土壌の酸性度は、植物の生育に大きな影響を与える重要な要素です。本記事では、土壌酸度の基礎知識から酸性化する原因やその影響、改良方法について詳しく解説します。
土壌酸度(土壌 pH)とは
土壌のpH(ピーエッチ、ペーハー)は、その酸性またはアルカリ性の度合いを数値で表します。pHスケールは0から14まであり、7が中性です。7未満は酸性、7より大きい場合はアルカリ性とされます。このpH値は、土壌中の水素イオンの濃度に基づいています。
農作物や植物は、特定のpH範囲で最もよく成長します。また、pH値は、土壌中の養分の溶解度や植物の養分吸収に大きく影響します。
水素イオン、水酸化イオンのバランスで酸性に傾いたり、アルカリ性に傾いたりします。土壌pHの詳細、重要性は、下記の記事でも紹介しています。
土壌が酸性になる原因
土壌が酸性になる原因は様々です。主な原因としては、下記のことが挙げられます。
- 雨水の流入:土中のアルカリ分(石灰分)が流されてしまう、雨水には空気中の二酸化炭素が溶け込み、pH5.6前後〜4.7前後の弱酸性〜中酸性になっているため、酸性化する要因になります。
- 化学肥料の使用:化成肥料など化学肥料は多くが酸性寄りであるため、長期間使用することで酸性化します。生理的酸性肥料で硫安(硫酸アンモニウム)・塩安(塩化アンモニウム)・塩化加里(塩化カリウム)・硫酸加里(硫酸カリウム)が該当し、アンモニアとカリウムが作物に吸収されたあとに硫酸・塩酸が土壌に残ることで酸性化を促進します。
- 腐植質の分解:未熟な状態の堆肥等を施用したとき、土壌微生物によって活発に分解される過程で、多量の有機酸が生成され炭酸ガスも放出されます。この有機酸と炭酸ガスが土壌のpHを低下させる原因になります。
- 地質的な要因:地域にもよるが、日本の土壌は一般的に酸性寄りで、通常の状態でも徐々に酸性に傾く傾向にあります。
- 作物による吸収:作物が生長するためには窒素・リン酸・カリウムが必要ですが、それらの吸収と同時にカルシウムやマグネシウムも吸収されます。これらが吸収されたあと、作物を圃場外に持ち出すと、その圃場のカルシウム・マグネシウム分が減ったままとなります。そのため、カルシウム・マグネシウム分を補充しなければ、土壌は徐々に酸性化していきます。
特に長期間にわたる化学肥料の使用、同じ土地での連作は、土壌の酸性化を促進することがあります。
日本に酸性土壌が多い理由としても、雨量が関係していると言われています。日本は多湿気候地域特有の風化作用や腐植物質の影響などもありますが、降雨量が多いため、土壌が酸性に傾きやすいと言われています。
酸性土壌が栽培作物などに与える影響
酸性土壌が栽培作物や土壌に与える影響は、とても大きいです。作物ごとに適正な土壌pHがありますので、その酸性度に合わせることが何よりも重要です。
では、酸性土壌となった場合、一般的に起こりやすい影響・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
作物の生育障害
主要な野菜作物等について、強酸性土壌では生育不良・生育不能となります。これは酸性化により土壌のアルミニウムが活性化され、根に害を与え、養水分の吸収能力が落ちるためです。これを一般的に「生育障害」といいます。
土壌の養分供給能力の低下
酸性土壌の場合、活性アルミニウムがリン酸と結合し吸収できない形態で固定してしまいます。そのため、カルシウム、マグネシウムが溶脱し不足しやすくなります。
また、ホウ素(B)は酸性に傾くと可溶性が増し、流亡しやすくなるため、欠乏症が発生しやすくなります。モリブデン(Mo)は、酸性土壌では利用可能な可給態の量が減少するため、こちらも欠乏しやすくなります(微量要素欠乏)。
その他にも、マンガン(Mn)・鉄(Fe)・銅(Cu)・亜鉛(Zn)などの微量要素が溶けやすくなるため、過剰症や流亡が発生しやすくなるリスクがあるとされています。
総じて、ちょうどいい土壌pH(弱酸性〜中性)に矯正し、維持することが重要です。
土壌保肥力・保水性の喪失
土壌表面の塩基の溶脱により土壌団粒が壊され、保肥・保水能力が低下するリスクがあります。
いわゆるフカフカの土というものを維持できなくなり、土壌に蓄えられる栄養分、水分が低下してしまうことになります。
作物障害の発生
土壌微生物群のうち、糸状菌の活動が活発化し病害を引き起こすリスクが高まります(あぶらな科野菜の根こぶ病(糸状菌)、きゅうりのつる割れ病(糸状菌)など)。
