き、多年生雑草の地下茎まで枯死させる優れものです。芝を枯らさず、芝に生える雑草の広範囲に効くため、芝での除草によく使われますが、畑でも、さとうきび畑やほうれん草、おかひじき、しそ、桑などの作物で使用可能な強力な葉茎処理剤です。オヒシバ、メヒシバ、スズメノカタビラ(生育中)を防除することができ、生育中の広葉雑草にも高い効果:特にキク科雑草(ヒメジョオン、アレチノギクなど)に有効です。
セレクト乳剤
クレトジムを成分とし、イネ科植物と非イネ科植物との間にきわめて高い選択性があり、イネ科雑草だけをピンポイントで枯らします。逆に非イネ科作物に薬剤がかかっても薬害が出ないため、畑では非常に使い勝手が良い葉茎処理剤です。キャベツ、大根、枝豆、玉ねぎ、人参等々、様々な作物の栽培に使用できます。
バサグラン液剤
ベンタゾンナトリウム塩を成分としています。ベンタゾンは、茎葉部から吸収され、植物の光合成を阻害し、葉部白化させ枯死に至らせる効能を持ち、セレクト乳剤の逆で、広葉雑草に効果を発揮します。逆にイネ科雑草や大豆には効かないため、よく大豆畑で使用されます。
商品名 | アージラン液剤 | セレクト乳剤 | バサグラン液剤 |
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概要 | |||
タイプ | 葉茎処理剤 | 葉茎処理剤 | 葉茎処理剤 |
有効成分 | アシュラム | クレトジム | ベンタゾンナトリウム塩 |
効果がある雑草 | 一年生イネ科雑草 多年生イネ科雑草 一年生広葉雑草 多年生広葉雑草 | 一年生イネ科雑草 多年生イネ科雑草 | 一年生広葉雑草 多年生広葉雑草 |
適用作物 | さとうきび ほうれん草 おかひじき しそ、桑 | キャベツ 大根、枝豆 玉ねぎ、人参 等 様々 | 大豆など |
「選択性」かつ「土壌処理剤」
次は、畑地では使える土壌処理剤です。土壌処理剤は、まだ雑草が生えてきていない、生えはじめに使用し、発芽や生長を抑制する除草剤です。ここでは代表的な選択性の土壌除草剤を紹介します。葉茎処理剤とうまく合わせて、しっかり除草しましょう。
ゴーゴーサン乳剤、ゴーゴーサン細粒剤F
ペディメタリンを成分とし、選択性の土壌処理剤の代表的な除草剤です。イネ科雑草と広葉雑草両方の一年草に効果を発揮します。キャベツ、白菜、レタス、にんじんと非常に多くの作物で使用することができる除草剤です。
乳剤は、撒いた後に大雨が降ると被膜が破れてしまう為、天気が心配なときは細粒の方を使用した方が良いでしょう。
トレファノサイド乳剤、トレファノサイド粒剤
トリフルラリンを成分とするジニトロアニリン系の除草剤で、発芽時の雑草の成長分裂を阻害することで、雑草を抑える薬剤です。イネ科の雑草(オヒシバ、メヒシバ、ノビエ、イヌビエ、スズメノテッポウなど)に優れた効果を発揮し、スベリヒユ、ハコベにも効きます。また、非常に多くの作物で使用することができる点もメリットです。
フィールドスターP乳剤
酸アミド系の除草成分ジメテナミドPを有効成分とする野菜・畑作用土壌処理型除草剤です。ノビエ、オヒシバ、メヒシバなどの一年生イネ科雑草をはじめ、カヤツリグサ、ヒユ類、スベリヒユに効きます。キャベツ、ブロッコリー、玉ねぎ、大豆、枝豆、とうもろこしや馬鈴薯に使用可能です。
商品名 | ゴーゴーサン | トレファノサイド | フィールドスターP乳剤 |
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概要 | |||
タイプ | 土壌処理剤 | 土壌処理剤 | 土壌処理剤 |
有効成分 | ペディメタリン | トリフルラリン | ジメテナミドP |
効果がある雑草 | 一年生イネ科雑草 一年生広葉雑草 | 一年生イネ科雑草 多年生イネ科雑草 | 一年生イネ科雑草 |
適用作物 | キャベツ 白菜、レタス にんじん 等 様々 | 非常に様々な作物 | キャベツ ブロッコリー 玉ねぎ、大豆、枝豆 とうもろこし 馬鈴薯 |
畑に生えてくる厄介な雑草は?
