土壌の酸性度は、植物の生育に大きな影響を与える重要な要素です。本記事では、土壌酸度の基礎知識からアルカリ性土壌の基本、アルカリ化する原因やその影響、改良方法について詳しく解説します。
土壌酸度(土壌 pH)とは
土壌のpH(ピーエッチ、ペーハー)は、その酸性またはアルカリ性の度合いを数値で表します。pHスケールは0から14まであり、7が中性です。7未満は酸性、7より大きい場合はアルカリ性とされます。このpH値は、土壌中の水素イオンの濃度に基づいています。
農作物や植物は、特定のpH範囲で最もよく成長します。また、pH値は、土壌中の養分の溶解度や植物の養分吸収に大きく影響します。
水素イオン、水酸化イオンのバランスで酸性に傾いたり、アルカリ性に傾いたりします。土壌pHの詳細、重要性は、下記の記事でも紹介しています。
土壌がアルカリ性になる原因
アルカリ性土壌の主な原因は、さまざまあります。主な原因としては下記のことが挙げられます。
- 炭酸塩を多く含む土壌:もともとその土地の土壌自体が炭酸塩などアルカリ性の物質を多く含む土壌である場合があります。
- 水の蒸発、流亡による塩類の蓄積:水の蒸発によって塩類集積が起き、アルカリ性に傾く場合があります。自然に発生するアルカリ性土壌の例として、アメリカ中部などの乾燥地においてよく見られる現象です。
- アルカリ性の灌漑水の使用:アルカリ性寄りの灌漑水を土壌に散水することで徐々にアルカリ性に傾く場合があります。pH7.0以上の地下水の地域もあり、それらを使い続けるとアルカリ性に傾く
- 過度の石灰の施用:石灰質肥料のやり過ぎが原因の場合も考えられます。酸性土壌を矯正するために石灰質肥料を施しすぎたり、土壌酸度の確認などせずに無計画に石灰質肥料散布すると起きやすくなります。
コンクリート塊やセメント固化処理によるアルカリ化問題もあります。例えばコンクリートの塊等が土壌に多く含まれている場合は、アルカリ性に傾く場合があります。埋立地では、地盤安定化のため、固結地盤を形成しますがそれが影響を及ぼす場合もあります。
アルカリ性土壌が栽培作物などに与える影響
アルカリ性土壌が栽培作物や土壌に与える影響は、とても大きいです。作物ごとに適正な土壌pHがありますので、その酸性度に合わせることが何よりも重要です。
では、アルカリ性土壌となった場合、一般的に起こりやすい影響・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
土壌の養分供給能力の低下/作物の生育障害
主要な野菜作物等について、アルカリ性土壌では生育不良・生育不能となります。これは、植物に必要な微量要素(鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)など)の可溶性を低下(不溶化)させ、これらの栄養素が不足するためです。
これを一般的に「生育障害」といいます。総じて、ちょうどいい土壌pH(弱酸性〜中性)に矯正し、維持することが重要です。
作物障害の発生
土壌が中性〜アルカリ性に偏ると土壌微生物群のうち、細菌や放線菌由来の病気が発生しやすくなります(トマトの青枯病(細菌)、じゃがいものそうか病(放線菌)など)。
土壌がアルカリ化した場合、細菌や放線菌が増加します。ほかにも、糸状菌によって媒介される土壌伝染性ウイルス病である、テンサイそう根病、麦類萎縮病、ソラマメえそモザイク病、レタスビッグペイン病、メロンえそ斑点病、エンドウ茎えそ病などの発生も多くなることが知られています。
(出典:土壌病害の発生と土壌)
アルカリ性土壌が適している栽培作物
一方でアルカリ性土壌が適している栽培作物もあります。
一般的にアスパラガス、ホウレンソウ、エンドウ等は、微酸性・中性〜弱アルカリ性土壌を好むことが知られています。また、ハーブ・観葉植物でもラベンダー、ローズマリー、ブラヘアアルマータ、スイートピー、チューリップなどは中性〜弱アルカリ性を好みます。
それぞれ作物ごとに適正の土壌pHというものがありますので、まずは調べてみると良いでしょう。
土壌の酸性度を測定する方法
一般的な土壌pH測定方法には、直接土壌を測定する方法と、土壌溶液を使用する方法があります。それぞれの方法には、利点がありますので、状況に応じて測定方法を選びましょう。
- 土壌酸度計・土壌ダイレクトpHテスターによる測定(土壌をダイレクトに測定)
- 利点:時間や手間が比較的かからない。作物にとって重要な根回りを測定しやすく、土を掘り起こすことも不要であり、栽培途中でも測定が可能。
- 欠点:土壌中の成分が均一とは限らないので、圃場全体のpH測定値として採用するには信頼性に欠ける
- 上澄み液による測定(ガラス電極法、pH試験による測定)
- 利点:サンプリング(採取する土壌)をしっかり選定できれば、pH測定値の信頼性が高い
- 欠点:採土したり、蒸留水を用意する必要がある。また、撹拌・上澄み液の抽出など時間がかかる。
土壌 pH の測定方法、土壌酸度計の詳細については、下記の記事で紹介していますのでぜひ参考にしてください!
