個人事業主の農家は、老後は国民年金しか受給できず一般の会社員と比べると老後が心配という人もおおいのではないでしょうか。ここでは農家に特化した農業者年金について、詳しく説明するとともに似た制度の国民年金基金やiDecoとの違いについても解説します。
農業者年金とは
農業者年金とは、農業者のみが入れる公的年金制度で、年金制度の2階建て部分において唯一、国庫補助がある公的年金制度です。
年金制度の2階建て部分とは、日本の年金制度は20歳以上60歳未満のすべての方が加入する国民年金(基礎年金)を1階とし、個人事業主の農家は追加で年金制度に加入しない限りこの1階部分の年金しか受け取れません。
会社員や公務員は厚生年金に加入することで、年金を受け取るときに国民年金に上乗せして年金が受け取れます。この部分を2階建てといいます。農家は個人事業主が多く、会社員のような上乗せ制度がないことから「農業者年金」制度が開始しました。
現在はフリーランスなどの個人事業主が増えたことから、農業者以外の個人事業主も加入できる公的年金制度の「国民年金基金」や、3階建て部分にあたる、私的年金制度のiDeCo(個人型確定拠出年金)などでも上乗せ部分を補充することが可能です。
農業者年金の特徴
対象者
農業者年金の加入資格は下記の3つだけなので、加入条件を満たせばパートタイムや農業経営者の配偶者など幅広い人が加入できます。国民年金の第1号被保険者とは、厚生年金保険や共済組合等に加入していない自営業の人を指します。農業法人で働いている人は対象外です。
- 年間60日以上農業に従事する
- 国民年金の第1号被保険者(国民年金の保険料納付免除者を除く)
- 20歳以上かつ60歳未満の方(年間60日以上農業に従事する60歳以上65歳未満の国民年金の任意加入者も可)
制度の概要
農業者年金の概要について簡単に説明します
積立方式・確定拠出型
積立方式・確定拠出型の場合、受け取る金額は自分が積み立てした保険料とその運用益を合わせた額で決まります。加入者が減ったり、受給者が増えるなどの人口の変化に影響を受けないので、現役世代が減ることにより支給が減ることはないので安心して加入できます。
また運用益がマイナスになり、自分が積み立てた金額を割り込んだとしても危険準備金(付利準備金)からマイナス分が補填されるため、原本割れのリスクもありません。(制度発足から直近令和5年度までの平均的な運用利回りは、1年度あたり3.05%です。)
終身年金
年金加入者は、65歳から75歳になるまでの間で受給開始時期を決める裁定請求をすることで、年金を受け取ることができますが、その年金は受給開始から亡くなるまで受け取ることができる国民年金と同じ終身年金です。
しかも80歳までの年金は保証されており、仮に80歳より前に亡くなった場合は死亡した月から80歳までにもらえるはずだった年金の現在価値が死亡一時金として遺族に支払われます。
税金面での優遇措置あり
税金面では多くの優遇措置があります。掛け金として掛けた金額、運用益、受け取るときにも税金の優遇があります。
- 掛け金が全額経費として認められます。例えば毎月2万円かけたとして年額24万円が経費となり、所得からマイナスされるので所得税・住民税・国民健康保険料が安くなります。(所得が195万円以下の場合、税金だけでも15.1%,36,240円の節税)
- 支払われた年金は公的年金控除が適用されるため、公的年金の合計が年額110万円までは非課税
- 掛け金の運用益は、通常20%の税金が課せられますが農業年金の運用益は非課税のためその分元金が多くなる
- 死亡一時金も非課税
39歳までに加入すると、一定の条件を満たせば保険料の一部を国が負担
農業年金が他の年金制度と違うとことは、若い時に加入すると掛け金の一部を国が負担してくれるところです。35歳以下であれば最大20年、39歳以下であれば10年間保険料の一部を国が負担してくれます。農業所得が900万円以下で、認定農家であり青色申告者であることなどが条件ですが、最大1万円の補助があります。
詳しい条件等は、独立行政法人農業者年金基金「農業の担い手には保険料の国庫補助あり」を確認してください。
農業者年金のメリット
- 39歳以下であれば国の補助が受けられる
- 税務上のメリットが大きい
- 積立方式・確定拠出型で少子化によるリスクが少なく、元本割れのリスクほとんどない
- 加入条件が広いので、加入しやすい。
農業者年金のデメリット
- お金が必要でも脱退一時金は支給されない。年金として受け取る以外はできないので掛けすぎには注意
- iDeco、国民年金基金との併用はできない(加入できない)
- 運用はのうねんが行うため、自分で金融商品を選ぶことはできない
国民年金基金との違い
国民年金基金は、農業者年金と同じ公的年金です。一生補償が続く終身年金保険、税務上の優遇措置は同じです。似たような制度といわれますが、主な違い5つについて説明します。
違い① 加入時に受け取る金額が決まる
農業者年金は掛け金+運用益が将来の年金額になりますが国民年金基金は、加入時の予定利率(平成26年以降に加入した人の予定利率は1.5%)で計算され、加入時に将来受け取る年金金額が決まる確定給付型。予定利率は1.5%と低めですが、元本割れがなく、もらえる金額が確定しているというのはリスクが少なくて安心です。
違い② プランが多い
農業者年金はプランは1つだけですが、国民年金基金はプランが豊富です。1口目に終身保険の保証がある(死亡時に遺族に一時金が支払われる)か、保証がない分掛け金が安いB型を選び、追加で受取期間が決まっている確定年金のプランを選ぶこともできます。
