農業、林業、造園業といった農林業の分野で幅広く使われる農機具のひとつに、チェンソーがあります。チェンソーは使用にともない切れ味が悪くなっていきますが、目立てというメンテナンスをすると鋭い切れ味が復活し、同時にエンジンチェンソーでは燃費も改善されます。
この記事では、チェンソー目立て(刃の研ぎ方)を分かりやすく解説します。
チェンソーの目立てとは?
目立てとは、刃を研ぐ作業のことで、刃の切れ味を回復するために行います。チェンソーだけでなく、鋸(ノコギリ)などにおいても行う作業です。
チェンソーでは、木の伐採や切断にともなって徐々に切れ味が低下したり、切り曲がるようになったりします。動力(エンジンやモーター)のパワーで一定程度には切れますが、目立てをすると新品同様の鋭い切れ味を取り戻すことができます。切れ味が悪くなる度に新品のソーチェーンに交換するとなると、価格的にも高いのはもちろん、サステナビリティの観点からも好ましくありません。
使用状況や好みにもよりますが、通常はチェンソーを2~3日使用するごとに目立てをします。ポイントさえ押さえれば、初心者でも簡単にできます。安全で効率のよい作業をするためにも、正しい目立てをぜひ身につけるようにしましょう。
目立てをする部分
目立てをする部分は、ソーチェーンのうちカッターとよばれる部分です。ソーチェーンの構造、カッターの構造を理解しておきましょう。
ソーチェーンの構造
ソーチェーンは、カッター、ドライブリンク、タイストラップが繰り返し連結された構造になっています。そして、それぞれの部品を連結させる役目の突起が、リベットです。これら部品の種類を変えたり、並び方や頻度を変えたりすることで、ソーチェーンに異なる特性をもたせています(たとえば、竹切り用やカービング用では、フルカッターとよばれるカッター数を2倍にしたソーチェーンが用いられます)。異なる特性をもたせたソーチェーンは、用途が異なるため各々別製品となり、品番も異なります。
カッターの構造
ソーチェーンのうち、とりわけ重要な役目をもつのがカッターです。カッターには木材を削ると同時に、前のカッターが削った木屑(おが屑)を排出する役目があります。目立ては、このカッターに対して行います。
カッターのうち、刃もしくは刃先とよばれる部分がありますが、これは「上刃」と「横刃」のことを指しています。チェンソーの切削能力は木材を連続して削ることにより実現されていますが、上刃は底を削り、横刃は側面を削る仕組みになっています。
一方、カッターが削る深さを調整する役目をもつのが「デプスゲージ」です。デプスゲージが、上刃に対して低すぎると削りすぎてしまいますが、上刃に対して高すぎても削ることができません。この関係は、しばしば大工道具である鉋(かんな)に例えられます。
以上のように、カッターの各部分が一体となって正しく機能することで、チェンソーは本来の切れ味を発揮します。目立てによって、カッターを正しい状態に仕上げるようにしましょう。
目立ての方法(刃の研ぎ方)
目立ては、大まかに以下の流れで行います。刃物を扱うので、目立ての最中はチェンソーグローブや軍手といった手袋を着用するようにしましょう。
- チェンソー本体の清掃と固定
- 右カッターを研ぐ
- 左カッターを研ぐ
- カッター形状に不良がないかの点検
- デプス量の点検
それぞれの詳細と注意すべきポイントを順に説明します。
チェンソー本体の清掃と固定
使用後のチェンソー本体には、木屑(おが屑)、樹脂、チェンオイルなどが付着しています。ウエスや軍手などにより払い落とすとことで、軽く清掃します。汚れや油分が残っているとヤスリが滑るため、正しく目立てができません。
目立てを開始するにあたって、チェンソー本体を固定します。切り株や丸太にガイドバーを押し込み固定する方法もありますが、一般にはクランプ(バイスもしくは万力)と目立て台を利用して固定することが多いです。ソーチェーンが緩いことでがたつくと作業が大変なので、ガイドバー下部との間にプラグレンチかクサビ状(楔状)にした小枝を挟み、ソーチェーンを強く張るようにします。
