この記事では、被覆肥料の概要と使い方、プラスチックによる問題と対処法、おすすめ商品を紹介します。
被覆肥料とは
「被覆肥料」とは、肥料の表面を被覆材で覆い、肥料の成分の効きをゆっくりにする(肥効の緩効化)肥料です。コーティング肥料とも呼ばれ、様々な国で実用化されています。
最初に開発されたのはアメリカと言われ、樹脂系、硫黄系の被膜で覆われたものでした。日本でも研究、開発され、多くの地域で使われています。
肥料の効きを遅効化することで、施肥の労働力の軽減や土壌への環境負荷を軽減すること、また機能面でも色々と改良がなされていることから被覆肥料の生産は全世界で増加しています。水稲栽培や施設栽培などそれぞれの作物、作型に適する被覆肥料の開発により、今後もますます普及していくことが期待されています。
一方でプラスチックでコーディングされた肥料は、使用後の被膜殻がほ場から海洋に流出することによる環境影響が懸念されています。
プラスチック被覆肥料の問題点と対処の取り組み
先述したとおり、プラスチック被覆肥料は使用後の被膜殻がほ場から海洋に流出していることが問題となっています。この問題に対処するため、様々な取り組みが行われています。
プラスチックを使用しない被覆肥料の開発・販売
各肥料メーカーは、プラスチックを使用しない基肥一発体系(基肥だけで栽培を行う)の代替技術や省力的な追肥体系への代替の実証と普及を進めています。
具体的には、下記のような肥料が開発されています。
- 液体肥料よりも粘度が高いペースト状の水稲側条施肥用肥料の開発・販売が行われています。側条施肥田植機で田植と同時に所定の位置に正確に施肥することが可能で、早期に有効茎を確保できる画期的な肥料です。
- 肥料を自然界にも存在する硫黄でやさしくつつんだ、硫黄被覆肥料(SCU/SC化成)の開発・販売が行われています。被膜の主成分である硫黄は、微生物によってすべて分解され、作物の養分となり、自然にかえるので、環境にもやさしい肥料です。
他にも、そもそもの追肥を楽にすることで「基肥一発体系」に頼らずとも、栽培ができるようにするなどの取り組みが行われています。
水田 畦畔管理
- 丁寧な畦塗りで漏水を防ぐことができます。
- 排水口の止水板は畦の高さ以上とすることで、水尻からの流出を防ぐことができます。
水田 代かき・田植え時の水管理
- 入水までに田面を均平にし、代かきは浅水状態で行うことで流出を防ぐことができます。
- 田植え前は強制落水せず、自然落水で水位調整することで流出を防ぎます。
浮遊したプラスチック殻の除去
- ほ場内で浮遊したプラスチック殻を見つけた場合は、網等ですくい取ることで流出を軽減できます。
被覆肥料の主な種類
被覆肥料は主に被覆材の種類、原料の肥料の種類、溶出タイプによって分けられます。
分け方 | 種類 |
---|---|
被覆材料 | 樹脂系・・ポリエチレン、ポリエステルのような熱可塑性樹脂とアクリル、ポリウレタンのような熱硬化性樹脂がある 無機系・・硫黄、尿素など |
原科肥料 | 被覆窒素肥料、被覆カリ肥料、被覆リン酸肥料、被覆苦土肥料、被覆複合肥料 |
溶出タイプ | リニア型・・・・溶け出す量が一定、放物線タイプ シグモイド型・・初期の一定期間溶出を抑えるタイプ |
被覆肥料の特徴
被覆肥料の主な特徴は、
- 肥効が持続するため、追肥の回数を減らすことができる
- 溶出コントロールができ、持続期間が30〜360日と様々なパターンに合わせることができるため、作物に合わせた施肥コントロールを自動で行うことができる
- 肥効が緩やかなので、土壌中の肥料濃度を高めずに栽培することができる
になります。
肥料の溶出速度をコントロールする肥料に「IB肥料」があります。「IB肥料」については下記を参考にしてみてください。
被覆肥料の使い方
元肥・基肥として使います。基本的には、土壌一面に散布し混ぜ合わせます。各商品の使い方に従って施肥すると、より効果の高い使い方が可能です。
活用する際の注意点
被覆肥料は様々な種類があり、肥料の溶出の仕方もそれぞれ異なります。このため、作物の生育ステージに合った被覆肥料を選ぶことが重要です。場合によってはどうしても追肥が必要になるケースもあります。事前に作物の成長に合うか確認するようにしましょう。
また、土中に肥料がある場合と、土中ではなく肥料の一部が外に出ている表面施肥の場合では、肥料の溶け出す量が異なってきます。外に出ている状態になると予定通りの溶出が起こらず、肥料の欠乏を招いてしまう危険性があります。マルチや培土、耕転することで肥料を出来るだけ露出しないようにしましょう。
被覆肥料のおすすめ商品
被覆肥料は、対象の作物や育て方によって様々な商品が開発、販売されています。また、環境に配慮し生物分解可能な商品も販売されていますので、それらを積極的に利用することも重要でしょう。
ここではおすすめできる被覆肥料の商品を紹介します。
有機一発肥料 根菜用
じゃがいも、さつまいも、大根、ラディッシュといった根菜から、ニンジン、スイカ、メロン、スイートコーン、枝豆、さやいんげん、さやえんどうなどに使える元肥(基肥)に使える被覆肥料です。収穫まで追肥いらずで施肥作業を省力化することができます。
SUNBELLEX ネギ・たまねぎ・にんにくの肥料
有機肥料をコーティングした被覆肥料で、ネギ、玉ねぎ、にんにくにおすすめの肥料です。
被覆肥料の購入場所
店舗で購入する
上記で紹介した肥料は、一般的な大規模ホームセンターの農業資材コーナーでも販売されています。一部の商品はコメリなど、農業・園芸に特化したホームセンターにしかない場合があります。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。
まとめ
被覆肥料(コーティング肥料)は以上のように、施肥回数を減らしたり、土壌の施肥の濃度を一定に保ち、土壌を健全に保つなど、優れた効果を発揮します。
また、肥料成分が遅効によって作物にしっかり吸収されやすいため、河川や地下水への流亡を減らすことで環境負荷を軽減する効果もあります。
しかしながら近年、水田で使用されたプラスチック系の被膜が水面に浮上し、水田から河川や海洋等に流出して汚染になる問題を生じています。この場合は代かきをして丁寧に取り除く、また水田には分解される素材のものを選んでプラスチックタイプの被覆肥料を使わないなど、用途に適切な被覆肥料を選択して、環境に配慮した使用も心がけたいところですね。