チェーンソーは、取り扱いに注意が必要な農機具です。これまでに死亡につながる事故を多く引き起こしてきました。それだけに、チェーンソーの使用に資格や免許が必要かを十分に理解しておかなくてはいけません。
この記事では、チェーンソーの資格や免許について解説します。
チェーンソーの使用に資格や免許は必要?
チェーンソーは、優れた切断力をもち非常に便利である反面、使い方を誤ると他の電動工具などと比べても危険な道具でもあります。死傷事故の件数は減少傾向にありますが、近年でも高止まりしている状況です。こうしたことを背景に、チェーンソーの使用にあたっては資格や免許に相当する「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の修了が必要とされています。ただし、これは業務で使用する場合に限られており、私的に使用する場合には必須とはなっていません。
- 業務でチェーンソーを使用する場合には、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の修了が必要です。
- 私的な目的(庭木の伐採、枝打ち、薪割りなど)でチェーンソーを使用する場合には、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の修了が必要ではありません。
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」は呼称にゆらぎがあり、「チェーンソー作業従事者特別教育講習」とか「伐木等業務特別教育講習会」などと表現される場合もありますが、いずれも同じものを指している場合がほとんどです。
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」は、2019年2月に厚生労働省によって公布された改正労働安全衛生規則(安衛則)に対応する講習です。この改正労働安全衛生規則では、2020年8月以降はチェーンソーを業務で使用する人全員が、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」を受講および修了しなくてはいけないと規定されています(立木の伐採だけに限らず、レンタルや修理などでチェーンソーを扱う場合にも受講および修了が必要です)。修了せずに業務に就いた場合は、罰則の対象となります。
修了後には、修了証が発行されます。この修了証が、資格や免許に相当するものになります。したがって、業務でチェーンソーを使用している間は、修了証を常時携帯しなくてはいけません(自動車の運転中に、運転免許証を常時携帯しなくてはいけないというのと同じ考え方です)。
なお、私的な目的(庭木の伐採、枝打ち、薪割りなど)でチェーンソーを使用する場合には、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の受講および修了は必要ありません。しかし、次に詳しく紹介するように、チェーンソーの安全な使い方、メンテナンスの方法(ヤスリでの目立てや組立て)、倒木処理や剪定方法などもカリキュラムに含まれており、一通りの基本的な技能を習得することができます。
必須な人もそうでない人も、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の受講および修了をぜひ検討してみるとよいでしょう。受講条件はなく、誰でも受講することができます。
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の内容は?
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の内容は、改正労働安全衛生規則(安衛則)で下記のように定められています。
区分 | 科目 | 範囲 | 時間 |
---|---|---|---|
学科 | 伐木等作業に関する知識 | 伐倒の合図 退避の方法 伐倒の方法 かかり木の種類及びその処理 造材の方法 下肢の切創防止用保護衣等の着用 | 4 |
チェーンソーに関する知識 | チェーンソーの種類 構造及び取扱い方法 チェーンソーの点検及び整備の方法 ソーチェーンの目立ての方法 | 2 | |
振動障害及びその予防に関する知識 | 振動障害の原因及び症状 振動障害の予防措置 | 2 | |
関係法令 | 安衛法、安衛令及び安衛則中の関係条項 | 1 | |
実技 | 伐木等の方法 | 造材の方法 伐木の方法 かかり木処理の方法 下肢の切創防止用保護衣等の着用 | 5 |
チェーンソーの操作 | 基本操作 応用操作 | 2 | |
チェーンソーの点検及び整備 | チェーンソーの点検及び整備の方法 ソーチェーンの目立ての方法 | 2 |
「学科」で9時間、「実技」で9時間の合計18時間の長丁場です。「学科」は座学となりますが、「実技」では実際にチェーンソーを扱うことになります。ここで、チェーンソーの安全な使い方、メンテナンスの方法(ヤスリでの目立てや組立て)、倒木処理や剪定方法などを学ぶことができます。
なお、改正労働安全衛生規則(安衛則)により定められているので、どこの機関(会社、団体、教習所など)の講習であっても内容は同一です。しかし、「学科」で用いる教本や、「実技」で扱うチェーンソーの機種(ハスクバーナ、ゼノア、マキタ、リョービなど)は異なります。教本は、林業・木材製造業労働災害防止協会(林災防)が発行する「チェーンソー作業の安全ナビ」という専用テキストが利用されることが多いようです。
チェーンソー資格はどこで取得できる?
