肥料取締法。聞き慣れない法律ですが、最近のニュースで肥料取締法違反で検挙されるケースや、ここ最近に改正があったりと、なんとなく気になっている方も多いかもしれません。
ここでは、肥料取締法とはそもそもどんなものなのか、どんな目的で作られたものなのか、罰則等どんなことに注意しないといけないのか、また改正されるポイントを出来るだけわかりやすく説明していきます。
肥料取締法とは?
肥料取締法は昭和25年に制定された法律で、
「肥料の品質等を保全し、その公正な取引と安全な施用を確保するため、肥料の規格及び施用基準の公定、登録、検査等を行い、もって農業生産力の維持増進に寄与するとともに、 国民の健康の保護に資すること」
を目的として農政上、制定されたものです。
どんなことを守らないといけないの?
肥料取締法は、肥料の品質と安全な施行を守るために制定されています。具体的には、肥料の品質と安全を守るために、
肥料を生産、輸入、販売する際には、その種類に応じて農林水産大臣又は都道府県知事への登録や届出を行わなければならない
と規定しています。なお、自分が自己のほ場などで使う場合に、生産、輸入する場合は登録や届出の必要はないのですが、譲渡する場合は、無償であっても、登録や届出が必要になるという点がポイントです。
また、農産物の品質、安全性確保のため、肥料取締法第30条の2に基づいて、普通肥料の生産業者等に対して、立入検査を実施しています。
肥料取締法に違反した場合、どんな罰則があるの?
肥料取締法に違反した場合は、下記のように罰則が規定されています。
普通肥料と特殊肥料とは?
肥料取締法は、規定の中で肥料を、「特殊肥料」と「普通肥料」に分けています。具体的に「特殊肥料」と「普通肥料」とはそれぞれ下記のものを指します。
「特殊肥料」
特殊肥料とは、魚かすや米ぬかのような、農家の経験と五感により品質の識別できる単純な肥料や、堆肥のような、その価値や施用量が必ずしも主成分の含有量のみに依存しない肥料で、農林水産大臣が指定したものを言います。
具体的には、下記の46種類が指定されています。
魚かす、干魚肥料、干蚕蛹、甲殻類質肥料、蒸製骨、蒸製てい角、肉かす、羊毛くず、牛毛くず、粗砕石灰石、米ぬか、はっこう米ぬか、はっこうかす、アミノ酸かす、くず植物油かす及びその粉末、草本性植物種子皮殻及びその粉末、木の実油かす及びその粉末、コーヒーかす、くず大豆及びその粉末、たばこくず肥料及びその粉末、乾燥藻及びその粉末、落棉分離かす肥料、よもぎかす、草木灰、くん炭肥料、骨炭粉末、骨灰、セラックかすにわかかす、魚鱗、家きん加工くず肥料、はっこう乾ぷん肥料、人ぷん尿、動物の排せつ物、動物の排せつ物の燃焼灰、堆肥、グアノ、発泡消火剤製造かす、貝殻肥料、貝化石粉末、製糖副産石灰、石灰処理肥料、含鉄物、微粉炭燃焼灰、カルシウム肥料
「普通肥料」
「普通肥料」とは、特殊肥料以外のものをいいます。具体的には、化学肥料(化成肥料も含みます)や有機質肥料(有機肥料)、石灰質肥料などを指します。
汚泥肥料のように、汚泥肥料中の有害重金属の基準が設定され、これを超える濃度の有害重金属を含む製品の生産・販売を規制されている肥料もあります。たい肥など、普通肥料のカテゴリーについて詳しく知りたい方は下記で確認してみてください。
肥料取締法は2020年(令和2年)に改正されました!
肥料取締法は改正され、2019年12月4日に交付され、2020年12月1日から施行されています。では、この改正で具体的に何が変わったのでしょうか?