畑には様々な雑草が生えてきます。種類別の雑草の生態については下記で詳しく説明していますのでご参考ください。
畑に石灰窒素で除草、防草するという選択肢
石灰窒素は石灰石を原料とするカーバイドに高温で窒素を吸収化合させたものです。窒素成分の他に、カルシウムや炭素成分が含まれています。
石灰窒素の特筆すべき点は、土壌中で水分と反応して有効成分のシアナミドを分離し、このシアナミドが病害虫と接触して効果をあげる殺虫、殺菌効果を持ち、さらに石灰窒素は、シアナミドにより除草、防草効果がある点です。
シアナミドは、植物の根と葉から吸収されることで、植物の生育を阻害する作用を有します。特に一年生雑草の防除に効果があり、水稲の場合も、畑作の場合も、田植え、作付け前に10aあたり50〜70kgを目安として散布することで、明らかに一年生雑草の繁殖が少なくなったという効果が判明されています。代表的な一年生雑草は、コナギ、イヌビエ、スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、オヒシバ、メヒシバ、スベリヒユ、ブタクサ、ツユクサなどです。石灰窒素の詳しい説明、購入方法は下記をご参考ください。
畑の草刈り、草取りに使える除草道具、除草機械
また、雑草を刈る、刈り取る、引っこ抜く、引き抜く、抜き取るといった作業に役立つ草取り用の道具や耕すだけでなく草むしりもできる様々な除草道具、機械、アタッチメントがあります。下記で詳しく説明していますのでご参考ください。
まとめ
畑で使うことができるメジャーな除草剤をピックアップしてご紹介しました。土壌処理剤を上手く使って、葉茎処理剤の使用を限定し、適切な防除ができる一助になれればと思っています。上手く雑草を抑えれると、害虫の発生を減少させ殺虫剤の使用量、それに伴う農作業も減らすことができます。是非、早め早めの雑草対策、防除をしてください。
(補足) 発芽抑制する「土壌処理剤」か、茎葉処理する「茎葉処理剤」か 除草剤のタイプを解説
「土壌処理剤」と「茎葉処理剤」 特徴と見分け方
まず、除草剤の大きなタイプ分けとして、土表面に散布して雑草の発芽を抑制したり、発芽直後に枯死させる「土壌処理剤」と、すでに伸びている雑草の葉や茎に直接かけて枯らしてしまう「茎葉処理剤」の2パターンがあります。
また、この両方の効果を持つタイプもあって、「茎葉兼土壌処理剤」と呼ばれるものもあります。
「土壌処理剤」は、土壌に成分が残り、雑草の発芽成長を妨げる発芽抑制効果があるなど、茎葉処理のものより多くの植物を除去することができます。
しかしながら、草丈20〜30cm以上草が生長している場合は、効き目が弱く、効果を出すためには、草刈りした後での散布が必要になってきます。
「茎葉処理剤」は、散布された薬剤に接触した部分の植物組織だけを枯らします。このタイプの薬剤は種類を限定して効果を発揮することができる選択的除草剤が多くあります。
実際に除草剤を手にとっても、明確に「土壌処理剤」なのか「茎葉処理剤」なのかわからないケースがありますが、そんな時は、「土壌散布」と書かれているものは、「土壌処理剤」、「茎葉散布」と書かれているものは「茎葉処理剤」と判定してもらって間違いありません。
「土壌処理剤」と「茎葉処理剤」 使う時期は違うの?
「土壌処理剤」を使用する時期は、雑草が発生する前や、まだ生え揃っていない耕耘後、または播種(定植)前後になります。既に大きくなってしまった雑草や、塊根、塊茎から出ている雑草を枯らすことは期待できません。
対して、「茎葉処理剤」は、雑草が発生して育っている時期に使用します。
葉や茎にしっかりかかると効果が出るため、あまりにも雑草が繁茂していると、全てにしっかり除草剤がかからず、残ってしまうこともあります。このため、どちらしても、雑草が茂る前に対策することが重要です。
それぞれ使用する時期が異なるので、上手く使い分けることが重要です。
非選択性か選択性か 非選択性と選択性の違い
次に、除草剤は接触した全ての植物を枯らす「非選択性除草剤」か、対象とする植物種を枯らす「選択性除草剤」かに分けられます。除草剤の研究により、枯らす対象となる植物を絞り込む「選択性除草剤」が多く開発されています。枯らす仕組みは主に、光合成を阻害して枯らすもの、植物ホルモンを撹乱させて生長を阻害するもの、植物固有の アミノ酸 の生合成を阻害して枯らすものがあります。
光合成を阻害して枯らすもの
植物は、生長するために光合成を行い、空気中の二酸化炭素(炭酸ガス)と水に光のエネルギーを加えて炭水化物を生成し、酸素を放出する機能を有していますが、その中の光が関与する明反応の部分を阻害して、枯らす作用のタイプです。
代表的な薬剤として、トリアジン系(CAT、シメトリンなど)、酸アミド系(ジフルフェニカンなど)、 尿素 系(DCMUなど)、ダイアジン系(ベタゾンなど)、ダイアゾール系がこれに当たります。
植物ホルモンを撹乱させて生長を阻害するもの
植物の生長に必要なオーキシンというホルモンの類を施用して、主に広葉の雑草の生長のリズムを撹乱(かく乱)し、整体機能を衰退させることで枯らしてしまうタイプです。
代表的な薬剤として、フェノキシ系(2,4PA , MCPなど)がこれに当たります。
植物固有のアミノ酸の生合成を阻害して枯らすもの
植物固有の アミノ酸 の生合成を阻害して、枯らしてしまうタイプです。代表的な薬剤として、スルホニルウレア系(ベンスルフロンメチル、イマゾフルフロン、ピラゾスルフロンメチルなど多数)、除草剤として最も使われている非選択性接触型の アミノ酸 系(グリホサート、グルホシネート、ビアラホスなど)がこれに当たります。