サッカー場などの競技場から公園、ご家庭の庭まで、芝生はさまざまなところに植えられています。芝生の緑色は、心安らぐ空間を与えてくれます。
そんな芝生ですが、ときより黒い虫が現れることがあります。その正体は、ハグロケバエやマルトビムシなどです。どのような虫で、芝生の生長にも影響を及ぼすのでしょうか?
この記事では、芝生に現れる黒い虫の正体とハグロケバエ・マルトビムシの生態や芝生への影響、防除方法について解説します。
芝生に現れる黒い虫の正体は?
芝生には、さまざまな虫が生息します。ときには大量発生したり、芝生の生育に影響が出る場合もあります。
その中でも、芝生に黒い虫が大量発生することが稀にあり、そのような状態を目の当たりにして不安や不快な気持ちになった方もいるのではないでしょうか?
黒い虫にも沢山の種類があり一概には特定できませんが、芝生に出る黒い虫の正体は①ハグロケバエ、②マルトビムシである可能性が高いのではないでしょうか?
以下では、ハグロケバエとマルトビムシの生態、芝生へ影響、防除方法を説明します。
黒い虫の正体①ハグロケバエ
芝生に現れる黒い虫の正体は、ハグロケバエの可能性があります。
ハグロケバエの生態
項目 | 内容 |
---|---|
和名 | ハグロケバエ |
学名(英名) | Bibio tenebrosus(March flies) |
分類 | ハエ目(双翅目)カ亜目(長角亜目)ケバエ科 ケバエ亜科 |
分布(日本国内) | 本州,四国,九州,南西諸島など全国 |
発生時期 | 4月〜6月(成虫) |
大きさ | 11mm〜15mm程度 |
ハグロケバエは、黒色の大型のケバエです。雄(オス)と雌(メス)で眼の形が異なる性的二形の虫で、オスは目が大きくアブやハチなどの頭に似ています。メスは、オスよりも頭が極端に小さいです。
ケバエの幼虫は土壌や朽木、落ち葉の中などに生息し、腐植質を餌とする分解者として知られています。生態系のサイクルでは益虫とされています。しかし、幼虫や成虫のその見た目と発生量から不快害虫とされることも多いです。
成虫は、外灯など光のある場所に集まりやすいです。春先になると芝生でも成虫が大量発生する場合があります。成虫の寿命は1〜2週間程度とされています。
参考文献:
ハグロケバエの芝生への影響
ハグロケバエが芝生へ実害を及ぼすことは、ほぼないようです。幼虫も成虫も生きた芝草を食害することはなさそうです。逆に、幼虫は落ち葉などの有機質の分解を助けてくれる益虫的な存在でしょう。
しかし、幼虫は毛がたくさん生えており毛虫のような見た目で集団生活していることから、正直なところ気持ち悪い印象があります。成虫も発生すると大量となることが多いことから同じく気持ち悪いです。そのため、不快害虫として嫌われることも多い虫です。
成虫は、湿度が高いときや雨が降ったあとなど、条件によって大量発生しやすいです。
また、芝生への影響だけではなくヒトへの影響もありません。幼虫も見た目はグロテスクではありますが、イラガのような毒を持っていません。
ハグロケバエの防除方法
害虫ではなく益虫のため基本的には駆除しない
まず、ハグロケバエ自体はヒトや芝生に直接的な影響を与えることは少ないことを認識してください。むしろ、土壌の有機物を分解してくれる益虫ですのでむやみに殺さなくても良いでしょう。しかし、不快害虫であることは間違いありませんので、ヒトの済むエリアなど部分的な殺虫に留めるのが良いでしょう。
それでも駆除したいという方は、以下をご覧ください。また、発生を防ぐということも重要です。
ハグロケバエを駆除するには
庭先や玄関、ベランダなど人に近い環境に発生している場合は、エアゾールタイプの殺虫スプレーを使用すると良いでしょう。市販のハエ・蚊用の殺虫スプレーを使えば、瞬時に殺すことができます。
芝生へ殺虫剤を散布したい場合には、芝生に適用のある農薬を使います。そもそもケバエ類を害虫として適用対象としている殺虫剤(農薬)はありません。そのため、本来であれば使用できる農薬はありません。しかし、他の種類の防除も含めて散布することはできます。
芝生にも多く発生するコガネムシ類の幼虫やシバオサゾウムシ、シバツトガ、スジキリヨトウなどの駆除も合わせて行うとすれば、「スミチオン乳剤」や「フルスウィング顆粒水和剤」などが芝生にも適用がありおすすめの殺虫剤(農薬)です。
品名 | スミチオン乳剤 | オルトラン水和剤 | 家庭園芸用GFオルトラン粒剤 | フルスウィング顆粒水和剤 |
