耕運機は、知っているようで知らない農業機械の筆頭候補かもしれません。土を耕すための機械であることは知っている反面、その他に何が出来るのかであったり、実際の操作方法であったりは知らないという人も多いのではないでしょうか。特に近年の耕運機は、乗用車に積み込めるほどコンパクトサイズにも関わらず、実に多機能というものも少なくありません。
この記事では、耕運機の使い方をさまざまな角度から紹介します。
耕運機で出来ること
耕運機と一口に言っても、大きさ、性能、機能など多種多様です。とりわけ近年の耕運機は進化が著しく、耕運だけでなく様々な使い方が出来るようになってきています。製品ごとに可否は異なりますが、耕運機で出来ることに以下のようなものがあります。
作業名 | 内容 |
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耕運 | 土を耕します。土の中に空気を混ぜ込むことで、作物にとって生育しやすい環境をつくります。耕運機の重量、馬力、耕運幅などが耕す力に関係します。 |
畝立て | 土を盛りあげ、畝やベッドをつくることができます。畝立器や溝浚器といったアタッチメントを利用することが多いですが、アタッチメントなしで簡易畝立てができる製品もあります。 |
培土 | 野菜などの作物の株際に土を寄せます。培土器などのアタッチメントを利用することが多いです。 |
中耕 | 畝の間の土をほぐすことで農作物の生育を助ける中耕作業もできます。中耕車輪などのアタッチメントを利用することが多いです。 |
除草 | スパイラルローターなどのアタッチメントをロータリー部分に装備することで、地際の雑草を除去します。 |
整地 | レーキやレベラーといったアタッチメントを利用して、土を平らに均すことができます。 |
マルチ張り | マルチシートを張る、マルチャーとして活躍することもあります。マルチングにより、地温を上昇をさせるとともに、雑草や病害虫の発生、降雨による泥はねなどを防ぐことが期待されます。 |
播種 | 種を播きます。アタッチメントに応じて、大小さまざまな種に対応します。 |
収穫 | 農作物の収穫ができます。イモ類やネギ類の収穫で利用されることが多いです。 |
土壌消毒 | 専用の農薬を圃場に注入することで土壌消毒ができます。 |
耕運機の使い方
使用する耕運機の機種によって操作方法は異なりますが、基本的な操作方法は以下のようになります。
作業名 | 内容 |
---|---|
始動 | ① 機体の安全点検を行う ② 主クラッチレバーと耕運クラッチレバーが「切」、変速レバーが「中立」になっていることを確認する ③ エンジンを始動させる(リコイルスタータの場合はロープを引き、セルスタータの場合はスイッチを使う) |
発進 | ① 変速レバーを希望の位置に入れる ② アクセルレバーを調整し、エンジンの回転を上げる ③ 主クラッチレバーを入れ、ゆっくりとクラッチをつなぎ発進 |
変速 | ① 主クラッチレバーを切り、変速レバーを希望の位置に入れる ② 主クラッチレバーを入れ、ゆっくりとクラッチをつなぐ |
旋回 | ① エンジンの回転を下げ、速度を十分に落とす ② ハンドルをかるく持ち上げる ③ 曲がる側のかじとりクラッチレバーを握りながら、機体を旋回させる |
停止 | ① エンジンの回転を下げ、主クラッチレバーを「切」にする ② 変速レバーを「中立」にし、エンジンを停止させる |
機能やパーツの使い方
機能やパーツの使い方として、とりわけ気になりがちなのが以下ではないでしょうか。
正転逆転
耕運爪がタイヤの回転と同じ方向に回るのが正転で、逆方向に回るのが逆転です。基本的には正転により耕しますが、土壌がかたい場合には十分に耕せなかったり、耕運爪がスパイク靴と同じ要領で地面(地表)を捉えることにより機体が急発進してしまう「ダッシング」が起こったりすることがあります。こうした場合には、逆転を使用することで改善が見込まれます(すべての耕運機に逆転機能が備わっているわけではありません)。
逆転を使用するために爪軸を入れ替えなくてはいけない機種もありますが、入れ替えをすることなく変速レバーの操作のみで対応できる機種もあります(前者ではなた爪が使われており、後者では正逆転兼用爪が使われていることが多いです)。また、一軸正逆転という正転と逆転が同時に起こる仕組みが採用されている機種もあります。
抵抗棒
主に車軸ロータータイプの耕運機後部にあるパーツが抵抗棒です(尾輪が抵抗棒の役割を果たす機種もあります)。抵抗棒には、機体の前進を抑制することで、しっかりと土を耕す働きがあります。抵抗棒を深く土にくい込ませることで、しっかりと深く耕運することができます。逆に抵抗棒のくい込みを浅くすると、浅めに耕運することができます。
