農業者にとって非常によく聞く、うどんこ病に次ぐカビの病気「べと病」。べと病は葉に小さな斑点を作り、雨が降るとベトベトになります。ここでは、ほうれん草に発生する「べと病」を予防、治療するためにはどのような農薬を使えばいいのか、その他、効果的な防除法について詳しく解説してきます。
ほうれん草のべと病に効果がある農薬
ほうれん草(ホウレンソウ)にとって、べと病は非常によく罹病する厄介な病気です。このため、べと病には様々な適用農薬があります。ここでは代表的な農薬を紹介します。
予防のため
ライメイフロアブル
べと病と疫病に高い効果を示す有効成分アミスルブロムを含有しています。特徴ある予防効果で2次感染を阻止し、効果が長続きします。また、フロアブル製剤のため、収穫物に付着する薬剤汚れが少ないです。性状は、淡褐色水和性粘稠懸濁液体です。
Zボルドー(FRAC M1)
ボルドーは100年以上前から徴用されている農薬で、殺菌剤として使われる硫酸銅と消石灰の混合溶液です。塩基性硫酸銅カルシウムを主成分とする農薬で、果樹や野菜などの幅広い作物で使用されていて、予防効果は高く、安価な点が特長です。また有機栽培でも使用可能です。
アリエッティ水和剤
アリエッティ水和剤は、性状が類白色水和性粉末の畑地用の殺菌剤です。 べと病菌、疫病菌やアルタナリア属菌などに高い効果を発揮し、病原菌に対する直接作用とともに植物自体が持つ自己防衛機能を高め、病原菌の侵入を防ぐ作用がある殺菌剤です。
ピシロックフロアブル
べと病や疫病に高い効果を発揮し、新規系統のテトラゾリルオキシム系殺菌剤なので、今の散布体系に追加して、ローテーション散布として利用できる殺菌剤です。予防効果が高く、収穫前日まで使用できる、使い勝手のいい薬剤です。
治療のため
ランマンフロアブル
ランマンフロアブルはなんといっても、多くの病害、多くの作物に使える殺菌剤であることが特徴です。べと病、疫病、雪腐病、根茎腐敗病、白さび病、根こぶ病などに対し高い防除効果を示します。優れた残効性と耐雨性のため、農薬使用回数の低減につながります。
ベト病菌は葉の裏にある気孔から侵入します。このため、散布は葉の裏面にていねいにタップリかけることが重要です。
この他、フェスティバル水和剤、ユニフォーム粒剤、レーバスフロアブル、リドミル、クプロザートフロアブル、クプロシールド、コサイド3000なども使えます。
上記の農薬は原液を水で溶かして薄めて使用する液剤、乳剤や水溶性の粉剤、粒剤(粒状や顆粒)です。希釈方法等については下記をご参考ください。
展着剤を利用してみよう
農薬を散布する際、展着剤を活用できると、効果が大きく違ってきます。展着剤は、一般展着剤、アジュバント(機能性展着剤)、固着剤と、本当に様々な種類があります。是非、下記を参考にして、展着剤を活用してみましょう。
気温15度になってから散布する
べと病菌は気温15度前後で曇雨天の続くときに感染します。この時期に農薬散布の防除を行なうのがもっとも効果的です。発生が予見できる効果的な時期を狙って散布することで、農薬の使用回数を減らすことができます。
その他
海藻資材をぬるま湯で希釈した液を使用したり、木酢などのお酢に唐辛子(タカノツメ)やニンニクを数ヶ月漬け込んでおき、それを1000倍程に希釈して散布することで、べと病の予防効果があるとして、実践されている方もいます。食酢等は、特定農薬の一つです。
この他、虫除けの忌避剤としてよく使われる木酢やえひめAIを希釈して散布するのも予防に効果があると言われています。
べと病とはどんな病気?
べと病とは?
