野菜の価格安定制度は主要野菜の市場価格が低落した時に国や県から補てんを受けられる制度です。ここでは野菜価格安定制度とはどのような制度なのか、また類似した収入保険との違いや同時加入はできるのかなどをわかりやすく説明します。
野菜価格安定制度の概要
野菜価格安定制度とは
天候により影響を受けやすい野菜は、需要と供給のバランスが崩れ価格が高くなったり、逆に低くなりすぎることもあり、農家の経営に大きく影響を与えます。
野菜価格安定制度とは、消費量の多い野菜は、消費者がいつでも安定的に安定した価格で野菜を手に入れられるように、生産地域(指定産地)を定め、生産・出荷を計画的に行えるようにし、市場価格が下落したときは農業者の経営を圧迫しないように国や県が補助金を交付する制度です。
野菜価格安定制度の種類
野菜価格安定制度は、5種類に分けられます。種類とざっくりとした概要について説明します。
制度の種類 | 対象作物 | 生産地域 | 補給金負担割合 国:都道府県:生産者 | 収入保険との併用 | 概要 |
---|---|---|---|---|---|
指定野菜価格安定対策事業 | 指定野菜 | 国が承認した指定産地 | 3:1:1 | ✖ | 野菜法で定められた指定野菜(国民消費生活上重要な野菜14品目)の 価格が下落した場合に、補助金を交付する事業 |
特定野菜等供給産地育成価格差補給事業 | 特定野菜 | 県知事が決めた特定産地 | 1:1:1 (一部2:1:1) | ✖ | 特定野菜(指定野菜に準ずる重要な野菜35品目)の価格が下落した場合 に補助金を交付する事業 |
契約野菜安定供給事業 | 指定野菜 特定野菜 | 国が承認した指定産地 県知事が決めた特定産地 | 指定野菜2:1:1 特定野菜1:1:1 | 出荷調整タイプ✖ 数量確保・出荷調整タイプ〇 | 指定野菜・特定野菜の契約取引において、生産する農家のリスクを軽減する事業で、 契約取引によって生じた損害を補填する事業。 |
契約野菜収入確保モデル事業 | 指定野菜 | すべての地域 | 1:0:1 | 出荷調整タイプは✖ | 指定野菜の契約取引において、生産する農家・中間事業者のリスクを 軽減する事業で、契約取引によって生じた損害を補填する事業。 |
指定野菜とは
指定野菜とは国がしている特に消費量が多く、国民生活に重要な野菜で14品目あります。2026年度事業からはブロッコリーが追加されて15品目になる予定です。
特定野菜とは
特定野菜とは指定野菜に準じる重要性をもつ野菜で、下記の35品目があります。ブロッコリーは2026年度事業から指定野菜に格上げされる予定です。
指定野菜価格安定対策事業について
加入条件
指定野菜価格安定対策への加入は、一般的には農協など「共同出荷組織」を通じて加入します。加入の条件は下記のとおりです。
- 指定野菜を栽培していること
- 自分の地域が、農林水産省が決めた指定産地(指定野菜を生産する地域)であること
- 「農協、事業協同組合及びその連合会」又は「対象野菜の作付面積が2ha以上の者」
補てんの対象
対象作物の地域の平均販売価格が、保証基準額(過去6カ年の市場価格の平均)の9割を下回った場合、その差額の最大90%が補給金として交付されます。卸売市場に出荷したものが対象で、ある一定の規格以上である必要があります。
積立金
掛金は積立金で、補てんがなかった場合は翌年に繰り越されるため保険料のように掛け捨てではありません。価格が低下した場合の補給金は、生産者が20%、県が20%、残りの60%は国が負担します。生産者は2割負担で価格の低下に備えることができます。
特定野菜等供給産地育成価格差補給事業について
加入条件
特定野菜価格安定対策への加入は、一般的には農協など「共同出荷組織」を通じて加入します。加入の条件は下記のとおりです。
- 特定野菜を栽培していること
- 自分の地域が、県知事が決めた特定産地(特定野菜を生産する地域)であること
- 「農協、事業協同組合及びその連合会」又は「対象野菜の作付面積が1.5ha以上の者」
補てんの対象
対象作物の地域の平均販売価格が、保証基準額(過去6カ年の市場価格の平均)の8割を下回った場合、その差額の80%が補給金として交付されます。卸売市場に出荷したものが対象で、ある一定の規格以上である必要があります。
積立金
掛金は積立金で、補てんがなかった場合は翌年に繰り越されるため保険料のように掛け捨てではありません。価格が低下した場合の補給金は、重要野菜(アスパラガス・スイートコーン・カボチャ・ブロッコリー)は、生産者が25%、県が25%残りの50%は国が負担、その他の野菜は生産者、県、国が1/3(約33%)づつ負担します。
契約野菜安定供給事業について
指定野菜価格安定対策事業・特定野菜等供給産地育成価格差補給事業は卸売り市場に出荷することが条件ですが、個別に契約して出荷する指定野菜・特定野菜に対する補償制度が、契約野菜安定事業です。
加入条件
- 指定野菜・特定野菜を栽培していること
- 自分の地域が、国や県知事が決めた指定産地・特定産地(指定野菜・特定野菜を生産する地域)であること
- 生産者や出荷団体と実需者(中間業者、加工業者等)との間に書面契約がある取引であること
補てんの種類と対象
契約により3つのタイプにわかれます
数量確保タイプ
定量定価供給契約を締結した生産者が、天候不況などの影響によって契約した数量が出荷できず、かわりに市場へ出荷する予定のものを契約取引に回したり、市場から購入した場合の損害を補償します。
補てんの対象となるのは、市場価格が基準金額(過去6年の平均価格)の130%を上回った場合に下記の部分が補てんされます。
- 市場へ出荷する予定のものを新規契約に回した場合は、市場価格と契約金額の差額の7割を補填