左カッターを研ぐ
ソーチェーンのカッターは、左カッターの次は右カッターというぐあいに、左右対称に同一間隔で取り付けられています。左カッターと右カッターでは、それぞれ逆側に角度をつける必要があるため、まずは左カッターのみに着目して丸ヤスリをかけていきます。
丸ヤスリと腕が一直線になるように構え、カッターの内側から外側へと丸ヤスリを押し出すことで研いでいきます。このときの注意点は、ソーチェーンごとに指定されているサイズの丸ヤスリを使用すること、丸ヤスリを押し出す動作でのみ研ぐようにして引く動作では研がないようにすることです。
丸ヤスリを押し出す角度(上刃目立て角)は、普通は30°とします。カッターの種類(チッパー型、マイクロチゼル型、セミチゼル型など)によって下記のように異なりますが、それほど気にしなくても大丈夫です。指定された丸ヤスリを用いて、丸ヤスリの直径の1/5程度が上刃から出るように保ちつつ押し出すと、適切に研ぐことができます。
上刃目立て角 | 横刃目立て角 | |
---|---|---|
チッパー型(丸刃) | 35° | 90° |
マイクロチゼル型(半丸刃) | 30° | 85° |
セミチゼル型(半角刃) | 35° | 85° |
右カッターを研ぐ
左カッターをすべて研ぎ終わったら、チェンソー本体を180°回転させ、反対側面を向けるようにします。あとは、左カッターを研いだのと同じ要領で、すべての右カッターを研ぎます。
カッター形状に不良がないかの点検
すべてのカッターを研ぎ終えたら、カッター形状に不良がないかの点検を目視にて行います。フック型やバックスロープ型になっていないかに注意するとよいでしょう。ヤスリのサイズが合っていなかったり、手元の上下が安定していないと、フック型やバックスロープ型になってしまいます。特に、フック型のまま使用するとキックバック(跳ね返り)が起きやすいので、必ず修正するようにします。
デプス量の点検
上刃とデプスゲージとの高さの差をデプス(depth)といいます。このデプスを適切に保つことが、チェンソーの切れ味を保つことにつながります。デプスが小さすぎると木材への食い込みが弱くなり、切れ味が損なわれます。反対に、デプスが大きすぎると食い込みが強くなり、切削抵抗による振動の原因になります。ソーチェーンの種類、あるいは切断する木材の種類によっても異なりますが、一般に適切なデプスは0.65mm(0.025インチ)程度とされています。
「デプスゲージジョインター」もしくは「コンビゲージ」を利用して、適切なデプスが保たれているか点検します。デプスゲージが高すぎる場合には、カッター前底部のリベット穴に亀裂が入ることがあります。それを防ぐためにも、平ヤスリでデプスゲージの頭を削り取るようにします。
以上で、目立ては完了です。最後に、クリーナーやグリスを用いて軽く手入れできるとなおよいです。
目立てに使う道具
目立てに使う道具については、以下の2つに大別すると理解しやすいです。
- 基本的な目立て道具(手動工具)
- 応用的な目立て道具(電動工具)
色々な道具がありますが、極端にはヤスリさえあれば目立てをすることは可能です。しかしながら、とりわけ初心者のうちは目立てを補助してくれる便利な道具を使う方がおすすめです。
基本的な目立て道具(手動工具)
まずは、基本的な目立て道具を把握しましょう。いずれも手動で用いるものですが、これらだけで目立てを完了することができます。作業に必要なアイテムやアクセサリーなど関連用品一式がセットになったメンテナンスキットが、杣(SOMA)で有名な和光商事(WAKO)やオレゴン(OREGON)から販売されています。収納や運搬にも楽なので利用を検討してみるとよいかもしれません。
ヤスリ
目立てに使うチェンソーヤスリのタイプは、「丸ヤスリ」と「平ヤスリ」の2つが主です。それぞれ用途が異なるので、どちらか一方を使うということではなく基本的には両方を使います。
