ナスは、肥料を贅沢吸収(いわゆる肥料食い)すると言われますが、肥料を与えれば与えるほど生長が良くなるというわけではありません。逆に、少なすぎると花や果実が着かないだけではなく、植物体自体が枯れてしまいます。
この記事では、ナス栽培における肥料過多・肥料不足について、見分け方、考えられる原因と対処方法を解説します。
肥料過多と肥料不足のときに見るポイント
生長がうまくいっていない状況のときは、植物の状態をよく見ましょう。ナスの場合は、下記のポイントを確認することで植物の生長が順調かどうかを確認することができます。
- 葉の色(葉色)
- 葉の厚さ
- 葉の大きさ
- 花の形(短花柱花・中花柱花・長花柱花)
- 花の色
- 花付き・実付き
「なんかおかしいな」と感じたら、まずは上記のポイントを確認してください。そのうえで、肥料過多なのか、肥料不足なのかを見分けましょう。
ナスの肥料過多 見分け方
下記のポイントを参考に肥料過多かどうかを判断しましょう。
下記のポイントの複数に当てはまる場合は肥料過多の可能性が高いですが、必ずしもそうであるとは断言できません。これまでの肥料のやり方(頻度や量)を振り返りながら、総合的に判断しましょう。









肥料過多のときには病気や害虫の被害にも遭いやすくなるので注意が必要です。
葉の色が濃くなる
肥料の中でも、特に窒素成分が多いと起きやすい症状です。
ナスは、品種によって葉色が微妙に異なります。そのため、葉色が濃い・薄いと一概に判断しづらいということがあります。
そのようなときには、ネット上で品種の画像検索をしたり、メーカーのページを見てみると良いでしょう。一番良いのは、しっかりと生長しているときのナスの姿を覚えておく、記録に残しておくことです。
肥料過多の場合は、葉色が標準よりも濃くなるので、そのような兆候が見られた場合は肥料過多が疑われます。特に生長点以外の葉色が濃くなってくると、植物体内に窒素が蓄積されてきているかもしれません。
葉が変色する(肥料やけ)
葉が薄くなったり、黄色く変色してくると「肥料が不足しているのかな」と思いがちですが、肥料が多すぎるという場合もあります。
肥料のやりすぎによって、土壌中の肥料濃度が高くなり、根が痛むことがあります。根が痛むと、葉先が褐変(茶色や黄色くなる)します。よく「肥料やけ」と言われる現象は、このことを指します。
また、葉が変色する理由としては、特定の栄養分が多すぎるときにもなります。肥料分はバランスが取れていることで、正常に吸収されます。そのため、特定の栄養分が多すぎてバランスを崩すと、他の栄養分に関する欠乏症を引き起こしたりします。
代表的なものとしては、下記のようなサインが出ます。
花の形や色がおかしい
肥料過多の状態では、花の形や色がおかしくなることがあります。
例えば、花の色が通常よりも濃い紫色になったり、花の中心にある柱頭(雌しべ)が長すぎたり、花の形が変形したりします。
花の形が異形となることで蕾が横などに広がり、着果した果実も異形になります。このような現象を一般的に帯化と呼ぶ場合もあります(帯化したナスの果実を「帯化ナス」と呼んだりします)。帯化は遺伝子的な要因や細菌の感染や昆虫、ダニなどによる傷害などが大きな原因と言われています。
しかし、窒素過剰などによって、花の形や茎の形が悪くなることで、実の形が悪くなることは知っておきましょう。
葉が内側に巻く
葉が内側に巻くのは、肥料過多の一つのサインです。特に生長点に近い新葉や新芽が巻く場合は、肥料過多の可能性があります。
ナスだけではなく、トマトなどの果菜類についても同様のことが言えます。









