きゅうりは果菜類の中でも多くの種類の病害虫から被害を受ける作物の一つです。ここではきゅうりの防除暦で、発生しやすい病害虫の防除に使えるおすすめの農薬や散布の時期や方法の他、農薬以外の防除方法について説明します。
きゅうりの防除暦とは
防除暦とは各地域で栽培する作物に対し、病害虫の防除方法が記載された暦です。発生しやすい病害虫やそれに合った農薬種類や散布時期、希釈倍率、散布回数などが記載されています。栽培が多い地域はJAなどで配布していることもあります。
防除暦がない地域や、手に入れにくい場合などは、農家webの「かんたん栽培記録」から、作物と地域を選択するれば独自の防除暦をみることができます。
きゅうりに発生しやすい病害虫と防除方法
ではきゅうりの防除情報をみてみましょう。下記は「かんたん栽培記録」で検索した埼玉県のキュウリ(早熟)の防除暦の一部です。


実際の防除暦は下記から確認できます。きゅうりにはいろいろな栽培方法があるので、自分の栽培方法・地域から防除暦を確認できます。


きゅうりに発生しやすい病害虫
きゅうり(早熟)に発生しやすい病気は、うどんこ病、つる枯病、べと病、灰色かび病、褐斑病、黒星病です。
きゅうり(早熟)に発生しやすい害虫は、アブラムシ類、コナジラミ類、ハダニ類、ハモグリエバエ類、ミカンキイロアザミウマです。
きゅうりの防除の方法
きゅうりの防除は、化学農薬による化学的防除の他に、天敵製剤などをつかった生物的防除、防虫ネットや光反射マルチなどによる物理的防除などを組み合わせる、IPM(総合的病害虫・雑草管理)防除をすることで農薬散布の回数を減らすことができます。
また化学農薬を使う際には同一農薬や作用性の同じ農薬を続けて使うことは避け、RACコードを参考に作用の違う農薬を散布することで、害虫の抵抗性や病気の耐性がつくことを避けます。
きゅうりに発生する病気に適用のある農薬
きゅうりの化学農薬散布は、スケジュール散布ではなく病害虫の発生状況に応じて散布することで、化学農薬の散布量を減らすことができます。農薬散布の回数を減らすことは労力やコストの削減の他、農薬による薬害・薬斑を減らすこともできます。
きゅうりに適用のある農薬の一例です。
散布時期 | 農薬名 | 対象病害虫 | 希釈倍率 | 使用液量 | 使用期間 | 使用回数 | 使用方法 | FRACコード | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
発病初期 | トップジンM水和剤 | うどんこ病 菌核病 灰色かび病 黒星病 つる枯病 炭疽病 | 1500〜2000倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫前日まで | 5回以内 | 散布 | 6 | きゅうりの複数病害の同時防除が可能なため、総合防除剤として活躍する農薬 ほとんどの殺菌剤、殺虫剤あるいは殺ダニ剤と混用できるので、散布の省力化も可能。 |
発病初期 | アリエッティC水和剤 | べと病 褐斑病 | 400〜800倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫前日まで | 3回以内 | 散布 | M4、P7 | 浸透移行性を持つ混合殺菌剤で、耐菌性の発生の可能性の少ない薬剤です。 |
発病初期 | 住化スミレックス水和剤 | 灰色かび病 つる枯病 菌核病 灰色かび病 | 200g/10a 1000倍 1000〜2000倍 1000〜2000倍 | 10㍑/10a 100〜300㍑/10 100〜300㍑/10 100〜300㍑/10 | 収穫前日まで | 2回以内 6回以内 6回以内 6回以内 | 常温煙霧 散布 散布 散布 | 2 | ジカルボキシイミド系の殺菌剤。 浸透移行性、持続性耐雨性がある薬剤です。 |
発病初期 | ベルクートフロアブル | 灰色かび病 うどんこ病 褐斑病 炭疽病 菌核病 黒星病 | 150mL/10a(常温煙霧) 2000倍 | 10㍑/10a(普通常温煙霧) 100〜300㍑/10a(散布) | 収穫前日まで | 7回以内 | 常温煙霧 散布 | M7 | 多くの病害に対して優れた予防効果をもち、常温煙霧が可能な薬剤です |
発病初期 | アミスターオプティフロアブル | べと病 うどんこ病 褐斑病 炭疽病 灰色かび病 菌核病 黒星病 | 1000倍 | 100〜400㍑/10a | 収穫前日まで | 4回以内 | 散布 | 11,M5 | 殺菌スペクトラムが広いのできゅうりの病害を同時防除することができる殺菌剤 天敵製剤のカブトガニにも影響が少ない薬剤です。 |
きゅうりに発生する害虫に適用のある農薬
天敵製剤
ハウス栽培で化学農薬を減らすには、天敵製剤が有効です。スワルスキーカブダニは寒さに弱いため、促成栽培(冬春取り)ではリモニカスカブリダニ剤が有効です。化学農薬と併用する際には天敵に影響のない農薬を使いましょう。
散布時期 | 農薬名 | 適用害虫 | 使用量 | 使用時期 | 使用方法 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|