アルカリ性土壌の改良方法
土壌 pH を改良目標値に近づけるためには、まず作物ごとの適した土壌 pH を知ることが大切です。その範囲内にな
るように資材を選定・施用する必要があります。
一般的に土壌 pH を酸性寄りに矯正する場合は、下記の方法があります。
- 「ピートモス」などの改良用土を利用する
- 「硫安(硫酸アンモニウム)」「塩安(塩酸アンモニウム)」「硫加(硫酸カリウム)」「土壌改良用硫黄紛(微粉硫黄)」等を土壌に施す
- ハウス栽培の場合、灌漑水として使用する地下水・井水等のpHを下げるために、調整剤や希硫酸、希硝酸を混ぜて灌水する
まずは、土壌の pH を測定し、現在の土壌の状態がどのようになっているかを正しく把握することが必要です。
また、同じ土壌での輪作の観点で、トウモロコシやソルゴーなど比較的土壌の栄養を吸収しやすいクリーニングクロップを栽培してアルカリ分を除去したり、中性〜アルカリ性で育ちやすいホウレンソウ等を栽培するという方法もあります。
長期的な土壌改良の観点では、ピートモスを使用すると良いでしょう。ピートモスは保水性や保肥性の改善にも役立ちます。
ピートモスは材質自体の特徴として、フミン酸(腐植酸)という強い酸性を持っています。販売されているものの中には、
- 酸度調整済み(pH6.0)のピートモス
- 無調整(pH3〜4程度)のピートモス
の2種類がありますが、アルカリ性土壌を矯正する場合には無調整のものを使うとよいでしょう。
ほかにも、良質な堆肥の投入などで腐植や CEC を高めておくことも重要です。
作物・植物ごとの適正 pH
pH領域 | 穀類、工芸、作物、牧草 | 葉菜(野菜) | 果菜(野菜) | 根菜(野菜) | 花卉 | 花木、植木 | 果樹 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
6.5〜7.0 微酸性〜中酸性領域で生育 | アルファルファ サトウキビ ビート | エンドウ ホウレンソウ | ガーベラ カスミソウ スイートピー トルコギキョウ | ハイドランジア(レッド) | ブドウ | ||
6.0〜6.5 微酸性領域で生育 | アズキ オオムギ クワ コムギ ソルゴー ダイズ タバコ トウモロコシ ハトムギ ホワイトクローバー ライムギ レンゲ | アスパラガス ウド カリフラワー サニーレタス シュンギク セルリー タカナ ナバナ ニラ ネギ ハクサイ パセリ ハナヤサイ ブロッコリー ミツバ ミョウガ モロヘイヤ レタス | インゲン エダマメ オクラ カボチャ カンピョウ キュウリ ササゲ スイカ スイートコーン ソラマメ トウガラシ トマト ナス ピーマン メロン ラッカセイ | コンニャク サトイモ ヤマノイモ | カーネーション キク グラジオラス サイネリア シクラメン スイセン スターチス ストック ゼラニウム パンジー フリージア ポインセチア マダガスカル ジャスミン ユリ | バラ | オウトク キウイ モモ |
5.5〜6.5 微酸性〜弱酸性領域で生育 | イネ エンバク チモシー ヒエ レッドクローバー | キャベツ コマツナ サラダナ チンゲンサイ フキ | イチゴ | コカブ ゴボウ ダイコン タマネギ ニンジン レンコン | アンスリウム コスモス マリーゴールド | イチジク ウメ カキ ナシ ミカン リンゴ | |
5.5〜6.0 弱酸性領域で生育 | イタリアンライグラス オーチャードグラス ソバ トールフェスク | サトイモ ショウガ ニンニク ジャガイモ ラッキョウ | セントポーリア プリムラ | クリ パインアップル ブルーベリー | |||
5.0〜5.5 酸性領域で生育 | 茶 | アナナス シダ 洋ラン ベゴニア リンドウ | アザレヤ サザンカ サツキ シャクナゲ ツバキ ツツジ ハイドランジア (ブルー) |