とりわけ丸ヤスリは、ソーチェーンごとに適するヤスリ径(直径)が異なるので、数本(数種)を手元においておくケースが多いです。金属あるいは炭素鋼のまま使っても全く問題ありませんが、木製のハンドルを装着すると使いやすいです。チェンソーヤスリとしては、フェアード(PFERD)、バローべ(vallorbe)、ツボサン(TSUBOSAN)といった有名どころのほか、龍宝丸、アイウッド、サムライレジェンドなどのブランドもあります。
ゲージ
ゲージとは計測機器や測定機器を表す言葉ですが、チェンソーの目立て道具としては「デプスゲージジョインター」もしくは「コンビゲージ」を表すことが主です。
「デプスゲージジョインター」は、ガイドバーおよびソーチェーンの真上に被せ、突き出たデプスゲージを平ヤスリで削り落とすための道具です。カッターの上刃とデプスゲージとの高さの差であるデプスを適切に保つために使われます。ソーチェーンの種類、あるいは切断する木材の種類によっても異なりますが、一般にデプスを0.65mm(0.025インチ)程度に保つことで、鋭い切れ味が維持されるとされています。
「コンビゲージ」は、カッターの上刃とデプスゲージの両方を研ぐことができる一体型の道具です。コンビゲージを利用すると、適切な刃先角度で研げるとともに、ローラーがヤスリを滑らかに動かす補助をしてくれます。
ガイド
ガイドは、丸ヤスリでカッターを研ぐ際に角度を示す道具です。いくつかのタイプがありますが、「アングルプレート」や「ヤスリホルダー」などが代表的です。
「アングルプレート」は、磁石などによりガイドバーに取り付けるプレートで、角度(アングル)がプレートには印字されています。プレートの印字に沿って丸ヤスリを動かすことで、正しい角度でカッターを研ぐことができます。なお、「アングルプレート」は、「ガイド」ではなく「ゲージ」として分類されることもあります。
「ヤスリホルダー」は、丸ヤスリに装着することで補助的な役割を果たします。ヤスリは英語でfile(ファイル)というため、「ファイルホルダー」と表現される場合もあります。ホルダーには角度を記した目印線があり、その目印線とカッターとの平行を保つように丸ヤスリをかけると正しく研げる仕組みになっています。
また、「デプスゲージジョインター」にガイドとしての役割をもたせた製品もあります。片手で押さえながら、上面に設けられた溝に沿ってヤスリをかけることで正しく研げる仕組みになっています。
クランプおよび目立て台
目立てをする際には、チェンソー本体が動かないように固定します。そのときに使用するのが、クランプおよび目立て台です。チェンソー用のクランプは、ガイドバーと目立て台を固定して使うため、ガイドバークランプとよばれることもあります。
目立て台は、手頃な木材や丸太を利用するのが普通です。小型チェンソー(軽量級)あるいは大型チェンソー(重量級)などサイズによって適した高さも異なるので、専用商品というのは一般的ではありません。ただし、木材を置く台として、木工やDIYで利用するソーホースを転用することがあります。
応用的な目立て道具(電動工具)
応用的な目立て道具を紹介します。基本的な目立て道具が手動なのに対し、応用的な目立て道具は電動です。そのため、スイッチを入れるだけで、短時間に、精密に、安定して目立てができます。目視で行うよりも、正確に調整ができるメリットがあります。一方で、電源が必要なため、山林や森林などへの持ち運びには不向きというデメリットがあります(コードレスタイプの製品もあります)。
チェンソー目立機(津村鋼業)
「チェンソー目立機」は、津村鋼業(ツムラ)が販売する製品です。電動のため、軽く押し付けるだけでソーチェーンカッターの刃とデプスゲージを同時に研げます。CBNホイールという耐久性の高い特殊砥石の採用によって長寿命を実現しています。CBNホイールはディスク型の砥石ですが、正逆回転モーターを搭載しているため、右カッターであっても左カッターであっても常に内側から外側に向けて研磨できます。オレゴンの一般的なソーチェーン(20BP、25AP、91VXLなど)にはもちろん適合しますが、竹用ソーチェーン(25F)には非適合である点には注意が必要です。砥石(ヤスリサイズ)4.0mmの「TK-301-1型」のほか、砥石(ヤスリサイズ)4.8mmの「TK-301-2型」もあります。
