サッカー場などの競技場から公園、ご家庭の庭まで、芝生はさまざまなところに植えられています。芝生の緑色は、心安らぐ空間を与えてくれます。
公園や商業施設、校庭などで「芝生養生中」という看板とともにロープで芝生が囲われている光景を見かけたことはありませんか?芝張りや種まき、エアレーションなどの作業のあとは「養生期間」として芝生に立ち入らないようにすることが一般的です。
この記事では、養生が必要な理由とやり方、養生期間の目安について解説します。
芝生の養生とは?養生が必要な理由とタイミング
芝生の養生とは、芝生を踏みつけたりすることがないように立入りを規制することを指します。芝生を養生する理由は、外部からの衝撃を避けて芝の根や生長を促すためです。また、オーバーシーディングなど種まきをしたときにも、芝がしっかりと発芽して根付くように養生します。
芝生の養生は、主に下記のタイミングで行います。
- 芝張り、芝の張り替え後
- エアレーション後
- 種まき後
- 浸水などの被害に遭い、芝が弱っているとき
特に芝張り直後で根がまだあまり張っていないときや、芝生がボロボロになってきているときなどは養生する必要性が高いです。芝生が弱っているときに人やモノによる踏圧や擦り切れが発生すると、根付いたり、生育の勢いが戻らず枯れてしまうこともあります。
それぞれのタイミングで、立ち入りを規制するのはもちろんですが、養生のやり方や期間が異なる場合もあります。以下に、各タイミングにおける養生のやり方と期間の目安を紹介します。
競技場など、人がよく走ったり歩くところは擦り切れが激しくなります。一度、激しく擦り切れると回復するまでに時間を要します。競技が行われていない間、芝生が開放されずに養生されているのはこのためです。
芝生の養生のやり方と期間の目安
芝生の養生のやり方や期間に関する主なポイントは、以下のとおりです。
- 芝生を養生する季節は基本的に春と秋です。作業の実施時期とも関係がありますが、芝生が根を張り始めて生長を促すタイミングで養生することが多いです。
- 実施タイミングで、養生の考え方や期間が異なります。
- 芝生の生長が悪かったり、状況をみて部分的に立ち入りを規制することも重要です。
芝張り、芝の張り替え後
芝生を導入するときには、芝苗(切り芝)を土壌(床土)に乗せて植え付けます。芝苗が綺麗であれば芝張りした直後でも見た目が綺麗なので、芝の上に人などが乗っても大丈夫なように思えます。しかし、芝張り直後の芝は、まだ土壌に根を張っていないので本来弱々しい状態なのです。
そのような状態のときに人などによる踏圧を受けると芝にとってはダメージとなります。また、まだ切り芝が根を張っていない状態なので、人が走ったり移動することで切り芝自体がずれたり剥がれたりするリスクがあります。
大事なことは芝が土壌にしっかりと根を張って生長するようにすることです。少し時間はかかりますが、芝張り後は1ヶ月程度を養生期間として、可能な限り中に立ち入らないようにしましょう。
また、芝の張り替えのあとも同様です。張り替えをした部分を養生して立ち入らないようにしましょう。
エアレーション後
芝生のエアレーションとは、ローンスパイクやローンパンチ、ガーデンスパイクなどの芝生に穴を開ける専用の道具で地面に穴を開ける作業を指します。
エアレーションは、水やりや施肥(肥料やり)、芝刈り、サッチング(サッチ取り)と同様に重要な作業です。穴を開けると聞くと、芝生や芝生の根が傷むと思われるかもしれませんが、逆に芝生の根を張らせて長く芝生を栽培するための重要な更新作業なのです。
芝生が育つに連れて、次第に土壌が固まり、根の発育にとって悪い土壌状態となります。そのような土壌に対してエアレーション(穴あけ)をすると、密生した根茎をほぐし発根を促すとともに、通気性や透水性(通水性)などを良くなり、芝生を若返らせることができます。根から養分もきちんと吸収してくれるようになります。
目に見える効果などは正直あまりないので「本当に必要か?」と思われるかもしれませんが、長期間芝生を綺麗に保ちたい場合には、定期的に実施するほうが良いです。ただし、サッチング(サッチ取り)などと同様に労力がかかりますので、やり方や実施時期などをしっかりと覚えて無駄がないようにしましょう。
芝生は一度植えてしまうとそのあとに耕すことはできません。通常、畑などで栽培する作物は毎作、土壌を耕起し、有機物などの資材を混ぜ合わせます。その際に、空気が混ざり、土壌微生物が活性化したり、土壌を団粒構造にして通気性や保水性のバランスが取れるようになります。