定植後7日前後 | スワマイト | コナジラミ類 アザミウマ類 | 25,000〜50,000頭/10a | 発生直前〜発生初期 | 放飼 | 天敵製剤(スワルスキーカブリダニ剤) 低温時は活動が鈍ります。 |
定植時期 | リモニカ | アザミウマ類 コナジラミ類 チャノホコリダニ | 2〜4㍑/10a(約25000〜50000頭) | 発生直前〜発生初期 | 放飼 | 天敵製剤(リモニカスカブリダニ剤) 寒さに強く、比較的低温の環境下でも生存・定着します。 |
害虫発生初期 | スパイラルEX | ハダニ類 | 20~3000頭/100株 100~1250ml/10a(約2000~25000頭) | 発生初期 | 放飼 | 天敵製剤(ミヤコカブリダニ剤) |
害虫発生初期 | 石原イサパラリ | ハモグリバエ類 | 250頭/10a | 発生初期 | 放飼 | 天敵製剤(イサエアヒメコバチ剤) |
化学農薬
散布時期 | 農薬名 | 対象病害虫 | 希釈倍率 | 使用液量 | 使用期間 | 使用回数 | 使用方法 | IRACコード | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
定植前 | 日曹ベリマークSC | アブラムシ類 アブラムシ類 アザミウマ類 コナジラミ類 ハモグリバエ類 | 400株当り25mL | 400株当り2〜20㍑(1株当り5〜50mL) | 育苗期後半〜定植当日 定植直後 育苗期後半〜定植当日 育苗期後半〜定植当日 育苗期後半〜定植当日 育苗期後半〜定植当日 | 1回以内 | 灌注 株元灌注 灌注 灌注 灌注 | 28 | 有用昆虫に影響のない薬剤。 速やかな吸収移行性により長い残効性があります。 |
発病初期 | ベストガード水和剤 | コナジラミ類 アブラムシ類 ミナミキイロアザミウマ クロバネキノコバエ類 | 1000〜2000倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫前日まで | 3回以内 | 散布 | 4A | ネオニコチノイド系の殺虫剤。 浸透移行性が高く、葉裏に隠れた害虫にも効きます。 有用天敵への影響の少ない薬剤です。 |
発病初期 | プレオフロアブル | ハモグリバエ類 アザミウマ類 ウリノメイガ | 1000倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫前日まで | 2回以内 | 散布 | ー | 新しい骨格を有する殺虫剤で、従来の抵抗性害虫にも効果があります。 天敵製剤のカブリダニに影響がなく、速効的で、残効性に優れています。 |
発病初期 | コルト顆粒水和剤 | アブラムシ類 コナジラミ類 | 4000倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫前日まで | 3回以内 | 散布 | 9B | スルホキシイミン系の新規殺虫剤 速効性や浸達性に優れた薬剤です。 チリカブリダニ,ミヤコカブリダニなど、害虫の各種天敵に対して悪影響が小さい農薬です。 |
上記は天敵製剤に影響の少ない農薬ですが、天敵製剤を使わない場合は多くの種類の農薬をつかうことができます。農薬を使う際には作用がことなる農薬を使うローテーション散布を心がけましょう。
この他きゅうりに適用がある農薬は下記からほぼすべての農薬が検索できます。
農薬以外の防除方法
防虫ネット
害虫の侵入防止には防虫ネットが有効です。一番小さなコナジラミ類の侵入防止には0.4㎜目合いのネット、アザミウマ類には0.6㎜目合いの赤色ネットが有効です。
循環扇
循環扇をハウスに設置することで結露防止の効果があり、灰色かび病を減少させる効果があります。
粘着シート
粘着テープをハウスの場合は換気部周辺に、屋外の場合でも圃場を囲むように粘着テープを設置することで、初期予防に効果があります。黄色のテープはアブラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類が集まります。
光反射資材
光反射資材を設置すると、アザミウマ類、コナジラミ類は正常に飛行することができなくなります。ハウスの場合は周囲の地面に設置する、露地の場合はシルバーマルチも有効です。
農業アプリを活用しましょう
今まで農業日誌や栽培記録、ノートやパソコンで管理していたという人には、農業に役立つアプリを活用しませんか。農家webの「かんたん栽培日誌」アプリはスマホから作物と地域を入力するだけで、防除暦、栽培カレンダーが自動表示。実際の栽培記録はタップ一つで登録可能。自社の「農薬検索データベース」「かんたん農薬希釈計算アプリ」と連動しているので、散布したい農薬をいれればラベルをみなくとも希釈計算も可能で、散布回数もカウントしてくれます。
また地方自治体から発表される予察情報も反映しているので、農家の防除に役立つアプリです。ダウンロードも不要で、ID登録だけですべての機能が無料で使えるアプリです。ぜひ一度使ってみてください。