---|---|---|---|---|
商品 |
ハグロケバエの発生を防ぐには
ハグロケバエは、下記のような場所に好んで生息します。そのような環境を作らないことが重要です。
- 湿潤な場所
- 落ち葉や堆肥が放置してある場所
そのため、芝生などを栽培している庭では下記のことを気をつけることで発生を抑制できるかもしれません。
- 落ち葉やサッチを湿潤な場所へは放置せず、速やかに日当たりの良い場所に置くか廃棄する。
- 発生初期に芝生など植物に適用のある殺虫剤(農薬)を散布する。
黒い虫の正体②マルトビムシ
芝生に現れる黒い虫の正体は、マルトビムシの可能性があります。
マルトビムシの生態
項目 | 内容 |
---|---|
和名 | マルトビムシ(複数の種類が存在するが、ここではマルトビムシとまとめる) |
学名(英名) | Sminthuridae |
分類 | トビムシ目 マルトビムシ亜目 マルトビムシ科 |
分布(日本国内) | 種によってことなるが日本全国 |
発生時期 | 種によって異なる(4月〜9月頃?) |
大きさ | 種によって異なるが2mm前後 |
トビムシは、その名の通り、特徴的な跳躍器でピョンピョンとよく飛び跳ねる虫です。森林には1平方メートルあたり数万個の個体が存在すると言われています。体長はとても小さく数mm程度です。
トビムシには、ツチトビムシやトゲトビムシ、シロトビムシ、マルトビムシなど複数の種類が存在します。その中でもマルトビムシは、丸っこい頭と膨らんだ腹部が特徴の可愛らしい形をした虫です。その体形からマダニなどのダニ類と間違われますが、ダニ類とは異なり、計3対の足を持ちます。ノミなどともよく間違えられますが、頭の丸さなどが異なります。
参考文献:
マルトビムシの芝生への影響
マルトビムシは、芝生にも現れるようです(Yahoo! 知恵袋)。マルトビムシは、種にもよりますが、幼葉や植物の若い葉、子葉を食害します。例えば、キボシマルトビムシはアブラナ科やナス科、ウリ科の幼苗への食害報告があります(キボシマルトビムシ – 病害虫雑草の情報基地)。キノコを食害する種もあるようです。
芝生に現れる黒いマルトビムシは、その色からキボシマルトビムシとは異なる可能性が高いです。芝生が大量に食害されるという報告はあまり見聞きしたことがありません。芝生が枯れるまで食害されるということは少ないのかもしれません。
マルトビムシの防除方法
マルトビムシも大量に現れると気持ち悪い不快害虫に当たります。
種によっては益虫である
トビムシ目の虫は、落ち葉などの有機物の分解を担う重要な生物です。トビムシ目が食べた有機物と微生物は排泄されると、再び微生物の繁殖を始めるため、有機物の土壌への分解が促進されます。
それでも駆除したいという方は、以下をご覧ください。また、発生を防ぐということも重要です。
マルトビムシを駆除するには
庭先や玄関、ベランダなど人に近い環境に発生している場合は、エアゾールタイプの殺虫スプレーを使用すると良いでしょう。市販のハエ・蚊用の殺虫スプレーを使えば、瞬時に殺すことができます。
芝生へ殺虫剤を散布したい場合には、芝生に適用のある農薬を使います。そもそもキボシマルトビムシ以外のマルトビムシ類を害虫として適用対象としている殺虫剤(農薬)はありません。そのため、本来であれば使用できる農薬はありません。しかし、他の種類の防除も含めて散布することはできます。
芝生にも多く発生するコガネムシ類の幼虫やシバオサゾウムシ、シバツトガ、スジキリヨトウなどの駆除も合わせて行うとすれば、「スミチオン乳剤」や「フルスウィング顆粒水和剤」などが芝生にも適用がありおすすめの殺虫剤(農薬)です。
品名 | スミチオン乳剤 | オルトラン水和剤 | 家庭園芸用GFオルトラン粒剤 | フルスウィング顆粒水和剤 |
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商品 |
マルトビムシの発生を防ぐには
マルトビムシは、下記のような場所に好んで生息します。そのような環境を作らないことが重要です。
- 湿潤な場所
- 落ち葉や堆肥が放置してある場所
そのため、芝生などを栽培している庭では下記のことを気をつけることで発生を抑制できるかもしれません。
- 落ち葉やサッチを湿潤な場所へは放置せず、速やかに廃棄する。
- 未熟な堆肥など有機物の施用過多をしない。