目立て職人(新興工業)
「目立て職人」は、新興工業(エスケー)が販売する製品です。インパクトドライバーのような操作感なので、DIYなどに親しんでいる人には特に使いやすいかもしれません。グラインダーに装着されたダイヤモンド砥石を押し付けることで、最適な角度で均一な目立てを実現します。低速回転ドリルのため、チェーンの焼き付きの心配もいりません。電源が必要な「SKS-2340」のほか、充電式でコードレスの「SKS-2340DS」、ヤスリ径の異なる「SKS-2350」など複数の仕様があるので、注文や購入する場合には品番をよく確認するようにしましょう。
刃研ぎ名人チェンソー(ニシガキ工業)
「刃研ぎ名人チェンソー」は、ニシガキ工業が販売する製品です。先端付属部品であるビット(ヤスリビット)を電動で回転させることで、カッターを研磨します。一般にはリューター(ルーター)ともよばれる研削あるいは切削工具に近いタイプなので、取り扱いに慣れている人にとっては使いやすいかもしれません。
別売のビット(ヤスリビット)として、超硬ビットや軸付ダイヤモンド砥石もあるため、プロ林業家でも満足できるはずです。ニシガキ工業は、剪定鋏(ハサミ)、枝切鋸(ノコギリ)、刈払機(チップソー)のシャープナーなどの金属製品や金物の製造を得意としています。
ホームセンターで目立てはしてもらえる?
ホームセンターで目立てをしてもらえる場合があります。多くの場合は有料で、その料金は1,000円程度のようです。とりわけ機械類の修理やメンテナンスについては、同じ会社のホームセンターであっても店舗によって対応の可否が異なることが多いです。住まいに近い店舗に連絡して、確認してみるとよいでしょう。
チェンソーを頻繁に使う場合には、自身で目立てをできるようになると支出を抑えられます。目立ての初心者であっても心配いりません。プロや名人が行うレベルの目立てには及ばなくても、目立ての前後で切れ味が大きく異なることを実感できるはずです。
なお、動画だけでなく実際に目立てをしている作業風景を見てみたかったり、きちんと目立てを習いたかったりする場合には、各地で開催されている講習を受けてみる方法もおすすめです。特に、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」は、2019年2月に厚生労働省によって公布された改正労働安全衛生規則(安衛則)に対応する講習です。目立ての方法はもちろん、チェンソーの操作や伐採方法まで一通り幅広く学ぶことができます。誰でも受講できますので、検討してみるとよいでしょう。
まとめ
目立てとは、刃を研ぐ作業のことで、刃の切れ味を回復するために行います。チェンソーだけでなく、鋸(ノコギリ)などにおいても行う作業です。
チェンソーでは、木の伐採や切断にともなって徐々に切れ味が低下したり、切り曲がるようになったりします。動力(エンジンやモーター)のパワーで一定程度には切れますが、目立てをすると新品同様の鋭い切れ味を取り戻すことができます。切れ味が悪くなる度に新品のソーチェーンに交換するとなると、価格的にも高いのはもちろん、サステナビリティの観点からも好ましくありません。
使用状況や好みにもよりますが、通常はチェンソーを2~3日使用するごとに目立てをします。ポイントさえ押さえれば、初心者でも簡単にできます。安全で効率のよい作業をするためにも、正しい目立てをぜひ身につけるようにしましょう。
なお、代表的なチェンソーメーカーやチェンソーブランドとして、以下のようなものがあります。目立て道具だけでなく、チャップス(chaps)などの防護服の取り扱いもあるので、チェックしてみるとよいでしょう。