農薬を使わないでアザミウマを駆除、防除する方法はある?
アザミウマの防除には主に化学農薬を使用すること(化学的防除)が多いですが、化学農薬が他の害虫に比べて効きにくいことから、化学的防除(農薬)を使用しないで防除する方法を取る方も多くいます。
近年、一部の化学農薬に抵抗性(耐性)を持つ害虫が増加していることや、農薬の使用が見直されていることから、化学農薬以外の方法での防除自体が注目されてきているという背景もあります。
ここでは、IPMでの、「生物的防除」「物理的防除」「耕種的防除」によって、アザミウマを駆除、防除する方法を紹介します。
「生物的防除」によってアザミウマを防除する方法
「生物的防除」とは、病害虫の天敵(益虫)を導入し、病害虫密度を下げる防除法です。つまり、アザミウマの天敵にあたる昆虫、線虫(センチュウ)、微生物を圃場に導入して、アザミウマを減らす方法になります。
天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。
アザミウマ対策に使えるおすすめの生物農薬は、以下のようなものがあります。
生物農薬は、在来種以外の天敵昆虫を使用することが多く、本来の生態系に影響を与える恐れがある為、閉鎖系の圃場以外では使用、散布し難いものがあるなどの注意点もあります。
その他、生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、ご参考ください。
「物理的防除」によってアザミウマを防除する方法
「物理的防除」とは、その名の通り、防虫ネット、粘着トラップ、光熱等を利用して病害虫を制御する防除法を言います。アザミウマの防除に有効な物理的防除について、さまざまな方法を紹介します。
赤色の防虫ネット、赤色LED
ネギアザミウマを筆頭に、アザミウマの中には赤色を嫌う性質のものがいます。これを利用して、赤色の防虫ネット、赤色LEDを利用することで、アザミウマを虫除け、防除することができます。
防虫ネットで物理的にアザミウマの侵入を防ぐ場合は、網目が0.4~1 mm程度のネットがアザミウマが侵入しにくく対策に適しています。
黄色、青色などの色を利用して、粘着テープやバケツで捕まえる
アザミウマは種類によって好きな色があり、誘引される性質があります。これを利用して、色の粘着、捕虫テープを設置するのも有効です。
また、甘いものに集まる習性もあることから、黄色や青色のバケツに水を張り、ハチミツやヨーグルトを混ぜておくとバケツの中に集まってきます。釣られたアザミウマがバケツに飛び込み、溺死するという仕組みです。
種類によって好む色は以下を参考にしてみてください。
種類名 | ネギアザミウマ | ミナミキイロアザミウマ | ミカンキイロアザミウマ | ヒラズハナアザミウマ | チャノキイロアザミウマ |
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好きな色 | 黄、青、白 | 青、緑 | 青紫 | 青 | 黄、緑 |
光反射シート
アザミウマは太陽光と反射光を区別できないため、上空のアザミウマは反射シートに墜落し、飛び立つことができなくなります。この原理を利用して、光反射シートマルチ(タイベック等)を圃場に設置し、アザミウマを防除しているみかん農家の方もいらっしゃいます。
ヒートショック効果で駆除する
ヒートショック効果とは、ハウス内の温度を一時的に高温にすることで、高温に弱い害虫を死滅、活動を減退させる方法を言います。
アザミウマは38度を超えてくると、激しい運動や停止、バタバタと飛来するなどの異常行動を取り、40度を超えると、活動の停止、高温により死滅する可能性が高くなると言われています。
これを利用して、ハウスに十分な水やりと散水を行なった後、ハウスを密閉し、5〜10分ほどハウス内の温度を42度以上に保つと、アザミウマの駆除にかなりの効果が見込めると言われています。時間経過後は、天窓とカーテンを徐々に開け、温度・湿度を少しずつ下げていきます。
注意したいところは高温にし過ぎると、農作物に影響が出てしまうことです。このため、何分高温に保つかは、何を作付けしているか等を考慮して試してみてください。
また、栽培終了後、地面に透明ビニールを敷いてハウスを密閉し、暖かい日に太陽熱で土壌を蒸すのは、土中にいるアザミウマの蛹を駆除するのに有効です。期間としては、夏なら7日、春や秋は14日、冬は1カ月程度を目安にしてください。
その他
これ以外に、マルチを反射の強い白マルチやシルバーマルチに変えることで、アザミウマの飛翔を防ぎ、防除に役立ちます。
その他、ハウスとハウスを往来するときに、服に付着したアザミウマがハウスに入らないようにするために、ブロアを直接体に吹きかけることで、アザミウマを吹き飛ばし、取り除くのも大事な防除方法の一つです。
「耕種的防除」によってアザミウマを防除する方法
ハウス内、周りの雑草をしっかり除草する
圃場の周りに雑草があると、アザミウマの越冬を促し、大量発生を促進するだけでなく、雑草が持っているウイルスをアザミウマが媒介し、ウイルスの大量発生を起こしてしまう危険性があります。
このため、圃場の周りの雑草はできるだけこまめに除草するのが、アザミウマによる被害を少なくするのに極めて重要です。ウイルスを保毒している可能性が高い、代表的な雑草は以下のものがあります。
除草については、以下のコンテンツが参考になります。
そもそも、アザミウマはどういう害虫?
