みかんは、オレンジ、キンカン、レモンなどの柑橘(かんきつ)類の中でも、最も身近なもののひとつと言っても過言ではありません。みかんを果樹として栽培することも人気で、プロ農家の果樹園だけではなく、ご家庭の庭での地植え栽培も盛んに行われています。
みかんに鶏糞肥料は使えるか、という話題をよく聞きます。この記事では、みかんに鶏糞肥料が使えるか、その理由とともに紹介します。
みかんに鶏糞肥料は使える、但し注意して使う必要がある
結論としては、「みかんに鶏糞(鶏ふん)は使えるが、鶏糞の特性をよく理解しておく必要がある」ということです。
鶏糞肥料は、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)が豊富に含まれており、かつ牛糞(牛ふん)や豚糞(豚ぷん)よりも速効性のある肥料として知られています。また、比較的安価であることから、栽培のコストを下げたいというニーズにも合致する資材です。
しかし、みかんなどの柑橘類(かんきつ類)に施用すると、果実の品質が下がるということも言われています。これにはいくつか理由がありますが、鶏糞の特性を知っておくことで果実の品質劣化を防ぎながら、肥料のコストを下げることができます。
鶏糞を施用しても、適正量であれば果実品質に及ぼす影響は小さいと言われています。ただし、鶏糞を夏肥としても施用した場合は,果皮色が悪くなったり、クエン酸含量が高くなったりしたという報告があることから、施肥時期としては春肥もしくは秋肥が適しているのではないかと考えられます。
鶏糞肥料の特性をよく知る
鶏糞は、価格が安価な有機質肥料ですが、かんきつ類では果実品質を下げるという理由で、あまり積極的には施用されていませんでした。しかし、最近の肥料価格高騰や有機農業への関心が高まるなかで注目されている資材のひとつです。
さらに従来の粉状だけでなく、粒状やペレット形状のものなど、臭いが少なく扱いやすいものが増えていることも普及の後押しとなっています。
根から吸収される鶏糞の窒素成分は、化成肥料と同じアンモニアまたは硝酸です。
かんきつ類で鶏糞は使いにくいとされている理由のひとつに、成分率や無機化率が製造元により大きく異なっていることがあります。この理由は、鶏の種類や堆積方法、処理方法が窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の成分量に影響するためです。
しかし現在、有機質肥料や堆肥については肥料取締法でその成分率表示が義務付けられているため、成分含有率を事前に把握することができます。鶏糞を使用する場合は、必ずその成分含有率を確認してから施用すると良いでしょう。
鶏糞などの有機質肥料(有機肥料)を使用する場合は、臭いや虫にも気をつける必要があります。マルチの上からそのまま有機質肥料を施すと、地上で発酵・腐敗が進み、臭いがすごいことになります。また、ハエなどの虫も寄ってきやすくなります。
みかんに使えるその他の肥料
\みかんにおすすめの肥料まとめ/
みかん専用の肥料
みかんなど柑橘類(かんきつ類)専用の肥料として、販売されている商品も多々あります。「みかんがおいしくなる肥料」として販売されていたり、「みかんが甘くなる資材」として販売されていますので、初心者の方はそのような商品を使用することで、栽培が楽になるでしょう。
油かす肥料
結論としては、「みかんの肥料として油かす肥料は適している」といえます。特に油かす肥料などの有機肥料(有機質肥料)は、元肥として施すとゆっくり長く肥料の効果を効かせることができます(緩効性肥料)。
みかんの養分吸収(土壌などからの養分の吸い上げ)の特性としては、主に下記のことが言えます。
- 新芽の発芽など初期生育のときは、大部分が前年までに体内に吸収された栄養を使用して生長する。
- 葉や枝が充実してくる5月頃から窒素(N)をよく吸収する。そして6月頃〜7月頃に吸収のピークを迎え、その後も一定量吸収される。
- カリウム(K)も窒素同様、春頃から良く吸収される。
油かす肥料は、窒素が多く含まれています。そして、肥効(肥料の効果)も長い緩効性肥料です。みかんの施肥(肥料やり)の考え方として、夏の生育期の追肥(夏肥)によって補うことも重要ですが、元肥に油かす肥料などの有機肥料(有機質肥料)を多く使うことによって、肥効を持続させることも重要です。油かす肥料は、その代表的な資材と言えるでしょう。
\みかんに油かす肥料を使う/
米ぬか肥料
みかんには、米ぬかの肥料が使えると聞いたことがある方も多いと思います。
結論としては、「みかんの肥料として米ぬかは使える」ということです。ただし、使い方に注意が必要です。
\みかんに米ぬか肥料を使うときの注意点など/
化学肥料(緩行性化成肥料・速効性化成肥料)
化学肥料には、緩行性化成肥料と速効性化成肥料がよく使われます。
但し、樹の状態や気候を考慮した施肥が必要です。また、硝酸態窒素やアンモニア態窒素などの無機態窒素(チッソ)は速い効果すなわち速効性があり、よく効くものの「肥料焼け」の原因となるので、利用する場合には様子を見ながらよく観察して、少しずつ与える必要があります。
そのため、初心者の方は既に配合された果樹用の化成肥料、もしくはみかん・かんきつ類専用肥料を使用することをおすすめします。
有機質肥料を配合した、有機配合肥料もおすすめです。
甘いみかんを収穫するためには?