土壌が酸性化した場合、細菌や放線菌が減少し糸状菌が増加します。例えば、pH約7の土壌に酸を添加してpHを約4に低下させると、土壌中の細菌数は約1/100に減少し、糸状菌数は約1000倍に増加するとされています。土壌中の微生物は、相互に影響を及ぼしあいながら一つの生態系を構成していますが、重金属や酸などの汚染物質が加わると、これらの影響を受けやすい細菌、放線菌が減少して、土壌生態系内での平衡がくずれ、汚染物質の影響を受けにくい糸状菌が増加してくるためと考えられます。
(出典:土壌汚染と微生物 – 国立環境研究所)
酸性土壌が適している栽培作物
一方で酸性土壌が適している栽培作物もあります。
一般的に茶やブルーベリー、じゃがいも・さといもなどのイモ類などは酸性を好みます。それぞれ作物ごとに適正の土壌pHというものがありますので、まずは調べてみると良いでしょう。
土壌の酸性度を測定する方法
一般的な土壌pH測定方法には、直接土壌を測定する方法と、土壌溶液を使用する方法があります。それぞれの方法には、利点がありますので、状況に応じて測定方法を選びましょう。
- 土壌酸度計・土壌ダイレクトpHテスターによる測定(土壌をダイレクトに測定)
- 利点:時間や手間が比較的かからない。作物にとって重要な根回りを測定しやすく、土を掘り起こすことも不要であり、栽培途中でも測定が可能。
- 欠点:土壌中の成分が均一とは限らないので、圃場全体のpH測定値として採用するには信頼性に欠ける
- 上澄み液による測定(ガラス電極法、pH試験による測定)
- 利点:サンプリング(採取する土壌)をしっかり選定できれば、pH測定値の信頼性が高い
- 欠点:採土したり、蒸留水を用意する必要がある。また、撹拌・上澄み液の抽出など時間がかかる。
土壌 pH の測定方法、土壌酸度計の詳細については、下記の記事で紹介していますのでぜひ参考にしてください!
酸性土壌の改良方法
土壌 pH を改良目標値に近づけるためには、まず作物ごとの適した土壌 pH を知ることが大切です。その範囲内にな
るように資材を選定・施用する必要があります。
一般的に土壌 pH をアルカリ性寄りに矯正する場合は、石灰資材(石灰質肥料)を利用します。石灰質肥料は、品目によって鉱物由来、有機物由来など原料が異なり、原料の違いによっ
てアルカリ度や肥効が異なるため、目的によって使い分ける必要があります。一般的には、消石灰か苦土石灰、炭カル(炭酸カルシウム)などを使います。
以下に炭カルを使用する場合の考え方を記載します。
本来、土壌毎の緩衝能の違いによりアルカリ資材添加時のpH上昇度が異なるので、土壌pHだけからは算出しづらいです。正確に土壌改良(矯正)するためには、土壌毎に緩衝能曲線を作成し、石灰質肥料の量を算出する方法がとられています。
しかし、簡便的に石灰質肥料をどのくらい混和すればいいかを求める方法があります。アレニウス表による酸性矯正用炭酸カルシウム施用量を参考にする方法です。この表は、pH6.5に矯正するときの炭カル(炭酸カルシウム)の所要量が記載されています。
土 性 | 腐植含量 | 4.0 | 4.2 | 4.4 | 4.6 | 4.8 | 5.0 | 5.2 | 5.4 | 5.6 | 5.8 | 6.0 | 6.2 | 6.4 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
砂壌土 | 含む | 424 | 390 | 356 | 323 | 289 | 255 | 221 | 188 | 154 | 120 | 86 | 53 | 15 |
砂壌土 | 富む | 634 | 581 | 533 | 480 | 431 | 379 | 330 | 278 | 229 | 176 | 128 | 75 | 26 |
砂壌土 | 頗る富む | 986 | 908 | 829 | 750 | 671 | 593 | 514 | 435 | 356 | 278 | 199 | 120 | 41 |
壌土 | 含む | 634 | 581 | 533 | 480 | 431 | 379 | 330 | 278 | 229 | 176 | 128 | 75 | 26 |
壌土 | 富む | 844 | 776 | 709 | 641 | 574 | 506 | 439 | 371 | 304 | 236 | 169 | 101 | 34 |
