チェンソーは伐木、伐採、間伐、枝払い、剪定、薪づくりといった業務を行う場合には、下肢の保護衣(チャップスや防護ズボン)を着用しなくてはいけません。ここではおすすめのチェンソー防護ズボンの種類や特徴について説明します。
防護ズボンとは?
防護ズボンは、チェンソーを使った作業時に着用が義務付けられている切創防止用保護衣の一種です。「保護ズボン」、「防護パンツ」、「チェンソーパンツ」と表記されることもありますが、同じものを指しています。
チェンソー使用時の事故や怪我は下肢(下半身)に集中していることが古くから知られており、厚生労働省が示したある年のデータでは、事故や怪我の7割が下肢(下半身)で起きたとされています。したがって、下肢の保護衣(チャップスや防護ズボン)を着用することは、事故や怪我を防ぐ上で効果的で、林業の分野では2015年10月より着用が義務付けられていました。その後、厚生労働省によって公布された改正労働安全衛生規則(安衛則)で、2019年8月より造園業や建設業なども含めて全ての分野において、下肢の保護衣(チャップスや防護ズボン)を着用することが義務化されています。ただし、対象となっているのは業務でチェンソーを使用する場合であり、私的にチェンソーを使用する場合(たとえば、庭木の処理やDIYなど)はこの限りではありません。
チャップスと防護ズボンの違いは?
チャップス(chaps)は、チェンソーを使った作業時に着用が義務付けられている切創防止用保護衣の一種です。「チャプス」や「エプロンチャップス」と表記されることもありますが、同じものを指しています。もともとはカウボーイが乗馬する際に、ひっかき傷や噛み傷から下肢(下半身)を守るために着用していた防具です。現在では、アメリカンバイク愛好家の着こなしアイテムとしても認知されています(用途が異なるため、チェンソーチャップスとは別物です)。
チャップスも防護ズボンも、基本的な構造は同じです。両者とも表地、中地、裏地から構成されており、特に中地は身体を護る上で重要な役割を果たします。誤ってチェンソーの刃(ソーチェン)が身体に接触した場合に表地を引き裂くことになり、中地として何層にも重ねられたアラミド繊維がチェンソーの刃(ソーチェン)やスプロケットに瞬時に絡みつく仕組みになっています。その結果、チェンソーの回転が停止し、切創災害が防がれます。
チャップスと防護ズボンの違いは以下の通り、形、着脱方法、価格などにあります。チャップスは着脱が容易なので、一時的な利用や貸し借りにも向いているといえます。一方、防護ズボンは脚の前面および後面を保護するので、山林などにおける本格的な作業に向いているといえます。自身の状況や用途に応じて、適した方を選ぶとよいでしょう。
チャップス | 防護ズボン | |
---|---|---|
形 | 脚の前面のみ保護 | 脚の前面および後面を保護 |
着脱方法 | 脚の前面に保護衣をあてがい、後面に伸びるベルトとバックルで固定して装着 | 一般的なズボンと同様に、脚を通して穿く |
価格 | 生地が小さい分、安価 | 生地が大きい分、高価 |
おすすめの防護ズボン
防護ズボンを選ぶ際には、厚生労働省が示す規格に適合もしくは準拠するものを選ばなくてはいけません。ここでいう規格には、JIS規格(日本産業規格)、ISO規格(国際標準化規格)、EN規格(欧州規格)、ASTM規格(米国規格)がありますが、具体的には、以下のいずれかに適合もしくは準拠する防護ズボンを選ぶ必要があります。なお、JIS規格は長らく「日本工業規格」とされてきましたが、2019年7月より現在の呼称に改められています。
- JIS規格(日本産業規格):T8125-2
- ISO規格(国際標準化規格):11393-2
- EN規格(欧州規格):381-5
- ASTM規格(米国規格):F1897
なお、国際基準では、チェンソーに対する切断防止機能をチェンスピードで分類しています。クラス(class)が高いほど、切断防止機能が高いことを表しています。クラスは製品概要などに記載されているほか、統一されたマークで生地にプリントされていることもあります。規格とあわせてクラスを参考に、製品選びをしてみてもよいでしょう。
- class0≦チェンスピード16m/s
- class1≦チェンスピード20m/s
- class2≦チェンスピード24m/s
- class3≦チェンスピード28m/s
これらに適合もしくは準拠する主な防護ズボンには、次のようなものがあります。チャップスでは、薄暗い環境でも視認性を高める目的もあり、カラーには鮮やかなオレンジ色が採用されていることが多いです。一方、防護ズボンでは、作業現場から離れても違和感のないカラー(迷彩色など)が採用されていることも特徴です。
ハスクバーナ(Husqvarna)
大手チェンソーメーカーのハスクバーナ(Husqvarna)では、使用頻度や耐久性に応じて多彩な防護ズボンが用意されています。たとえば、サスペンダーの着脱ができる「テクニカルエクストリーム アーボ」、吊りズボンタイプの「プロテクトズボンTⅡツリー7」、膝部をプロテクションで補強することで丈夫で摩耗にも強くした「プロテクティブズボンF-Ⅱ」などがあります。なお、チャップスには、「チャップスⅡクラシック」や「チャップスⅡファンクショナル」などがあります。海外製ということもあり、同じサイズでも日本製と比べて大きめの印象があります。購入者のレビューなども参考にサイズを決めるとよいかもしれません。
