苺は、実が甘くて美味しいことから人気の果物です。そのままフルーツとして食べられるだけではなく、ストロベリーパフェや苺大福などスイーツに加工されることも多く、栽培しているプロ農家も多いです。昨今では観光農園なども人気で、観光農園をきっかけにイチゴ栽培を始める方も多いのではないかと思います。栽培方法や肥料のやり方をしっかりと理解していれば、ベランダや庭で初心者でも美味しい苺を収穫することができます。
イチゴ栽培において、わき芽かきやランナーの処理、病害虫管理などとともに重要となってくるのは施肥(元肥・追肥)です。わき芽かきや施肥がしっかりと管理され適切に行われると、病害虫にも強くなり、綺麗な花が咲いて美味しいイチゴを収穫することができます。イチゴ栽培における病害虫の管理や手入れ方法と合わせて、肥料のやり方も理解しておきましょう。
この記事ではイチゴ栽培に向いている肥料の種類や肥料のやり方、品種別、栽培方法別の肥料の違いなどをわかりやすく説明します。
イチゴに適した肥料とは
作物・植物の栽培における肥料の種類は、大きく以下のとおりに分けることができます。
この記事ではイチゴ栽培向けの肥料の中で、液体肥料、固形肥料に注目して解説します。イチゴには、とちおとめ、あまおう、紅ほっぺなどいろいろな品種がありますが、基本的な肥料・施肥の考え方は同じです。ただし、品種によっては過剰な養分(特に窒素分)を嫌ったりするものもありますので、育て方などを参考にしてください。
目安としてイチゴの養分吸収量をまとめました。イチゴは他の作物に比べて根やけ(肥料の成分によって根が傷む)が起こりやすく、過剰な施肥に弱いです。肥料を施す量には十分に注意しましょう。
出典:農林水産省 都道府県施肥基準等 5.野菜の養分吸収量(PDF)
イチゴ栽培における施肥のポイントをまとめました。
イチゴ栽培向けの固形肥料
固形肥料とは、粉状、粒状、錠剤など固形の状態となった肥料のことです。固形肥料は、その形状や原料の性質、肥効(肥料の効き方)の種類によって、呼び名が変わることがあります。
イチゴ栽培向けの固形肥料は、その性質や含まれている成分によって、元肥に適しているか追肥に適しているかが変わってきます。基本的な考え方は以下のとおりです。肥料を選ぶときの一つの目安にしてください。肥料のラベルなどに適した使用方法が記載されているので、必ず確認しましょう。
化成肥料
化学肥料とは、化学的に合成、あるいは天然産の原料を化学的に加工して作った肥料です。有機肥料(有機質肥料)は動植物質を原料とした肥料(堆肥や米ぬか、骨粉など)です。
化学肥料は大きく2つに分けることができます。
- 「単肥(たんぴ)」:無機養分一つのみを保証する肥料
- 「複合肥料」:窒素、りん酸、カリウム(加里)のうち二つ以上の成分を保証する肥料
化成肥料は、「複合肥料」に含まれます。
イチゴ栽培においては、化成肥料を元肥・追肥どちらにも使用します。元肥の場合は有機肥料など肥効が長く続くものと一緒に混ぜ込むか、緩効性の化成肥料を使います。
イチゴの場合は養分吸収量が少ないため、追肥の際は、緩効性の固形肥料を2〜3回決まったタイミングで散布するか、化成の液体肥料を週一回、潅水と同時に施すかどちらかで良いでしょう。
また、イチゴ栽培においてはカルシウムも三大栄養素(窒素・リン酸・カリウム)に大事な栄養素となります。元肥として苦土石灰などをしっかり混ぜ込んでおくことが必要です。ただし、イチゴの適正な土壌pH(土壌酸度)は5.5〜6.5と弱酸性であるため、中性に寄らないように注意しましょう。
有機肥料
有機固形肥料と呼ばれているものは、有機質肥料であり、かつ固形化された肥料のことを指していると思われます。このあたりの呼び方は大変曖昧であるため、どのような肥料の性質なのかはそれぞれの製品のラベルなどをよく読んだほうがよいでしょう。
固形化された有機肥料とすると、一般的に以下のような特徴、使い方への考え方があります。
イチゴ栽培には、様々な有機肥料が使えます。堆肥や油かす、骨粉はよく使われる肥料だと思います。私がよく使うのは、堆肥(牛糞もしくは鶏糞)と油かすです。有機肥料は、緩効性肥料もしくは遅効性肥料なので肥料の効果が現れるまで時間がかかります。土作りに使用するときには使用時期と使用量に注意しましょう。
イチゴ栽培向けの液体肥料
液体肥料とは、液肥(えきひ)とも呼ばれ、液状になった液体の肥料のことを言います。液体肥料は、用土に混ぜ込んで元肥として使用することはほとんどなく、追肥として使用することを主としています。液体肥料には
- そのまま希釈せずに使用するタイプ(ストレートタイプ)
- 定められた希釈率で液肥を薄めるタイプ
の2タイプがありますので、その製品の使い方をよく読みましょう。希釈した液体肥料は土壌に散布します。
また、液体肥料は速効性(効き目がすぐに出やすい)タイプのものが多いため、前述したとおり追肥としての使用がおすすめです。
イチゴ栽培においては、液体肥料は家庭菜園でもプロ農家の栽培(高設栽培や水耕栽培)でもよく使います。家庭菜園では追肥としてハイポネックスの「ハイポネックス原液」や住友化学園芸の「ベジフル液肥」などを使用します。液体肥料は、速効性なので肥料はすぐに効き始め、1週間〜10日前後で肥料の効果がほぼなくなります。そのため、1週間に1回程度の頻度で追肥が必要になります。
家で栽培できるプランターやポットの場合は液体肥料だけでも良いでしょう。
プロ農家の場合は、「チップバーン」予防や対処にカルシウムの液体肥料を散布したり、生育促進(肥大促進、品質向上)のためにリン酸、カリウムの液体肥料を葉面散布したりします。
イチゴの肥料やけはどうして起きる?