- 発生初期に芝生など植物に適用のある殺虫剤(農薬)を散布する。
芝生に現れる主な害虫・害獣
芝生には、さまざまな害虫・害獣が現れます。「芝生に直接影響のある害虫・害獣」と「芝生に大きな影響はないが不快な害虫・害獣(不快害虫・不快害獣)」がいますので、その代表的なものを紹介します。
芝生に直接影響のある害虫・害獣
コガネムシ、ドウガネブイブイ
コガネムシは、主に幼虫が食害をして芝生へ影響を及ぼします。土壌中に潜み、芝生の根の先端あたりに生息し、根を食い荒らします。被害が酷くなると、芝生が枯れたり芝草が簡単に抜けたりします。
ドウガネブイブイは、コガネムシ類に属し、同様に幼虫が芝生の根や茎を食害します。
ヨトウムシ、スジキリヨトウ
ヨトウムシは、食害性のある害虫です。被害を及ぼすのは幼虫で、幼虫が大きくなると主に夜に活動し被害をもたらすため「夜盗虫」と呼ばれます。幅広く農作物に影響を与える重大害虫です。
芝生を食害するヨトウムシは、主にスジキリヨトウです。ゴルフ場などでは主に野芝(ノシバ)や高麗芝(コウライシバ)等日本芝に被害が多いです。春早くから秋遅くまで発生し、年3回〜4回ほど発生する場合があります。芝生の葉の先端を食害する事が多く、葉先が白っぽくなるのも被害の特徴です。
老齢になるほど接触する量が増えるため、一晩で芝生の状態が急変することがあります。
シバツトガ
シバツトガは、幼虫が芝生に深刻な被害を及ぼす害虫です。サッチ層など土壌表層にある芝のカスや土粒を使って「ツト」を作り、その中で生活します。幼虫は主に夜間に活動し、芝草の茎や葉を食害します。
3齢以降になると摂食量が急増し、被害が甚大なものとなります。温暖化の影響もあり、全国的に被害が拡大している傾向にあるので注意が必要です。
ヨコバイ
ヨコバイは、カメムシ目でセミ類に近い形をしており、ほとんどの種が数mm前後の非常に小さな虫です。歩くときに横にずれながら移動するため「横這い(ヨコバイ)」という名が付いたと言われています(ヨコバイ – Wikipedia)。オオヨコバイに属するツマグロオオヨコバイは「バナナ虫(バナナムシ)」としても知られています。
ヨコバイは、外灯などの光に集まることも知られています。大量に飛来している場所へ人間が行くと、稀に刺されることもあるようです。
芝生を歩くたびにピョンピョンと飛び跳ねるため、ノミや極小のバッタのような印象を受けます。多種多様な植物を吸汁するため害があります。特に下記の種はそれぞれ、水稲やナシ、カンキツ、リンゴ、ササゲ、ケヤキ、フジ、ダリア、ヤツデ、アジサイ、ヒマワリとあらゆる植物に対して害を及ぼすとされています。ウイルス病などの病気を伝播することもあり厄介な害虫です。
- オオヨコバイ
- オビヒメヨコバイ
- カキノヒメヨコバイ
- キウイヒメヨコバイ
- クロマダラヨコバイ
- ゴボウノミドリヒメヨコバイ
- サカキブチヒメヨコバイ
- チャノミドリヒメヨコバイ
- ツマグロヨコバイ
- トチノキヒメヨコバイ
- ヒシモンヨコバイ
- ヒメフタテンヨコバイ
- ヒメヨコバイ
- フタテンヒメヨコバイ
- フタテンミドリヒメヨコバイ
- ミドリヒメヨコバイ
- ミドリヨコバイ
しかし、芝生においては吸汁されるものの大きな被害につながったという報告が少ないようです。芝草は、稲と同じイネ科の植物が多く用いられるため影響が出てもおかしくはないとは思うのですが、実管理上もほったらかしにされることが多いようです(ウンカの害 – 富山県民福祉公園)。芝に関するヨコバイへの適用農薬もないことからも、農薬使用のニーズが少ないことがわかります。
タマナヤガ
タマナヤガは、ゴルフ場によく用いられるベントグラスを食害する芝生の代表的な害虫です。幼虫が被害を及ぼし、主に7月から8月にかけて大きな被害を及ぼします。幼虫は普段、地中の深い位置に生息し、夜間に地表に這い出て摂食します。
成虫になると1雌あたり約1000個の卵を生むことから、成虫を見つけた場合には直ちに防除の対策を取ることが重要です。
シバオサゾウムシ
シバオサゾウムシは、ゾウムシの仲間で野芝(ノシバ)や高麗芝(コウライシバ)、バミューダグラスなどに被害を及ぼす害虫です。主に幼虫の食害によって被害が現れます。幼虫は、芝の根や匍匐茎(ランナー)を好んで摂食します。
表面上の被害は、春はげ症や乾燥害に似ています。しかし、食害されている箇所は根が短くなったり、匍匐茎(ランナー)が途中で切れていることがあるので、その周辺よりも被害が早めに現れることがあります。そのようなときには、シバオサゾウムシによる食害を疑うと良いでしょう。