大きさごとの使い方
耕運機の大きさが変わっても、基本的な使い方は同じです。しかし、小型耕運機と大型耕運機ではいくつかの異なる特徴もあります。
小型耕運機(ミニ耕運機)
大手農業機械メーカーでは、サイズの小さな小型耕運機のことを「ミニ耕運機」の名称で分類しています。基本的な使い方は上記の通りですが、フロントロータリ、リアロータリのほかに、車軸ロータータイプもあるのが特徴です。
大型耕運機(ディーゼル耕運機)
サイズや重量が大きな耕運機を指しますが、「大型耕運機」という呼び方自体は、実はあまり一般的ではありません。大手農業機械メーカーでは、それに相当する呼称として「耕運機」や「テーラー」(もしくは「テイラー」)を使っています。しかしながら、単に「耕運機」と言った場合に、小型の耕運機である「ミニ耕運機」などと混同するケースがあるため、区別するためにも「大型耕運機」と言うことがあります。基本的な使い方は上記の通りですが、ガソリンを燃料とするガソリン耕運機のほかに、軽油を燃料とするディーゼル耕運機もラインナップされているのが特徴です。
メーカーごとの使い方
機能などはメーカーごとに特色がありますが、基本的な使い方は同じです。したがって、上記の基本的な操作方法を身につけた上で、そのメーカーごとの特色を理解すれば難しいことはありません。とりわけ特色といえるような機能や操作方法については、各製品の取扱説明書に記載されていますので確認するようにしましょう。また、簡単な説明動画が用意されていることもあります。
クボタ耕運機
クボタ耕運機のラインナップとして大きくは、「ミニ耕運機」、「耕運機」、「管理機」、「テーラー」の4つに分類されています。この中には電動式のほか、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのモデルも含まれています。
ヤンマー耕運機
ヤンマーは、日本を代表する農機メーカーです。同時に、艤装や舶用システムなどのマリン製品も手掛けています。耕運機のラインナップとして大きくは、「ミニ耕運機」、「耕運機」、「管理機」、「乗用管理機」の4つに分類されています。この中にはガソリンエンジンのほか、ディーゼルエンジンのモデルも含まれています(ヤンマーディーゼルとしてもおなじみです)。
イセキ耕運機
イセキ耕運機には多くの製品がありますが、「ミニ耕運機」、「耕運機」、「家庭菜園用管理機」「管理機」、「乗用管理機」の5つに分類して整理すると理解しやすいです。なおミニ耕運機については、井関農機株式会社が取り扱う製品、その子会社である株式会社ISEKIアグリが取り扱う製品の2つのパターンがあります。大まかには、井関農機は系列の販売会社を中心に、ISEKIアグリはホームセンターなどの量販店を中心にそれぞれ販売することで役割分担をしているようです。
ホンダ耕運機
ホンダ耕運機はユーザー目線でシンプルに整理されていて、初心者にもわかりやすいです。ただし、性能や使い勝手はいずれも素晴らしく、一線級の製品といえます。「耕運機」と「管理機」の2つに大別されています。
その他メーカーの耕運機
他によく知られている耕運機メーカーとして、三菱、マキタ、リョービ(京セラインダストリアルツールズ)などがあります。これらのメーカーが販売している小型耕運機の性能や価格を一覧表にまとめました。なお比較がしやすいように、一部の数値については、メーカー公表値から農家web編集部にて当該単位に換算したものを記載しています。
製品 | クボタ 菜レント TME15 | クボタ TMC200 | クボタ TMS200 | クボタ ミディstyle TMS30-M5TUE3 | クボタ 菜ビstyle TRS30 | クボタ 陽菜Smile TRS500 | クボタ TRS900 | ヤンマー QT17 | ヤンマー YK750SP,Z | ヤンマー YK3000FP | イセキ KMR400SDUH | イセキ KCR507SDU | イセキ KCR605HXW | VAC3600 | 三菱 ELR20 | ホンダFV200 | マキタ MUK360DZ | マキタ MKR0250H | マキタ MKR0360H | マキタ MKR036 2H | マキタ MKR036H | マキタ MKR0760H | マキタ MKR0761H | ||||||||||||||||||
