農地(農用地)は、自給率を高め、食料を生産する農業を守るための大切な基盤として維持するため、また、近年、耕作放棄地が増加しており、採草等がしっかり行われないと、周りの農家の方にも迷惑がかかるのを防ぐため、農地法第3条により制限され、自由に売買や貸し借りはできなくなっています。
しかしながら、親族が亡くなって、相続・遺贈によって農地を取得する場合は、許可が不要になります。ここでは、農地を相続する可能性が出てきた場合、どうしたいかに応じて、どのような対応・選択肢があるのか、説明したいと思います。
農地を相続したい場合
農地相続する場合、1「法務局での相続登記」を行い、2「農業委員会への相続届出」を行うことになります。(農業委員会への届出には「相続を知った時から10か月以内」と期限がありますので、ご注意ください。)
1「法務局での相続登記」
該当農地を管轄する法務局で、登記申請書に必要書類を沿えて提出し、登記の名義の書き換えをしてもらいます。
必要書類は以下の通りです。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍附票
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 農地を相続する相続人の住民票
- 農地の固定資産評価証明書
- 農地の所在する市区町村役場
- 遺産分割協議書(遺言による相続の場合は、これに代えて遺言書が必要です)
相続登記手続きは、固定資産税評価額の0.4%に相当する登録免許税がかかる点、ご注意ください。
以上の書類の収集・作成は個人でやられるのは、遠隔地だった場合等負担が大きいこともあると思います。そのような場合は、近くの行政書士や司法書士の事務所に問い合わせると良いでしょう。
2「農業委員会への相続届出」
農業委員会は、各自治体毎に存在する組織になります。大体各市町村に1つずつ設置されていますが、中には存在しない自治体もありますので、必ず事前に当自治体に農業委員会があるのか、自治体のホームページで調べ、不明な場合は、役所に問い合わせをしてください。
必要書類は以下の通りです。
- 農地法の規定による届出書
- 相続登記後の登記事項証明書
農地法の規定による届出書は、管轄の農業委員会に問い合わせて、フォーマットを貰ってください。
農業をしないので、農地相続を放棄したい場合
そもそも農業・耕作をしないので、農地相続をしたくないケースも考えられます。このような場合は、耕作放棄地にならないように農地を維持するための採草等のコストを考えると、相続するほうがデメリットが多くなるかと思います。
この場合、相続放棄をすれば相続することを避けることができますが、相続放棄すると農地だけではなく、その他の財産もすべて、相続ができなくなってしまいます。つまり、他に、現預金や不動産など価値ある相続財産がある場合には、現実問題として、放棄ができないということもあり得ます。
相続放棄を真剣に考えられている場合は、放棄は、原則「相続開始を知ってから3か月以内」なので、ご注意ください。他の相続資産等もあったりで迷われている場合は、近くの行政書士や司法書士の方に相談すると良いでしょう。
農地のまま、また農地以外に転用して売却したい場合
売却する場合は、まず相続を受ける手続きを完了する必要があります。その手続きについては、当ページの「農地を相続したい場合」の手続きを参考にしてください。
手続き完了後、売却を行うことになりますが、農地は農地法第3条で、
「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない」
と制限されており、農業委員会の許可が必要になります。また、農用地を宅地等他の用途に転用する場合も、農地法第4条により、農業委員会の許可が必要になります。
農地の転用を考える場合は、該当する農地が具体的には、市街化区域なのか、市街化調整区域なのか、市街化区域の場合、生産緑地なのかどうか、また市街化調整区域でも、農用地区域の場合、甲種農地なのか、乙種農地なのか、また地目は何か、立地はどうか、等々しっかり把握することが重要です。
把握を行い、該当自治体の農業委員会に問い合わせしてみてください。
相続にかかる税金について
相続が行われた場合、それに伴って相続税が発生する場合があります。
そして、相続税は財産を受け継いだ人に課税される税金であるため、相続、遺贈、死因贈与のいずれであっても、財産をもらった人(個人)に課税されることになります。
遺言や死因贈与で相続人が決まっている場合は大丈夫ですが、決まっていない場合も当然あります。民法ではこのような場合に、被相続人の遺産を誰が相続することができるかを定めていて、民法で定められた相続人のことを「法定相続人」と呼びます。
法定相続人は「配偶者と血縁関係にある親族」を原則として、配偶者を常に相続人とし、他は下記のように相続順位が決まっています。
- 第1順位:子供や孫
- 第2順位:父母や祖父母
- 第3順位:兄弟姉妹
第1順位の該当者がいない場合、第2順位に該当する方が、更に第2順位の該当者がいない場合、第3順位に該当する方が法定相続人になります。
では、相続人が決まった後、相続にかかる税金はどのように計算されるのでしょうか?
相続税は亡くなった人の遺産の総額に基づいて税金が計算されます。ただし、「基礎控除」という、ここまでの範囲の財産には相続税をかけない、という基準があります。
具体的には、遺産の総額が、
「3,000万円+600万円×法定相続人の数以下」
であれば、相続税はかかりません。
また、遺産の総額とは、現金や、預貯金は当然ながら、株式や土地、建物、生命保険きんが含まれ、また借入金がある場合は、借入金の金額をマイナスして、正味の遺産の相続を計算します。
農地の価値の評価について
農地は主に、下記カテゴリーに分類されます。
- 純農地
農業地区域内の農地や第1種農地、甲種農地など。 - 中間農地
第2種農地やそれに準ずる農地。 - 市街地周辺農地
第3種農地やそれに準ずる農地。 - 市街地農地
転用許可を受けた農地、市街化区域内にある農地、転用許可を要しない農地として都道府県致死の許可を受けた農地。
純農地や中間農地の場合は下記リンク先の「評価倍率表」を使って、固定資産税額に一定の割合をかけ算して評価額を算出します。
市街地周辺農地の場合はその農地が市街地農地だった場合の80%相当額を評価額とします。
市街地農地の場合は「宅地批准方式または評価倍率方式」となります。宅地批准方式とはその農地が宅地だった場合の評価額から造成費を差し引いた金額になります。
実際にいくらになるのかを算出するのは複雑で、自分で計算すると間違える可能性があります。必ず、税理士等専門の方に相談するようにしてください。
また、農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例もあります。下記の国税庁のホームページに記載されていますので、納税猶予の特例に該当されるかどうか確認してみてください。
まとめ
農地を相続する場合、相続される方の状況に応じて、様々なメリット・デメリット、選択肢が考えられます。相続税など、専門的な領域に広がることから、まずは当記事を読んでいただき、ある程度把握された後に、税理士等の専門家に相談されることをお勧めします。