オケラ、ケラ
ケラは、土壌に巣穴を掘って生息し、芝の根などを食害するため厄介な害虫です。雑食性で、芝の根のほかミミズなども摂食します。
高麗芝(コウライシバ)への被害は少なく、主に西洋芝に被害が多く及びます。幼虫も成虫も地中にトンネルを掘るため、芝生の根が浮き上がるため乾燥害のような症状も出ます。
ケラを効果的に防除するためには、比較的土壌の浅いところに移動してきたときで、春頃(4月〜6月)と秋頃(9月〜10月)に薬剤散布などで防除することをおすすめします。
モグラ
モグラも芝生にとっては厄介な獣害です。土壌にトンネルを掘って生活するため芝生がデコボコになったり、根が傷んだりします。芝生に穴が空いたりすることによる被害もあります。
モグラの住み着きを防ぐためには、以下のようなことが効果的です。しかし、決定打となるような対策がないというのが正直なところなので、予算などを考えながら組み合わせて駆除していくことになります。
- モグラの餌になるようなもの(ミミズなど)を減らす。
- 臭いや煙で忌避する。
- 振動や音で忌避する。
芝生に大きな影響はないが不快な害虫・害獣(不快害虫・不快害獣)
芝生に直接大きな影響は出ないが、不快な害虫や害獣もいます。主に不快害虫や不快害獣などと呼ばれますが、いったいどのような虫が現れるのでしょう。
ミミズ
ミミズは、陸上の土壌中に棲む環形動物門貧毛綱に属する動物の総称です(他にも海産種もいますがここでは一般的なミミズを指します)。公園や畑でもよく見かけますよね。
害虫や害獣のようにミミズ自体が何か害を及ぼすことは少ないため害虫ではありませんが、糞塚やミミズ自体が人間を不快にさせるため、不快害虫として紹介されることもあります。基本的にミミズは土壌改良(土壌の団粒化や有機物・微生物の分解など)を促進させるため益虫として扱われます。
蟻(アリ)
芝生には、蟻(アリ)もよく出現します。ミミズと同様に蟻塚(アリ塚)を形成しますが、特に影響はありません(ヒアリなどの毒蟻であれば別ですが…)。
家に入り込んでくるなどの場合は、家の周りに忌避剤を撒くなどの対策をすると良いでしょう。
クモ
芝生には、蜘蛛(クモ)も現れます。クモは基本的に害虫なども食べてくれる益虫ですので、人間にとっては不快ですが放っておいて良いでしょう。
モリチャバネゴキブリ
芝生にもゴキブリが出ます。モリチャバネゴキブリが現れることが多いでしょう。不快害虫なので、繁殖させないことが重要です。枯れ葉やサッチの除去、湿地の除去が生息を減らす一助になります。
キノコバエ
キノコバエは、度々大量発生する不快害虫です。大きさは極小のコバエで、メスはキノコ内や樹皮などに産卵し、幼虫もそのような環境に生息しています。腐葉土など有機質資材によく含まれることでも知られ、プランターなど観葉植物の栽培時にも発生します。
特にクロバネキノコバエは大量に発生し、民家にも影響を与えているようです。
ナメクジ
ナメクジも特に害を及ぼすことはないですが、ヒトにとっては気持ちが悪い不快害虫です。ナメクジ対策には、見つけ次第駆除するか、誘引駆除剤を使うことが一般的です。
ヤブ蚊
芝生にヤブ蚊が出ることもあります。「芝生があるからヤブ蚊が生息しているのでは?」と思われる方も多いと思いますが、主原因はそこではないと思います。
ボウフラ(蚊の幼虫)が湿地に多く発生することから、蚊も増えるのです。芝生の周りに雨樋や鉢の受け皿など水が溜まりやすい場所はないでしょうか?それらをなくすことで、発生を防ぐことができます。
ハチ・アブ
芝生の地表付近を飛び回ったり、歩き回る蜂(ハチ)に遭遇することがあります。それは土蜂(ツチバチ)です。狩蜂(カリバチ)の代表的なハチです。ツチバチは、コガネムシなどの幼虫を地中で捕まえて卵を産み付けます。おとなしい性格なのでそのまま刺激をせずに放っておいても大丈夫です。
しかし、芝生に限らず庭やゴルフ場には、オオスズメバチなども生息します。アブなども含めて、刺されないように十分に注意してください。
ムカデ、ヤスデ
ムカデやヤスデが現れる場合があります。ヤスデは特にヒトにも害を及ぼさないのでただの不快な昆虫ですが、ムカデは肉食のものもいるので注意が必要です。
特に大量発生しているというわけでなければ問題はありません。素手で触らないようにすれば良いでしょう。