イチゴの肥料焼けの原因は単に「肥料のやりすぎ」が原因です。施す肥料が多すぎると葉先から茶色く枯れる症状が現れます。イチゴは肥料やけしやすい植物です。そのため、追肥の回数も他の果菜類の作物に比べると少なめです。必ず、施すタイミングと使用目安量は守りましょう。
ちなみに、果実の形がいびつなときに「肥料が足りないのではないか?」と思われる方もいるようですが、大抵は受粉が上手くいっていないことが多いです。イチゴの花が咲いたときにいちごの雌しべにまんべんなく花粉が付着することが重要なのです。花粉はミツバチなどの昆虫によって、運ばれて受粉しますが、ベランダや家庭菜園の場合、昆虫が少なく受粉不良となる場合が多いです。そのようなときには人工受粉をしてあげましょう。
イチゴの専用肥料?糖度を上げるためには
イチゴを栽培していると「もっとイチゴを甘くしたい」という願望が出てきます。ただし、イチゴを甘くするのは「何か特別の肥料を使えばできる」というわけではありません。イチゴは光合成を行うことによって糖が作られます。まずは、適切な肥料の管理と潅水(そして二酸化炭素、日光)が必要ということです。特に光合成を行う葉っぱは取りすぎずに、適度に残してあげることが重要です。
その前提があった上で、イチゴに有機酸、糖やアミノ酸を肥料として施します。植物はミネラルなどの無機化合物だけではなく、有機酸やアミノ酸などの有機物質も根から吸収します。アミノ酸などを吸収することによって、タンパク質の合成がスムーズになり、収穫量の向上や果実の食味向上(糖度向上)に繋がると考えられています。
肥料も大事ですが、わき芽かきなどの手入れも重要です。わき芽が養分を無駄に消費してしまう前に、わき芽が出てきたらすぐに摘み取りましょう。
イチゴ栽培における肥料をやる時期とやり方
イチゴ栽培をしていると「イチゴの肥料はいつやるの?」という疑問がわいてくるかと思います。
肥料のやる時期は大きく2つあります。ここで説明するのは、一般的なイチゴの露地栽培ですので、栽培する土地や品種によって異なりますので育て方などを調べて年間のスケジュールや肥料のやり方を決めましょう。プランターやポット栽培の場合は用土を使うとすぐに植え付けができる場合もありますので、販売されている資材と肥料を確認してください。
- 元肥:植え付け(定植)の3週間前くらいから(土作りのときに行う)
- 追肥:生育期(植え付けから約1ヶ月後〜)
時期 | 時期 | 適している肥効タイプ | 肥料の状態 | やり方 |
---|---|---|---|---|
元肥 | 植え付ける3週間前くらい | 緩効性肥料・遅効性肥料 | 固形肥料 苦土石灰 堆肥 化成肥料(N-P-K=8-8-8) 油かす など | 苦土石灰などを苗を植え付ける3〜4週間前くらいに散布し、一度耕うんします。2〜3週間前には、堆肥や化成肥料、油かすなどを混ぜ込んでおきましょう。根に直接肥料が触れないようにすることが重要です。そのあとに畝を立てます。 |
追肥 | 生育期 | 緩効性肥料・速効性肥料 | 液体肥料・固形肥料 化成肥料 油かす など | 植え付けから約1ヶ月後、追肥を始めます。10月に植え付けをした場合、追肥は根が活着して盛んに生育し始める11月中旬頃(植え付けから約1ヶ月後)に1回目の追肥、冬越しした2月上旬〜中旬頃に2回目の追肥、必要であれば4月上旬頃に3回目の追肥をしましょう。 化成肥料の肥効の持続性によっても変わるので、使用する肥料の使い方を確認しましょう。液体肥料の場合には1週間に1回程度、施す必要があります。 |
栽培方法別のイチゴの肥料
イチゴは、いろいろな栽培方法で育てることができます。栽培方法によって適している肥料の材質やタイプが異なってきますので、各栽培方法でおすすめの肥料を紹介します。
プランター・ポット
プランター・ポットでイチゴを栽培する場合には、錠剤型の固形肥料、もしくは液体肥料がおすすめです。また、植え付け(定植)する前の準備として、用土を用意する必要がありますが、イチゴ栽培用の用土もありますので紹介します。
イチゴ栽培用の用土(培養土)