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動力源 | 電気 | ガス | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガス | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガス | ガス | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | 電気 | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | ガソリン | 電気 | 50(ガソリン):1(2サイクル専用オイル) |
タイプ | 車軸ローター | 車軸ローター | 車軸ローター | 車軸ローター | フロントロータリ | リアロータリ | リアロータリ | リアロータリ | フロントロータリ | 車軸ローター | 車軸ローター | リアロータリ | リアロータリ | フロントロータリ | フロントロータリ | リアロータリ | リアロータリ | リアロータリ | 車軸ローター | 車軸ローター | リアロータリ | フロントロータリ | 車軸ローター | リアロータリ | 車軸ローター | フロントロータリ | 車軸ローター | 車軸ローター | 車軸ローター | フロントロータリ | リアロータリ | リアロータリ | 車軸ローター | 車軸ローター | 車軸ローター | リアロータリ | フロントロータリ | リアロータリ | リアロータリ | 車軸ローター | 車軸ローター |
全長×全幅×全高(mm) | 1137×485×891 | 1125×480×1065 | 1100×575×980 | 1200×650×1080 | 1370×550×1090 | 1285×490×1050 | 1520×620×1035 | 1850×720×1170 | 1630×680×1070 | 1060×540×960 | 1265×620×1030 | 1470×610×1130 | 1565×710×1125 | 1225×555×1050 | 1235×540×1095 | 1320×580×1030 | 1440×580×1150 | 1525×600×1035 | 1060×540×960 | 1085×550×965 | 1375×575×1090 | 1370×550×1090 | 1100×575×980 | 1355×575×1090 | 1055×485×990 | 1465×465×1015 | 1060×475×990 | 1115×585×975 | 1340×655×1080 | 1465×465×1015 | 1385×560×1050 | 1480×570×1025 | 1119×488×925 | 1,075×480×977 | 1140×660×1060 | 1355×575×1090 | 1370×550×1090 | 1340×600×1130 | 1340×600×1130 | 1040×480×965 | 1040×480×965 |
重量(kg) | 21 | 27 | 22 | 42 | 53 | 52 | 87 | 158 | 125 | 20 | 37 | 80 | 139 | 55 | 62 | 77 | 91 | 101 | 20 | 35 | 60 | 54 | 22 | 61 | 20 | 54 | 18 | 27 | 52 | 51 | 71 | 93 | 23.2 | 18 | 37 | 61 | 53 | 86 | 87 | 18.5 | 19 |
最大出力(馬力) | 0.4 | 1.9 | 2.2 | 2.7 | 3.0 | 3.0 | 4.2 | 7.0 | 6.3 | 1.6 | 3.0 | 4.2 | 7.0 | 3.0 | 2.7 | 3.8 | 4.1 | 5.4 | 1.6 | 2.7 | 2.2 | 3.0 | 2.2 | 3.0 | 1.5 | 1.6 | 2.2 | 2.0 | 4.9 | 2.0 | 3.3 | 4.9 | 0.98 | 1.4 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 6.3 | 6.3 | – | 1.7 |
耕運幅(mm) | 400 | 420 | 575 | 650 | 500 | 450 | 550 | 600 | 600 | 480 | 550 | 500 | 600 | 500 | 500 | 500 | 500 | 550 | 480 | 550 | 500 | 500 | 575 | 500 | 350 | 450 | 450 | 545 | 630 | 410 | 460 | 510 | 350 | 430 | 600 | 500 | 500 | 550 | 550 | 360 | 360 |
