近年では、園芸といえばサボテンなどの多肉植物や観葉植物が想像されることも多くなりました。しかし、日本の歴史ある園芸のひとつは、間違いなく椿(ツバキ)の栽培といえるでしょう。色とりどりの花が咲くので、庭木としてはもちろん、切花や茶花としても古くから親しまれている花木です。また、年間を通じて鮮やかな緑の葉をつけるので、たとえば葉牡丹や球根類との寄せ植えにも向いています。
この記事では、椿(ツバキ)の育て方と照らし合わせながら、利用される代表的な肥料などを紹介します。
椿(ツバキ)の種類
ツバキは、ツバキ科ツバキ属(図鑑によってはカメリア属とも表記)の常緑高木です。ツバキ属の植物の原産地は日本を含むアジア地域で、照葉樹林や藪を構成する主たる樹種のひとつです。夏の暑さや冬の乾燥にも耐える強健な性質をもっています。
世界には250種程度が分布しており、そのうち日本に自生するのは、3種(ヤブツバキ、サザンカ、ヒメサザンカ)、1亜種(ユキツバキ)、1変種(リンゴツバキ)などとされています。
世界の園芸品種の大部分は、ヤブツバキ(Camellia japonica)とサザンカ(Camellia sasanqua)に由来するため、単にツバキという時にはヤブツバキを指すことも多いです。6000をゆうに超えるともされる園芸品種の原種が、ヤブツバキとサザンカであることを考えても、両者は日本を代表する花木といえます。
ツバキの花言葉は、赤いツバキ、白いツバキ、黄色いツバキ、黒いツバキ、ピンクのツバキでそれぞれ異なっている点も特筆に値します。園芸品種が多様であることが、その背景にはあります。園芸品種としては、以下のような系統に分類されることがあります。
系統 | 特徴 | 園芸品種例 |
---|---|---|
ヤブツバキ系 | ヤブツバキから生まれた系統です。世界の園芸品種の7割程度を占めるともいわれます。 | ・曙 ・桃太郎 ・蝦夷錦 |
ユキツバキ系 | ユキツバキから生まれた系統です。春咲きが基本です。 | ・初刈 ・白唐子 ・乙女椿 |
ワビスケ系 | 雄しべが退化した系統です。秋咲きのものが多いです。 | ・数寄屋 ・相模侘助 ・胡蝶侘助 ・太郎冠者 |
ツバキは管理が簡単で育てやすいため、庭木や植木としても広く親しまれています。同じように管理が簡単で育てやすい庭木や植木として、ツツジ(躑躅)、サツキ(皐月)、アジサイ(紫陽花)、レンギョウ(連翹)、ユキヤナギ(雪柳)、シャクナゲ(石楠花)、ジンチョウゲ(沈丁花)、ロウバイ(蝋梅)、ヤマボウシ(山法師)、サルスベリ(百日紅)、クチナシ(梔子)、ウツギ(空木)、モクレン(木蓮)などが広く親しまれています。
ツバキは、果樹やハーブ類を混植して、収穫を楽しむこともできます。レモン、イチジク、ブルーベリー、オリーブなどの果樹が手入れも比較的簡単で、人気があります。これらの果樹と同様に、ツバキも家を目隠しする生垣として利用することができます。
椿(ツバキ)の育て方と肥料を与えるタイミング
ツバキを庭植えする場合は、潅水や植え替えの手間が少ないというメリットがある反面、移動させにくいというデメリットがあります。日陰を避け、なるべく日当たりのよい場所に植え付けるようにしましょう。畑地であれば基本的に問題ありませんが、水はけのよい土壌が好ましいです。また、家庭の庭やガーデニングとして、コンクリートブロック塀の近くに植え付けると、土壌がアルカリ性に傾くことがあります。その場合、硫酸アンモニウムなどを施用し、土壌を酸性寄りに戻します。
ツバキを鉢植えする場合は、根が伸長することを考えて、苗木に対して少し大きめの鉢を用意するとよいでしょう(野菜などの作物と異なり、ツバキは永年性の植物であることに留意しましょう)。用土は、赤玉土と腐葉土の半量混合で育ちますが、排水不良により根腐れを起こす可能性があります。ツバキの鉢植えにはおいては、鹿沼土と日向土の半量混合などが推奨されます。
ツバキ栽培の流れは、以下の通りです。その他にも、病害虫防除や水やりなどを行うこともありますが、ここでは共通して行う代表的な作業を記載しています。接ぎ木、挿し木、種まきなどの繁殖作業を行う場合は、春や秋が適期です(ツバキは強健な性質をもちますが、穂木と台木が活着するまでは直射日光を避けたり、ビニール袋で覆い湿度を保つなどの工夫が必要です)。
肥料は、「寒肥」と「施肥」のタイミングで与えます。ツバキは肥料が少なくても丈夫に育つ植物ですが、葉のつややかさを保ったり、美しい花を咲かせるためには肥料が欠かせません。特に鉢植えの場合は、根や幹を傷める肥料焼けに注意しながら、肥料を与えるようにしましょう。
なお、イメージしやすいように、関東地方南部での作業実施月の例を記載しています。実際には、栽培地域や栽培品種によっても異なりますので、目安としてとらえてください。
- 2~3月
- 3~4月剪定
- 花の咲き終わり後かつ芽が伸びる前が、枝を切る剪定の適期です。
- 間引きや切り詰める剪定をしますが、摘心や芽かきも行います。
- 5月摘果
- 実をつけることは、木にとって大変な負担となります。
- 苗が小さい時、春に植え替えた時には欠かさず摘果し負担を減らします。
- 9~10月施肥