共立(KIORITZ)
共立(KIORITZ)は、株式会社やまびこのもつ製品ブランドのひとつです。したがって、姉妹ブランドである新ダイワ(shindaiwa)でも同じ型を取り扱っています。純正品に加え、モンベルとのコラボによる防護ズボンも取り扱っています。なお、やまびこという社名は、山の神様である「山彦」に由来しており、チェンソーや刈払機を主力製品とする会社として、山林の発展を願って名付けられています。
オレゴン(OREGON)
オレゴン(OREGON)は、世界首位級のソーチェンブランドです。ソーチェンとしては、スチール(STIHL)やハスクバーナ(Husqvarna)製品などもありますが、特に日本のチェンソーメーカーにおいてはオレゴン製品が圧倒的なシェアとなっています。オレゴンの防護ズボン「ユーコン」や「フィヨルドランド」は、耐熱および耐油仕様となっていますので、たとえばチェンオイルの飛散による汚れが原因で生地が破けるということも少ないはずです。
杣(SOMA)
杣(SOMA)は、和光商事(WAKO TRADE CO.LTD.)が展開する林業アイテムブランドです。日本人企画による日本人のための林業家製品を標榜し、あらゆる条件下においても最大限のパフォーマンスを発揮するための製品を開発することを目指しています。特に「エコノミカル」という防護ズボンは安価ながら、軽量性と防水性を実現し、さらにブーツや足袋だけでなく長靴にも対応できる優れものです。
プラウ(PLOW)
プラウ(PLOW)は、ホンダウォークが運営する農機具の実店舗およびオンラインストアであり、同時にブランド名でもあります。防護ズボンでもオリジナルブランド製品があり、伸縮性のあるストレッチ素材で動きやすく快適というファンクショナルな製品に仕上がっています。
マックス(MAX)
マックス(MAX)は、香川県を本社とする手袋メーカーです。同時に、林材業用品ブランドとしてマックグリーン(MUC GREEN)を展開しており、海外製が主流だった頃から自社製の防護ズボンを手掛けてきました。マックグリーン(MUC GREEN)製品のひとつとして、「Mr.FOREST」という防護ズボンがあり、EN規格(欧州規格)のclass1に適合しています。
サムライレジェンド(SAMURAI LEGEND)
サムライレジェンド(SAMURAI LEGEND)は、ハリマ興産のオリジナルブランドです。サムライレジェンドの防護ズボンには、高耐久性のCORDURA生地を使用されています。性能だけでなく、工具類の入るサイドポケットなど機能も充実しています。マットブラックと迷彩色があるなどデザイン性にも優れます。
軽量の防護ズボンは?
軽量を重視すると強度や品質が損なわれるという困難がある中で、ファナー(PFANNER)の「プロテクション グラディエーター® Class2 パンツ」や「プロテクション ベンチレーションパンツ タイプC」はその両立を実現しています。重さはサイズによっても変わりますが、カタログ掲載値で1,250gとされていますので、防護ズボンとしては十分に軽量といえます。
夏でも快適な防護ズボンは?
いくつかの会社が、夏用の防護ズボンを販売しています。夏用の防護ズボンでは、暑熱作業でも快適なように通気性やストレッチ性が高められていたり、ファスナーの開閉ができるベンチレーションが多く用意されていたりします。中でも、トーヨ(TOYO)には「ハイブリッド型夏用チェーンソー防護ズボン」や「ハイブリッド型暑熱対策チェーンソー防護ズボン」といった夏用として特化した防護ズボンがあります。
一方で、別の進化を遂げた防護ズボンもあります。杣のチェンソー防護ズボンには、小型ファンとバッテリーが搭載されているモデルがあります。汗で蒸れるズボン内に力強い風を送り込むことで快適を保つ仕様になっています。
まとめ
2019年8月より、チェンソーを業務で使用する場合には、下肢の保護衣(チャップスや防護ズボン)を着用することが義務化されています。マキタ(makita)やゼノア(ZENOAH)などのチェンソーメーカーからは、下肢の保護衣と同様に、アラミドなどの特殊繊維入りのフォレストジャケットも販売されていますので安全のために着用を検討してみるとよいでしょう。
また、万全を期すのであれば、防護服(ジャケット)、手袋(グローブ)、脚絆(レッグチャップス)、専用靴(チェンソーブーツ)、ヘルメット、イヤーマフなども着用するとなお良いです。これらの着用は義務化されていませんが、さらに安全性を高めることができます。
また、さらに安全性を高めるためにも、チェンソーの手入れ(目立て、チェンオイル、部品の確認)や道具の準備(ハーネス、ロガー、クサビ)なども欠かさず行うようにしましょう。
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