違い③ 年齢・プランによって最低掛金額が決められている
3つ目は掛け金についてです。国民年金基金は加入時の年齢・プランにによって最低掛金の額決められていること。年齢が高くなるほど最低掛金額は高くなります。
違い④ iDeco(個人型確定拠出年金)との併用が可能
4つ目は、iDecoとの併用ができること。掛金の上限は2つ合わせて6万8千円ですが、リスクの少ない国民年金基金と、自分で運用することができるiDecoと併用することができます。農業者年金加入者はiDecoへの加入はできません。
違い⑤ 補助金はない
農業者年金にある若い世代に向けた国の補助は、国民年金基金にはありません。
iDeCo(個人型確定拠出年金)との違い
iDeco(個人型確定拠出年金)は私的年金制度で、2001年10月に始まった比較的新しい制度です。年金制度の3階建て部分ともいわれ、厚生年金に入っている会社員の人でも個人で年金を上乗せできる年金制度ですが、農業者年金に加入している場合には、併用はできないためどちらかを選ぶ必要があります。
違い① 有期年金
農業者年金は一生涯支給が続く終身年金ですが、iDecoは年金を受け取る期間が決まっており、一括で受け取るか分割で受け取ることができる有期年金(銀行によっては終身で受け取れる場合もあります)です。
違い② 自分で運用する
iDecoは農業者年金と同じ確定拠出型なので受け取る年金は、自分で掛け金とその運用益によってきまります。農業者年金は自分で運用はせず、農業者年金基金(のうねん)が運用をし掛金が運用益を下回った時には補充する制度もあります。
しかしiDecoは自分自身でどの金融商品に投資するか決定します。金融商品によっては定期預金のような元金割れのリスクのないものから、ハイリスク、ハイリターンの商品があり、運用が上手くいけば多くの年金を受け取ることができる反面、元金割れするリスクもあります。
違い③ 手数料がかかる
iDecoを始める場合、iDeCoを取り扱う金融機関へ申込をし、口座を解説する必要があり、毎月の管理手数料がかかります。管理手数料は金融機関によって変わりますが大きな金額ではありません。ただし金融機関を選ぶときには、運用商品も金融機関によって違いますので、運用商品や管理手数料も考慮して選びましょう。
違い④ 国民年金基金との併用が可能
掛金の上限は2つ合わせて6万8千円ですが、自分で運用することができるiDecoと、リスクの少ない国民年金基金とを併用することができます。農業者年金加入者は国民年金基金への加入はできません。
違い⑤ 補助金がない
農業者年金にある若い世代に向けた国の補助は、iDecoにはありません。しかし掛金が5千円から始められるので、少額でも始めやすい年金制度です。
農業者年金、国民年金基金、iDecoどれがよい?
農業者の人は、農業者年金に入ると国民年金基金やiDecoに加入できないためどれを選べば得なのか、悩む人もおおいのではないでしょうか。
どれか得かは、実際に加入する年齢、加入時期、選んだ商品やプランによって変わるため、実際に年金をもらう時にならないとわからないというのが実際です。
例えば現時点でいえば、国民年金基金の予定利回りは1.5%なので農業者年金の運用利回りの3.05%に比べると、もらえる金額は少なくなる可能性がありますが、今後運用利回りが1.5%以下になる可能性もありますし、もっと大きくなる可能性もあります。iDecoの平均利回りは3%~5%といわれますが、高いものでは20%をこえるものもあります。しかし今年良くても来年はどうなるかはわかりません。もちろん掛金よりマイナスになり元金割れすることもあります。
ただし農業者年金は若い世代の人は、条件がありますが国から補助がでるので最大12万円の掛け金を補助してもらえるのは大きいといえるでしょう。
農業者年金基金や国民年金基金のHPでは、実際の年金金額をシュミレーションできるので、そちらを使っていくら積立したらいくらもらえるのかなどのシュミレーションをしてみるとよいでしょう。
種類 | 農業者年金 | 国民年金基金 | iDeCo(個人型確定拠出年金) |
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メリット | ・39歳以下であれば国の補助が受けられる ・元金割れのリスクがない ・終身保険で、確定拠出なので少子化などのリスクがすくない | ・加入時に受け取れる年金額がわかる ・終身保険なので長生きすればするほどお得 ・プランが多い | ・少額から始められる ・うまく運用すれば多く年金が受け取れる ・受取りは一時金・分割で選べる |
デメリット | ・国民年金基金・iDeCoとの併用ができない ・一時金として受け取れない | ・利回りが低い ・一時金として受け取れな い | ・元本割れの可能性がある ・手数料がかかる |
まとめ
農業者が入れる年金制度について、農業者年金を中心に説明しましたがいかがでしたでしょうか。
どれを選んだとしても、自分で貯金したり生命保険の年金保険商品などより、節税効果が高い年金制度なので、老後生活のために一度検討してみてはいかがでしょうか。しかし年金制度なので、原則65歳以上にならないと受け取れません。積立金額には十分注意しましょう。
各年金制度については、変更になることがあります。
実際に加入する際には、各制度のHPや加入機関の説明をよく読んでから加入してください。