アザミウマとは?
アザミウマはアザミウマ目に属する昆虫です。現生種は約5000種、スリップス(英名Thrips)とも呼ばれています。大きさは一般に1mm以下で翅があり、細長く、色もまちまちです。うち、農作物をエサにするのは44種と言われています。
アザミウマは産卵管を葉に突き刺し、細胞内に1つずつ産卵し、多いもので死ぬまでに250個以上産卵します。そして、アザミウマの幼虫は、土中(土壌中)で1齢蛹から脱皮し、2齢蛹を経て成虫になります。卵から幼虫、成虫への変化は、わずか2〜7週間ほど、成虫して花や新芽に寄生していきます。
翅で飛来し、小さいためハウスへの侵入も容易です。また、購入した株や苗から持ち込まれるケースも多く見られます。
このように繁殖力が高く、また発育スピード、生育サイクルが速く、短期間で世代を繰り返すため、ほかの害虫より抵抗性の発達スピードが速いのが特徴です。暖かいところでは年中発生するため、ハウスなどの施設では一年中発生します。
どうしてアザミウマは害虫なのか?
アザミウマは直接植物の汁を吸うことで、その傷が農作物、蕾、果実が大きくなるにつれ、非常に見た目が悪くなることや、作物の萎縮、変形、変色の原因となり、出荷できない物が増えて(花木だと開花しないものが増える)収量減になるといった食害があります。
また、最も厄介なのは、アザミウマはウイルスを運ぶということです。アザミウマは、果菜類、葉菜類、根菜類、豆類を含むほとんどの野菜や果樹、花きとさまざまな作物に寄生し、茎葉、花弁を吸い漁りながらウイルスを広げていきます。一度、保毒すると、ウイルスを一生まき散らしてしまうのです。
アザミウマが媒介するウイルスは主に以下のようになります。
ウイルス名 | 主な発生植物 | 媒介するアザミウマの種類 |
---|---|---|
トマト黄化えそウイルス(TSWV) | トマト、ピーマン、ナス、レタスや、トルコギキョウ、マリーゴールド、ガーベラなどの花きなど | ミカンキイロアザミウマ ヒラズハナアザミウマ ネギアザミウマ ダイズウスイロアザミウマ |
スイカ灰白色斑紋ウイルス(WSMoV) | スイカ、トウガン、ニガウリ、キュウリ | ミナミキイロアザミウマ |
メロン黄化えそウイルス(MYSV) | メロン、キュウリ、スイカ | ミナミキイロアザミウマ |
インパチェンスネクロティックスポットウイルス(INSV) | トルコギキョウ、シクラメン | ミカンキイロアザミウマ ヒラズハナアザミウマ |
アイリスイエロースポットウイルス(IYSV) | タマネギ、ネギ、ニラ、トルコギキョウ | ネギアザミウマ |
ウイルスを媒介する代表的なアザミウマ
日本の畑地に出る、ウイルスを媒介するアザミウマは主に以下の5種類です。
種類名 | ネギアザミウマ | ミナミキイロアザミウマ | ミカンキイロアザミウマ | ヒラズハナアザミウマ | チャノキイロアザミウマ |
---|---|---|---|---|---|
体長(成虫(雌)) | 1.1〜1.6mm | 1.2〜1.4mm | 1.4〜1.7mm | 1.3〜1.7mm | 0.8〜1.0mm |
色 | 夏:淡黄色~黄褐色 冬:褐色 | 黄色 | 夏:黄土色 冬:茶褐色 | 黒褐色、褐色系 | 黄色 |
特徴 | 周年発生 幅広い作物に出現 | 寒さに弱い ナスやピーマン、トウガラシ類、キュウリ、スイカといった果菜類によく発生 | ナス科、バラ科によく発生 | ピーマン、トウガラシ類、トマト、イチゴ、バラ科を中心に幅広い作物で発生 | 茶やブドウ、かんきつを中心に幅広い作物で発生 |
まとめ
アザミウマはウイルスを媒介し、小さくて発見しにくい、ハウスだと一年中発生する、また農薬に対する耐性もあったりで、大変厄介な害虫です。
アザミウマが好きなホトケノザなどの草花をあえて少し植えて、早期発見に役立てている農家の方もいらっしゃいます。適切な防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができるので、さまざまな防除方法を試す際の一助となれば幸いです。
ここで紹介した一部の商品は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるので、是非手に取って確認してみてください。