べと病は卵菌のうちツユカビ科(Peronosporaceae科)に属する菌による病害に対して名づけられる植物病害です。「露菌(ろきん)病」とも呼ばれます。
水滴と合わさって拡大していくため、雨が続くと多発すること、また葉が湿るとベトベトになることから「べと病」と呼ばれています。
べと病は非常に広い範囲の植物に感染しますが、特にウリ科、アブラナ科野菜(キュウリ、タマネギ、ほうれん草、ブドウ、レタス、メロン、キャベツ、ブロッコリー、すいか)・ブドウなどで大きな問題となる病気です。
べと病の症状
べと病が発病すると、下の写真のように、葉に淡緑色の斑点が出てきます。この斑点が徐々に広がっていきます。
始めは淡黄色をした境界のはっきりしない小さな斑点が増えていきます。これが、症状が進むと斑点が拡大して、色あせて淡褐色に変わってきます。
遂には、下の写真のように葉脈と葉脈の間に囲まれた部分が角形で黄褐色のステンドグラス状の病斑になってきます。
斑点の葉の裏側にはカビが発生することがあり、病気が進行すると葉が巻き始めたり、黒くなったり、横に湾曲したりして最終的には枯死します。
キュウリは写真のようにわかりやすい斑点を形成しますが、ネギの場合は葉に斑点を付け、斑点の上にカビが発生し、黄色に変色するなど、植物によって症状は変化します。
発生する原因
カビ(糸状菌)の胞子が風によって運ばれ、葉に付着することで感染します。
べと病のカビは水分がないと病原菌の胞子は発芽・侵入しないタイプで、4時間ほど濡れると充分に発芽、侵入してきます。春と秋の感染期に降雨が続くと、たちまち大発生する厄介な病気です。
べと病菌のサイクル
べと病菌は、被害茎葉につくられた卵胞子の形で越夏します。卵胞子は土壌中で数年以上生き、秋の降雨で発芽し、苗に感染します。
苗床では、苗が小さいために感染している株を見分けるのは困難であるため、定植された苗が伝染源となってしまいます。 3月中旬頃になると、感染した株から胞子が出始めます。胞子は夜間に形成され、早期に成熟して昼間に飛散します。胞子の発芽には90%以上の湿度が必要であるため、感染期に降雨や曇天が続くと大発生を引き起こします。
防除における、予防と治療
病原菌の中でも、カビ(糸状菌)は以下のような3段階で病気の発病させます。
- カビの胞子が葉に付く
- 付いた菌が葉の表面のワックス層を溶かして菌糸を伸ばし、植物の細胞内に吸器を作る
- 植物の細胞から栄養を取り、、分生胞子を作って繁殖し、再び胞子を拡散、増殖させる
1の段階でカビを防ぎ、2の段階に行かないように、胞子の発芽を抑制したり菌糸の侵入を阻害するのが「予防剤」で、2、3以降になり、菌糸を死滅させたり、分生胞子が作られるのを阻害するのが「治療剤」になります。
農薬のラベルには、「予防剤」「治療剤」の表記はありません。菌が蔓延した状態で完全に効く治療剤はほぼないため、「治療剤」と名乗ると、効かなかった場合にメーカーとして不利益を被るのを避けるためだと思われます。
「予防剤」か「治療剤」かは、「病気の初発後に使用しても効果が期待できる」など、発病後でも防除効果が期待できるような記載があるかどうかで判断することができます。
防除する際のポイント
べと病に限りませんが、菌が一度蔓延し、発病してしまうと、完全に防除するのは非常に難しくなります。このため、防除において最も大事なのは、如何に予防剤などを用いて初発で叩いて、発病させないか、です。
また同じ系統の治療剤・予防剤の連続使用は、農薬が効かなくなる耐性菌の発生を招いてしまいます。菌が抵抗性を持つのを避けるために、系統の異なる薬剤を使うことが重要です。
化学的防除以外の防除方法
発症した葉っぱは早めに除去、感染株の徹底した抜き取り
べと病は胞子が風で飛んで伝染します。このため、べと病が発生した葉はすぐに切って取り除くとともに、感染した株は、そのまま放置せず、徹底的に抜き取りを行うようにしましょう。結果、このほうが減収を防ぎます。
苗床の場所を毎年替える
べと病はまず苗床で感染して畑地で蔓延します。無病で健全な苗、種子を使用できればベストです。
苗の感染は分かりにくいこともあり、苗床は毎年新しくしたいものです。やむをえず一度発病した場所で苗床をつくる場合には、太陽熱消毒やバスアミドなどによる土壌消毒を必ずするようにしましょう。
密植せず、通気性を確保する
べと病は湿度が高いところで蔓延するので、圃場を密植させず、通気性や日当たりをしっかり確保することが防除につながります。
周りをしっかり除草する
圃場の周りに雑草が多くあるとその雑草に病害虫が発生し、繁殖、促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけ除草しておくことが、被害を少なくするのに重要です。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。(この他、イネ科雑草、広葉雑草、多年生やその他の厄介な雑草(スギナやヤブガラシ、スズメノカタビラなど))は個別の対策、防除記事もあります。
まとめ
べと病は寄生した植物に拒絶反応を起こさせ、蔓延してしまうと腐る、腐敗するなど、作物が全滅になる恐ろしい病気です。近年ではたまねぎで大量発生し、価格高騰したのがニュースになりました。葉菜、根菜の野菜から果実、観葉植物、多肉植物、草花、球根/宿根・多年草まで幅広く発生します。
ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。
発生してからの圃場の回復は非常に難しいので、予防でしっかり防除することを心がけましょう。
若い葉や茎の表面にうどん粉をまぶしたように白いかびが生えるうどんこ病の防除は下記を参考にしてみてください。市販のベニカ、ベニカスプレーなども使えます。
その他 ほうれん草に関する記事
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(補足)殺虫剤など、他の農薬について
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