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」をはじめとする特別教育は、一定の危険・有害な業務に労働者を就かせるときに、事業者が行わなければならない教育とされています(労働安全衛生法第59条第3項)。また、その際の講師は教習科目について十分な知識および経験を有する者とされており、具体的には当該特別教育の修了者であれば条件を満たすと考えられます。したがって、会社(あるいは団体)に当該特別教育の修了者がいれば、同じ会社(あるいは団体)のメンバーに対して特別教育を実施することが許されています。
しかしながら、日々の業務をこなしながら上記した合計18時間の特別教育を実施することは大がかりな準備も必要で、森林組合や林業団体でもない限り現実的には難しい側面があります。そこで実際には、事業者に代わって特別教育を実施してくれる教習所などの外部機関を利用するケースが多いです。特別教育を実施してくれる教習所などの外部機関は、次の2つの方法で探すことができます。
- ひとつめの方法は、インターネットでたとえば「チェーンソー 特別教育 東京」のように検索する方法です。簡単でよいのですが、検索結果に表示されやすい教習所に申し込みが集中し、すぐに定員になってしまうケースも散見されます。
- もうひとつの方法は、都道府県ごとの登録教習機関一覧から照会する方法です。各都道府県の労働局のホームページでは、登録教習機関一覧が用意されていることが多いです。その一覧から当該特別教育を実施している機関を探すことができます。ただし、特別教育については、実施するにあたり各都道府県労働局の登録を受ける必要がないため、一覧に表示されていないケースもあります(この場合には、一覧を参考に個別に実施の有無を確認するとよいでしょう)。
なお、金額は2~3万円くらいが相場となっているようです。この金額と大きく乖離がある場合には、講習内容などについて事前に問い合わせてみましょう。中には安価を表示しながら、「実技」なしで「学科」のみを実施というケースもありますので、注意が必要です。
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」を行っている代表的な機関は、次の通りです。林業団体や建機会社を母体としていることが多いです。持ち物は、筆記用具、手袋、防護服(ズボンやチャップス)、ヘルメットなどとされることが多いですが、当日無償で貸し出してくれる機関もありますので、日程とあわせて確認の上、案内に従うようにしましょう。
林業・木材製造業労働災害防止協会(林災防)
林業・木材製造業労働災害防止協会は、林業と木材製造業の事業主が、安全衛生の向上を目指すために設立された団体です。1964年に労働大臣の許可により設立され、1989年に特別民間法人化されています。全国47都道府県に支部が設置されており、それぞれが技能講習や安全衛生教育を実施しています。
キャタピラー教習所
キャタピラー教習所は、日本キャタピラー(Nippon Caterpillar LLC)のグループ会社です。フォークリフト、玉掛けなど機械装置の運転や特定の作業に関する資格が取得できる講習が用意されています。九州地方の運営は、キャタピラー九州が担当しています。
コマツ教習所
コマツ教習所は、小松製作所(Komatsu Ltd.)のグループ会社です。大手建機会社である小松製作所のグループなので、施設や設備についても安心感があります。日本全国におよそ15か所の教習所を設けていますが、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」については全ての教習所で行っているわけではありませんので、事前に確認が必要です。
コベルコ教習所
コベルコ教習所は、コベルコ建機(KOBELCO CONSTRUCTION MACHINERY CO., LTD.)すなわち神戸製鋼所グループの会社です。フォークリフトやクレーンなど幅広い講習を取り揃えています。日本全国におよそ10か所の教習所を設けていますが、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」については全ての教習所で行っているわけではありませんので、事前に確認が必要です。講習修了後には、財布の中にも収まりやすいカードタイプの修了証を即時交付してくれます。
チェーンソー資格に更新は必要?補講とは?
チェーンソー資格や免許に相当する「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」を修了すると、有効期限等はないため更新する必要はありません。ただし、注意しなくてはいけないのは、改正労働安全衛生規則(安衛則)の施行前に「大径木伐木特別教育」(安衛則第36条第8号)もしくは「小径木伐木特別教育」(安衛則第36条第8号の2)を修了し、チェーンソーを使った業務にすでに従事している場合です。
改正労働安全衛生規則(安衛則)の施行前では、「大径木伐木特別教育」と「小径木伐木特別教育」がチェーンソーを使った業務に従事するための資格や免許に相当するものでした。両者は伐木の胸高直径等で区分されていましたが、これらが統合され、「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」になりました。統合の際に、新しく設けられた科目がありますので、これを修了しなくてはいけません。
新しく設けられた科目を「追加の講習」または「補講」として修了していない場合は、「大径木伐木特別教育」や「小径木伐木特別教育」の修了者であっても、チェーンソーを用いた業務に就くことができなくなります。施行日は、2020年8月1日となっていますので、もし修了していない場合には速やかに「追加の講習」または「補講」を受講するようにしましょう。
なお、内容は「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の一部と同じ内容となります。したがって、特別教育を実施している機関であれば開催可能です。上記の機関などに問い合わせて、開催状況を確認してみるとよいでしょう。
- ~2020年8月1日施行前
- 「大径木伐木特別教育」もしくは「小径木伐木特別教育」の修了者のみ業務に就くことができます。
- 「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の修了者では業務に就くことができません。
- 2020年8月1日施行日
- 当日をもって、改正労働安全衛生規則における「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」部分が施行されます。
- 2020年8月1日~施行後
- 「大径木伐木特別教育」もしくは「小径木伐木特別教育」を修了していても、業務に就くことはできません。
- 「追加の講習」もしくは「補講」の修了後に、業務に就くことができるようになります。
まとめ
チェーンソーの使用にあたっては資格や免許に相当する「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の修了が必要とされています。ただし、これは業務で使用する場合に限られており、私的に使用する場合には必須とはなっていません。
「チェーンソーによる伐木等の業務に係る特別教育」の内容は、改正労働安全衛生規則(安衛則)で定められています。「学科」で9時間、「実技」で9時間の合計18時間の長丁場ですが、チェーンソーの安全な使い方、メンテナンスの方法(ヤスリでの目立てや組立て)、倒木処理や剪定方法などもカリキュラムに含まれており、一通りの基本的な技能を習得することができます。必須な人もそうでない人も、受講および修了をぜひ検討してみるとよいでしょう。受講条件はなく、誰でも受講することができます。
なお、チェーンソーの場合と同様に、刈払機を業務で使用する場合には「刈払機取扱作業者安全衛生教育」の修了が必要です。こちらも受講条件はなく、誰でも受講することができます。必須な人もそうでない人も、受講および修了をぜひ検討してみるとよいでしょう。