農業用ドローン(産業用マルチローター)は、機体性能の向上や規制緩和にともなって、実証研究段階から普及段階に移行が始まっています。農林水産省は、2022年度までに水田を中心とした土地利用型農業(米・麦・大豆)の作付面積182.7万ha(ヘクタール)の半分以上に農業用ドローンを普及させる目標も掲げており、その本気度がうかがえます。
農林水産省の目標に呼応するように、作物栽培や営農に農業用ドローンが使われる事例が増えている一方、多くの人にとってはよく分からないという状況が続いているのではないでしょうか。この記事では、農業用ドローンの最新状況を農業者目線で俯瞰して解説します。
農業用ドローンはスマート農業の旗手
スマート農業とは、ロボット、AI、ICT、IoTなどの先端技術を活用する農業のことです。スマート農業を通じて、農作業の省力化、農作物の収量向上や高品質化が続々と実現されてきています。農業用ドローンは、スマート農業のうち、最も期待を寄せられている分野のひとつです。農林水産省は、農業用ドローンの各種情報をまとめた「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」というホームページを開設しています。農業用ドローンを使ってできることに次のようなものがあります。
農薬・肥料・種子の散布
これまで、農薬・肥料・種子の空中散布には主として無人ヘリコプターが利用されてきました。近年では無人ヘリコプターに加え、ドローンが利用されるようになってきています。無人ヘリコプターと比較して、機体が小型で廉価であるため、労働負担の軽減や作業性の向上(山間部における果樹への散布等)、コスト削減効果などが期待されています。
農薬(液剤や粒剤)の散布では、ドリフト低減とともに農作物の葉裏まで農薬(液剤や粒剤)を付着させるため、プロペラから下方へと吹きおろされる気流であるダウンウォッシュの強化、薬剤吐出ノズルの改良などが求められています。肥料の散布では、1回のフライトで積載および投下できる量を増やすため、バッテリーやタンク容量の拡大などが求められています(トラクタのような農業機械で散布するイメージと異なる部分もあり、例えばドローンを自動航行で2機同時に飛ばし施肥することも可能です)。種子の散布では、水稲圃場に直接播種(種まき)できる場合、育苗や苗の運搬にかかる労力を大きく軽減できるため、その散布技術の確立が求められています。
リモートセンシング
カメラを搭載したドローンで圃場を空撮して画像の分析を行うことにより、作物の生育状況、病害虫(病気と害虫)や雑草発生の可視化が可能となります。これらは人工衛星から撮影された画像を活用して行われてきたものですが、ドローンの活用により、より容易に情報を取得することができるようになり、これまで目視(視認)で行ってきた圃場の見回り、生育状況の確認に要する時間を大幅に削減しつつ、適切な防除・追肥・収穫による農産物の品質と収量の向上が期待されます。
高精度カメラやマルチスペクトルカメラによって上空から地上を撮影することで、農作物の葉色をセンシングし、施肥や収穫の適期を判断することができます。また、病害虫(病気と害虫)に対しての防除、雑草に対しての除草対策などを局所的に最小限で行うこともできます。
鳥獣被害対策
赤外線(近赤外線)カメラを搭載したドローンからの空撮による鳥獣の生息実態把握や、ドローンによる撮影をリアルタイムで通信して捕獲現場の見回り等を行うことにより、負担軽減、捕獲作業の効率化等が期待されています。
高性能赤外線(近赤外線)カメラによって上空から地上を撮影することで、シカやイノシシといった野生鳥獣を検知し生息状況を把握します。人力でha単位の大面積農地を見回ることは負担が大きいため、特に高齢化の進む集落や山間地での活用が想定されています。
その他
他にも、果樹の受粉にドローンを活用しようと取り組む事例もあります。花粉を混ぜた溶液を果樹へと散布することで、不和合性が強い果樹品種における人工授粉の作業を代替する取り組みです。
また、収穫した農産物や資材等の運搬にドローンを活用しようと取り組む事例もあります。運搬については積載量が不十分で力不足と考えられてきましたが、30kgの重量物を11分間運搬することが可能なレベルまで達しているようです。バッテリーの改良や、エンジンとモーターを併用したハイブリッドドローンの開発も進んでいます。
免許や資格は必要?
農業用ドローンを操縦および飛行させるために免許や資格は必要ありません。ただし、農薬・肥料・種子などの散布には、事前に国土交通大臣の承認を受けることが必要です。
承認を受けるにあたって、一定の技能・飛行経歴が必要とされています。この技能・飛行経歴の習得に民間団体の講習を活用することができ、受講後に発行される資格や技能証明書によって、飛行申請手続き書類の一部を省略することも可能です。飛行申請手続き書類の一部を省略することが可能な「講習団体」は、国土交通省航空局ホームページに「無人航空機の講習団体及び管理団体一覧」として掲載されています。
かかる費用と活用できる補助金
農業用ドローンにかかる費用として、ドローン機体の購入費用、ドローンスクール受講料、メンテナンス費用(点検整備費用)、保険料などがあります。金額は目的や用途によって大きく異なるので一概に言えない部分もありますが、目安は総額50~300万円程度です。
農業用ドローンの導入に活用できる補助金としては、「産地生産基盤パワーアップ事業」、「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」、「ものづくり・商業・サービス革新補助金」、「人材開発支援助成金」、「経営継続補助金」などがあります。
人気メーカーのドローンをチェック!
日本国内のドローンメーカーは増加傾向にあり、さまざまな製品が販売されています。その中でも、農業の現場でよく名前が挙がるのが、DJI、クボタ、ヤンマー、ヤマハ発動機、オプティム(optim)、ナイルワークス(Nileworks)、マゼックス(mazex)などの製品です。
一口に農業用ドローンといっても、その特長は製品ごとにさまざまです。例えば、プロペラの枚数が違っていたり、安定したホバリングが実現されていたり、強いダウンウォッシュにより薬剤(液剤や粒剤)の均一散布とドリフト低減を実現しているモデルなどもあります。
まとめ
農業用ドローンの進歩は目覚ましいものがあり、RTK(Real-Time Kinematic)方式によるセンチメートル単位の測位測量、それに基づく自動航行、そして高性能レーダーが障害物を自動検知し衝突を回避、さらに自動で離陸着陸まで完了するといった未来的な技術が実用に至っています。その一方で、農林水産省の目標値に比して、ドローンの操縦者すなわちオペレーターが足りていない現状があります。あなたもドローンの操作操縦を身につけ、地域を支えるドローンオペレーター(drone operator)を目指してみませんか。