「みかんを甘くする肥料はありませんか?」と聞かれることがあります。結論から言うと、「みかんを甘くする肥料」として販売されている肥料はありません。肥料の種類ややり方だけではなく環境や栽培方法によって大きく差が出ます。
基本的には、みかんなどかんきつ類に適した肥料を適した時期に適量施すことが重要です。そのうえで、甘みなどの食味向上に繋がるような資材を試してみましょう。
\みかんを甘くする肥料の詳細/
みかんがおいしくなる肥料とは?
「みかんがおいしくなる肥料」は、その名の通り、おいしいみかんを収穫するために設計されたみかん専用肥料です。同様の名前を持つ肥料はたくさんあり、種苗店や資材店がそれぞれ独自に開発しているものが多いです。
どの肥料にも共通して言えることは、化成肥料(化学肥料)成分だけではなく有機質肥料を多く配合していることです。カニ殻などの甲殻物質肥料や魚かす肥料などを含むことによって、アミノ酸やミネラル分を補えるようにしています。また、葉緑素の構成成分として重要なマグネシウムも配合することで、葉を残し光合成の能力も高まるようになっています。
\みかんがおいしくなる肥料の詳細/
補足:鶏糞とは
鶏糞肥料とは
鶏(ニワトリ)の糞を原料に生産した肥料が「鶏糞肥料」です。
鶏糞を見た目から判別できない程度まで加工すると「普通肥料」に分類されます。一方、見た目から判別できる程度の加工であれば「特殊肥料」に分類されます。この線引きは、他の肥料でも同様で、米ぬかと脱脂ぬか、肉粕と肉骨粉、魚粕と魚粉についても、見た目から原料が判別できるかがひとつのポイントとなっています。
特殊肥料とは、肥料成分の含有量以外の価値をもつ、農家にとっては昔ながらの肥料のことです。肥料成分の含有量以外の価値としては、土壌の物理性を向上させることなどが知られており、通気性、排水性、透水性、保水性などを向上させることができます。
それにともない、土壌中のミミズなどの小動物、センチュウなどの微生物の多様性も高まり、病害虫(病気と害虫)の発生も抑制されることが期待できます。土壌中の生物多様性を保つことは、作物の連作障害を防ぐ面からも重要な意味をもちます。
このように、特殊肥料は土質や地力を増進できるため、土壌改良資材としての働きがあることも広く知られています。
鶏糞肥料の成分
鶏糞は、同じ家畜糞類の牛糞や豚糞と比較されることが多いです。家畜糞類は、特殊肥料のため成分含有量に幅がありますが、かつて農林水産省が実施した調査では以下の値が示されています。
家畜由来の肥料の種類 | N(窒素)% | P(リン酸)% | K(加里)% |
---|---|---|---|
牛糞 | 1.9 | 2.3 | 2.4 |
豚糞 | 3.0 | 5.8 | 2.6 |
鶏糞 | 3.2 | 6.5 | 3.5 |
製造・利用の現状とその成分的特徴, 2000より)
鶏糞の特徴は、下記のとおりです。
- 成分の特徴:鶏糞、牛糞ではP(リン酸)・K(加里)が、豚糞ではP(リン酸)が、比較的多く含まれています。また、牛糞や豚糞に比べて「窒素・りん酸・加里」などの肥料成分がバランス良く含まれていることが特徴です。
- 分解の速度:家畜糞類の分解速度としては、鶏糞が最も早く、牛糞と豚糞はそれより遅いです。速効性のある鶏糞は追肥に利用され、牛糞や豚糞(および馬糞)は元肥として利用されることが多いです。
- 購入のしやすさ:鶏糞は、堆肥や肥料としてホームセンターなどで安価に購入できる資材です。