この記事では、鶏糞について、成分と種類、特徴・効果、簡単な使い方と注意点を簡単に詳しく解説します。
鶏糞肥料
鶏(ニワトリ)の糞を原料に生産した肥料が「鶏糞肥料」です。
鶏糞を見た目から判別できない程度まで加工すると「普通肥料」に分類されます。一方、見た目から判別できる程度の加工であれば「特殊肥料」に分類されます。この線引きは、他の肥料でも同様で、米ぬかと脱脂ぬか、肉粕と肉骨粉、魚粕と魚粉についても、見た目から原料が判別できるかがひとつのポイントとなっています。
特殊肥料とは、肥料成分の含有量以外の価値をもつ、農家にとっては昔ながらの肥料のことです。肥料成分の含有量以外の価値としては、土壌の物理性を向上させることなどが知られており、通気性、排水性、透水性、保水性などを向上させることができます。
それにともない、土壌中のミミズなどの小動物、センチュウなどの微生物の多様性も高まり、病害虫(病気と害虫)の発生も抑制されることが期待できます。土壌中の生物多様性を保つことは、作物の連作障害を防ぐ面からも重要な意味をもちます。
このように、特殊肥料は土質や地力を増進できるため、土壌改良資材としての働きがあることも広く知られています。
鶏糞の成分・特徴
鶏糞は、同じ家畜糞類の牛糞や豚糞と比較されることが多いです。家畜糞類は、特殊肥料のため成分含有量に幅がありますが、かつて農林水産省が実施した調査では以下の値が示されています。
製造・利用の現状とその成分的特徴, 2000より)
鶏糞の特徴は、下記のとおりです。
- 成分の特徴:鶏糞、牛糞ではP(リン酸)・K(加里)が、豚糞ではP(リン酸)が、比較的多く含まれています。また、牛糞や豚糞に比べて「窒素・りん酸・加里」などの肥料成分がバランス良く含まれていることが特徴です。
- 分解の速度:家畜糞類の分解速度としては、鶏糞が最も早く、牛糞と豚糞はそれより遅いです。速効性のある鶏糞は追肥に利用され、牛糞や豚糞(および馬糞)は元肥として利用されることが多いです。
- 購入のしやすさ:鶏糞は、堆肥や肥料としてホームセンターなどで安価に購入できる資材です。
鶏糞の効果・メリット
鶏糞の効果・メリットには、下記のものがあります。
- 化学肥料に比べて安い:先述した通り、鶏糞は窒素、リン、カリウムなどの栄養素を豊富に含んでいます。化成肥料等、化学肥料でも補うことができますが、鶏糞は200〜500円/10kg程度で購入できるため、圧倒的にコストダウンができます。
- 安全性が高い:日本の養鶏場の鶏糞を原料としている場合は、作物や土壌に悪影響を与える物質が混入しているリスクが低いです。日本の養鶏場では、薬品の使用が認められていないため、不純物が入りにくいためです。
- 肥料効果が高い:同じ家畜分類の牛糞や豚糞と比較して、肥料成分がバランスよく含まれており、成分としても多く含まれています。
- 即効性が高い:同じ家畜分類の牛糞や豚糞、馬糞等と比較して、分解の速度が速いです。
- 土壌改良:土壌の有機物含有量を増やすのに役立ち、少なからず、土壌の保水力や保肥力を向上させます。
鶏糞のデメリットと施用時の注意点
鶏糞のデメリットと施用時の注意点には、下記のものがあります。
- 鶏糞を元肥として施肥する場合、種まきや苗の定植の少なくとも1ヶ月前には施肥しましょう。特に寒い時期は、長期間空ける必要がありますので、出来るだけ早く施肥をしてください。
- 鶏糞を追肥として施肥する場合、株元近すぎると肥料焼けなど障害が発生する可能性があるので、根から離れた場所に施肥するようにしましょう。
- 鶏糞はリン酸を多く含んでいますので、リン酸過剰の圃場での使用はご注意ください。
- 産卵鶏の鶏糞には、く溶性の炭酸・リン酸カルシウムが多く含まれるため、カルシウム過剰にもご注意ください。
鶏糞の種類と特徴、簡単な使い方
鶏糞肥料には色々な製品がありますが、大まかには以下の通り「乾燥鶏糞」、「醗酵鶏糞」、「炭化鶏糞」のように分類することができます。状況に応じて、適したものを利用するようにしましょう。
乾燥鶏糞