対応面積目安(坪) | ~30 | ~20 | ~30 | ~30 | ~120 | ~120 | ~270 | ~600 | ~600 | ~30 | ~50 | 60~ | 60~ | ~120 | ~30 | ~120 | ~270 | ~270 | ~50 | ~80 | ~30 | – | – | – | ~30 | ~100 | ~30 | ~100 | ~300 | ~100 | ~100 | ~300 | ~20 | ~30 | ~150 | ~150 | ~150 | ~300 | ~300 | ~30 | – |
希望小売価格(税込) | 109,780円 | 109,780円 | 89,800円 | 106,480円 | 162,030円 | 157,080円 | 186,230円 | 385,000円 | 308,440円 | 82,500円 | 98,780円 | 183,700 | 363,000円 | 167,200円 | 190,300円 | 187,000円 | 242,000円 | 274,320円 | 72,600円 | 100,100円 | 163,900円 | 160,600円 | 91,300円 | 159,500円 | 109,780円 | 209,000円 | 75,900円 | 109,780円 | 149,380円 | 177,980円 | 175,780円 | 250,800円 | 102,960円 | 94,050円 | 161,700円 | 218,900円 | 220,000円 | 295,900円 | 326,700円 | 61,000円 | 91,000円 |
古い耕運機の使い方
古い耕運機と現行機種とでは、機能や操縦装置が異なることがあります。取扱説明書も廃棄されていて、使い方がわからないという場合があるかもしれません。そういった場合におすすめしたいのが、各メーカーのホームページから取扱説明書をダウンロードする方法です。すべてではないのですが、現行機種以外に過去に販売していた機種の取扱説明書をダウンロードできるようになっていることが少なくありません。取扱説明書さえ入手できてしまえば、現行機種との相違点を認識して耕運機の操作ができるはずです。中古の耕運機を購入した際にも、ぜひ試してみたい方法です。
なお、中古の耕運機を購入する方法としておすすめなのが、大手オークションサイトである「ヤフオク!」を利用する方法です。
オークションというと落札するために価格を随時確認しなくてはいけないなど煩わしいイメージがあるかもしれませんが、実は現在の「ヤフオク!」には「定額」で出品されている商品が多くあります。「定額」で出品されている商品は、オークション形式とは異なり、表示されている価格に対し購入ボタンを押すだけで即時取引完了となります。このように煩わしさもなくなっているばかりか、農機商品の取扱い数も急拡大しており、非常に使い勝手のよいサービスに進化しています。
以下にリンクを用意しましたので、ぜひ一度のぞいてみるとよいでしょう。
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耕運機の誕生は、田畑を耕すという大変な重労働から農家を開放しました。そして、高度経済成長期の急速な工業化が、耕運機の普及を促すことにつながりました。その後トラクターの普及も加速するのですが、日本では大規模な農場よりも、トラクターの入れない狭い畑や傾斜地が多く、依然として耕運機は広く利用されています。
近年の耕運機は格段に進化しており、操作性の向上により運転しやすくなっているだけでなく、はねあげヒッチによりワンタッチでアタッチメントの着脱が行えるなど機能性も向上しています。アタッチメントの装着で様々な用途に利用することができ、たとえば草刈り機の代わり、施肥、防除まで1台で何役もこなします。
また、テクノロジーの進化も著しいです。たとえばモーター駆動の電動耕運機は、騒音が少なく静かであるため住宅街にある畑であっても使いやすい一方で、電源コードの届かない場所では使えないということがありました。現在は電池技術の発達などにより、電源コードなしでも十分な連続運転時間が確保できる電動耕運機が販売されています。メンテナンスや修理のしやすさも配慮されるようになってきている状況があることは喜ばしいことです。あなたも便利になった耕運機と長靴を手に取って、畑に出かけてみませんか。