もちろん、葉が巻くのは他の理由もあります。微量要素が欠乏し、葉が巻く場合もあります。
葉が大きい
窒素が過剰になってくると、葉の色が濃くなるとともに葉の大きさも大きくなったりします。葉が生い茂るような状態(過繁茂)になってくると、窒素過剰を疑ったほうが良いかもしれません。
ナスやキュウリの葉は、トマトなどと比較して大きいですが、通常よりも大きく見えるようになってくると注意が必要です。
花付き、実付きが悪い
植物がよく生長し茎葉などはしっかりしているけど、花や実の付き方が悪いという状態に陥る場合があります。花落ちや着果不良などが多い場合には、肥料過多(主に窒素分)である可能性があります。
しかし、肥料不足の場合も落下や着果不良となることがあるので、注意が必要です。
どの症状もそうですが、一つの要因だけで特定するのではなく、複数の要因を総合的に考えて対処する必要があります。
芽かきや摘芯を適期に行っていないと実つきがわるくなることもあります。
ナスの肥料不足 見分け方
下記のポイントを参考に肥料不足かどうかを判断しましょう。下記のポイントの複数に当てはまる場合は肥料不足の可能性が高いですが、必ずしもそうであるとは断言できません。これまでの肥料のやり方(頻度や量)を振り返りながら、総合的に判断しましょう。
特に収穫最盛期には、肥料不足となりやすいので注意が必要です。
雌しべ(柱頭)の長さが短い
肥料不足の初期症状が顕著に現れるのは花です。特に、花の形はしっかりと観察しておくことをおすすめします。
花の形の観察するポイントを解説します。先述したとおり、状態の良いナスの花は「長花柱花」となっていることが多いです。長花柱花は、柱頭(雌しべ)が葯(雄しべ)よりも長く出ており、正常に受粉(授粉)がしやすい構造となっています。


逆に、肥料が不足してくると柱頭(雌しべ)が短くなり、葯(雄しべ)に隠れてしまいます。このような花は「短花柱花」と呼び、受粉不良となりやすく、着果せずに落ちてしまうことが多くなります。ちなみに、短花柱花と長花柱花の中間を「中花柱花」と呼びます。


花の色が淡い
花の色が淡く(薄く)なってくるときは、肥料不足の一つのサインとなります。花の形と同時に色も注目してみましょう。
花の大きさが小さい
株が疲れてくると、花の形が小さくなってきます。そのようなときには、肥料が不足してきていると考えられるため、追肥の量を増やしてやる必要が出てきます。
特に、着果負担が大きい(実がたくさん着いている状況)では、新しい花が小さくしか咲かなかったり、落花することも多くなるのでよく観察しましょう。
花付きが悪い
肥料不足の状態になると、花落ち(落花)が多くなります。花落ちとは、花が咲いてもすぐに散ってしまうような状況を指します。栽培の終盤では株が疲れてしまい、どうしてもそのような状況になってしまいますが、収穫盛期にそのような状況になってしまっては困ります。
もし、花付きが悪い状況が続くようであれば、速効性の液体肥料での追肥や追肥の量を増やすなどの対処を検討してください。
葉の色が薄い
葉の色も植物の状態を示す重要なバロメーターです。肥料が不足してくると葉の色が薄くなってきます。
どの位置の葉の色が薄くなるかによって、不足していると考えられる栄養素が異なります。
- 下位葉(下の方の葉)から順番に色が薄くなったり、黄化する場合→窒素欠乏
- 下位葉から順番に黄化し、生長が止まる場合→リン酸欠乏
- 葉脈が緑色、その周りの葉脈間が黄化する場合→マグネシウム欠乏
- 新葉(新芽)が葉脈も含めてすべて黄化する場合→鉄欠乏
- 上位葉(上の方の葉)の色がやや薄くなる→マンガン欠乏
露地栽培や施設栽培(土耕)など土壌を使った栽培においては、化成肥料など複合肥料や有機肥料を組み合わせて施肥をされている場合、微量要素欠乏になる可能性は低いです。
プランター栽培など、限られた培地での栽培においては、微量要素欠乏に比較的なりやすいので生長に異常が起きているときには原因の一つとして考慮してください。
枝が細く短くなってきている
肥料が不足してくると生長が悪くなることで、単純に枝が細くなったり短くなったりしてきます。









生育診断(葉の大きさや茎の太さを測ったり、開花した花、果実の数を数える診断方法)は、プロ農家でも行われます。
大事なのは、そのデータがどのように推移しているかということです。枝の太さなども何mmだから良いということではなく、どういう変化になっているかを捉えることが重要です。
ナスの肥料過多の考えられる原因と対処方法
考えられる原因
考えられる原因は、「肥料のやりすぎによって、土の中に肥料分が多く残ってしまっている」です。土壌中の栄養分が多い状態と考えられるため、対処していく必要があります。