「普通肥料」と「特殊肥料」を配合した肥料や、肥料と土壌改良資材を配合した肥料などの生産が出来るようになりました
今までは「普通肥料」と「特殊肥料」を混ぜた肥料を生産、販売することができませんでした。しかし、農業の現場では、堆肥に代表される「特殊肥料」と化成肥料などの「普通肥料」を両方使用する場合は多く、今までは分けて散布していました。
このため、堆肥などの「特殊肥料」の活用も増やし、効率的な農業を行えるようにするため、普通肥料」と「特殊肥料」を配合した肥料や、肥料と土壌改良資材を配合した肥料などを生産出来るようにしたというのが狙いです。
造粒等を行った肥料も届出だけで生産可能とし、配合肥料等の届出期日を生産の2週間前→1週間前に短縮しました
今までは成分の組み合わせを変える度に登録を取らないといけないため、機動的な生産ができませんでした。これを解決するために、配合後に造粒する場合も含めて届出のみで生産可能とし、届出の期限も生産の2週間前から1週間前でOKとすることで、この点を解消する狙いです。
より詳しい見直しの趣旨、内容は、下記をご参考ください。
具体的に起こった肥料取締法違反の事件
2020年に、インターネットオークションやフリマアプリで、販売業者の届出を行わずに、草木灰を販売していたとして、逮捕される事件がありました。
市販されている化学肥料を、販売の届出や保証票を添付せずに小分けして販売するケースや、家の薪ストーブから出た灰を、生産・販売の届出をせず肥料として販売するケースが最近出てきております。
それ自体は捨てるべきものでも、「特殊肥料」に該当するものが多くあります。販売、譲渡する場合は、無償であっても登録や届出が必要になってきますので、譲渡、販売する際は、「特殊肥料」に該当するものかどうか、きちんと確認するようにしましょう。
まとめ
農業にまつわる法律は、有害な農作物を排除し、安全な農作物の生産、流通に資するために、肥料取締法以外にも農薬取締法や地力増進法、また多くの政令があります。下記にリンクしていますので、ご興味ある方は覗いてみてください。
(補足)「特殊肥料」一覧
肥料の種類 | 概要 |
魚かす ※ | 原料を煮沸、圧搾し油分を採り乾燥したものを言います。魚荒かすも含みます。 |
干魚肥料 ※ | 魚体をそのまま乾燥させたものを言います。油分が多いため土壌中での分解はやや遅い。 |
干蚕蛹 ※ | まゆから絹糸を採った後に残る蚕蛹をそのまま天日乾燥させたものです。 |
甲殻類質肥料 ※ | カニ、シャコ、エビの殻など甲殻類を乾燥した、または軟体動物の加工かすを言います。 |
蒸製骨 ※ | 動物の生骨を粗砕、加圧して蒸製したものを言います。 |
蒸製てい角 ※ | 動物のツノや爪を粉砕し、加圧して蒸製したものを言います。 |
肉かす ※ | 主に豚の皮からそぎとった肉質、脂肪質からラードを採り、さらに圧搾して脂肪を採 ったかすを言います。 |
羊毛くず | 羊毛を加工する際に発生するくずの総称。 |
牛毛くず | 牛の皮を皮革に加工する際に発生するくずのうち 毛のくずのみを集めたもの。 |
粗砕石灰石 | 石灰石を粗く粉砕したもの。 |
米ぬか ※ | 精米の際に発生する米の皮部、胚乳の一部及び胚です。 |
はっこう米ぬか | 米ぬかを発酵させたもの。 |
はっこうかす | 発酵法により生じる蒸留かす。ビールかすなど。 |
アミノ酸かす | たん白質を塩酸で分解してアミノ酸を製造する際に発生するかす。 |