- 市場から購入した場合は、購入価格と市場価格の差額の9割を補填
価格低下タイプ
市場価格が低下したら、販売価格も低下する契約をしている生産者に対し平均取引金額が、基準金額(過去6年の平均価格)の9割を下回った場合に、平均取引金額と基準金額×9割との差額分の9割を負担します。
出荷調整タイプ
定量供給契約を締結した生産者が、余裕をもって作付けを行った結果、豊作等により価格が下落した場合に産地廃棄等の出荷調整をした場合の経費の一部を補てんします。
補てんの対象となるのは、平均取引金額が基準金額(過去6年の平均金額)の70%を下回り、出荷調整をした場合に契約金額か基準金額のいづれか低い方の70%が補てんされます。
積立金
掛金は積立金で、補てんがなかった場合は翌年に繰り越されるため保険料のように掛け捨てではありません。損害があった場合の補給金は、指定野菜の場合は生産者が25%、県が25%残りの50%は国が負担、特定野菜は生産者、県、国が1/3(約33%)づつ負担します。
契約野菜収入確保モデル事業について
契約野菜安定供給事業は指定野菜は、指定生産地域で生産されたものしか補てんの対象になりませんが、契約野菜収入確保モデル事業は指定野菜であれば、どの地域で栽培していても補てんの対象です。
加入条件
- 指定野菜を栽培していること
- 生産者や出荷団体と実需者(中間業者、加工業者等)との間に書面契約がある取引であること
- 数量確保タイプは中間事業者、出荷調整タイプは生産者が対象です。
補てんの種類と対象
契約により2つのタイプにわかれます
数量確保タイプ
定量定価供給契約を締結した中間事業者が、天候不況などの影響によって契約した数量が出荷できず、市場から購入した場合の損害を補償します。
補てんの対象となるのは、市場価格が基準金額(過去6年の平均価格)の130%を上回った場合に、市場等からの購入価額と契約価額との差額の90%を補填
出荷調整タイプ
定量供給契約を締結した生産者が、余裕をもって作付けを行った結果、豊作等により価格が下落した場合に産地廃棄等の出荷調整をした場合の経費の一部を補てんします。
補てんの対象となるのは、平均取引金額が基準金額(過去6年の平均金額)の70%を下回り、出荷調整をした場合に契約金額か基準金額のいづれか低い方の70%が補てんされます。
積立金
掛金は積立金で、補てんがなかった場合は翌年に繰り越されるため保険料のように掛け捨てではありません。損害があった場合の補給金は、生産者・中間事業者が50%、残りの50%は国が負担します。
年2回(1月・7月)に農畜産業振興機構が公募により募集します。
収入保険との違い
市場価格の下落に対応する保険として、収入保険があります。令和6年までは特例として野菜価格安定制度との同時加入が可能でしたが、令和7年の新規申し込みから同時加入はできないため、どちらかを選んで加入します。
野菜価格安定制度のうち、契約野菜安定供給事業の出荷調整タイプ・数量確保タイプ、契約野菜収入確保モデル事業の出荷調整タイプは収入保険と補償内容がかぶらないため、同時加入も可能です。
内容 | 指定野菜価格安定対策事業 特定野菜等供給産地育成価格差補給事業 | 収入保険 |
---|---|---|
加入条件 | 指定野菜を指定産地で生産していること 特定野菜を特定産地で生産していること | 青色申告を行っている農業者 |
対象作物 | 指定野菜・特定野菜 | すべての農作物 |
補償の対象 | 価格の下落 | 自然災害を含む、農業者の経営努力では 避けられない収入減少 |
補てん金 | 平均価格が保証基準金額より下回った場合、 保証金額と平均金額の差額を最大90%補てん (平均価格が最低基準額を下回った部分は補てんなし) | 保険期間の収入が基準収入の9割を下回った場合、 下回った額の最大90%を補てん |
掛金 | 積立金 | 保険金部分は掛け捨て (積立金併用タイプあり) |
収入保険との違いは、収入保険の加入条件は「青色申告を行っている農業者(個人・法人)」のみで、すべての農作物が対象で作物や生産地域などの制限もありません。また、補償の対象は市場価格の低下だけでなく、自然災害を含む、農業者の経営努力では避けられない収入減少と幅広いのが特徴です。
販売価格の下落は地域の平均取引額が元になるため、農業者個人の取引価格が低下した場合は、地域の主要銘柄が下落していない場合には補てんがない場合があります。それに対して収入保険は個人の取引価格の下落にも補てんされます。
その他にも収入保険は掛金が保険料部分は掛け捨てになるが経費として計上できる、野菜価格安定制度は補てん金の支払いが早いが収入保険は保険期間終了後になるなどもあります。
まとめ
指定野菜や特定野菜を生産している農家は、似たような制度が多くあり制度自体も複雑でなんとなくいわれるがまま加入しているという人も多いのではないでしょうか。
令和3年(2021年)から続いていた収入保険との併用の特例は終わり、令和7年(2025年)の新規加入からはどちらかを選ぶ必要があります。リスクや掛金、万が一の補てん金の金額について今一度考えて、万が一に備えて農業経営に影響を及ぼさないように、しっかり備えましょう。
旧制度と収入保険の違いについては、他にも記事があるので興味のある方はこちらも参考にしてください。
収入保険は、各地域の農業共済組合に、野菜価格安定制度はJAや都道府県価格安定法人、農畜産業振興機構で相談できます。シュミレーションをして掛金や補てんがいくらもらえるかなど確認してから加入しましょう。
制度は、さまざまな要因により変更されていきます。
実際に加入する際には、各機構でしっかりと制度を再確認してから加入しましょう。