一定以上の農業所得のある個人事業主である農家は、確定申告が必要です。農業ではどのような支出が必要経費としてみとめられるのでしょうか。ここでは実際の経費の具体例や、どの科目に分類するかなどをわかりやすく説明します。
農業の必要経費とは
営利を目的として農業を営んでいる個人事業主の方は、農業に関わる収入から必要経費を差し引いた金額が農業所得(事業所得)となり、この所得金額に税金が課せられます。
必要経費とは事業を営むために必要な支出で、プライベートな支出は含まれません。必要経費の計上には税務上のルールがあるため、支出全額が経費として認められないものもあるので、ルールに則り経費を計上する必要があります。
正しく経費を計上することは節税にもつながります。そのためには領収書やレシート、請求書等を保存し、計上もれがないようにしましょう。
農業経費一覧
経費の区分 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
雇人費 | 従業員(臨時含む)の給与等 | 農業に従事した従業員やアルバイトへの給料(生計を一とする親族の給与は除く) 現物支給・商品券などで払ったものも含む |
小作料・賃借料 | 農地の賃料、農機具等のレンタル料等 | 地主に払う地代、 倉庫、農機具などの賃借料 共同施設費 |
減価償却費 | 10万円以上の農業用建物・車両・機械 の減価償却費(別途計算) | 詳しくは下記減価償却費で説明 |
貸倒金 | 販売価格が回収できなくなった場合の損失分 | 掛け売りした代金が相手の会社の倒産などにより法律上回収不能になった場合の損失額 |
利子割引料 | 農業用に借りたお金の利息 | 農業用土地や建物、農機具などをローンで買った場合の借入金利息 元金、自宅の住宅ローンは対象外 |
租税公課 | 農業資産の固定資産税・自動車税 水利費、JAや農業組合の組合費 | 詳しくは下記租税公課で説明 |
種苗費 | 種子、苗、種芋の購入代金 | 種子、苗、種芋、種もみ、苗木代 |
素畜費 | 子牛、子豚、ひななどの購入代金及び種付料 | 子牛、子豚、ヒナ等の購入費用、種付料 |
肥料費 | 肥料の購入代金 | 肥料、堆肥 |
飼料費 | 畜産牛などに与える飼料代金 | 家畜や家禽、カイコなどの飼育動物に与える飼料の購入費 ペットのエサは対象外 |
農具費 | 10万円未満の農機具の代金 | 一輪車、かご、スコップ、バケツ、ホース、鎌、鍬(くわ)等 1台10万円未満の農業用機械(草刈機、噴霧器、耕運機等) |
農薬衛生費 | 農薬・除草剤等の購入代金、共同防除の負担金 | 農薬、除草剤、共同防除費、 家畜への薬代、獣医代、削蹄料 |
諸材料費 | ビニール、むしろ、縄、針金などの農業用諸材料の代金 | ビニール、縄、むしろ、育苗箱、鉢、シート、わら、 寒冷紗、支柱、針金、テープ等 |
修繕費 | 農舎、ハウス、農機具、軽トラの修理・維持費用 | 農業用機械の修理代、建物、車などの修理費用、 車の車検代(印紙代部分は除く) |
動力光熱費 | 農機具や軽トラの燃料費、農業用に使った電気料、水道料、ガス代 | 農機具などに使ったオイル、軽油、ガソリン代 農業用に使った水道代、倉庫やハウスの電気、灯油、ガス代 (住宅と混在している光熱費などは家事按分する) |
作業用衣料費 | 農作業用の作業服、靴、手袋、カッパ等 | 農作業用衣類(シャツ、ズボン、エプロン、前掛け、帽子、作業着、軍手、手袋等) その他靴、長靴、カッパなど |
農業共済掛金 | 農作物の共済掛金、 価格損失補てん金や補助金及び交付金を受けるための負担金 | 農作物の共済金、火災保険、自動車保険、水稲共済、自動車共済、自賠責保険 |
荷造運賃手数料 | 出荷の梱包費用、運賃、出荷組織(JAなど)に払う手数料 | 出荷手数料、段ボール代、梱包資材、梱包費用、運賃 |
土地改良費 | 土地改良事業の費用や客土費用 | 客土、受益者負担金 |
雑費 | その他上記に当てはまらない農業に使った諸費用 | 上記に当てはまらない費用 通信費、交通費、事務用品費、農業に関する図書代、 資産の除却損等 |
減価償却費
必要経費の中でも、特殊な計算が必要なのは減価償却費です。使用期間が1年以上で1台あたり10万円以上の農業用機械や備品、車、建物などは減価償却資産となり、支出した金額すべてがその年の必要経費とは認められられず、法に決められた年数(耐用年数)で一定期間に費用を配分します。