壌土 | 頗る富む | 1,268 | 1,166 | 1,065 | 964 | 863 | 761 | 660 | 559 | 379 | 356 | 255 | 154 | 53 |
植壌土 | 含む | 844 | 776 | 709 | 641 | 574 | 506 | 439 | 371 | 559 | 236 | 169 | 101 | 34 |
植壌土 | 富む | 1,054 | 971 | 885 | 803 | 716 | 634 | 548 | 465 | 379 | 296 | 210 | 128 | 41 |
植壌土 | 頗る富む | 1,549 | 1,425 | 1,301 | 1,178 | 1,054 | 930 | 806 | 683 | 559 | 435 | 315 | 188 | 64 |
埴土 | 含む | 1,054 | 971 | 885 | 803 | 716 | 634 | 548 | 465 | 379 | 296 | 210 | 128 | 41 |
埴土 | 富む | 1,268 | 1,166 | 1,065 | 964 | 863 | 761 | 660 | 559 | 458 | 356 | 255 | 154 | 53 |
埴土 | 頗る富む | 1,830 | 1,684 | 1,538 | 1,391 | 1,245 | 1,099 | 935 | 806 | 660 | 514 | 368 | 221 | 75 |
腐葉土 | − | 2,062 | 1,898 | 1,733 | 1,568 | 1,403 | 1,238 | 1,073 | 908 | 743 | 570 | 413 | 248 | 83 |
なお、この表よりpHを矯正した場合は、石灰質肥料を施用耕起後7~10日位たってからさらにpHを測定し、目的のpHになっているか確認する方が良いでしょう。
また、腐食が少なく、保肥力(CEC)が低い土壌ほど、雨水によるアルカリ成分の溶脱が顕著となります。そのため、良質な堆肥の投入などで腐植や CEC を高めておくことも重要です。
作物・植物ごとの適正 pH
pH領域 | 穀類、工芸、作物、牧草 | 葉菜(野菜) | 果菜(野菜) | 根菜(野菜) | 花卉 | 花木、植木 | 果樹 |
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6.5〜7.0 微酸性〜中酸性領域で生育 | アルファルファ サトウキビ ビート | エンドウ ホウレンソウ | ガーベラ カスミソウ スイートピー トルコギキョウ | ハイドランジア(レッド) | ブドウ | ||
6.0〜6.5 微酸性領域で生育 | アズキ オオムギ クワ コムギ ソルゴー ダイズ タバコ トウモロコシ ハトムギ ホワイトクローバー ライムギ レンゲ | アスパラガス ウド カリフラワー サニーレタス シュンギク セルリー タカナ ナバナ ニラ ネギ ハクサイ パセリ ハナヤサイ ブロッコリー ミツバ ミョウガ モロヘイヤ レタス | インゲン エダマメ オクラ カボチャ カンピョウ キュウリ ササゲ スイカ スイートコーン ソラマメ トウガラシ トマト ナス ピーマン メロン ラッカセイ | コンニャク サトイモ ヤマノイモ | カーネーション キク グラジオラス サイネリア シクラメン スイセン スターチス ストック ゼラニウム パンジー フリージア ポインセチア マダガスカル ジャスミン ユリ | バラ | オウトク キウイ モモ |
5.5〜6.5 微酸性〜弱酸性領域で生育 | イネ エンバク チモシー ヒエ レッドクローバー | キャベツ コマツナ サラダナ チンゲンサイ フキ | イチゴ | コカブ ゴボウ ダイコン タマネギ ニンジン レンコン | アンスリウム コスモス マリーゴールド | イチジク ウメ カキ ナシ ミカン リンゴ | |
5.5〜6.0 弱酸性領域で生育 | イタリアンライグラス オーチャードグラス ソバ トールフェスク | サトイモ ショウガ ニンニク ジャガイモ ラッキョウ | セントポーリア プリムラ | クリ パインアップル ブルーベリー | |||
5.0〜5.5 酸性領域で生育 | 茶 | アナナス シダ 洋ラン ベゴニア リンドウ | アザレヤ サザンカ サツキ シャクナゲ ツバキ ツツジ ハイドランジア (ブルー) |