グリホサート系除草剤の安全性については、発がん性やその他のリスクに関する議論が続いていますが、多くの国の機関では人体への危険性は低いと結論づけられています。最近の動向を踏まえ説明します。
グリホサートがなぜ危険といわれるのか
植物だけに効果があり、人間や生態系に影響を及ぼさないといわれていたグリホサートですが、近年、安全性、薬害について世界中でさまざまな議論がされています。
主には、グリホサートが恐らく発がん性物質であり、ヒトの健康を害するものであるという主張、また内分泌かく乱物質であるという主張、またヒトの母乳や尿中に蓄積して、腎臓などに障害を及ぼすと言う主張、更にはグリホサートを主成分とする除草剤に含まれる界面活性剤に予期しない毒性があるという主張です。
グリホサートの発がん性物質という主張について
ことの発端は、2015 年、IARC (国際がん研究機関)はグリホサートを検証する委員会を開催し、既発表の論文を部分的に検証したIARC(国際がん研究機関)は、グリホサートを「クラス 2A」すなわち「ヒトに対して恐らく発がん性がある」に分類したことです。(IARC, 2015)ちなみにクラス2Aには、83因子あり他には、赤肉、夜間勤務、65度を超える熱い飲料などがあります。
これに加え、学校の校庭整備の業務で使用したラウンドアップ(主成分グリホサート)が要因で、悪性リンパ腫を発症した、と主張した末期がん患者との裁判で、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市の陪審は2018年8月10日、ラウンドアップ 販売会社のモンサントに、損害賠償金2億8,900万ドル(約320億円)の支払いを命じました。
しかしながら、本件は、モンサントを買収したバイエルが、ラウンドアップ の責任、不正行為は認めることはないまま、和解を成立させています。
現在では、アメリカ合衆国、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、欧州連合(EU)では、それぞれ「ヒトの発がんリスクの可能性は低い」「ヒトにおけるグリホサートばく露及び発がんとの関連に確証的なエビデンスはない」「グリホサートはヒトに発がんリスクをもたらさない」と結論づけていますし、米環境保護庁(EPA)は、除草剤に用いられているグリホサートに「発がんのおそれがある」と表示することを禁止するガイダンスを発布しています。
また、日本でラウンドアップ を販売している日産化学工業も、グリホサートに発がん性は無いと判断している声明を発表し、内閣府食品安全委員会も、2016年5月にグリホサートは、神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかったと判断しています。
その他のリスクについて
他のリスクの主張についても、米環境保護庁(EPA)は、グリホサートは内分泌かく乱物質ではない、また、検知可能な量のグリホサートが残留していても健康上の懸念とならないこと、母乳には蓄積しないこと、ヒトの腎臓などに障害を及ぼさないことを述べています。
また、グリホサート 系除草剤に含まれている界面活性剤については、グリホサートを含む除草剤及びこれに含まれる界面活性剤について、生態毒性のリスク評価を実施し、水生生息地以外の野生生物に重大なリスクとならないとの結論を出しています。(モンサント 2016年7月)
さらに、ラウンドアップのHPで、土に落ちたラウンドアップの成分は、処理後1時間以内のごく短時間で、土中の土の粒子に吸着し、その後微生物により自然物に分解され、約3~21日で半減、やがて消失すると記載されています。
ADIとは
皆さんはADIという言葉をご存じでしょうか。ADIとは一生涯毎日摂取し続けても危害を及ぼさないとみなすことができる体重1キロ当たりの量」を数値化したものです。日本では「1日摂取許容量」と呼ばれています。グリホサートの一日摂取許容量(ADI)は、「体重1kgあたり1mg/日」と決められています。
最近尿や髪の毛などの人体から、また輸入小麦にグリホサートが検出された記事などを見かけて、健康被害について不安に思う方もいるのではないでしょうか。
農薬は、農作物に散布された後、すぐに消失するわけではありません。収穫された食物から直接口にすることもありますし、家畜のエサから吸収され食肉やミルクから私たちの口に入ることもあります。「残留農薬」とよばれるものです。一度に口にする量は少量でも、毎日体内に蓄積すれば毒性を持つ可能性もあります。
ADIは、ラットや犬などで動物実験をして行われ、2世代で仔にも影響がないか確認し、影響のない量(無毒性量)を決めています。その数値は農薬ごと・食品ごとに決められており基準値を超える食品は流通が禁止されています。人や小麦から検出された数値は少量で、健康に影響はないとされています。
ペットなどへの影響
上記などの議論が続いている危険性の他に、直接的に犬や猫が舐めても大丈夫かという不安もあるかと思います。除草剤は毒物をまいて、植物を枯らしているのではありません。ほとんどの除草剤は植物特有の代謝・生長システムをターゲットポイントにして攻撃して、雑草を枯らします。グリホサートも、アミノ酸の合成を阻害することで枯らしています。
口や肌についても過剰に心配する必要はありませんが、散布当日は囲いなどをして犬や猫がはいらないようにすること。また、近所のにも一言声をかけておくとよいかと思います。
ペットなどに対しての安全性については、グリホサート系のラウンドアップの記事がありますのでそちらも参考にしてください。
まとめ
ラウンドアップをはじめとするグリホサート系除草剤については、安全性について様々な角度から議論がなされていて、安全性の結論は発表しているものの、未だ議論が終結はしていません。
しかしながら、除草剤グリホサートが世界にもたらした便益、土壌流出を防いだり、スギナ、ドクダミ、竹などの厄介で頑固な雑草を枯らし、防除の一翼を担って大規模農業経営を可能にしたことは、今も全世界に大きな価値を生み出し続けています。