しかし、芝生はそれが不可能なので、植えた後は土が締まっていく一方となります。特に芝生は人に踏まれることで踏圧がかかり、踏み固められやすいです。
踏圧がかかると、通気性や透水性(通水性)が下がり、根の発育の状態も悪くなります。最終的に芝の生長が徐々に悪くなるでしょう。
更新作業としてこのエアレーションを実施しますが、芝生に穴を開け、根切りし、目土を入れるわけですから、芝にとってはかなりのダメージを受けた状態となります。エアレーション後、数週間〜1ヶ月程度を養生期間として可能な限り中に立ち入らないようにしましょう。
種まき後
種まき後にも養生が必要です。種まきのタイミングとして、主に年2回あります。
- 西洋芝の種まき
- ウインターオーバーシーディング
西洋芝は、日本芝(高麗芝など)とは異なり、床土に種を蒔き、発芽させることで芝生を栽培する方法が一般的です。西洋芝の種まきは4月頃〜5月頃、9月頃〜10月頃(関東以南一般地の場合)に行います。種まき後、1〜2週間程度で発芽し、20日程度経つと生長が揃い始めます。そのため、種まき後1ヶ月程度は養生期間とすると良いでしょう。
また、オーバーシーディング中の養生も有効です。一年中、緑の芝生を維持するために秋に日本芝(高麗芝など)の上から西洋芝の種を撒くことがあります。これはオーバーシーディングと呼ばれますが、その種まき後にも養生をすると良いでしょう。
種まき後の養生には、養生シートや不織布を使うことをおすすめします。種や目土が飛んでしまったり、鳥に食べられたりすることを防ぎます。また、保温や保湿の効果もあるので芝草の発芽や生長を促します。
ちなみに芝生にはモグラが現れることもあります。モグラは結構厄介な害獣で、芝草の生育にも大きな影響を与えます。畑にも出てくるので本当に困ります。
浸水などの被害に遭い、芝生が弱っているとき
浸水などの被害に遭い、芝生が弱っているときにも養生します。土壌の透水性や水はけの悪さ、災害などによって芝生が浸水する場合があります。芝にとって、過湿状態は枯れる原因の一つとなります。
そのようなときは、一時的に回復を早めるため養生し、立ち入らないようにします。回復が見られないようであれば、土壌の改善、芝の張り替えが必要となることもあります。
どのタイミングでもそうですが、養生を始めるとなかなか中に入りづらくなるので予め雑草などの草取りをしておくと良いです。
雑草は、放っておくとどんどん伸びて繁殖します。
芝生の養生に使える資材
芝生の養生に使える資材をいくつか紹介します。
芝生養生用のフィルム・シート
芝生養生用に作られたフィルム・シートもあります。芝生の種まき後に使用すると効果があります。
芝生養生用のフィルム・シートは、通気性と透過性を備えていることが一般的で、フィルム下の土壌に空気や水、太陽光を行き渡らせることができます。また、保温、保湿の効果もあり、寒さによる霜障害や乾燥を防ぐことができます。
フィルム・シートは、目土や種の飛散防止にも役立ちます。保温の効果も相まって、発芽がしやすくなる状態を作ることができるでしょう。鳥などの食害防止にもなります。
農業用不織布
農業用の不織布も芝生養生用のフィルム・シートと同様の効果が期待できます。
養生用シートや不織布を使う場合は、飛ばないようにシート押さえ用の黒丸ピンを使いましょう。
天然芝養生材
少し例外的な資材を紹介します。よく競技場などの芝生をコンサートやイベントの会場にしていることがあります。もちろん、多くの人が芝生の上を歩くとそれだけで大きなダメージとなります。
そのようなダメージを軽減するため、天然芝養生材を使用する場合があります。天然芝養生材は、芝生の上から敷くことで芝草の保護ができます。また、芝生の保護能力を上げるための養生緩衝材(コアマットなど)を併用することで、空気や太陽光を通しやすくなり、可能な限り芝草の生長を妨げないようにすることができます。
製品としては、以下のようなものがあります。
不必要に養生することはない
芝生の養生は不必要にすることはありません。公園や校庭、庭などの芝生は本来、人が安心して走ったり座ったりする場所を提供するものだと思います。ずっと養生している状態では、芝生本来の目的からかけ離れたものになってしまいそうです(観賞用の芝生であれば別ですが…)。
芝草の生育を気にするあまり、養生することに気を取られていては元も子もありませんので、芝生の状態を見ながら必要なタイミング、期間で養生をしましょう。