プランターや鉢の底に石(鉢底石)を敷き、用土(培養土)をそのまま入れます。培養土を選ぶときには、水はけ/水持ちのバランスが良く、通気性が良いものがおすすめです。イチゴ栽培に合わせた培養土も販売されています。用土(培養土)には肥料も混ぜ込んであるものもあり、肥料がいらない場合もあり、手間を少なくして苗を植えることができます。
肥料が入っていない用土を使う場合には、苗を植える前に肥料を施す必要があります。初心者の方は家庭菜園・畑でも使える肥料がおすすめです。いちごのために開発された肥料もあり、そのラベルを見るだけでおおよその施肥量がわかります。
錠剤肥料
ポット栽培には錠剤肥料がおすすめです。置くだけで約1ヶ月〜2ヶ月、肥効が持続します。窒素、リン酸、カリウムのほかにカルシウムや微量要素(マグネシウムなど)も含まれているものもあるので手軽に追肥ができます。錠剤肥料はあくまで追肥用で、元肥は別途化成肥料や有機肥料を用土に混ぜ込む必要がありますのでご注意ください(肥料が含まれている用土を使う場合には不要です)。錠剤ではありませんが、元肥には「マグァンプK」がおすすめです。カリウムが多く含まれていて根張りを良くしてくれます。
液体肥料
液体肥料は追肥として使用することができ、潅水と同時に与えることができるのでプランターやポット栽培には便利です。中でも「ハイポネックス原液」や「ベジフル液肥」は養分がバランス良く含まれており、人気があるのでおすすめです。
水耕栽培
イチゴは、水耕栽培の作物としても人気です。家庭用の栽培では、ホームハイポニカがポピュラーです。ホームハイポニカで水耕栽培される場合は、ホームハイポニカ用の肥料を使用するのがベストです。イチゴは濃い濃度の液肥を嫌いますので、薄めの肥料(1000倍〜1500倍程度)から始めるとよいかもしれません。
また、ペットボトルや他の方法で水耕栽培される場合は「微粉ハイポネックス」がおすすめです。カリウムが多く含まれているので根が強く育ちます(水耕栽培は根がやられやすいです)。私もペットボトル栽培では「微粉ハイポネックス」を使ってます。
家庭菜園・畑
家庭菜園、畑でも上記で紹介した錠剤肥料や液体肥料などは使えますが、コストパフォーマンスを考えると大きめの袋肥料を購入されることをおすすめします。私がおすすめする肥料の商品をご紹介します。
イチゴの肥料 その他のおすすめ商品一覧
カルシウム、アミノ酸をすぐに与えたいときのための肥料
先述したとおり、イチゴ栽培においてはカルシウムの吸収が阻害されて不足するとチップバーンが現れます。欠乏症状が現れ始めたら、液体肥料で補いましょう。葉面散布できるものもあるので、詳細は商品のラベルを確認してください。また、リキダスはアミノ酸が豊富に含まれている液体肥料のため、植物の樹勢が落ちてきたときなどに使用すると効果があります。
バイオゴールド
天然有機100%のバイオゴールドというシリーズの肥料も野菜栽培向けに大変人気です。下の記事にバイオゴールドについて、購入方法や使い方を書いていますので一度ご覧ください。
万田酵素の肥料
根強い人気がある商品として万田発酵の「万田アミノアルファプラス」という液体肥料があります。万田酵素は皆さん聞き覚えのある商品名だと思いますが、「万田アミノアルファプラス」はその万田酵素を開発する過程で培ったノウハウを活かして製造されたものになります。果実類、根菜類、穀類、海藻類など数十種類の植物性原材料を使用した液体肥料で、生育の促進、増収・品質向上に繋がるそうです。
マイガーデン
園芸用の肥料として人気のシリーズに住友化学園芸の「マイガーデン」があります。下の記事にマイガーデンについて詳しく解説していますので適している肥料があったら試してみてください。
その他には?
化成肥料や有機肥料についての基本とおすすめの商品を紹介していますのでぜひ参考にしてください。
イチゴの肥料の購入
店舗で購入する
上記で紹介したイチゴ向けの液体肥料や固体肥料は、一般的な大規模ホームセンターでも販売されています。ただし、イチゴに特化した専門肥料はコメリなど、農業・園芸に特化したホームセンターにしかない場合があります。
また、ダイソーにも液体肥料が販売されていることがありますが、取り扱いのない店舗も多いようなので注意が必要です。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。