養分間には養分の吸収をお互いに促進する相乗作用と、逆に互いに吸収を抑えあう拮抗作用があります!家庭菜園などで、連作年数も少なく肥料も複合肥料のみを与えている場合には、相乗作用によって肥料過多になっているとは考えにくいので、まずは土壌中の肥料分を薄くするか、植物へ吸わせないようにすると良いでしょう。
対処方法
肥料過多への対処方法は、主に下記2つです。
相反する2つの行動ですが、それぞれ理由があります。
土壌中の肥料濃度を薄くする
土壌中の肥料濃度が高いと推測される場合は、潅水(水やり)を多くやることによって肥料成分の流亡を促します。
いつもよりも多くの量の潅水(水やり)を実施することで、肥料分が水に溶けてそのまま地下(もしくは容器外)へ流れ出します。









環境のことを考えるとあまり良い方法とは言えません。何よりもまず、肥料をやりすぎないという意識が必要です。
土壌中の肥料分を吸わせないようにする
逆に、潅水(水やり)を少なくすることによって、植物の肥料成分の吸収を抑えるというやり方もあります。潅水(水やり)を少なくすることで、肥料の溶出を抑え、植物の養分の吸い上げも抑えるというやり方です。
ただ、ナスの場合は乾燥に弱く、水やりを控えたことで水不足となり、他の生理障害(つやなし果・ボケナス)になりやすくなるため注意する必要があります。
他にも肥料分を吸収させづらくする方法として、食酢の葉面散布などの方法があります。酢を500倍〜1000倍に薄め葉面散布することで、酢の成分を葉から吸収し窒素の吸収を抑えると言われています。
ナスの肥料不足の考えられる原因と対処方法
考えられる原因
まず、追肥を定期的な頻度で行っているか確認してください。ナスは、栽培期間も長く果実をたくさん着けるため追肥に重点を置く必要があります。下記の記事に追肥のやり方や目安となる施用量を記載していますので、参考にしてください。
また、追肥を定期的にしっかり行っているという場合には、土壌中のバランスが崩れていることも考えられます。バランスは「土壌酸度(pH)」と「栄養分の含有バランス」がありますが、まず気にしなければならないのは、土壌酸度でしょう。土壌酸度計を使って、ナスの適正土壌酸度(6.0〜6.5)になっているかを確認しましょう。
仮に土壌酸度が酸性に傾いている場合には、苦土石灰などの石灰質肥料(カルシウム肥料)を施して土壌酸度を矯正します。基本的には、苗を植える前の土作りの段階で矯正します。苗を植える2週間〜3週間前くらいには苦土石灰などを散布し、耕します。そうすることで、カルシウムが土壌に馴染みます。









土壌中には十分な養分が含まれているが、拮抗作用により作物が吸収できない事例が多く、土壌中の養分バランスを適切に保つような施肥が必要です!何事もバランスです!
対処方法
基本的な対処方法は、肥料の量や頻度を多くすることです。
重度の生理障害(欠乏症)が起きていない場合は、速効性の液体肥料をいつもの追肥の他に施したり、追肥の量や頻度を増やすことで、1週間後には効果が現れてくると思います。
葉が黄化しているなど、重度の欠乏症が見られる場合には、欠乏していると思われる養分が含まれた液体肥料を葉面散布するのが最も効果的です。