くず植物油かす及びその粉末 | 植物油原料の精選の際に排出されるくず植物種子や事故原料種子を別途に搾油したかす。 |
草本性植物種子皮殻及びその粉末 | 草本性の植物種子の皮殻を搾油して得られる油かす。 |
木の実油かす及びその粉末 | カポックの種子以外の木本性植物の種子を搾油したかすの総称。オリーブ実油かすなど。 |
コーヒーかす | インスタントコーヒーを作るときに出る油かすを乾燥させたもの。 |
くず大豆及びその粉末 | 大豆を搾油工程を経ないで加熱変性末させ、フレーク状に圧ぺんしたもの、またはこれを粉末にしたもの。 |
たばこくず肥料及びその粉末 | たばこ製造の際に発生するくず及びたばこの茎葉からニコチンを抽出したかす。 |
乾燥藻及びその粉末 | その名の通り、海藻類を乾燥させたもの、それを粉末にしたもの。 |
落棉分離かす肥料 | 綿くずを集めたもの。 |
よもぎかす | みぶよもぎからベンゼンでサントニンを抽出したかす、またはよもぎを加工してもぐ さを製造したかすを乾燥したもの。 |
草木灰 | 草木を燃焼させて残った灰。 |
くん炭肥料 | 落ち葉及びじんあいなどをくん焼炭化し、人ぷん尿を吸収させたもの。窒素、リン酸、加里(カリ)を適度に含みます。 |
骨炭粉末 | 動物の骨を空気を遮断し熱分解して炭化させた後粉砕したもの。 |
骨灰 | 骨を燃焼させて、灰にしたもの。 |
セラックかす | ラックカイガラムシから天然樹脂セラックを製造したかす。 |
にかわかす | にかわを抽出したかす。 |
魚鱗 ※ | 魚の鱗(うろこ)を乾燥させたもの。 |
家きん加工くず肥料 | 家きんを加工する際に発生するくずを集めて 蒸煮乾燥 粉砕等の加工を施したもの。 |
はっこう乾ぷん肥料 | 人ぷん尿を調整槽内で発酵させた残留物を乾燥後粉末にしたもの。 |
人ぷん尿 | 人間の排せつしたふんと尿の混合物。 |
動物の排せつ物 | 動物の排せつしたふん。 |
動物の排せつ物の燃焼灰 | その名の通り、動物の排せつ物を燃やして灰にしたもの。 |
堆肥 | 動植物質を堆積し、発酵させたもの。 |
グアノ | 海鳥の排せつ物中の成分のうち、りん酸分だけが母岩の炭酸石灰と作用して生じた難溶性のりん酸三石灰が堆積したもの、またこうもりの排せつ物と死体が堆積したもの(バットグアノ)。 |
発泡消火剤製造かす | てい角、蒸製毛粉などを原料として生産される化学消火剤の製造かす。 |
貝殻肥料 | 貝殻を粉砕したものや、貝を燃やした灰。 |
貝化石粉末 | 貝が埋没して蓄積し、風化して化石になったものの粉末。 |
製糖副産石灰 | 製糖の工程で、汁液の調整及びしょ糖の精製分離のため加えられた消石灰をろ別回収したもの。 |
石灰処理肥料 | 果実加工かす、豆腐かすまたは焼酎蒸留廃液を石灰で処理したもの。 |
含鉄物 | 褐鉄鉱、鉄さいや鉄粉の風化物。 |
微粉炭燃焼灰 | 微粉炭を燃焼する際に発生する熔融された灰で、煙道の気流中から採取されるものなど。 |
カルシウム肥料 | カルシウムを供給するために、葉面散布に使うカルシウム化合物肥料。 |
(補足)普通肥料 一覧
分類名 | 肥料名称 |