個人事業主の場合は、基本的に毎年同額ずつ減価償却費を計上する定額法で計算されます。ただし取得した年は、月割で計算する必要があります。また金額や申告方法(白色申告、青色申告)、中古資産取得の場合の特例なども多くあり計算が複雑です。
減価償却の計算は、市販のソフトや市町村などが作成している減価償却計算ソフト(エクセル等)を使って計算すると簡単に行えます。減価償却の耐用年数、計算方法、一括償却資産、少額減価償却資産などの特例、中古資産の取得の耐用年数の計算などは、下記の記事で詳しく説明してますので、こちらも参考にしてください。



家事按分
家事上の費用は、経費として確定申告で申請することはできません。家事上の費用とは、事業(農業)とは関係のないプライベートで使ったお金のことを指します。
しかし自家用車を業務としてもつかっている、自宅の一部を作物や肥料を保管する倉庫として使っている場合などは、1つの請求にプライベートなお金と事業用のお金が混在している場合もあります。これらの費用は家事関連費と呼ばれ、事業用と家事用にあん分して事業用の必要経費として計上するができます。
家事按分には、税務上のルールの沿って必要経費を計上する必要があります。家事按分がある人は、詳しく定義や計算方法などについて説明している記事がありますので、こちらもお読みください。
租税公課
租税公課(ソゼイコウカ)も一般的には聞きなれない言葉ですが、国や地方自治体に支払う税金(租税)、公共団体等に支払う会費(公課)などを計上する勘定科目です。税金などは種類が多く、個人事業主の人はプライベートな税金と混合しやすく、経費にできるのか迷うことの多い科目です。
必要経費として認められるのは下記の費用等があります。すべて農業用に使っているものが対象です。プライベートな支出と混合している場合は、家事按分が必要です。
- 固定資産税、償却資産税
- 自動車税(軽自動車税、自動車重量税、環境性能割)
- 不動産取得税
- 農協組合費
- 部会費
- 水利費
- 消費税納付額(消費税の課税事業者で税込経理方式の場合)
- 商工会議所、共同組合等の組合費又は賦課金
必要経費として認められないもの
- 所得税、住民税、相続税
- 国民年金、国民健康保険料、介護保険料(事業の経費にはなりません、確定申告書の「所得から差し引かれる金額」で控除することができます。
- 税金の延滞金、罰金、加算金、交通違反の罰金など(税金は必要経費になりますが延滞金や罰金などは必要経費として認められません。納期に間に合うよう正しく納税しましょう)
専従者給与
従業員や臨時のアルバイトなどの給与は雇人費で計上しますが、生計を一とする親族は「専従者給与」として別で管理・計上する必要があります。
青色申告の場合は、事前に申請書を提出しておけば、労務の対価として相当であると認められ、申請した金額の範囲内であれば、経費として認められます。白色申告の場合は、配偶者の場合は最大86万円、その他の親族の場合は最大50万円の控除を受けることができます。
専従者給与の対象者や計算方法については、下記で詳しく説明しています
雑費
農業の経費一覧に当てはまらなくとも、事業(農業)の売上のためにかかった費用は必要経費として認められます。
交通費や事務用品、農業の研修や雑誌や本、パソコンなどを使って農産物の管理や給与計算、収支計算などをしている場合はパソコンも必要経費(10万円以上のものは減価償却資産として計算)となります。プライベートでも使っている場合は家事按分が必要なので注意しましょう。
また減価償却資産を廃棄した場合は、未償却分がある場合には固定資産除却損として金額が少額であれば、雑費に計上できます。ただし雑費の金額が大きいと、説明を求められることもありますので領収書やレシート、請求書などはしっかり管理し、事業で使った費用ということが明確にわかるようにしておく必要があります。
まとめ
必要経費は、各項目ごとに区分が分けれれていますがもし間違えても、農業用に使った経費であれば費用として認められないということではありません。しかし正しく区分することで、何にいくら使ったかわかるのでで前年との比較や、来年のコストの予測にもつながります。
事業と関係のない費用を経費として計上することは脱税行為ですので決して行ってはいけませんが、事業に関係する経費はもれなく計上することで節税し、正しく納税しましょう。
この他にも農家webには農家向けの確定申告の記事が多くありますので興味のある方は、お読みください。
国税庁の手引きも参考にしてください