- 庭植えでは、年1回の寒肥で十分ですが、寒肥をしていない時にはこのタイミングでも施肥できます。
- 鉢植えでは、固形有機肥料を置き肥するか、液体肥料を月2回施すようにします。
- 11~12月防寒
- ツバキは耐寒性が強いため枯死することはありませんが、鉢植えの場合は、地面に穴を掘り鉢ごと土中に埋めておくと安心です。
- 逆に、暖房のきいた暑い室内に鉢を移動させたりすると、蕾が落下することにつながるので避けましょう。
上記の「ツバキ栽培の流れ」では割愛していますが、状況によっては、病害虫防除の作業もしなくてはいけません。病害虫防除には、花がらや落ち葉の処理、農薬散布などがあります。防除および駆除の対象となる主な病気や害虫には、次のようなものがあります。特に、チャドクガの幼虫の脱皮した抜け殻にふれると、激しい痒みがありますので注意が必要です。葉裏の卵塊を見つけ次第、殺虫剤を散布して防除に努めましょう。
こうした病気や害虫が大量発生すると、農薬として殺菌剤や殺虫剤といった薬剤を施用しなくてはいけません。鉢植えであったり、庭植えでも小規模であったりする場合には、目視によって病斑部や食害部を見つけることができます。茶褐色の病斑部を切り取るだけでも改善できる可能性がありますので、継続的に観察をするようにしましょう。
また、庭植えの場合、春先になると草花などの雑草が発生し始めます。雑草は、病気や害虫の発生源になるだけでなく、ツバキに注がれるべき土壌中の養分を奪ってしまうという悪影響があるので、しっかり除草する必要があります。除草には、除草剤を用いる方法、刈払機を用いて下草を刈る方法などがあります。
椿(ツバキ)に与える代表的な肥料
代表的なツバキの肥料は、次の通りです。施肥については、肥料成分やタイミングによって、花芽形成、開花、結実、落果などの生育や生理状態に影響を及ぼしますので、重要な作業といえます。しかしながら、ツバキは他の作物に比べるとはるかに丈夫なので、あまり考えすぎることなく積極的に挑戦してみるとよいでしょう。ただし、ツバキは施肥量が多すぎると、ひどい場合には枯れてしまうこともあるので与えすぎには注意しましょう。
油かす
油かす(油粕)肥料は、ナタネやダイズから油を搾る工程の残りかすを原料として使用する、植物に由来する有機肥料です。油かす肥料が分解される過程で、臭いがしたり虫が発生したりすることがあります。このデメリットを抑えた発酵(醗酵)油かすというものもあります。事前に発酵(醗酵)させてあるので、臭いや虫の発生をある程度抑えられます。
花木・庭木の肥料
花木・庭木の肥料は、東商が開発販売する肥料です。有機肥料なので、安心して使うことができます。有機肥料は、腐葉土や堆肥などのようにゆっくり長く効く肥料なので、寒肥(元肥)にぴったりです。この製品はさらに、お礼肥や追肥としても利用することができます。一般的に花木・庭木では、窒素成分を控えめにしてリン酸を多めに与えることで、花や実を多く咲かせ充実させます。この製品は、窒素-リン酸-カリウム=4-6-3となっており、花木・庭木にとって最適な栄養バランスで配合されています。美しく健康に育てるために微量必要な、マグネシウム(苦土)とアミノ酸も配合されています。
グリーンパイル
グリーンパイルは、ジェイカムアグリが販売する肥料です。公園・街路・庭などの樹木に対しても用いられる、棒状の打ち込むタイプの肥料で、造園の施工で樹勢を回復させる目的でよく使われる資材でもあります。グリーンパイルには、樹木の生育にとって理想的なバランスで窒素・リン酸・カリウムが配合されており、樹木の根元から少し離れた位置に打ち込むことで、成分が土壌の深層までしっかりと浸透し長持ちします。とにかく処理が簡単な点が魅力です。
ツバキ専用肥料
ツバキ専用肥料は、アミノール化学研究所が開発販売する化成肥料です。肥料の三要素をツバキにとって最適なバランスで配合しています。また、光合成に必要な葉緑素の重要成分であるマグネシウム(苦土)も含まれており、葉色をよくすることが期待できます。さらに、日照不足や天候不順でも活力ある成長ができるようアミノ酸も含有させています。もちろんツバキ属であるサザンカにも適しています。
椿(ツバキ)を原料とする肥料
ツバキを原料とする、椿油粕という特殊肥料があります。特殊肥料なので成分含有量はまちまちですが、窒素:リン酸:カリウム=1:0:1くらいであることが多いです。注目される含有成分は、ツバキ種子に多く含まれるトリテルペン配糖体であるサポニンです。このサポニンは、ナメクジやカタツムリに対して忌避効果を示すことが明らかにされているほか、ジャンボタニシの駆除にも効果があることが知られています(現在では魚毒性があることが指摘されているので、水田に散布してはいけません)。芝生管理、土壌改良、ナメクジ避けなどの目的で使用されることが多いです。
椿(ツバキ)の肥料を購入
ホームセンターなど店舗で購入する
上記で紹介した肥料は、コメリなどのホームセンターでも販売されています。また、ダイソーなどの100円均一でも販売されていることがありますが、取り扱いのない店舗も多いようなので注意が必要です。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。