乾燥させた鶏糞です。醗酵(発酵)処理や炭化処理をしていないため、肥効が相対的にゆっくりであることが特徴です。また、安価であることも特徴のひとつです。
大量に使用する場合には養鶏場などから仕入れますが、家庭菜園やガーデニングなどで使用する場合には袋詰めされた製品から試してみましょう。相対的に臭いは強めですので、住宅街では要注意です。
醗酵鶏糞
醗酵(発酵)処理をした鶏糞です。
完熟していない鶏糞を散布すると、分解にともなってアンモニアガスが発生し、植物の生育障害を引き起こすことがあります。醗酵(発酵)処理済みの鶏糞では、植物の生育障害を引き起こす可能性を小さくできるほか、臭いも大幅に緩和されている特徴があります。
東商が販売する「醗酵鶏ふん」の成分含有量は、N(窒素)-P(リン酸)-K(加里)=2.6-5.4-3.3となっています。そのほか、マグネシウムや微量要素である亜鉛なども含まれています。菜園、庭木、花壇、鉢、プランターなどで幅広く利用できます。用途としても、元肥、追肥、寒肥、お礼肥など幅広く利用できます。濃縮タイプなので少量で効果を発揮します。
炭化鶏糞
鶏糞を高温処理し、炭化させたものが炭化鶏糞です。したがって、見た目は黒い粉状で、臭いもほとんどありません。
一般に、高温処理された炭化鶏糞では、窒素成分が失われています。しかし、創和リサイクルが販売する「炭化けいふん」の成分含有量は、N(窒素)-P(リン酸)-K(加里)=2.5-8.4-4.9となっているため、便利に利用できます。
土壌がアルカリ性に傾くため、ブルーベリーなどの酸性土壌を好む作物や植物には不向きですが、それ以外の野菜、果樹、庭木、草花などで幅広く利用できます。
作物別 鶏糞の簡単な使い方
鶏糞肥料は、野菜づくりはもちろん、ガーデニングでも使うことができます。土壌改良効果を期待する場合は、バーク堆肥や腐葉土などの植物性堆肥もあわせて利用するようにしましょう。
鶏糞を元肥として使う場合には、作付けの1週間くらい前までに畑や用土に混ぜ込む方法が一般的です。
追肥として使う場合には、作物や植物の根元に混ぜるのではなく、根が伸びる先を意識して土と混ぜるようにします。
なお、鶏糞と石灰資材を同時に施用することは、避けましょう。鶏糞にはカルシウムが含まれているので、土のpHがアルカリ性に傾きすぎてしまいます。
作物や植物によって、鶏糞肥料の使い方は異なります。また、同じ作物や植物であっても、鶏糞肥料や土壌の種類などにより、上手な使い方は変わってきます。ここでは、作物別の使い方のうち、代表的なものを紹介します。
レモンの肥料としての鶏糞
レモンなどの柑橘類の栽培においては、追肥として鶏糞を利用するのがよいでしょう。元肥としては、分解が遅い牛糞などが好まれます。鶏糞にはリン酸が豊富に含まれているので、施肥量には注意しましょう。リン酸は植物の花実(開花や結実)を促すため「実肥」とよばれますが、与えすぎると病害や生理障害(マグネシウム、鉄、亜鉛などの欠乏症)などの悪影響を生じることが知られています。
みかんの肥料としての鶏糞
鶏糞は、みかんなどの柑橘類(かんきつ類)に施用すると、果実の品質が下がるということも言われています。これにはいくつか理由がありますが、鶏糞の特性を知っておくことで果実の品質劣化を防ぎながら、肥料のコストを下げることができます。
鶏糞を施用しても、適正量であれば果実品質に及ぼす影響は小さいと言われています。ただし、鶏糞を夏肥としても施用した場合は,果皮色が悪くなったり、クエン酸含量が高くなったりしたという報告があることから、施肥時期としては春肥もしくは秋肥が適しているのではないかと考えられます。
柿の肥料としての鶏糞
柿における理想的な肥料成分の割合は、N(窒素)-P(リン酸)-K(加里)=10-3-10ともされています。また、リン酸は元肥として施し、追肥としては施さないとされることもあります。したがって、柿の栽培で鶏糞を利用する場合には、元肥あるいは寒肥として冬に施すようにするとよいでしょう。
キウイの肥料としての鶏糞