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窒素質肥料 | 硫酸アンモニア、塩化アンモニア、硝酸アンモニア、硝酸アンモニアソーダ肥料、硝酸アンモニア石灰肥料、硝酸ソーダ、硝酸石灰、硝酸苦土肥料、腐植酸アンモニア肥料、尿素、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、硫酸グアニル尿素、オキサミド、石灰窒素、グリオキサール縮合尿素 、ホルムアルデヒド加工尿素肥料、メチロール尿素重合肥料 |
被覆窒素肥料、副産窒素肥料、液体副産窒素肥料、液状窒素肥料、混合窒素肥料 | |
りん酸質肥料 | 過りん酸石灰、重過りん酸石灰、りん酸苦土肥料、熔成りん肥、焼成りん肥、腐植酸りん肥、熔成けい酸りん肥、鉱さいりん酸肥料、加工鉱さいりん酸肥料 |
被覆りん酸肥料、液体りん酸肥料、熔成汚泥灰けい酸りん肥、加工りん酸肥料、副産りん酸肥料、混合りん酸肥料 | |
加里質肥料 | 硫酸加里、塩化加里、硫酸加里苦土、重炭酸加里、腐植酸加里肥料、けい酸加里肥料、粗製加里塩、加工苦汁加里肥料、液体けい酸加里肥料、熔成けい酸加里肥料、副産加里肥料 |
被覆加里肥料、混合加里肥料 | |
有機質肥料 | 魚かす肥料、干魚肥料粉末、魚節煮かす、甲殻類質肥料粉末、蒸製魚鱗及びその粉末、肉かす粉末、肉骨粉、蒸製てい角粉、蒸製てい角骨粉、蒸製毛粉、乾血及びその粉末、生骨粉、蒸製骨粉、蒸製鶏骨粉、蒸製皮革粉、干蚕蛹粉末、蚕蛹油かす及びその粉末、絹紡蚕蛹くず、とうもろこしはい芽及びその粉末、大豆油かす及びその粉末、なたね油かす及びその粉末、わたみ油かす及びその粉末、落花生油かす及びその粉末、あまに油かす及びその粉末、ごま油かす及びその粉末、ひまし油かす及びその粉末、米ぬか油かす及びその粉末、その他の草本性植物油かす及びその粉末、カポック油かす及びその粉末、とうもろこしはい芽油かす及びその粉末、たばこくず肥料粉末、甘草かす粉末、豆腐かす乾燥肥料、えんじゆかす粉末、窒素質グアノ、加工家きんふん肥料、とうもろこし浸漬液肥料、副産植物質肥料 |
魚廃物加工肥料、乾燥菌体肥料、副産動物質肥料、混合有機質肥料 | |
複合肥料 | 熔成複合肥料 |
化成肥料、配合肥料(指定配合肥料含む) | |
混合動物排せつ物複合肥料、混合堆肥複合肥料、成形複合肥料、吸着複合肥料 、被覆複合肥料、副産複合肥料、液状複合肥料、熔成汚泥灰複合肥料、混合汚泥 複合肥料、家庭園芸用複合肥料 | |
石灰質肥料 | 生石灰、消石灰、炭酸カルシウム肥料、貝化石肥料、副産石灰肥料 |
混合石灰肥料 | |
けい酸質肥料 | けい灰石肥料、鉱さいけい酸質肥料、軽量気泡コンクリート粉末肥料、シリカゲル肥料、シリカヒドロゲル肥料 |
苦土肥料 | 硫酸苦土肥料、水酸化苦土肥料、酢酸苦土肥料、炭酸苦土肥料、加工苦土肥料、腐植酸苦土肥料、リグニン苦土肥料 |
被覆苦土肥料、副産苦土肥料、混合苦土肥料 | |
マンガン質肥料 | 硫酸マンガン肥料、炭酸マンガン肥料、加工マンガン肥料、鉱さいマンガン肥料 |
混合マンガン肥料 | |
副産マンガン肥料、液体副産マンガン肥料 | |
ほう素質肥料 | ほう酸塩肥料、ほう酸肥料、熔成ほう素肥料、加工ほう素肥料 |
微量要素複合肥料 | 熔成微量要素複合肥料、液体微量要素複合肥料 |
混合微量要素複合肥料 | |
汚泥肥料等 | 下水汚泥肥料、し尿汚泥肥料、工業汚泥肥料、混合汚泥肥料、焼成汚泥肥料、汚泥発酵肥料、水産副産物発酵肥料、硫黄及びその化合物 |
農薬その他の物が混入される肥料 | 化成肥料、配合肥料、被覆複合肥料、液状複合肥料、家庭園芸用複合肥料 |