葉面散布できる液体肥料かどうか確認をしてから実施しましょう。
- 葉面散布に最も良い時間帯は早朝です。湿度が高く、葉の細胞が水で満たされた完全な膨圧状態にあるときが最適です。涼しくなった夕方でも良いでしょう。
- 日中の暑い時間帯は散布を避けましょう。温度が高い時の吸収率は非常に低く、ストレスにさらされ薬害の原因となります。
- よく晴れた日の日中帯も避けましょう。散布した溶液が高濃度となり、葉焼けなどの原因となります。
- 土壌水分が十分であるときに葉面散布をすることが効果的です。可能であれば、散布する前日に水を撒くこともおすすめです。
- 雨や水撒きの直前、風が強い日に葉面散布をするのは避けましょう。
- 養分吸収は、葉の表面よりも裏面のほうが盛んに行われますので、裏面を重点的に散布してください。
- 二重散布や農薬との混合などは基本的にやめましょう。農薬との混合は専門的な知識が必要です。
ナスの養分吸収特性と施肥のポイント
ナスの養分吸収量は、以下の通りとなっており、窒素・リン酸・カリウムが万遍なく吸収されることがわかります。また、カルシウムとマグネシウムの吸収量もそれなりにあり、欠乏症を起こさないように土作り・追肥が必要なことがわかります。
成分吸収量(kg/a) | 窒素 | リン酸 | カリウム(加里) | カルシウム | マグネシウム |
---|---|---|---|---|---|
ナス | 1.81 | 0.42 | 2.79 | 1.01 | 0.12 |
出典:農林水産省 都道府県施肥基準等 5.野菜の養分吸収量(PDF)
ナスは吸肥力が強く、肥料が不足してくると収穫量(収量)が著しく下がります。逆に窒素過剰の場合、過繁茂(葉が茂りすぎる)の状態となり病害虫の被害や生長への影響が大きくなるので、追肥は一度に多くやるのではなく、細かな頻度で少量ずつ与えるほうが良いです(農林水産省 都道府県施肥基準等 4. 作物の栄養整理と養分吸収(PDF))。
また、実をたくさん着け始める収穫盛期から苦土欠乏(マグネシウム欠乏)が生じやすくなるため、カリウムの多施用に気をつけましょう(カリウムがマグネシウム欠乏を助長します)。
本来、施肥量は前作の状況(植物がどのように育ったか、どのくらいの肥料を散布したか)や土壌の性質を考えて計算する必要があります。「その土地で育てたことがない」、「ナスは初めて」という場合には、まずは基本にならって、一般的な栽培方法の施肥量をベースに考えると良いでしょう。
プランターやポットなどは用土を使って栽培しますが、適切な養分が常に供給されていないと正常に育ちません。培養土に元肥が含まれている場合は、そのまま定植(植え付け)して、実をつけ始めたころから追肥を開始しましょう。培養土に元肥が含まれていない場合は、別途元肥を施す必要があります。
ナス栽培における施肥の考え方で大事なポイントをまとめました。
- 長期にわたって栽培するので、連続的な肥効が必要。
- 元肥だけではなく追肥にも重点をおく。追肥は栽培期間中、一定間隔で連続的に施す必要がある。もしくは効果が長続きするもの(緩効性肥料など)を適した時期に使う。
- 栄養生長過多(窒素過剰などにより、植物体自身の成長が促進される)状態では、花や実を付けづらい状況になりやすい(着果不良、結実しない)。
- 窒素過剰のときは、過繁茂(葉が茂りすぎ)になったり葉が大きくなったり、葉の色が濃くなる。茎葉に異変を感じたら、施肥量を減らす。
- 花の異常で窒素の過不足を観察することができる。短花柱花になっている場合は肥料不足、花の色が濃すぎる場合は肥料過剰である(→理想的な花の形「長花柱花」)。
- ナスは栄養素過剰、欠乏がわかりやすい植物であり、追肥でコントロール可能である。
- 肥料過剰のときは、土壌水分を少なくすることで肥料の吸収を抑えることができるが、水分不足による生理障害(石ナス・ボケナス(つやなし果))が起きやすくなるので注意する。
- 収穫盛期から苦土欠乏が生じやすくなるので、カリウムの多施用は控える。
- リン酸の多施用は、果実の品質低下を招くので控える。
ちなみにナスだけではないですが、地温(土壌中の温度)によってもこれらの養分の吸収効率が変わるので、季節によっての違いもあります。それはまた別の機会に・・・
ナスにおすすめの農薬
葉が黄色くなったり、葉や花の形がおかしいのは、病害虫のせいかもしれません。肥料を適切に上げているのに生育がおかしいなと盛ったら、病害虫も疑ってください。ナス(茄子)に発生しやすい病害虫と、それを防除するためのおすすめ農薬、そしてナス栽培に使える除草剤については、詳しい記事があるのでこちらも参考にしてください。
ナスにおすすめの肥料
ナスは、いろいろな栽培方法で育てることができます。栽培方法によって、適している肥料の材質やタイプが異なってきます。下記の記事で、各栽培方法でおすすめの肥料とそのやり方を紹介します。