キウイの栽培においては、冬に寒肥として有機肥料を施すことが多いです。その有機肥料として、鶏糞を利用することがあります。
ぶどうの肥料としての鶏糞
鶏ふんは、ぶどう肥料として使うには元肥として使いましょう。植えつけの時期や、10月~11月に行う元肥(基肥)として土壌改良と同時に使うとよいでしょう。
ブルーベリーの肥料としての鶏糞
ブルーベリーの肥料として鶏糞(鶏ふん)を使うことはリスクが伴なうといえます。鶏糞肥料は石灰分(カルシウム)も多く含んでおり、その特性上、土壌酸度(pH)がアルカリ性に傾きやすくなります。ブルーベリーは酸性土壌を好みますので、アルカリ性に傾きすぎると生長に悪影響を及ぼします。
スイカの肥料としての鶏糞
鶏ふんは、スイカの肥料として使うには元肥として使いましょう。スイカは、つる性のため生育初期に肥料が効きすぎるとツルや葉がのびすぎて花や実がつきにくくなる「つるボケ」をおこします。鶏糞は牛ふんと比べ窒素(チッソ)、リン酸、カリの各成分が豊富に含まれています。堆肥として使う場合は肥料の量には注意が必要です。
きゅうりの肥料としての鶏糞
きゅうりのプランター栽培や水耕栽培では、鶏糞肥料が利用される場面はないでしょう。利用される場面としては、露地やハウスでの地植え栽培となりますので、各都道府県の施肥基準を参考にするとよいでしょう。
施肥基準では、作物ごとにN(窒素)-P(リン酸)-K(加里)の必要量が示されています。他方、鶏糞肥料には成分含有量が示されています。したがって、これらを利用して、きゅうりに鶏糞肥料を使う場合にどれくらい撒くべきか計算することができます。
各都道府県の施肥基準は、目安にはなりますが、局所的には当てはまらないことも少なくありません。より正確に土壌の状態を反映させたい場合には、土壌分析を行うようにしましょう。
ジャガイモの肥料としての鶏糞
比較的大面積で栽培されることの多いジャガイモでは、鶏糞をはじめとする堆肥や家畜糞尿が積極的に利用されます。堆肥や家畜糞尿は安価なため、大面積での栽培には特に適しています。鶏糞を利用する場合には、牛糞や豚糞よりも施用量を少なくすること、施用と植え付けの日数を十分に空けることなどに注意しましょう。
サツマイモの肥料としての鶏糞
比較的大面積で栽培されることの多いサツマイモでは、鶏糞をはじめとする堆肥や家畜糞尿が積極的に利用されます。堆肥や家畜糞尿は安価なため、大面積での栽培には特に適しています。鶏糞を利用する場合には、牛糞や豚糞よりも施用量を少なくすること、施用と植え付けの日数を十分に空けることなどに注意しましょう。
大根の肥料としての鶏糞
ダイコンの肥料としても鶏糞は使えます。しかし鶏糞を使うには注意が必要です。鶏糞は元肥として使いましょう。しかし未熟な肥料や堆肥を使うと又根をおこしたりしますので、種まき前に腐熟させてから使う、溝施肥するなどして使う必要があります。
人参(ニンジン)の肥料としての鶏糞
人参の肥料としても鶏糞は使えます。しかし鶏糞を使うには注意が必要です。鶏糞は元肥として使いましょう。しかし未熟な肥料や堆肥を使うとまた根をおこしたりしますので、種まき前に腐熟させてから使う、溝施肥するなどして使う必要があります。
玉ねぎの肥料としての鶏糞
栽培期間の長い玉ねぎには化成肥料の代わりとして使うことができます。
ネギの肥料としての鶏糞
栽培期間の長いネギには、安価な鶏糞は地植えなどで使うことができるおすすめの肥料です。元肥や追肥にも使うことができます。
トウモロコシの肥料としての鶏糞
トウモロコシは、吸肥力が非常に強く、堆肥や化成肥料を使って土壌を肥沃にする必要があるので、化成肥料の代わとして元肥、追肥どちらにもつかうことができます。
鶏糞肥料を購入
ホームセンターなど店舗で購入する
上記で紹介した肥料は、コメリなどのホームセンターでも販売されています。また、ダイソーなどの100円均一でも販売されていることがありますが、取り扱いのない店舗も多いようなので注意が必要です。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。